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ⅩⅤー1 風子はいずこ?

■つまんない夜

――つまんない。

 こんなに夜がつまんないとは思わなかった。リョウと小鬼たちは、月光のなかでため息をついてた。古城から戻ってきてからというもの、つまんない。


 この白い部屋から数度は外に出た。屋根伝いに歩き、舎村の外にも出てみた。だが、目に映るのは街のきらめく明かりばかり。この広い街のどこに風子たちがいるのか見当がつかない。うろうろと路地を歩いてみたが、他のネコの縄張りなのだろう。ひどく威嚇された。ネズミ姿の小鬼たちはエサにと追い回されて、びびり上がってしまった。 

――どこに行けばいいんだろう……。


 いつものようにシュウが訪ねてきた。シュウも浮かぬ顔だ。ため息ばかりついている。

「ねえ、兄さん。お城で会った女の子たちを覚えてる?」

(もちろん! その子たちに会いたくてたまらない)

「ボクさあ、その子たちに会いたいんだけど、今は学校も夏休みでね。その子たちはみんな、いまは寮にいないんだ」

(リョーって何?)

「はああ。早く学校がはじまらないかなあ。退屈でたまらないよ」

 シュウはリョウのベッドに顔を伏せた。ため息ばかりだ。横の大男も同じようにため息をついている。

 

――夜。

 リョウと小鬼たちは額を付き合わせていた。ガッコーのリョーだとか。そこにはいないらしいけど、ナツヤスミとやらが終わったら、風子たちが戻ってくるらしい。以前に、シュウは、ガッコーはレンゲという名だと言っていた。イケのそばだとか。イケというのは、大きなミズタマリらしい。いったいどこにあるんだろう?

 はじめてヘヤを出たとき、わけがわからず、キがいっぱい生えているところを走った。きっとあれは話に聞いたモリなんだろう。走り抜けると、ミズがいっぱい流れているところに着いて、どうしたらいいかわからず、戻ってきた。あれがカワというものだったのかもしれない。でも、イケっていうのはなかった。

 シュウのヘヤにはいろいろなホンがある。もう、シュウは寝入っているはず。トラネコ・リョウと小鬼たちは、こっそりシュウのヘヤに出向いた。いっぱいホンが並んでいるヘヤには、大きなツクエがあった。上にはなにやら広げられている。よじのぼると、大きなカミいっぱいになにやらちまちまとしたエが描かれてあって、いくつかに目立つシルシがつけられていた。


 虎フンドシが言った。

(これ、チズですぜ)

 小鬼たちとリョウの会話は誰にも聞こえない。

(チズ? チズってなあに?)

 虎フンドシは、小さな自分の身体をシルシの上に置いた。

(ここがオレたちのいるバショ。シャソンでさあ)

(シャソン?)

(あ、そうか。坊ちゃんはシャソンがなにかご存知なかったんでしたよね。つまり、坊ちゃんとシュウ坊ちゃんのおうちがあるところですよ)

(そうなの?)

(それで、こっちには赤丸がつけられているでしょ?)

(うん)

(これが、レンゲイケですぜ)

(じゃ、ガッコーがあるところ?)

(きっと、そうです)

(じゃあ、こっちは? グルグルといっぱいマルがついているところ)

(さああ? 櫻通り一丁目と書いていますがね。シュウ坊ちゃんのマンションがあるところでしょうかねえ?)

(ほかにもいっぱい赤丸がついているね。わかんないや。明日からひとつひとつ訪ねてみよう。まずはレンゲからだ)

(え? 赤丸は十コほどありますよ。もしこのチズをシュウ坊ちゃんがしまってしまったらもう見れませんぜ。どうすんですかい?)

(いいよ。もう覚えたから)

(お……覚えたって。……このチズを?)

(うん。この赤丸がボクたちのいるところなら、モリがこっちで、以前にいきついた大きなミズの流れがきっとここだ。それをモトにすれば、どう行けばいいかわかる。カンタンだよ)

 虎フンドシはのけぞった。いや、ふつうはカンタンじゃないぞ。オレたち三人は、モリを出て、道に迷って、数百年もエに閉じ込められた。ホントにダイジョーブか?


■レンゲへ

 ダイジョーブだった!

 

 トラネコ・リョウは、二匹のネズミを背に乗せ、軽やかに走った。小一時間ほど走って、正確に大きなミズタマリについた。これがレンゲイケのはず。だが、ガッコーはどこだ? リョウも小鬼たちもガッコーなんか見たことがない。イケの周り半分にはいくつかのタテモノがあった。のこり半分はモリだ。

(さあ、いくよ。あのタテモノのどれかだろう)


 イケの周りに沿って走ると、ヘイのようなものがあった。近くの木を伝ってよじのぼると、おシロのニワのような光景がひろがる。ストンとトラネコ・リョウが着地した。

 明るい月光が照らしているタテモノはどれも大きいけれど静まりかえっていて、ほかのタテモノのような明るいヒカリはまったく見えない。

 トラネコ・リョウとネズミたちは、うろうろと歩き回った。だれからもとがめられず、追いかけられず、かなり気楽だ。奥まったところのタテモノは、ほかと少し違っていた。あちこちイロがはげているし、全体にくすんでいる。これが「オンボロ」ということなのか? グルグルとそのタテモノの周りを歩いてみたが、やはりだれもいないようだ。

 やばい。明け方までに戻らないと。


■怖かった……

 今夜もリョウたちは、赤丸の場所を目指して出かけた。「レンゲ」の次に行ったのは、何重にも赤丸がついていた場所だ。大きなタテモノだった。きれいなニワに忍び込んだが、タテモノの中には入れない。どの窓も閉まっているようだし、キに登ってもタテモノに飛び移れる距離じゃない。子ネコのトラネコにはハードルが高い。

 ニワをウロウロしていると、白いかわいい子ネコに出会った。ニャーとすり寄ってくる。教えてもらおうといろいろ話しかけたつもりが、まったく通じなかった。相手はニャーとしか言わない。突然、暗闇から黒ネコが突進してきた。まともに頭突きをくらって、トラ・リョウはひっくり返った。二匹のネズミがリョウの背から放り出される。黒ネコはネズミたちに襲いかかった。


「にゃおおう! にゃわおおお!」(うわああああ! やめろおおお!)

 トラネコ・リョウが大声を上げた。出てくるのはネコ語だけ。なのに、本物のネコには通じないらしい。黒ネコがトラネコ・リョウをみて、動きを止めた。ネズミたちは恐怖のあまり、失神して転がっている。黒ネコは白い子ネコに近寄り、その顔を舐めた。そして、トラネコ・リョウを低い声で威嚇して、白ネコを連れて去っていった。


(あーっ、怖かったあ!)

 トラネコ・リョウは地面にへたり込んだ。ネズミたちはピクリともしない。リョウが舐めると、やっと息を吹き返した。ネズミたちは一刻も早くここを出ようと涙目で訴える。トラネコ・リョウも異存はない。三匹はサッと身を翻し、闇に消えた。


 彼らが背にしたタテモノのマドが開いた。

 風子が顔を出す。風子はあたりを見回して、再びマドを閉めた。

「どうしたんだ?」とアイリが聞くと、風子は答えた。

「トラネコくんの声が聞こえたような気がしたんだけど、いなかった」

 櫻館の夜は更けていく。

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