良心を持たない妹が私の婚約者を奪った。――私が『呪い』に手を出すことは非難されるだろうか?
【1.】
「すまないっ! 君の妹と寝てしまった」
いきなり婚約者のコリン・ボーエン伯爵令息にそう言われて、ダナは耳を疑った。
「な、なんで!?」
「謀られたんだ! 君からの手紙と思ってのこのこ行ったら、見たことない部屋に通されて……。やばいと思ったんだよ、窓もない部屋で、壁も調度品も全部白とピンクで! 急いで部屋を出ようとしたけど、どんな仕掛けだ? 鍵が閉まって出られない。ヤベーと思ってたら薄着の女が涙を誘う同情話……。気づいたら押し倒してましたーっ!」
コリンは金髪碧眼のイケメンだ。
しかし、こんな話を聞かされては、がっかりしかない。
「ハイ、アウトーっ!」
「でもさ、ダナの方も、妹いたの今まで俺に黙ってたよね!?」
「はい。引きこもりの上、性格も悪い妹なんで、なかなか言えませんでした……」
「俺、婚約者なのに!?」
「面目ない……。で、浮気事実を私に言うということは……」
ダナが恐る恐る聞くと、コリンは気まずそうに頭を掻いた。
「君の御父上はカンカンに怒って、妹の方を娶れと」
「ああ、分かる! そのお父様、どっちかというと内心大喜びしてる! 結婚相手見つかりやすい方の私より、難しい方の妹から片づけようって魂胆だ……」
「ってことで、婚約破棄でお願いします」
コリンはペコリと軽く頭を下げた。
「あ、はい……って、こんなあっさりー!? 私たちこれでも2年くらい婚約してたよね?」
ダナが納得いかないように食い下がると、コリンは困り果てた顔をした。
「なんだよ、しっとりしたお別れをお望み? 俺にそんな傷口塩塗るやり方やめて! ただでさえ情けないんだよ、俺、どんな噂が立つか……。『二度と姿見せないで』とか言われる方が、婚約破棄の言い訳にもなって精神的にラク」
コリンが盛大なため息をついて肩を落としてみせた。
ダナは、本気で婚約が破棄されるのを肌で感じた。
「そんなこと言えないって言ったらどうする?」
「何でさ?」
コリンが早くㇷってくれとばかりに視線を寄越した。
何でって……あなたのこと好きだからに決まってるじゃない。
ダナは寂しくなった。
本当にこれで終わりなの?
ダナの目にうっすら涙が溜まっているのを見つけて、コリンもさすがに気まずそうな顔になった。
「……悪かったよ。でもさ、ごめん。もう俺にもどうしようもないんだ」
【2.】
そしたら変なことが起こった。
妹のマリーは5年くらい部屋に引き籠っていたのに、いきなり社交界に出始めたのだ。
マリーは、もともとあまり社交界が得意な方ではなかった。
お茶会とかに行っても、みんなが挨拶してる間、さっさとテーブルに着いてお茶が出るのを待っていた。お茶を飲んで食べるもの食べたら、すぐに帰ろうとする。出席者たちと楽しくおしゃべりをするという発想がないのだ。
とはいえ、全くしゃべらないわけではない。聞かれた質問には答える。
しかし、その場に合わせた回答をするつもりはないし、自分からは質問しようとしない。思ったまま発言し、場を凍らせることもしばしば。
自分のそのときの気分にも忠実で、虫の居所が悪ければ、みんなが笑っているのに一人だけぶすっとした顔をしている。
だから、みんなマリーには構うことをやめた。マリーは人の輪に入れてもらえなくなったのだ。
それで、マリーは社交界に足を向けなくなり、最近まで引き籠っていたのだ。
夜会に出ようとしているマリーをエントランスで見つけて、ダナは聞いた。
「夜会に行くの? どういう変化なの」
「お姉様。変化って何」
「前は夜会なんて行かなかったじゃない」
「ああ、夜会。お姉様は行かないの」
「行かないわ。婚約者を妹に盗られたのに、笑われに行くようなものだもの」
ダナのその言葉を聞いて、マリーは、ああ、と納得の顔をした。
「そうね。何か言う人いるかも」
「何その他人ごと感。自分のせいだとは思わないの?」
イラっとしてダナが言うと、マリーはきょとんとした。
「私とコリン様のこと?」
「そうよ。言わせてもらうけど、私の婚約者だってことは知ってたはずでしょ?」
「知ってた。でも私も結婚したいと思って。お姉様の婚約者しか男の人知らないから、お姉様の婚約者にしたの」
マリーの言葉にダナは「は?」と思った。
「私の婚約者よ?」
「お父様は喜んでくれた。一生結婚しないと思ってたって。姉の婚約者とはいえ、男に興味持ったのは素晴らしいって」
マリーは顔色も変えずに言った。
ダナは呆れた。
「お父様もお父様ね。そんなことだろうとは思ったけど」
「ええ。姉妹だからどちらでも問題ない。お姉様への慰謝料はもわらないどころか、私と結婚するなら持参金弾むとまで言ってた」
「お父様そこまで言ったの?」
ダナが憤って言うと、マリーが驚いた。
「お姉様ってロマンチストね」
「は?」
「愛とか信じてるってこと」
マリーが言うので、ダナは困惑した。
「そりゃ結婚する気だったんだから愛情くらい感じるでしょ。むしろマリーは愛とかないの?」
「ない。セラノルはそんなもの必要ないと言った」
「セラノル?」
聞きなれない名に、ダナは聞き返した。
「講師よ。お父様が雇った」
「は?」
「お父様が私に付けたの。知らなかった? お父様隠してたのか。それかお姉様が私に興味なかったのか」
「ああ、興味がなかったのは認めるわ。それは悪いと思うけど、家族なら一言言ってくれても。ってゆか、何の講師よ」
ダナは少し気後れしながらも詰るような言い方をした。
すると、マリーは小さく首を竦めた。
「私は人との絡み方がよく分からないの。それをセラノルが全部教えてくれた。人との会話もパズルみたいなものだから、パターンを覚えたらいいって。一問一答でやってる」
「……。そうだったの。それで社交界に出始めたのね」
「そう社交界に出始めた。実践ですって。婚約者できたんなら次は社交に挑戦しろって」
「……」
ダナは奇妙な生き物を見る思いだった。
こんな妹がどうやってコリンを誘惑できたのか?
婚約して社交界に出始めたからって、コリンの実家の家族とどうやって接するつもり?
講師とやらと一問一答でやってると言うけど、そんなの、結婚までに間に合うの?
こんなに世間一般の良識とはズレているのに!
ダナの顔は自分でも気づかぬうちに険しくなっていたのだろう。
マリーがそっと目を伏せて言った。
「驚いた? 驚いてくれてよかった。私、お姉様のこと大っ嫌いだったから。私は昔から社交界とか苦手でうまくいかないのに、お姉様ばっかり上手にやってた。フォローしてくれることもなかった。代わりにセラノルが私にイチから教えてくれた。セラノルのおかげで私は変われた。私は変化を喜んでる」
【3.】
マリーと話してから、ダナは、数日、お酒を飲みっぱなしで部屋に引き籠った。
皮肉ね。
私が部屋に引き籠って、妹は社交界に出始めた。
婚約者も妹にいったことだし、なんか私たち姉妹、逆転したみたい。
そう思うとダナはまたイラっとして、グラスについだお酒をグイッと一気に飲み干した。
あー、あたし、けっこうかっこ悪い。
思ったよりしっかり堪えてる。
コリンのこと好きだったんだなあ……。
まさか妹に盗られるとは思ってなかった。
それに妹もなかなかキツかった。
私のこと大っ嫌いだったんだな……。
あんなふうに面と向かって言われたら、もう返答のしようがなかった。
妹が人付き合いが苦手なのは彼女の特性のせいで、私のせいじゃないのに。
でも、小さい頃から比べられて……妹も我慢がならなかったのかもしれない。まあ、私も妹のこと性格悪いと疎んでいたし――。
すると不意にテーブルの上のグラスの陰から声が上がった。
「ケケっ 昼間っから酔っ払い。荒れてんなあ」
ダナがのろのろと目を上げると小鬼だった。
「あんた何」
酔っているせいでダナは驚かなかった。
「昔助けてもらった小鬼。あんたの妹に箒で追われたときに、匿ってもらった。今こそ恩返ししてやるよ」
「ああ、そんなことあったっけ? 恩返しか、いいわねー。ちょっと良くないことが続いてて」
「男にフラれたみたいだね」
小鬼はさらっと言った。
ダナはまた涙が込み上げてくる。
「そう、フラれた。よく知ってるわね」
「男取り返したい?」
「取り返したいかはわかんない。でも、妹と関係を持ったみたいだから、裏切られたのはかなり堪える……」
ダナが、うーと唸った。
小鬼は心配そうにのぞき込む。
「じゃあどうしたい?」
「わかんない! とりあえず、妹はムカつく。妹に入れ知恵したセラノルってやつもムカつく! あー、そんんで、やっぱりコリンもムカつく! コリンを妹にあてがって喜んでるお父様もムカつく!」
ダナが顔を顰めながら言いたいことを吐き出すと、小鬼は、ふむと考え込んだ。
「そっか……。じゃ、これはどうかな?」
小鬼がパンっと手を叩くと、お酒のグラスの横に何か縄のようなものがポンっと現われた。
ダナが目を見開く。
何か出てきたように見えるけど、酔っているからね。小鬼の存在といい、この縄みたいなものといい、まあ変な物も見えるでしょ。
「何これ」
「呪いの道具ー」
「縄のようなものに見えるけど」
「うん、特殊な縄。使い方教えてやるよ」
ダナは、酔っぱらっているのか夢なのかよく分かんないな~と思いながら、小鬼の話をふんふんと聞いた。
次の日、目が覚めてもまだテーブルの上に縄みたいなものが置いてあったので、ダナは変な顔をした。
昨日の小鬼は何だったのだろう?
酔ってたから幻覚かと思ったけど、縄はある。
にしても、小鬼、何か言ってたっけ? 言ってたような。
――ふむ。面白そうだからやってみよう。ここんとこ嫌な気持ちだったから意趣返しくらいにはなるかもしれない。
ダナはその縄をさっと引っ掴むと、マリーの部屋へ向かった。
引きこもっていた姉がいきなり部屋を訪ねて来たので、マリーは嫌そうな顔をした。
しかし、ダナはずいっと中に押し入った。
「マリー。来月のあなたの結婚式のことよ。私は一応参列することになってるみたいだけど、本当に参列するの、私」
「どっちでもいい」
「何その言い方」
「正式な結婚式だから家族として参列してくれた方がいい。参列すれば、お姉さまが納得してることを他人に見せれて都合がいい」
マリーは淡々と答えた。
相変わらずムカつくわね、とダナは心の中で舌打ちした。
マリーは続ける。
「でも、元婚約者のお姉様が、じっと見てるっていうのも値踏みされているようで気持ちよくない。熱でも出してくれたらいいのにとも思う」
「そう。じゃ、私も行きたくないからやめとくね」
「やめとく? 分かった。お父様にもそう言っておく」
マリーはそう言うと、もう用件は終わりよね、といった顔をした。
しかし、ダナとしては今の話は部屋に入る口実でしかない。ダナは言った。
「これ、あなたの手で燃やしといてくれない?」
「何?」
「私とコリンの婚約締結の書状」
「ああ、もう無効だから? でもなんで私が? 自分で燃やせば?」
「私は気持ちがいっぱいいっぱいでできないわ。あなたが邪魔した婚約よ、あなたが燃やして」
するとマリーは顔を歪めた。
「なんで私が?」
「人の気持ちが分からないのね。セラノルにはこういうときの対処法は教えてもらわなかった? やったことの責任くらいとるものよ。はい」
ダナは、テーブルの上に置いてあった蝋燭が3本立った燭台を マリーにずいっと手渡した。
はい、と当然のように差し出されたら、腑に落ちない顔をしながらもマリーはしぶしぶ受け取った。
すると、ダナは次は書状の方を差し出し、マリーのもう片方の手に握らせた。
「これが婚約締結の書状」
そして、ダナが顎でマリーに次の動作を促すと、マリーは戸惑いながら、
「燃やせばいいわけ?」
と言い、書状を蝋燭の炎に近づけた。
炎がぱっと燃え移る。めらめらと炎が上がり、紙は端の方から黒くなって燃え始めた。
その両手がふさがったタイミングで、ダナはマリーの背後に回った。
書状を燃やすのに気を取られていたマリーは、ダナの動きまでは注意が向かない。
その隙に、ダナは背後から、小鬼にもらった『呪いの縄』をささっとマリーの顔の前に通すと、口にくわえさせた。
マリーはいきなり顔の前に縄が現われたので、
「え?」
と思ったが、バランスの悪い燭台と火のついた書状で、両手がふさがっている。とっさに放り出すのはためらわれたし、動きも少し緩慢になっていた。
その間に、ダナは『呪いの縄』をマリーの後頭部で結んでしまったのだった。
「なにをするの、おねえさま」
マリーは口に縄が通っているので喋りにくそうだ。
「おっと、自分で解かない方がいいわよ。これ『呪いの縄』なの。自分で解けば呪いが発動するわ。呪いが発動しないように解くには、条件があるのよ」
ダナは勝ち誇った顔で言う。
「のろいだなんて、うそ」
「信じない?」
「ええ」
「じゃあ、勝手に解けば」
「……。」
呪いと言われると、「はいそうですか」と解く気分にはならない。
マリーは、無言でダナを睨んだ。
それから、ゆっくりと聞いた。
「じょうけんてなに」
【4.】
ダナは、コリンを呼び出すと、縄を口に咥えたマリーを押し出した。
「コリン、これ解いてあげて」
「な、なんだよダナ。どういうこと? ってゆか自分で解けば」
コリンは、気味が悪くてダナとマリーを交互に見つめている。
「自分で解くと呪いが発動しちゃうの。絆を試す『呪いの縄』なのよ」
とダナが言うと、コリンは、
「呪い?」
と警戒した。
「こりんさま、いますぐほどいて」
とマリーは言ったが、コリンは無言のまま動こうとしない。
「……。絆を試すって何?」
「……。」
マリーが黙っていると、コリンは疑い深い目をした。
「言えよ」
「……。」
それでもマリーが何も言わないので、ダナが横から口を挟んだ。
「解いてあげた人は、言葉が正しく発音できなくなります。縄を噛んだような発音に。でも実際に縄を噛むわけじゃないから、いいわよね? 婚約者がこんな縄を一生つけるなんて可哀そうだものね?」
ダナは少し意地悪な言い方をした。
これは裏切った彼への仕返しでもある。
すると、コリンは血相を変えて叫んだ。
「バカなことを言うな! 正しい発音ができないだと? そんなの恥ずかしいだろ。別の人を当たれよ」
そうして、コリンは何かもごもご言い訳しながら、そそくさと帰って行った。
次に、ダナは、仕事でやって来た社交講師のセラノルにマリーを見せた。
「あなたがセラノル? 私とは初めましてね。マリーのこの縄解いてあげてくれない? あなたのクライアントでしょ?」
「なんですか、いったい……」
セラノルは、ひょろっとした胡散臭そうな男だったが、いきなり奇妙な様子のマリーを見せられて嫌な予感がし、一歩後退りした。
「ご自分を犠牲にして、大事な人の縄を解いてあげるの。そういうゲーム」
とダナが親しみやすそうな笑顔を浮かべて説明すると、セラノルは『犠牲』という言葉に反応した。
「なんですって? 犠牲にって……何を?」
「正しい発音」
「正しい発音? どういうことですか? え? ちゃんと話せなくなるってことですか? とんでもない! 仕事になりません」
セラノルは即座に拒否して、首を横に振った。
ダナはわざと懇願するような目を向けて続ける。
「でもあなたのクライアントよ? あなたはマリーをいっぱしの令嬢にするのが仕事なのよね? こんな縄付けてたら、いっぱしの令嬢どころの話じゃないわ」
「なら今すぐやめさせてもらいます! 人生賭けるほどのクライアントじゃないんでね!」
セラノルはそう叫ぶと、せっかくのいい仕事だったのにと「ちっ」と舌打ちし、大股で邸を出て行った。
その次は、ダナは父デューン伯爵のところへマリーを連れて行った。
「お父様? マリーの縄を解いてあげて」
口に縄を咥えた娘を見て、父はぎょっとした。
「ん? なんだね、変なものを付けて」
「おねえさまに、のろいのなわをつけられたの」
マリーは涙目だ。
今まで全ての尻拭いは父がして来た。引きこもっている間も、婚約者を略奪してからも。だから、今日もきっと父が何とかしてくれる。
しかし、『呪い』と聞いて父デューン伯爵は用心深そうな顔になった。
「呪いだと?」
「ほどいたひとは、ただしいはつおんが、できなくなるんですって」
「?」
「あたし、こんななわ、つけたままは、いや。ほどいて、おとうさま」
「……。」
父デューン伯爵は、無言のままに女中を呼んだ。
そして、女中に何も詳しい説明をせずに、
「おい、マリーの口の縄を解け。今すぐ」
と命令した。
「かしこまりました」
女中は、お嬢様が口に縄を咥えているなんて変だなあと思いながらも、命令された以上素直に従うしかなく、マリーの後頭部にある縄の結び目に手をかけようとした。
「ちょっと、お待ちなさい!」
さすがに、ダナが止めた。
「え?」
女中の手が止まる。
ダナは不快感いっぱいの顔をしていた。
「お父様もマリーもひどいと思わないの? 何も知らない女中に『呪い』を押し付けて」
「呪い?」
女中は目を丸くしている。そして、縄の結び目からぱっと手を離した。
ダナはマリーと父デューン伯爵を睨んだ。
「まったく、みんなして腐ってるわね。誰も呪いを解く方法を探そうともしない。呪いを解く方法はちゃんとあるのに。そんなことよりも、あなたたちは、ただ自分に降りかかりそうな厄災から逃げることばっかり。」
そう言いながら、ダナはマリーの縄を自らの手で解いた。
「え、お姉様? 呪いは……。まあ、でも、ありがと」
マリーはダナが自ら縄を解いたので驚いた。
しかし、ダナはまるで無視して、ぼんやりと呟いた。
「周りの人間がどんな人か、あなたには伝わらなかったのかしら」
婚約者からも、頼りにしていた講師とやらからも見捨てられ、父親は他人の生活・生命をあっさりと身代わりにしようとする。私なら、そんな状況、だいぶ心が崩れ落ちると思うけど。
昨晩、酔っていたとき、小鬼に『呪いの縄』の使い方を聞いて、ダナは使ってみようと思ったのだった。
どうせ酔っ払いの夢に過ぎないだろうけど、マリーが呪われたと聞いたら、マリーの周りの人はどう反応するか見てやりたくなったのだ。
マリーのために犠牲を払う? それとも見捨てる?
小鬼からは『あんたがもういいと思うか、呪われた人が謝るかしたら、この呪いはあっさりと解けるよ、誰も正しいしゃべり方を失わない』と聞いたので、もし本物の『呪い』だとしても、これくらいなら、意趣返しに使ってもよかろうと思ったのだ。
周囲が犠牲を払うほどマリーが慕われているなら仕方がないと思った。自分はそもそも出る幕ではない。でも反対に、もし周りがマリーを見捨てるようなら、「そらみなさい」と言ってやるつもりだった。
そして、結果コリンやセラノル、父は――。
しかし、マリーが少しも取り乱した様子がないところを見ると、まだよく分かっていないらしい。
やはり、この子は本当にどこか普通と違うのだ。
ダナははっきりと言ってやろうと思った。
「マリー、あなたはコリンにもセラノルにも見捨てられたのよ。あなたのために何かしてあげようという人はいないってこと」
「え……」
マリーは確かにコリンやセラノルの生々しい反応を見た後だったので、ダナの言葉に感じるところがあるようだった。
「お父様だって女中にやらせようとした。最低だと思う。そんな人に味方になってもらったからって、自分は間違ってないと思うのはやめた方がいいわ」
「……。」
マリーは黙っていたが、その目には不安の色が浮かびはじめていた。
「セラノルなしの今、あなたに何かできるとは思えないけど、忠告しておいてあげたわ」
ダナはそういうと、マリ―と父を放っておいたままさっさと父の部屋を出た。
ふと、ダナは、マリーではなくて私が呪いにかかったのなら、コリンは私のために何かしらの犠牲を払ってくれただろうかと思った。
しかし、すぐにその考えを振り払った。
妹と寝て私を裏切った人だ。許せるはずがない。
あんな男願い下げだ! もう忘れよう。
ダナはまっすぐ顔を上げたのだった。
(終わり)
最後までお読みくださいまして、どうもありがとうございました。
「盗る妹」は私も大好きなジャンルの一つです!(*^^*)
ちょっと妹のキャラを工夫してみました!
こちらのお話、もし少しでも面白いと思ってくださいましたら、
下のご評価欄★★★★★や感想などいただけますと、今後の励みになります。
すみませんが、よろしくお願いいたします!