30.到着
30.到着
3年後。
深い眠りのような長い長い歩行から、ふと目覚めた。
理由は、背中にまるで体の一部のように感じられるカナが、スリープ状態から覚めたのを感知したからだ。
「起きた?」
声を出してみると、意外にも普通に発せられた。
3年間一言も発さず歩き続けたから、喉のスピーカーが錆びついて動かなくなったかと少し心配だったが、明瞭な音が出て一安心。
「あ、ごめん!」
カナが慌てたように、肩を枕にしていた頭をぱっと上げ、まるでよだれを拭うような仕草をしてから続ける。
「つい眠っちゃった。私、何秒寝てた?」
94,608,003秒と正直に言おうかと思ったが、無粋だと感じ、真実の一部だけを伝える。
「3秒だよ」
「3秒も?!」カナが驚く。「ほんと、ごめん! 3秒も一人で歩き続けてたの?」
「まあね」
「ごめん……」カナの声が涙声になる。「ほんとにごめんなさい。寂しかったよね?」
「いや、全然寂しくなかったよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」私は強調する。「私は人間だから嘘を自由につけるけど、これは本当だ」
「でも……」
口ごもるカナを安心させるため、私は本心をそのまま伝えることにした。
「大丈夫。カナの体温が温かかったから。その電圧の温もりがね」
「…………」
私の本音が伝わったのか、カナの首の力がふっと緩むのが感じられた。
「まあ、それならいいけど」
「うん。良かったよ」
カナは深い眠りでだらしない状態になった顔や髪を整え始めた。
「うわっ、なにこれ……」
彼女が驚いた声を上げたので、私は後頭部のカメラを起動して様子を窺う。
カナの髪や肩には、細かい星屑のような粉が粉雪のように積もっていた。
彼女がそれを払うと、まるで小さなオーロラがそよ風に揺れるティッシュのようによどみ、周囲に広がった。その一部が私の鼻に入り、思わずくしゃみをする。すると、オーロラはさらに鮮やかな色彩を放ち、まるで神聖な結婚式のベールのように私たちを包み込んだ。
祝福のような現象が去った後、私はようやく状況を伝える。
「前を見てごらん」
カナは素直に視線を前方へ向ける。
そこには、スターポートが見えていた。
空中に浮かぶ純喫茶のような建物で、酒類は提供しない、昔ながらの喫茶店だった。
3年の旅路を経て、ようやく私たちはスターポートにたどり着いた。
煉瓦屋敷のような古風な建物は、深緑色の蔓に覆われ、窓からはバニラ色の柔らかな光が漏れている。まるで老いたおばあさんが孫に童話を読み聞かせるような、穏やかな照度で長旅に疲れた訪問者を手招きしていた。
一角には滝のような部分があり、ほぼ透明に近い、眩いエメラルド色の液体――おそらく人間には有毒な硫酸のようなものが、人工の池に流れ込み、月面にプライベートプールのような水たまりを作っていた。
そこで、裸で水遊びをする数機のヒューマノイドロボットが見えた。
とにかく、この空中に浮かぶ喫茶店、スターポートに、私とカナはついにたどり着いたのだ。




