「大家さん、たいへんです!(仮題)」特別読み切り短編:青い空と緑の侵略者
アパートの日常を少し違う視点で描いてみた「大家さん、たいへんです!(仮題)」という短編もお届けできるよう頑張ってみますね。
……とか言っちゃいましたが、大家さんが大家さんになる前を思いついたので「特別読み切り短編:青い空と緑の侵略者」をお楽しみください。
これは、まだアパートの大家になる前のことだ。その日、世界は「たいへん」な事態に直面していた。空には巨大な緑色の宇宙船が浮かび、光の柱が都心の広場に謎の種子をばら撒いている。テレビは大騒ぎ、人々は逃げ惑う。
大阪の片隅にある小さな庭では、一人の女性が立っていた。
「なんや、あんたら! 朝からええ加減にせえよ!」
エプロン姿のおかんは腕組みをして空を見上げる。目の前には、緑色の小さな生命体たちが、人類を「緑化」しようと種子をばら撒いていた。
その騒ぎを、近所で静かに眺めていた男性がいた。無口で落ち着いたスコップを持つ男――後のおとんである。
彼は庭に芽吹いた雑草を注意深く耕しつつ、状況を観察していた。
「勝手に種撒くんちゃうぞ! うちの花壇、緑はもう十分や!」
おかんが叫ぶと、緑化侵略者は一瞬たじろぐ。しかしすぐに撒く手を止めない。
そこでおとんは、黙ってスコップを地面に深く突き刺し、静かに呟いた。
「……耕せ」
その瞬間、土から色とりどりの花々が勢いよく芽吹き、侵略者の種子は吸収されていく。緑化侵略者は混乱し、あっという間に撤退した。
「な、なんやこれ、あんた、何したんや!」
おかんは目を見開く。
おとんは無言で土を耕し続け、額に汗を浮かべながら微かに口角を上げた。その静かな落ち着きに、おかんは思わず心を動かされる。
「……意外とやるやないか」
おかんが微笑みかけると、おとんはちらりと目を合わせる。
この小さな交流が、未来の日常編で二人がアパートの大家として共に暮らすきっかけとなるのだ。
こうして世界規模の「たいへん」を乗り越えた二人は、それぞれの道に戻る。しかし、互いの存在は深く印象に残った。
やがて二人はアパートの大家として、日々の小さな「たいへん」に向き合う生活を共にすることになる――その日はまだ遠い。しかし、確かに始まりの一歩は、この『20XX年、緑化侵略の日』に刻まれたのだった。
機会がございましたら、今後ともお引き回しいただけますと幸いです。




