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ⅩⅥー2 リトの覚醒

■闘い

 運動服に着替え、鍛錬場代わりに砂を入れた菜園の片隅に向かった。なぜか、カイがいる。リトが目を丸くしていると、キュロスが言った。

「今日は、カイ修士もご参加になるそうです。みなさん、お二人の対戦を見たいとのことですが、よろしいですか?」

 サキ姉を見ると、ニヤリとして、口元を動かした。

――リト、がんばれ!


 カイがいつも櫻館から見ているのは気づいていた。だから、リトはいつも張り切って練習していた。なのに、今日は一緒に練習ができるだって? 準備で身体を慣らしている間、リトはフワフワと意識が飛ぶようだった。すぐ隣にカイがいる。

 だが、向かいあったとたん、リトの意識が研ぎ澄まされた。カイの目は本気だった。リトも本気で対峙(たいじ)しなければ、失礼にあたる。


 緊張を高めながら、間合いをとる。リトがサッと差し出した手を、カイはすばやくかわし、右に飛んだ。すると、リトも同じ方向に飛ぶ。ふたりが激しく応酬を繰り返していると、キュロスもシュウもオロも二人の動きに見入った。

 もちろんサキはワクワクしている。天月修士の武芸など、めったに見られない超レアものだ。ばあちゃんも小屋から顔を出した。レオンも彪吾も見物に来ていた。スラもマロもいる。風子もアイリもモモもキキも、なぜかクロまで集まっていた。

 ミオ姉は騒ぎ出しそうなカコにミミを与えて、画紙を取り出し、スケッチを始めた。キュロスが目をウルウルさせている。念願の天月修士の武術を見ることができる。オロもシュウも憧れのリトから目が離せない。


 見物人にはまったく気をとられず、ふたりは相手の動きだけに集中していた。まるで舞のように華麗な動きだった。ふとスラが眉をひそめた。カイの動きには、ミグルの舞が入っている。

 二人とも力を抜いているわけではないのに、決着がつかない。三十分ほどして、キュロスが二人を止めた。このままでは体力が切れるまで続く。そうなると身体の回復が遅れる。


 取り囲む面々から、拍手が飛んだ。リトはビックリして、周りを見回した。いつのまにか全員が集まっている。カイが手を差し出した。リトがそれを握る。カイの気持ちが伝わった。

(リト、ありがとう。すばらしい武術だったよ!)

 リトの心の重荷が解きほぐされていくようだった。

(カイ、こっちこそ、ありがとう!)


■カイの禁術

 私室でカイは、カムイが持ってきた飲み物を手にしていた。

「カイさま、よかったんですかい? あんなことなすって」

(よいのだ。それより、リトにもこれを持っていったか?)

「へえ。持っていきやした。カイさまからの差し入れといったら、喜んで飲んでおりやしたぜ」

(そうか。ときどきリトの部屋をたずねて、様子をみてくれぬか。眠りを誘う薬酒だ。命に別状はないはずだが、万が一にでもリトの眠りが深くなりすぎてはいけない)

「承知いたしやした」

 カイはカムイを下がらせ、ゆっくりと飲み物を口にした。天月特製の飲み物だ。心身の疲れをとる効果がある。


 カイは目をつぶり、リトとの対戦の一部始終を頭の中で再現した。やはり、リトはカイの動きを読んでいた。その上、〈銀麗月〉ほどでなければ習得できない超高難度の軽功まで使った。

 昨日の夜を思い出した。リトが言っていた十年前の出会い。……それはいったい何なのだろう。


 カイは、自分のくちびるに白い指をあてた。まだ感触が残っている。眠るリトの頬を撫で、うっすらと笑みを浮かべたリトに吸い寄せられるように、くちびるを寄せてしまった。そのままなぜか眠ってしまい、目覚めると明け方だった。急いで部屋を出た。自分の行為の意味がわからない。


 朝、リトに会ったとき、必要以上に構えてしまった。だから、武術で試そうと思った。自分の気持ちの意味と、リトが発する力の意味を。ほんのちょっと対戦するだけのつもりだった。まさか、半時間も続くとは……。

 リトの力は、図書館で感じたよりはるかに強くなっており、いつもの思念交換で感じる以上のものだった。ただ、それは「異能」とは違う。他を屈服させ、威圧する力ではなく、カイの力を受け止め、それを倍にして返す力とでも言おうか。よって、リトは決してカイを傷つけない。リトから撥ね返された力はそのままスッとカイに吸い込まれ、またカイからリトへと発出される。リトのその力は、キュロスに対してはまったく発揮されていなかった。カイに対してだけなのだろうか。


 ただ、自分の気持ちの意味はまだわからない。

 カイの身体がクラッと(かし)いだ。リトとの対戦のさい、カイは禁術を使った。対戦しながら、リトの身体に〈気〉を送り続けたのだ。そうしなければ、リトの心身にダメージがでる恐れがあった。

 〈銀麗月〉と対戦する者はみな、銀麗月の〈気〉に己の〈気〉が吸収される。このため、ほんの一瞬で決着が付く。相手に深刻なダメージを与えることも防げる。


 だが、リトとの対戦で、カイはリトの力を見極めようと考えた。そのためにあえてリトに自分の〈気〉を分け、リトにダメージを与えることなく、リトの力を最大限引き出そうとしたのだ。しかし、自分の〈気〉を相手に分け与えながら、最高レベルの闘いをするなど、心身への負担が大きすぎる。これゆえ禁術とされてきた。この禁術――分気術――は、対戦相手を生かすための術だ。相手が特別な意味をもつ場合に例外的に使われる。

 それをカイは使った。


 リトはカイの〈気〉を難なく受け入れ、その〈気〉を倍にしてカイに戻してきた。そんなことが何度も繰り返され、二人の間で〈気〉が何倍にも膨れ上がった。カイですら苦痛になったが、リトは平然としていた。キュロスが止めなければ、カイは自分からやめていただろう。

 リトには自分の力の限界がわかっていなかった。カイとの対戦がうれしくて、ひたすら戦うばかりだ。そのまま続けると、必ずリトが倒れる。だが、〈銀麗月〉の立場上、対戦をやめるには、リトの〈気〉を削がねばならなかった。そうすれば、リトは相当のダメージを被ったに違いない。命に影響が出ぬよう調整するとしても、リトの心身は深いところで傷つき、回復に相当の時間がかかるだろう。

 キュロスが止めさせたのは、二人の動きを見て、ほんのわずか、陰りが出たことに気づいたからだ。百戦錬磨の傭兵隊長らしい俊敏な判断だった。


 カイは考えていた。

 リトの力は、いったい何を意味するのだろう。これまで読んだどの禁書にもリトのような力のことは書かれていなかった。カイはほうっと息を漏らした。さすがに疲れた。自分が回復するには三日はかかる。カイは瞑想状態に入った。脳も筋肉も極度に緊張している。心身の異常な昂ぶりを抑え、もとの穏やかな状態に戻らねばならない。


 リトは、カイから渡された飲み物を口にしていた。カイは怒っているわけでも、困っているわけでもなかった。それがうれしい。たしかに対戦は疲れた。体力の極限まで行ったような気がする。キュロスが止めてくれなかったら、オレは気を失っていたろう。……それでもよかったけれど。

 

 対戦の間中、カイから何かのパワーを受け取り続けた気がする。それがうれしくて、オレはそのパワーに答え続けた。それとともに、カイとの一体感が強まる思いだった。

 リトは満ち足りた思いでソファに横になった。そしてそのまま深い眠りに落ちた。


 遠くから声が聞こえる。肩を揺さぶられる。リトがうっすら目を開けると、カイがいた。

(リト、目覚めたか?)

 リトは頷いた。カイはホッとした様子で、リトの手を強く握った。

(すまない。薬が効きすぎたようだ)

(薬?)

(わたしがカムイに持たせた飲み物だ)

(ああ、あれ。すごくおいしかったよ。気持ちよくなって、そのまま寝ちゃったみたいだ)

(そのようだな。どうだ、どこか痛いところとか、苦しいところはないか?)

 リトはきょとんとして、首をかしげた。

(ううん。どこも痛くない。とっても爽快!)

(そうか、よかった)


 リトは周りを見回した。自分の部屋ではない。上品で静謐な空間だ。

(わたしの部屋だ。ゆっくり休むがいい)

 リトの心臓が大きくドクンと跳ねた。

――カイの部屋? はじめて入った。

 カイはリトの手を握ったままだ。

(いま、きみにわたしの〈気〉を送っている)

(うん。……ありがとう)

(すまない。対戦では無理をさせた……)

(ううん。カイと試合できるなんて、オレ、すごくうれしかったんだ。ちょっと張り切り過ぎちゃったかも)

(いい試合だった)

(うん)

(さあ、休んで。わたしはここにいるから)

(うん……)


 そのまま、リトはスウーッと眠りに落ちた。カイは、リトの寝顔をずっと見つめていた。リトはカイの手を離さない。その手を通して、リトの秘めた思いがカイに伝わってくる。

――好きだ。キミのことがすごく好き。


 カイはリトの手をギュッと握った。自分の気持ちにカイも気づいた。

――わたしもキミが好きだ。


 だが、カイはすぐにこの気持ちを自ら封印した。かつて、雲龍の山でそうしたように。


■サキの興奮

――いやはや、すごかった。リトがここまでできるとは。

 サキは興奮していた。ばあちゃんがまた小屋に結界を張った。そうか、この小屋はこうするのに便利なのか。ばあちゃんが離れないはずだ。


「どうじゃ、おまえの見立ては?」

「武術はカイのほうが数段上。でも、リトはカイの一瞬の動きを読む。目と耳を使うのかな。だから先手を取れる。カイはリトの動きを読めない。リトが完全に気配を消しているから。だけど、武術が優れているから、リトに先手をとられても負けることはない。結局、互角になる」

「そのとおりじゃ。他には?」

「え? 他にもある?」

「あるぞ。もっと重要なことがある」


 サキは、頭の中で、二人の闘いを一から再現してみた。でも、わからない。ばあちゃんが言った。

「二人とも、組み合うたびに、さらに進化しておった」

「まさか、あんな短時間で?」

「そうじゃ。二人とも一度使った技はそのままでは使っておらん。見切られるからの。繰り出す技はどんどん高度になり、いったん使った技については相手にあわせて改良しておった」

 サキはうーむと唸った。言われてみれば、その通りだ。


「さらに、二人の動きはどんどん速くなった」

「そうだったよね。でも、それにどんな意味があるの? 最初は間合いをとるためにゆっくり始めて、だんだん速くなるのは当然なんじゃない?」

「普通はの。じゃが、あの二人は違うぞ。もう一度、考えてみい」


 サキはもう一度闘いを思い出した。

「あ!」

「わかったか?」

「ひょっとして、……二人とも軽功を使っていたってこと? それも超高難度の……」

「その通りじゃ。じゃから、走る速度も、飛ぶ高さも、どんどん速く、どんどん高くなった。まるで舞のようじゃった。キュロスが止めなかったら、二人とも〈気〉を使い尽くしておったぞ」

「……どうなるの?」

「天月修士といえども、まる一昼夜は寝込むだろうの。完全な回復には数日間かかろう」

「……リトは?」

「回復にはカイの数倍はかかろうの。あるいは、目覚めないかもしれん。……修行が足らんからの。自分の〈気〉の力に心身が追いついておらん」


 サキは衝撃を受けた。カイと一緒にいたら、リトは気づかないまま、自分の力を出してしまい、自らの命を危険にさらしてしまうというのか?

 ばあちゃんは続けた。

「それにしてもわからんのう。あの未熟なリトが、本来カイと互角のはずはない。〈銀麗月〉ともなれば、一瞬で相手の〈気〉を奪うことができるはず。そもそもあれほど長い対戦をするはずがないんじゃ」

「え? どういうこと?」


 ばあちゃんはブツブツとつぶやいていた。

「闘いながらカイがリトに自分の〈気〉を分けていたのか? まさか、そんなことができるものなのかのう?」

「〈気〉を分けるって、すごいことなの?」

「むろんじゃ。〈気〉は生命の根源の力。だれかに〈気〉を分けるなどしたら、その者は下手すると自分の命を失うぞ。わしら九孤の者も強い〈気〉をもつが、だれかに〈気〉を分け与える力はない。ただ、天月修士や一部の異能の者は〈気〉を分け与えることができるという。じゃがそのとき、本人にも相応のダメージがあるはずじゃ……」


 ばあちゃんが思案顔になった。たまらずサキが尋ねた。 

「カイからリトを引き離すべき?」

 ばあちゃんは考え込みながら、眉を寄せていた。

「わからんのじゃ。カイといて〈気〉を鍛錬したほうがええのか、それとも、カイから離れて〈気〉を封印したほうがええのか……」

「でも、リトはカイから離れないよ。ぜったい」

「そうじゃろうの」


■リトの血

 ばあちゃんが続けた。

「リトには九孤以外の異能の血が流れこんでおるようでの」

「え?」

「リトの父親の要は孤児じゃった。要には異能はなかったが、おそらくその親、つまりリトの祖父母のどちらかは〈月読族〉の血を引いていたのではないかのう」

「〈月読族〉って、天月仙門やヨミ族のルーツと言われる幻の一族? でも、もう存在しないんじゃなかったっけ?」

「そう言われておる。いくつかの一門に分かれたあと、天月もヨミ族も〈月読族〉とは似て非なるものになってしもうたからのう。じゃが、〈月読族〉の性質を残すごくわずかの者がおっての、それを〈弦月〉と呼ぶ」

「〈弦月〉? 聞いたことないな……」

「うむ。大昔にある事件をきっかけに離散してしもうたからの。一門を束ねる者ももはやおらん。じゃが、どうも、リトの力は〈弦月〉に近いようじゃ」


「〈弦月〉の力って、どんなの?」

 サキの問いに、ばあちゃんは茶を飲んで一息入れた。

「ルナ神族に由来する一族のうち、〈月の一族〉には〈香華族〉と〈月読族〉がある。これは知っておるな?」

「うん。神話の定番だもん」

「〈香華族〉は「死と再生の力」をもつ。最高の異能と言ってよい。〈月読族〉には「時空を読む力」がある。これも非常に強い異能じゃ。それを受け継ぐのが〈弦月〉じゃ」

「「時空を読む」って、どういうこと?」

「時空を超える力をもつのじゃ。「時空」を歪めることもできるし、「歪められた時空」を自在に行き来することもできる」


「例えば、あの〈閉ざされた園〉のような? でも、リトは何もできなかったよ」

「そうじゃ。まだリトにはそこまでの力はない。じゃが、リトの目と耳はすでに時空を超える力を持つ」

「え? あれは、目が良く見えて、耳が良く聞こえるというレベルじゃないってこと?」

「少し前まではそのレベルじゃった。じゃが、これほど離れたところにいる者の話を聞き分けるとなると空間を超えているとしか言いようがない。それに、あのカイと互角に戦えたのは、おそらくリトが一瞬先を見通せておるからじゃ」

「つまり、一瞬だけど、時間を超えていると……?」

「そうじゃ」

 サキは絶句した。それは、人間の力ではない。


「ただ、リトは何も知らん。〈弦月〉のことなど聞いたこともなかろうて。〈弦月〉の話はタブー視されておっての。歴史書にも神話にもいっさい登場せん。これは、九孤宗主をはじめ、ごく一部の宗主止まりの秘密じゃ。おまえもリトには言うな。だが、知っておけ。これからもおまえにはいろいろと秘密を教えるでの」

「重い秘密はまっぴらだよ。わたし、九孤の跡継ぎになる気なんかないからね!」

「それもええ。おまえが継がねば絶えるだけじゃ。古いものは滅びてもかまわん」

「ナミ姉やミオ姉もいるじゃん」

「あいつらには異能はない。異能のない者に宗主はつとまらん」

 サキの頬がプッとふくらんだ。幼いころからの癖だ。不満なときにこの顔を見せる。


「そんな顔をするな。おまえに秘密を教えるのはおまえを跡継ぎにするためではない。おまえ以外に伝える相手がおらんからじゃ」

「その秘密とやらも一緒に九孤が絶えた方がいいんじゃない?」

「そういうわけにはいかんのじゃ。リトの命に関わるでの。リトの異能が目覚めたとすれば、よけいにその恐れが強くなった」

「い……いのちって!」

 衝撃のあまり、サキの目が大きく見開かれた。

「どういうこと!?」

 顔から血の気が引いている。

 

「シンを〈閉ざされた園〉で見かけたと言うたであろう?」

「うん」

「シンにも似たような力があった。リトに比べたらはるかに弱い力じゃったがの」

「シンおじさんは、自分の意思で〈閉ざされた園〉にいると言ってたんじゃなかったっけ?」

 ばあちゃんは頷いた。

「シンの中に流れる血がそうさせたのじゃろう。あれは、わしの実の子ではない。わしの甥じゃ。わしの妹が異国で産み落とした子でのう。父親はカトマールの者じゃった」

 サキは驚いた。


「じゃあ、リトもいつかシンおじさんのようになるかもしれないと?」

「それで済めばまだましじゃろうのう。異世界で生きるのじゃから」

「……まさか、リトの場合は死んじゃうとでも?」

「その恐れがあるとわしは思うておる。〈月読族〉の強大な力をひく〈弦月〉が離散したのは、その強大な力が(あだ)になったからじゃ。不老不死の神々とは違うて、ひとでもあるわれわれの身体は(もろ)い。「死と再生の力」も「時を読む力」もあまりに強い異能じゃから、その異能を発揮することはひととしての身体に過剰な負担をかける。わしらの声を読み、カイの動きを先読みするくらいならたいしたことはなかろう。じゃが、もっと大きな時空を相手にしたら、リトの心身はもたんかもしれん」


 サキはハッとした。

「だから、ばあちゃんはここに来たの? リトが危ないかもしれないと思ってたわけ? ばあちゃんが〈閉ざされた園〉に行ったのもそのため?」

 怒濤(どとう)のようなサキの問いに、ばあちゃんはコックリと頷いた。

「孫はかわいいでの……」

「そんな……!」

 サキは青ざめた。

「じゃ、わたしがリトの異能を引き出すきっかけを作ってしまったってこと? ……まさか、そんな……わたしのせいでリトが死んじゃうの!?」

 気丈なサキが震えた。泣きそうになっている。


 ばあちゃんはサキの背をなでなから、こう言った。 

「おまえのせいではないぞ。リトの異能の封印はいつかは解けるはずであった。きっかけは関係がない。リトが自分の力で封印を解いたんじゃ。ただ、リト自身はそれにまだ気づいておらんようじゃ。それが救いでもあり、やっかいでもある。じゃから、おまえの助けがいる。わかるな?」

 サキは涙目で頷いた。

「そのためにはおまえはいろいろなことを知っておく必要がある。おまえの力ももっと鍛えねばならんぞ」

 サキは力強く言い切った。

「やる! どんなことにも耐えてみせる!」

 弟を救うためなら、なんだってできる。


 翌日から、キュロスの訓練にオロとサキも参加するようになった。オロとシュウは互いに妙に対抗意識を燃やしている。オロはリトを取られないように、シュウは風子を取られないように。――二人の思惑はまったくすれ違っていたが、互いににらみ合うばかりで会話が成り立たない。誤解を解く術もない。ただ、キュロスは、シュウが少年らしい嫉妬心や対抗心をもつことにむしろ安堵していた。


 ばあちゃんは、サキにこう指示した。

――キュロスから学ぶことは多いはずじゃ。じゃが、それだけではないぞ。リトの力も見極めよ。リトの弱点をおまえが補うためにな。

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