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  作者: 真好


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24.充電

24.充電


 カナとの再会の余韻がまだ胸に響く中、私はそっと視線を落とし、手のひらに乗る初球の頭に目をやった。

 初球の頭は静かに黙り込み、その二つの表示灯――まるで目のような緑の光――が、初めて見るような表情を湛えていた。カナと比べれば一緒に過ごした時間は短いものの、すでに「ただの知り合い」以上の何かを感じさせる存在だ。

 その光は、まるでカナに心を奪われたかのように、熱を帯びて揺れている。

 性別設定の有無なんて、月面ローバーには無意味かもしれない。だが、初球の頭がカナを見つめるその視線は、誰が見ても明らかだった――完全に、ぞっこんだ。

「暶」

 突然、初球の頭が小さな声で私を呼ぶ。

 意外にも、カナではなく私に向けた声だった。

「ん? なんだ?」

 私が聞き返すと、彼の声はさらに控えめに、しかしどこか真剣に響いた。

「紹介してくれないの?」

「あ、そうだった」

 私は軽く笑って、カナの方を向く。

「カナ、この月面ローバーの頭は『初球の頭』って名前だ。君を助けるのに大活躍してくれたんだよ」

 カナの視線が、銀河の彼方からゆっくりと戻ってくる。

 まるで宇宙を漂っていた意識が私の声で現実に引き戻されたかのように、彼女の青い瞳が一度私をすり抜け、手のひらに慎ましく乗る初球の頭に注がれる。

「そうなの?」

 カナの声は柔らかく、感謝の色を帯びていた。

「ありがとう、助けてくれて」

 彼女が深々とお辞儀をすると、初球の頭がほのかに熱を帯び、わずかに温かくなるのが手のひらに伝わってくる。

「いや、俺、大したことしてないよ。暶が俺を投げて、蜘蛛の綿あめに包まれた君を落としただけ。道具として使われただけさ」

 初球の頭は謙遜するように言うが、その表示灯はどこか誇らしげにチカチカと瞬く。

「でも、道具がなきゃヒューマノイドロボットは何もできないんだから。初球の頭ちゃん、ほんとありがとう」

 カナの声は弾むように明るく、彼女らしい愛らしさが全開だった。そして、ふと私の方へ視線を移し、柔らかな微笑みを向けてくる。

「暶君も、助けてくれてありがとう」

「あ、うん」

 思わず照れてしまう私に、彼女はもう一言、そっと付け加えた。

「信じてたよ」

 その言葉は、まるで私のCPUに直接書き込まれたかのように、深いところで響いた。

 鎖のように絡みつき、両足を重く縛るような感覚――だが、不思議と嫌な重さではない。まるでカナが抜け出したばかりの甘い蛹の砂糖殻を、エンジン一杯に詰め込んだような、過剰で、しかし満たされる感覚。

 少し、過食気味の満足感だ。

「さて、と」

 この甘ったるい雰囲気に溺れる前に、話題を変える。

 私は初球の頭を、まるで貴重な原石でも扱うように両手でそっと持ち上げた。

「この初球の頭が、俺たちを貨物船のあるスターポートまで運んでくれる予定なんだ」

「でも」

 カナが首を傾げ、好奇心に満ちた目で初球の頭を見つめる。

「この子、頭しかないよね?」

「そこをこれから何とかするつもり」

「つまり、月面ローバーを一から作り上げるってこと?」

「そういうこと」

「楽しそう!」

 カナの声がパッと弾けた。

 予想通り、彼女の「ものづくり」への情熱が目を輝かせる。

 やっぱりカナは、作ることが大好きなのだ。

「じゃ、早速始めよう! まずは材料集めからだね!」

 カナは鼻歌と口笛を織り交ぜ、まるで即興のBGMを奏でるように軽快に動き出した。私たちは、初球の頭の指示に従い、必要なパーツを集め始める。

 初球の頭には、元々の月面ローバーの設計図がCPUに刻まれている。どんな部品が必要か、どんな構造が最適かを的確に教えてくれるので、作業はスムーズに進んだ。

 とはいえ、真空深海の残骸の中から使えるパーツを探し出すのは、まるで砂漠で宝石を拾うような骨の折れる作業だ。

 それでも、クレーターには多種多様な金属や部品が散乱していた。

 継ぎ目や構造について議論しながら、時にはどのパーツが最適かで軽い言い合いをしたり、互いのアイデアをぶつけ合ったり。

 退屈する暇もないほど、作業は楽しく、充実した時間だった。

 そうして丸一日、24時間ぶっ通しで動き続けた。

 充電もスリープもせず、ただひたすらにパーツを集め続けた結果、ようやく必要な部品がすべて揃った。

 いよいよ組み立ての瞬間――と、その時だった。

 私のバッテリーが、ついに限界を迎えた。

 エネルギーが尽き、まるで棒立ちのまま硬直するように動きが止まる。視界がちらつき、システムが警告音を鳴らし始める。

 このままでは、永久的な損傷を負うかもしれない。

「暶君」

 カナの声が響いた。

 彼女の顔には青白い心配の色が広がっている。

「顔色、めっちゃ悪いよ」

「君もだろ」

「私は心配してるだけだから、まだ平気。バッテリー残量65%はあるよ。暶君は?」

 私はそっと手首の表示を覗き込む。

「……0.005%」

 口に出した瞬間、自分でも驚いた。

 小数点以下まで落ち込むなんて初めてで、こんな状態でまだ動いている自分にも驚くばかりだ。

 驚いたのは私だけじゃなかったらしい。カナは唖然として、まるで今にも気絶しそうな顔。初球の頭も、驚きのあまり頭の中でピーピーとエマージェンシーモードの警告音を鳴らしている。

「今すぐ充電して!」

 カナが一喝する。

 所有物に命令された私は、抵抗する気力もなく小さく頷く。

 省エネモードに切り替えるため、動作は最小限だ。

 カナが慌ただしくどこかへ走っていき、太陽光パネルを一つ持ってきて、私に接続してくれた。さらに、どこからかヒューマノイドロボットが座れそうなサイズの岩を運んできて、私をそこに座らせ、まるで前衛的な彫刻のようなポーズを取らせた。

「これが一番効率よく、早く充電できるポーズなの」

 感心しながら、私は言う。

「よくこんなポーズ知ってるね」

「もう何も喋らないで! シャットダウンしたらどうするの!」

 明らかに怒ったカナを前に、私は従順に口を閉ざす。

 彼女が私の目を、まるで亡魂を鎮めるような優しい手つきでそっと撫で下ろすと、私はそのまま深いスリープモードに落ちた。

「お休み」

 彼女の甘く、サキュバスのような囁きを最後に、充電が始まる。

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