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  作者: 真好


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12.3メートルの少年

12.3メートルの少年






 スクラップ・ネストは、カナが言っていた通り、さすがに人で溢れているというほどではなかったが、それでも多くのヒューマノイドロボットが集まっていた。

 統制や案内をするスタッフはいないものの、ヒューマノイドロボットは本能的に秩序を好み、低エントロピーを保つよう振る舞うため、皆一様におとなしく、穏やかに過ごしていた。そのおかげで、私たちは難なく彼らの間をすり抜け、月面ローバーが山のように捨てられたクレーターへと向かうことができた。

「すごいね」

 とカナが、巨大なゴミ箱と化したクレーターを覗き込みながらつぶやいた。

「こんなにたくさんあるなんて」

「これなら、まだ動く月面ローバーを見つけられるかもしれないね」

 と私は応じ、二人でクレーターの中に足を踏み入れようとした。

 その瞬間、周囲にいた多くのヒューマノイドロボットの視線が、まるで磁力に引き寄せられるように私たちに集まった。

「君たち」

 と、突然声をかけられた。

 振り返ると、そこには背丈が3メートルを超えるような、7歳ほどの少年の姿をしたヒューマノイドロボットが立っていた。

「ネストの中に入るつもり?」

 と少年が尋ねてくる。

「ああ、そうだよ」

 と私は正直に答えた。嘘をつく必要はなかった。

「なんで?」

 と、予想通りの質問が飛んでくる。

「月面ローバーに乗るためさ」

 と私は無難に答える。

「どうして?」

 と、さらに突っ込まれる。

「それは言えない」

 と私は言葉を濁した。

 少年はそれ以上追及せず、軽く肩をすくめた。

「珍しいね。私はこの場所が好きで、ほぼ毎日来るけど、ネストの中に入るやつなんて見たことないよ」

「じゃ、今日が初めてになるね」

 と私は軽く笑った。

「そうだね。新鮮な体験をありがとう」

 と少年も微笑み返す。

「どういたしまして」

 と短い挨拶を交わし、私とカナはクレーター――つまりスクラップ・ネストの中へ進もうとした。

 その瞬間、突然、一台の月面ローバーがクレーターから飛び出し、宙を舞った。

 まるで今しがた釣り上げられた魚のように身を震わせ、すべてのヒューマノイドロボットの視線を一瞬で引きつけた。

 驚いた私とカナが思わず後ずさると、3メートルの少年型ヒューマノイドロボットが軽く手を上げ、落ち着かせるような仕草を見せた。

「慌てる必要はないよ。あれはただの釣りさ」

「釣り?」

 と私は聞き返す。

「そう。このスクラップ・ネストには有名な釣り人がいてね。毎日じゃないけど、ときどき来ては、まだ動いたり意識を持っていたりする月面ローバーを釣り上げて持って帰るんだ」

「どうして?」

「食料調達だよ。彼女、魚が好きみたいだから」

「彼女?」

 と私が聞き返すと、少年はクレーターの縁を指さした。

 そこには、ティーンエイジャー型の女性ヒューマノイドロボットが座っていた。

 片手に釣竿を持ち、もう片方の手でネオンライトのようなシャボン玉を次々と吹いていた。

「じゃあ」カナが尋ねる。「あのヒューマノイドロボットは動く月面ローバーをたくさん持ってるってこと?」

 少年はまた肩をすくめた。

「さあ、それは分からない。もう食べてしまったんじゃない? そもそも、彼女は移動手段としてじゃなく、食料のために釣ってるんだから」

「そうか……。残念」

 とカナが心底残念そうにつぶやいた。

 その表情が少年の同情を引いたのか、彼の顔がほのかに明るく輝いた。

「でも、僕も詳しいことは知らないから、直接聞いてみたらどう?」

 と少年が提案してくれる。

「うん、じゃあ、そうしてみよう」

 と私は即座に決めた。カナの顔も、青く澄んだ輝きを取り戻し、生き生きとした表情に戻った。彼女の曇った表情は、なぜか周囲を不安にさせる不思議な力があるようだった。私も少年と同じく、彼女の明るさにほっとした。

「じゃ、ありがとう」

 礼を言い、カナと一緒に釣り人の方へ向かおうとすると、少年が大きな両手を振って私たちを見送ってくれた。

「無事に、そして早く、目的地にたどり着けるよう祈ってるよ」

 その言葉を胸に、私とカナは再び走り出し、釣り人のいる場所を目指した。






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