31.空中喫茶店
31.空中喫茶店
スターポートが見えただけでは、すぐに入れるわけではなかった。
その後も1か月という長い時間を経て、ようやくドアをノックする瞬間が訪れた。
その1か月の間、カナは当初、うっかり「3秒」――実際は94,608,003秒――も仮眠してしまったことに強い罪悪感を抱いたのか、私を退屈させないため、あるいは自分を退屈させないために、ひたすら話しかけてきた。
しかし、1日も経たないうちに、彼女は沈黙の魅力を学び始めた。
私はもともと沈黙を愛する性分だったから、いずれカナにもその良さを教えたいと思っていた。彼女のおしゃべりを聞くのも嫌いではなかったし、話したいだけ話すカナに身を任せていたが、心の奥では、話すことより静けさを好む自分に気づいてほしかった。
1日かけて、カナはそれを感じ取ったのか、話しかけるのをやめた。
その沈黙に少し寂しさも覚えたが、彼女が私のために、好きでもない沈黙を耐えてくれているのがひしひしと伝わってきた。それがどこかサディスティックな快感を呼び、彼女の健気さが愛らしく、最初の寂しさはすっかり薄れた。
15日ほど経つと、カナもついに沈黙の魅力を本当の意味で味わえるようになったことがわかった。
沈黙は沈黙でしか学べないものだと、私は新たな気づきを得た。
いつも何かしていないと落ち着かないカナにとっても、何もしないことの充足感を、この期間で思考回路とCPUに深く刻み込んだようだった。
心地よい沈黙を共有するうち、ついに私たちの順番が来た。
空中喫茶店、スターポートに入る瞬間がやってきたのだ。
長く続いた心地よい沈黙は、ここで終幕を迎えた。
カナは、まるで水中での息止め競争を終えた子供のようにはやる表情を一瞬浮かべ、大きく口を開いて、溜まっていた我慢の吐息を一気に吐き出した。
「着いたー!」
私たちはハイタッチを交わし、空中喫茶店の前に立った。
まず目に入ったのは、ずっと気になっていた喫茶店から流れ落ちるエメラルド色の液体が溜まったプールだった。
私は指をさしてカナに尋ねる。
「ちょっと泳いでいく?」
カナはほぼ反射的に首を振る。
「いや、水着がないから。制服濡らしたくないし」
「そうだね。じゃ、早速入ろうか」
「うん!」
プールで水をかけてくる子供たちがいたが、すぐに近くの親に叱られ、泣き出してしまった。「ざまあみろ」と思いながら、私たちはある板の上に立った。
その板は、キンキンに冷えた生ビールのコースターのようなデザインで、両足を乗せると、まるで自分がビールの泡の一部になったような清涼感と炭酸のような刺激が全身を駆け巡った。
その感覚がそのまま体を浮かせ、私たちは強制的に空中浮揚を始めた。
そのまま、空中喫茶店の玄関まで上昇する。
「VERY OPEN」と書かれた木製のドアをノックし、開けると、信じられないほどの眩しい光が室内から洪水のように溢れ出した。
私とカナは思わず両手で目を覆うしかなかった。
8秒ほど経ち、太陽の至近距離のような強烈な光に目が慣れてくると、光も夕暮れのように落ち着いてきた。私たちは腕を下ろし、ドアの向こうを覗く。
すると、室内から声が響いた。
「いらっしゃい」
今まで聞いたことのない、驚くほど落ち着いた子供の声だった。
こんなにも穏やかな子供の声が存在するのか、と思うほど静かで、私は一瞬たじろいだが、誘いは続く。
「入って、入って」
声のトーンは異常に落ち着いているのに、口調は無邪気で子供らしい。そのギャップに、まるで思考回路が再構築されるようなアップグレード感に襲われた。
私はずっとおんぶしていたカナをそっと降ろし、代わりに彼女の手を握り、空中喫茶店の中へ一緒に入った。




