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ⅩⅢー7 エピローグ――古楽器

 彪吾はレオンとカイとマロを連れて、マリを訪問した。古楽器を見るためだ。

 

 マリは、ツネさん夫婦とは昵懇(じっこん)で、レオンとはアカデメイア理事会で顔見知りだった。しかし、彪吾と話すのは初めてだ。まして、カイやマロとはまるっきり初対面だった。レオンの端麗さはよく知っていたが、カイも彪吾も非常に美しい。マロも渋いいい男だ。人でも物でもきれいなものが大好きなマリはうれしくなって、いそいそと彼らを出迎えた。

 

 集められた古楽器に、彪吾が思わず感嘆の声をあげた。祖母の遺産を引き継ぎ、自分でも古楽器を集めてきた彪吾は、諸民族の楽器にも詳しく、鑑識の目もある。どれもが博物館級のものだった。光・湿度・温度のすべてが適正に管理されており、どの楽器も生き生きとしていた。


「アイリさんが音を出したという楽器はどれですか?」

 レオンが尋ねると、マリは、展示物の中から一つの琵琶を取り出した。

「これです」

 レオンは驚いた。舎村長の城にある琵琶とうり二つだ。マロが丁寧に受け取り、子細に調べる。

「特殊な栗材で、特殊な漆です。いまはどちらも手に入りません」

「どういうこと?」と彪吾が聞く。

「古代ウル帝国の時代までしか、この楽器と同じ材質のものは作られていないはずです。帝国末期の動乱と天災で、この漆や木を産出するただ一つの島が沈んでしまったからです」

 みんなが顔を見合わせた。


 レオンはマリに古楽器の管理について状況を聞いた。やはり管理に金と手間がかかり、マリには対応できないとのこと。ただ、亡き夫の形見だから大切にしてきたということだった。

 古楽器のほかにも、貴重な古書が多数収集されていた。古書の鑑識眼があるレオンは思わず唸った。


 レオンはこう提案した。


「ルナ大祭典にあわせて、アカデメイア音楽学部に音楽博物館を作る計画があります。資金はすべてラウ財団が出し、運営資金込みでアカデメイアに寄贈する予定です。そこに、九鬼教授が集めている古楽器を「九鬼コレクション」として収めることを考えています。いかがでしょう? こちらのコレクションも「キムコレクション」として引き取らせていただけませんか? そして、古書のほうもラウ財団が買い取り、アカデメイア図書館に貴重図書「キムコレクション」として寄贈させていただきたいと考えています。もちろん、十分な謝礼をご用意いたします」


 その晩、マリは楽器を眺めながら考えた。

 夫の名が残り、そのコレクションが夫の名で、音楽や書物を愛好する人びとに披露されるのであれば、それ以上のことはない。自分が亡くなったあとのことを考えてどうしようかと思案にくれていたからだ。しかも、事実上の買い取りで、レオンは五十億ルピ(≒円)の代金を提示してきた。その金額であれば、念願であった岬の上病院の改修に着手できる。

 音楽博物館では、マロが特別専門員として、補修や管理を担当するという。古楽器の価値がわかるあの中年男が関わるのであれば、夫のコレクションが粗雑に扱われることはあるまい。


 マリは条件を受け入れることに決めた。そして、マリの夫の古楽器コレクションは櫻館の空き室に移され、音楽博物館の開館まで保管されることになった。

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