表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/103

ⅩⅤー6 エピローグ――闇夜の書斎

 月が出ていない。

 リョウと小鬼たちは、恨めしげに闇夜を仰いだ。月が出ていなければ、リョウはトラネコの姿になれず、小鬼たちもネズミに変身できない。リョウも小鬼たちも幽体離脱状態で半透明のまま、ベッドの上に座り込んでいた。リョウの実体は目をつぶって寝ている。小鬼たちの実体は絵に留まったままだ。


 これまで幽体状態で何かしたことはなかった。だが、最近、ネコやネズミの姿でさんざん出歩き、自信がついたせいもあろう。リョウたちは、幽体のままで深夜の館を散歩することにした。

 これまでシュウがつけた赤丸印のところにはぜんぶ行ってみた。でも、どこにも風子はいなかった。

 

 最近、シュウは帰りが遅く、朝も早々と出かける。リョウのところに顔を出してくれるが、ほんの一時だけで、妙に明るく、晴れ晴れとしている。その理由を明かしてはくれないが、どうやら「ブジュツタンレン」を始めたとやらで、日増しに身体が丈夫になっているような気がすると言っていた。

 ブジュツタンレンって何だろう? シュウは、リョウが知らないことをどんどん経験していく。

 幽体は便利だといまさらながら気がついた。扉を開けずともスッと身体が通り抜ける。廊下でばったり、知らないだれかに出くわしたが、向こうはリョウたちにまったく気づかなかった。見えないようだ。リョウたちはシュウの部屋に向かった。


 扉を通り抜けると、シュウはデスクに向かってホンを開き、なにやら熱心に調べ物をしていた。ソッと覗くと、見たこともないようなものが並んでいた。シュウがいつも持ってきてくれるエホンとはちがって、色付きの絵などない。それを見ながら、シュウは右手になにか小さなボウのようなものを持って、せっせとカミの上にそのボウの先を当てている。すると、不思議なことに、真っ白のカミの上に、くねくねとしたなにかが姿を現していく。


(あれはなに?)

(書き物でさあ。何か調べて、文字を書いてるようですな)

 シュウがしているのは「モジヲカク」という行為らしい。見てみると、あちこちにシュウの「モジ」があった。

(あの薄いカミの「モジ」は何?)

(は? ああ、あれは古代ウルの文字ですな)

(古代ウルのモジ?)

(坊ちゃんのズーッと昔のご先祖さまが使っていた文字ですよ)

(じゃあ、分厚いのは?)

 小鬼が分厚い本に近寄った。小さな文字がびっしり並んでいる。

(あれはきっとジショというもんですぞ)

(ジショ……?)

(わからない言葉や文字をしらべるためのホンでさあ)

(ふうん)


 大男が飲み物を持って入ってきた。

「シュウさま。もうお休みなされませ。明日に響きますよ」

「あー、キュロスか。もうこんな時間だ!」

「熱心に調べるのはいいですが、お体にさわるといけません。ほら、このあたたかい白湯(さゆ)を飲んで、ゆっくりお眠りなさい」

「うん、わかってる。でも、この資料は風子が苦労してるんだ。少しでも助けになりたい」

 キュロスはやさしげに微笑んだ。

「シュウさまは、風子さんのことになるともう夢中ですな」

「そ……そんなこと」と、シュウがあわてた。

「いいですよ。わたしに隠さなくても。もうバレバレですからね」

 シュウは顔を赤らめた。

「うん。……あの子といるとホントに楽しい」

 キュロスはまた微笑んだ。

「さあさあ、早く休んでください。明日も朝早くから櫻館にでかけますよ」

 大男が去り、シュウはあくびをして白湯を飲み、そのまま、部屋続きの寝室に出向いていった。

 電気が消され、静まりかえった部屋でリョウたちはツクエの上のものを見た。


 どうやら、シュウは毎日「サクラカン」に行っており、そこで風子に会っているらしい。でも、「サクラカン」ってどこなんだろう。

 シュウが言っていた。このカミは、風子がいま読んでいるもので、なんだか知らないけど、クローとやらをしているらしい。


(クローってなあに?)

(そうですなあ。……わしらがなかなか風子たちを探し出せないことですかな)


 リョウはツクエの上にひょいと飛び乗った。実体がないと、軽々と動ける。でも、家の外に出ることは、虎フンドシから禁じられている。実体から離れすぎると、「シヌ」らしい。でも「シヌ」って何なのだろう。わからないけど、虎フンドシが言うんだから、やめておいたほうがいい。

 リョウはツクエの上に広げられたカミと分厚いホンを見た。幽体には不便な点も多い。実体をもつモノをすり抜けるだけで、動かすことはできない。でも、トラネコの姿なら、あのホンをぜんぶ開いて見ることができる。リョウは次の月が出るのを待ち焦がれた。

――「サクラカン」をさがして、「ジショ」を見る!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ