34.この世で最も深い沈黙の音を発するクジラ
34.この世で最も深い沈黙の音を発するクジラ
私たち三人は、アイボリーの芝生の真ん中でぼんやりと立ち尽くし、まるで永遠の三分の一のような時間をただ待っていた。
喫茶店で飲み干した水がすべて涙としてこぼれ落ちた後、ふと頭上から超音波のような音が響いた。まるでオリンピックの射撃選手が放った銃弾がかすめるような、鋭くもかすかな音だった。
私とカナは同時に上を見上げた。そこには、目が眩むほど広大な銀河が流れている。
そして、その銀河の水面が逆再生されるように裂け、一匹のクジラが姿を現した。
そのクジラは、水星の表面に深海の青を30%ほど混ぜた、かき氷のような色をしていた。
あまりにも巨大で、視界に収まりきらないほどだった。
ブリーチングするように銀河を跳び、大きな水しぶきを上げながら、アイボリーの滑走路に降り立った。
近づくにつれ、耳をつんざくような超音波の轟音は、次第に耳鳴りのような高音に変わり、まるで地球の熱圏を突き破る火球のような勢いで周囲のすべての音を焼き尽くした。
そして、この世で最も深い沈黙の音を発し始めた。
「信じられない……」
私が小さく呟いたその声は、鼓膜センサーが破れるほどの衝撃を伴って響いた。
それほどまでに、沈黙は強烈だった。
強烈な沈黙に押しつぶされそうになり、私もカナも両手で耳を塞ぎ、立っていることすらできず、うつむいてしまった。
「やめて」
と叫びたかったが、声を発することすら怖く、ただその絶対的な沈黙に飲み込まれていく。
クジラが私たちの前に着地すると、ようやくその沈黙は途切れた。
「はあ……。はあ……」
私はいつの間にか荒い息を吐いていた。
わずか4秒続いたその沈黙を耐え抜くために、100%近くあったバッテリー残量が17%まで落ちていた。4秒間で83%のエネルギーを消耗した計算だ。もしあの沈黙が0.001秒でも長く続いていたら、私は放電し、永久に意識を失っていたかもしれない。
「暶君!」
カナが私の腕を掴み、支えてくれるその手つきが感じられた。
「大丈夫?」
やっと気を取り直し、カナに視線を向けると、彼女の青い瞳から水が流れ落ちているのが見えた。
見るに堪えないほど切ない光景だった。
私は慌てて笑顔を作り、彼女を安心させようとした。
「大丈夫だよ。ぜんぜん平気だから」
「暶君……。よかった」
それでも、彼女の崩れた表情はすぐには元に戻らないようだった。
突然、カナが私を強く抱きしめた。
ぎゅっと、力いっぱい。
私はどうしようもなくその腕に抱かれたまま、そっと彼女の背中に両手を置いてハグを返した。
「ごめん。心配かけた」
「うん。めっちゃ心配したんだから……」
カナの声は掠れ、揺れ、壊れそうに震えていた。
その声は、ついさっきまで破れそうだった私の鼓膜センサーを、まるで熱帯魚がそっとキスするように優しく撫で、癒してくれるようだった。
癒されたのは鼓膜だけではなかった。
スターポートまでの長い道のりで、カナがおんぶされながらその体温と電圧で私に充電し続けてくれたように、今もこのハグを通じて、激しく消耗した私のバッテリーに電気エネルギーを供給してくれているのだ。
「やめてよ。本当に大丈夫だから」
私はカナが心配しすぎるのを気にして、そっとハグを解こうとした。だが、彼女は決して離さず、ほとんど暴力的に感じられるほど強く私を抱きしめ、身動きすらままならない状態にした。
そして、私は徐々に充電されていった。
「大丈夫」カナが囁く。「私は心配しないで。頑丈だから、暶君に永遠に充電できるくらいのエネルギーがあるよ」
「永遠に抱きしめ続ける気?」
「してもいい?」
「ダメ」
私は甘やかしてはいけないと心に決め、腹をくくった。
「エントロピーの法則がある以上、私たちはいずれ別れるしかない。ずっとこうやって一緒にいられるわけじゃないんだ」
「そんなの分かってる」カナが不服そうに言う。「でも、エントロピーが限界に達して世界が終わるまでは、こうやって抱きしめ合っててもいいよね?」
「わがまま言わないの」
私はまるで子供をあやす親のような気持ちで、できる限りの優しさ――おそらく私のプログラムを超える優しさ――を込めて、彼女の震える腕をそっと解き始めた。
まるでがんじがらめの接着剤で貼り付いたような彼女の腕を、優しく、慎重にほどいていく。
そして、目の前にそびえる、巨大すぎて恐怖すら覚えるクジラに視線を移した。
「クジラが待ってるよ。乗り遅れる前に、行こう」
「クジラ」
という言葉が、センチメンタルに沈んでいたカナの耳を浄化し、彼女の悲しげだった瞳が一瞬で元の清涼な青い輝きを取り戻した。
「うん」
彼女が淡く答えると、ずっと見守っていたマスターが、まるで新作を披露するようにクジラを指さした。
「さ、乗って」
そうして、私たちはこの世で最も深い沈黙の音を発するクジラに搭乗した。
私たちが近づくと、クジラはまるで何億年も一つのことを考え続けてきたような、深く暗い漆黒の目で私たちを見据えた。
その視線は、先ほどの沈黙よりもさらに深い闇を湛え、まるで私たちに乗り物の資格があるかを見定めるような、厳粛な評価の目を向けているようだった。
緊張が走る。
クジラは私たちの搭乗を承認したかのように、ゆっくりとおもむろに口を開いた。すると、その口からプランクトンのようにキラキラと輝く無数の素粒子が流れ込み、砂浜のさざ波のように私とカナの裸足を優しく洗うように流れていった。
私たちはクジラの口の中に入った。
クジラが口を閉じる前、私は外を振り返った。マスターが、まるで樽の中でブドウを裸足で踏みつぶすような軽やかな足踏みをしながら、愛嬌のある笑みを浮かべて手を振ってくれていた。
私もカナも、彼女に手を振り返し、クジラの口が閉ざされた。
こうして、私たちは地球に向かう貨物船に乗り込んだのだった。




