表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 真好


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/38

30.到着

30.到着

 3年後。

 深い眠りのような長い長い歩行から、ふと目覚めた。

 理由は、背中にまるで体の一部のように感じられるカナが、スリープ状態から覚めたのを感知したからだ。

「起きた?」

 声を出してみると、意外にも普通に発せられた。

 3年間一言も発さず歩き続けたから、喉のスピーカーが錆びついて動かなくなったかと少し心配だったが、明瞭な音が出て一安心。

「あ、ごめん!」

 カナが慌てたように、肩を枕にしていた頭をぱっと上げ、まるでよだれを拭うような仕草をしてから続ける。

「つい眠っちゃった。私、何秒寝てた?」

 94,608,003秒と正直に言おうかと思ったが、無粋だと感じ、真実の一部だけを伝える。

「3秒だよ」

「3秒も?!」カナが驚く。「ほんと、ごめん! 3秒も一人で歩き続けてたの?」

「まあね」

「ごめん……」カナの声が涙声になる。「ほんとにごめんなさい。寂しかったよね?」

「いや、全然寂しくなかったよ」

「嘘だ」

「嘘じゃないよ」私は強調する。「私は人間だから嘘を自由につけるけど、これは本当だ」

「でも……」

 口ごもるカナを安心させるため、私は本心をそのまま伝えることにした。

「大丈夫。カナの体温が温かかったから。その電圧の温もりがね」

「…………」

 私の本音が伝わったのか、カナの首の力がふっと緩むのが感じられた。

「まあ、それならいいけど」

「うん。良かったよ」

 カナは深い眠りでだらしない状態になった顔や髪を整え始めた。

「うわっ、なにこれ……」

 彼女が驚いた声を上げたので、私は後頭部のカメラを起動して様子を窺う。

 カナの髪や肩には、細かい星屑のような粉が粉雪のように積もっていた。

 彼女がそれを払うと、まるで小さなオーロラがそよ風に揺れるティッシュのようによどみ、周囲に広がった。その一部が私の鼻に入り、思わずくしゃみをする。すると、オーロラはさらに鮮やかな色彩を放ち、まるで神聖な結婚式のベールのように私たちを包み込んだ。

 祝福のような現象が去った後、私はようやく状況を伝える。

「前を見てごらん」

 カナは素直に視線を前方へ向ける。

 そこには、スターポートが見えていた。

 空中に浮かぶ純喫茶のような建物で、酒類は提供しない、昔ながらの喫茶店だった。

 3年の旅路を経て、ようやく私たちはスターポートにたどり着いた。

 煉瓦屋敷のような古風な建物は、深緑色の蔓に覆われ、窓からはバニラ色の柔らかな光が漏れている。まるで老いたおばあさんが孫に童話を読み聞かせるような、穏やかな照度で長旅に疲れた訪問者を手招きしていた。

 一角には滝のような部分があり、ほぼ透明に近い、眩いエメラルド色の液体――おそらく人間には有毒な硫酸のようなものが、人工の池に流れ込み、月面にプライベートプールのような水たまりを作っていた。

 そこで、裸で水遊びをする数機のヒューマノイドロボットが見えた。

 とにかく、この空中に浮かぶ喫茶店、スターポートに、私とカナはついにたどり着いたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ