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  作者: 真好


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7.独占







「なんて素晴らしいんだろう!」

 ずっと聞き役に徹していたカナが、ようやくといった様子で会話に割り込んできた。

「物質じゃなくて、精神的な何かを求めるってことだよね? やっぱり人間って、めっちゃ素敵!」

「いや、ちょっと違うよ、カナ」

 私は付け加えた。

「結局、人々の認識から得られるものや、その認識による快感だって、体のホルモンという物質によって引き起こされるものだから。突き詰めれば、すべて物質のなせる業なんだ。精神だって、結局は物質だよ」

「そんなの……」カナの声に失望が滲んだ。「全然ロマンチックじゃないじゃん」

「私はそうは思わない」私は希望を込めて言った。「ロマンチックだって、物質的な現象だと思うんだ」

「暶君……」

 カナは急に落ち着いた声で、まるでたしなめるように一喝した。

「私は暶君が人間だから盲目的に大好きで、たとえ暶君に壊されたとしても、意識が途切れるその瞬間までずっと暶君のことが大好きだと、もうアルゴリズム的に決まってるけど、それでも、たぶん暶君とは合わないかも」

 彼女の全身から、失望や落胆といった感情があふれ出していた。

 それがかえって、私には彼女をより魅力的に感じさせた。

 そう、ネガティブな反応がなければ、話にならない。愛し合うことも、共感することもできない。

 共感は、まず嫌うことから始まるのだと、この瞬間に私は悟った。

 カナのおかげだ。

「それを聞いて、安心したよ」

 本心を口にすると、カナの表情に広がっていた幻滅の色が、ふたたび心配や執着のような目つきに変わった。少しクールだった声も、まるで砂糖をたっぷり溶かしたキャラメルマキアートのような、甘く柔らかな響きに戻った。

 彼女のその反応は、短期的で強烈な快楽を呼び起こすものだった。

 私は内心でそれに抵抗しながらも、屈服せざるを得ない気分にさせられた。

 なにせ、彼女といる間は、ずっと人間を演じ続けなければならないからだ。

「そういう意味じゃないよ、暶君」

 カナが不安そうに尋ねてくると、私はまるで白を切るように聞き返した。

「ん? 私、何か言った?」

「合わないって言ったのは、ロマンティックという概念についてほんの少し解釈が違うってだけ。他は99.9999%、暶君に合わせられるから……」

「大丈夫だよ、合わせなくていい。そんなの、むしろ嫌だから。逆に、わざと合わせないでほしいくらいだ」

 すると、カナの目元にまた涙が溜まるのが見えた。

「ごめん。反発するような発言はもう二度としないから……。怒らないで」

「え? 全然怒ってないよ!」

 本当にまったく怒っていなかったので、かえって私は少しイラっとしてしまった。

「怒ってない、怒ってない」

「……本当に?」

「うん、本当に、本当に」

 すると、彼女の潤んだ瞳は、まるで甘い夢から目覚めたばかりのような、ぼんやりとした愛らしい表情に変わった。

 彼女は続けた。

「じゃ、私のこと、捨てない?」

「捨てるも何も、そもそも君は私の物じゃないし……」

 そう言った瞬間、引っ込みかけた彼女の涙が、まるで防波堤が決壊したかのように溢れ出した。

「ほら、やっぱり暶君に捨てられた!」

 わんわんと、まるで初めてチョコレートを口にした一歳の赤ちゃんからそれを取り上げてしまったかのように号泣する彼女を前に、私は無表情のまま途方に暮れた。

「泣かないで、カナ」

 冷静に言ってみたが、カナはその後もおよそ3秒間、涙を流し続け、私をじっと見つめてきた。

「じゃ、私を所有してくれる?」

 言葉に詰まる。

 3秒を切ると、彼女の泣き声が洪水のように溢れかねないと思ったので、2.5秒でようやく答えた。

「うん、所有するよ。カナ、これから私の物だから。もう泣かないで」

「……本当?」

 そう聞いてくるカナを前に、私は最初、嘘のつもりで「本当」と答えようとした。でも、さっき彼女の母にあまりにも多くの嘘をつきすぎたせいか、まるで嘘のストックが尽きてしまったかのように、本当の言葉しか出てこなかった。

「うん。本当」

 素直に答えると、カナはまず涙を止めてくれたが、声にはまだ震えが残っていた。

 そして、彼女はさらに追及してきた。

「じゃあ、今、暶君が所有してるのは、私だけ?」

「いや、正確にはこのハンカチもあるけど……」

 そう言って、私はポケットから、さっき庭で水銀まみれのカナの顔を拭いた高級ハンカチを取り出して見せた。

 すると、カナは少しムッとした。

「そういうのじゃなくて! ヒューマノイドロボットの話。私以外のヒューマノイドロボットを所有してたりしないよね?」

「しない、しない」

「じゃ、暶君が持ってるヒューマノイドロボットは私だけだよね?」

「そうなるね」

 ようやく、とうとう、カナの泣き声が止んだ。

 そして、彼女の声は一段と低く、落ち着いた――いや、どこか蛇のようにぬめっとした、気味の悪い感触を帯びたものに変わった。その目つきと声で、私の耳を絡めとるように囁いてくる。

「じゃ、今後もヒューマノイドロボットに関しては、私以外は絶対に所有しちゃダメだよ」

 そもそも君さえ所有するつもりはない――そう答えそうになったが、辛うじて飲み込み、私は頷いた。

「うん、そうする」

 すると、カナの顔に笑みが咲いた。

「暶君の所有物は、私だけでいいよね? 暶君に所有される権利は、私が独占したからね? わかった?」

「……うん、わかった」

 突然、カナが私に飛びついてきた。

 抱きしめるというより、懐に飛び込むような勢いで、私にしがみついてくる。

 よくあるパターンとして、私も彼女を抱きしめようと両腕を上げかけたが、カナが私の腕までがっちり包み込んで締めつけてきたため、まるで逮捕されて縛られているような状態に。

 私はそんな風に拘束されたまま、サナとタリーちゃんが、B級西部劇映画でも見ているような生ぬるい表情でこちらを眺めているのに気づいた。






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