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第七話「優しさは刃のように」

 死神を見た。


 白い、死神を。


 鎌なんて持ってなかった。


 ただ、歩くだけで世界が静かに壊れていく。


 白が、ゆっくりと赤に染まっていく。


 それはとても残酷で、とても綺麗だった。


 怖かったはずなのに、不思議と涙は出なかった。


 声も出ず、動くこともできなくて、ただ──見ていた。


 気づいたら、目の前にいた。


 その死神に、命を刈られていた。


 痛みはなかった。ただ、少しだけ、胸が苦しかった。


 強くて、冷たくて──なのに、ひどく優しかった。


 どうしてだろう。

 少しだけ、救われた気がしたんだ。




 捕まってからどれくらい経ったのだろうか。意識が飛びそうになる度に無理やり引き戻されていた。


「意外に強情だねぇ。いい加減少しくらい情報吐いてくれてもいいのでは?」


 何を言われようとされようと口を開くつもりはない。しかし、顔を上げた先にいたものをみて声が漏れる。


「…な、んで」

「ようやく声を出したと思ったら、“なんで”、ですか? はあ……私が欲しいのは、そんな言葉じゃないこと、分かっているでしょう?」

「ねぇ、なにしてるの?」


 緩い声に反してその場の空気が凍る。そこにいたのはヴィーだった。怒りも何も無い、ただ凪いだ空気を纏ってそこに立っていた。


「なぜ、ここに…外の奴らは……」

「あれ、聞こえなかった?ジェイに何をしてるか聞いたんだけど」


 笑顔を浮かべたまま告げる。いつもと変わらない優しいヴィーの笑顔。いつもと変わらないその笑顔はあまりにこの場に合わずどこか恐怖を覚えてしまった。


「いや、関係ない。ここに一人で来たことを悔やむがいい」


 その瞬間、辺りが眩い光に包まれ思わず目を閉じる。目を開けるとそこにはヴィーが立っていた。そしてヴィーの足元に転がるピエロ。それには足がなかった。


「もー、なんで俺の質問に答えてくれないのぉ?あはっ、まあ答えれるわけないよねぇ…俺の家族を拷問してた、なんて」


 ヴィーはただ笑う。その場に似合わないほど楽しそうで穏やかな顔で。


「ジェイ大丈夫?勝手に消えたりしたらだめだよ。みんなすっごく心配してたんだからね」

「あ……なんで、外の見張りは…」

「……いいよ、ジェイ。今は気にしなくて。とりあえず、休みなよ。俺がちゃんと連れて帰るから」


 目元を手で隠される。暗闇に包まれ、思い描いた言葉は口から出ることなく俺の意識は遠のいていった。


「さて、ピエロさん。──目的を聞かせてもらおうか?」




「ヴィーが出ていってから、もう三時間経った。ちゃんと、俺は待ったぞ」


 暗い室内で、エフが銃を握りしめて立ち上がる。


「クロとハクは、ヴィーから何か聞いてないのか?」

「すみません……何も聞く間もなく、どこかへ行ってしまって……ただ、“地獄だ”って言っていました」

「だよな……なら、とにかくあちこち探してみるしかないか」


 エフが呟いたそのとき、ハクが突然身を乗り出した。皆が驚きの表情を浮かべるなか、ハクは窓辺へ近づき、外を見つめる。

 釣られて外を見ると、そこには血まみれのジェイを背負っているヴィーの姿があった。


「ただいまぁ。時間、間に合ったぁ?」

「……間に合ってねぇよ、バカ野郎」


 エフの声が聞こえているのかいないのか、ヴィーはただ笑いながら手を振っている。


「ヴィー、詳細を話せ」

「それは命令?」

「そうだ、と言ったら話すのか?」

「んー……話さない」

「……じゃあ命令じゃない。――ただの頼みだ」

「えー……ジェイの様子を見ればわかるでしょ?要は、情報目当てで誘拐されたってだけだよ」

「違う、そうじゃない。ヴィー、お前はなぜジェイの居場所を知っていた?お前は何を知ろうとした?そして、何を得た?」

「ジェイの居場所を知った方法は秘密。知りたかったのは――俺の家族に手を出した理由。で、得たのは“地獄の破片”ってところ?」

「……はぁ。言うつもりがないのはわかった。ただ、一人で抱え込むなよ」

「もちろん。俺の手に負えなくなったら、相談するよ」

「……今、相談してくれてもいいんだけどな」

「それは無理」

「わかってる。ーー無理すんなよ」


 エフの手がヴィーの頭にそっと伸び、そのまま優しく撫でる。ヴィーは満足そうに笑い、エフにしがみついた。

 ハクはその光景を、何か言うわけでもなくただ静かに見つめていた。

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