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ⅩⅢー2 舎村の古城

■シュウの頼み

 風子からの連絡を受けて、シュウは喜びのあまり飛び上がった。来週から、祖母と兄とともに古城に滞在する。毎夏恒例の避暑と祖先祭祀を兼ねている。あの丘も城も特別な意味を持つので、部外者を招くことはほとんどない。だが、おばあさまにお願いしてみよう。


 エファはシュウの頼みをじっと聞いていた。シュウと同級の仲良しの女子生徒たちを城に招きたいという。その中の一人はルナ・ミュージカルの主役で、その子たちとは毎昼ランチタイムを楽しく過ごしており、学校の古代文化同好会の仲間とのこと。シュウはめずらしく必死の形相だ。何とか彼女たちを呼びたいのだろう。


 〈蓮華〉の同級生についてもランチタイムメンバーについても、すでにエファには秘書ザロモンから報告が上がっている。音楽学部の特別試験に合格した天才少女、アカデメイア特待生でありながら〈蓮華〉に送られた少女、シュウの主治医にと見込んだ脳外科医の娘、そしてアカデメイアの天才科学者だ。

 ほかの三人はともかく、公式の場に出ることを拒否し続けている天才科学者のことは、以前から気になっていた。ラウ伯爵は彼女を囲い込むように保護しており、他の者に会わせようとしない。この機会を外せば、彼女と接する機会など永遠に訪れないだろう。しょせん子どもだ。キュロスが送り迎えを担当するという。子イヌと老ネコも一緒だそうだが、危険はなかろう。エファは招待を許可した。シュウは大喜びでエファに感謝を捧げた。

 エファは、ザロモンの報告を思い出していた。ルナ大祭典の準備を兼ねて、櫻館に最近多くの者が集まっているという。

 櫻館は、「レオ」を名乗る音楽家九鬼彪吾(くきひょうご)の私邸だ。彼は、今度のルナ大祭典の音楽監督で、ルナ・ミュージカルをプロデユースし、作詞作曲も手がけるという。ラウ伯爵肝いりでアカデメイアに招かれ、筆頭秘書のレオンが担当している。彪吾は人嫌いで有名だが、差し出がましくないレオンのことはお気に入りらしく、ラウ伯爵の許可を得て、レオンも最近は櫻館に滞在しているらしい。そのほかに、櫻館には、古くから九鬼家に仕える中年夫婦に加えて、最近、古楽器を補修する中年男とその息子が住み込むようになったという。ルナ・ミュージカルで古楽器を使う予定だからとか。

 櫻館の隣には菜園とその管理小屋がある。朱鷺(とき)博士の忘れ形見であるリトという青年はその管理小屋に祖母と一緒に住んでいたが、祖母が帰国したとやらで一人暮らしとなり、アルバイトを兼ねて櫻館に住むようになった。リトは苦学生だが、有能らしく、重宝がられているという。アカデメイア博物館で特別研究員としてルナ石板を研究している天月修士とその従者も櫻館にやってきた。


 ここまでは不審な点はない。だが、なぜ、あの少女たちが櫻館にいるのか?

 ザロモンによると、あの子たちは、〈蓮華〉の古代文化同好会のメンバーだ。ミュージカルでそれぞれ何か重要な役目を負っているらしい。稽古にもよく参加しているし、櫻館にも時々来ている。ルルは、親戚である〈ムーサ〉のオーナーの家に住み、リクは父親と町外れに住んでいるが、風子とアイリはあの〈蓮華〉のオンボロ寮に住んでいる。寮は廃止が決まっているので、食事もない。料理ができない二人が栄養失調になりそうだったのをキュロスの弁当が救っていたが、夏休みに入り、シュウとキュロスも城に行くことになって、再び食事の危機にさらされた二人が夏休みの間だけ櫻館に引き取られ、世話を受けるようになったのだとか。

 

――ふーむ。

 そこまであの子どもたちに彪吾が肩入れする理由はよくわからないが、ルルの歌は絶品だとか。ザロモンも〈ムーサ〉で一度聞いたことがあるらしいが、鳥肌が立ったという。ルルをその仲間込みで大事にしているわけか。ならば、城でルルに一度歌わせてみよう。


■舎村古領へ

 舎村古領にあるというシュウの家には一週間滞在することになった。やっぱり旅は楽しい。

 風子はうれしそうに荷物を詰めていた。隣を見ると、アイリがせっせとモモの旅支度をしている。仲間も一緒で、修学旅行みたいだ。

――あれ? そんな記憶あったっけ?


 キュロスがシュウとともに例の車で櫻館まで四人と二匹を迎えに来た。櫻館の窓からカムイが悔しそうにシュウを睨んでいる。愛しのルルを連れて行くなんて! でも、カラスとして子どもたちを見守るようカイから指令を受けている。なにかあったら、徹底的に邪魔してやるぞ!

 みんなを見送ろうと玄関に出ていたリトはホッとしていた。やれやれ、少しは櫻館が静かになる。そのリトの目に、向こうから来る赤い服が目に入った。


――うわお、ミオ姉とカコじゃないか!

 キュロスが顔を真っ赤にして横を向き、必死でシュウの目からミオ姉が見えないように、大きな身体でシュウの視線を遮っている。さすがリトマス紙だ。こんなに赤くなるヤツもいるんだ。だが、キュロスはセーフだな。こんなに恥ずかしがっているぞ。中年男のくせに、免疫がないのだろうか。


 だが、今日からオロはいない。ルルとして城に行く。どうする? きっと、カコがワンワンと泣き叫ぶ。ミミはどこだ? リトが大急ぎでミミを探しに走ろうとした瞬間、カコがいきなり走ってきた。

――なぜだ? ここにオロはいないぞ。


 カコは、キュロスの後ろに回り込み、シュウの足に抱きついた。

「おにいちゃん、ものすごくきれい!」

 なんだ、なんだ。コイツは五歳なのに、極めつきの面食いだ。

「オロおにいちゃんとおなじくらいきれいだね」と、カコはシュウを見上げた。ルルは、ササッと目立たないようにアイリの陰に隠れた。


――オロって誰? 

 シュウが困ったようにカコを見て、キュロスが目を白黒させている。

「いやあ、ごめんね。この子はオレの姪なんだ。さあ、急ぐだろ? 早く車に乗って」

 リトは作り笑いをしながら、促した。ミオ姉からシュウを引き離さなくちゃ。だが、遅かった。ミオ姉まで走ってきた。

「まあ、まあ。リトの姉です。よろしくね」と言いながら、シュウにだけにっこりと笑いかけている。

「ミオ姉、この人たちはもう出かけるんだ。急いでるから、邪魔しないでよ。ほら、みんな、早く車に乗った、乗った!」


 風子を先頭に、ゾロゾロと車に乗り込んだ。シュウはカコが離さないため、動けずにいる。だが、ルルを見かけたカコは、今度はルルに走り寄った。

「ルルおねえちゃん!」

 また、足にしがみつく。その間に、リトはシュウとキュロスを車に押し込んだ。


――ルル、いやオロよ、おまえ、ちっとは責任をとれよな。

 リトはルルにしがみつくカコをしばらく放置した。ルルはカコを邪険にできず、かといって、構うこともできず、途方に暮れている。ルル(オロ)の困った姿など、めったに拝めない。リトは腹の中で大笑いした。

――ざまあみろ!

 だが、いつまでも放置はできない。リトはミミをカコに差し出した。カコの顔が輝き、ルルから手を離した。

「ミミちゃあん!」

 ミミを抱っこしたカコは、ルルもシュウも忘れたようだ。小さい手で一生懸命、ミミの白い毛を撫でている。リトは運転手のキュロスに手で出発を促した。車が発進して遠ざかっていく。その上を一羽のカラスが飛んでついていった。

 ミオ姉がうっとりした目で車を見送っている。ミオ姉のWEBマンガにもう一人下級生の美少年キャラが登場するのは間違いない。事実、それからしばらくして、美少年の王子様キャラが登場した。弟キャラをめぐって、美少年下級生二人が争うという三角関係が始まったのだ。きっとこれは爆発的ヒットになるぞ。


 しばらくして、ルミは上司レオンに興奮しながらWEBマンガの最新情報を報告した。

「美少年三人の三角関係BLがものすごく話題になっているんですっ!」

 下級生の天才庶民と天才王子が、麗しき弟キャラをめぐって知恵合戦だ。二人が反発し合いながらも協力して弟キャラを守るときもある。レオンは表情を変えず、ホッと胸をなで下ろした。自分と彪吾とおぼしき二人の関係はそっとしておいてほしい。二人の前に立ちはだかる障害など特にないし、考えたくもない。

 リトは複雑だった。レオンと彪吾をモデルにしたBLは、自分には無関係だった。だが、新しい三角関係は、リアルにありえる展開だ。カイをめぐってオロとシュウが張り合い、リトはつまはじき。

 リトはWEBマンガから目が離せなくなった。ミオ姉の妄想は、リトの不安を煽るようにますますヒートアップしていく。


 車の中は楽しかった。いつものように風子がお菓子を広げた。アイリとルルはそれをドカ食いし、リクも少しつまむ。モモとキキはアイリとルルの膝の上で丸くなっている。

 シュウが風子に尋ねた。

「あの子が言っていたオロって、あの〈王の森〉のときの子?」

 風子は思わず返答に窮した。まさか、オロがルルとは明かせない。

「うん。リ、リトの友だちだよ。い、いまは、お父さんと一緒に櫻館にいる」

「そうなの。……いつも一緒なの?」

「ま、まあね。……夏休みの間だけだけど」

 シュウは、風子の反応を確かめるようにじっと風子を見た。ウソをつくのに慣れていない風子は、それだけで汗ばんでくる。シュウは誤解した。風子がそのオロという少年に特別な関心を持っていると誤解したのだ。シュウは口を閉ざしてしまった。風子は解放された思いで、ふたたび女子たちとおしゃべりに興じた。


 シュウは考えていた。

 そのオロという見えないライバルに勝つにはどうしたら良いか? 城にはたくさんの古文書がある。禁忌でない古文書を風子に見せてあげよう。きっと風子は大喜びするはずだ。その間、ルルとアイリにはたくさんのお菓子を用意して、そばにモモとキキをおいておけばいい。もともとリクは何にも関心を示すまい。そうすれば、風子と二人きりになる時間がたっぷり取れる! 

 そこまで考えてシュウの心が浮き立った。シュウは女子たちの会話に入り、その会話は城に着くまで絶えることはなかった。


■古城の若君

 風子たちはあっけにとられた。

 本物の城だ。門がとてつもなく大きく、立派だ。キュロスが通行札を出すと、門衛が姿勢を正し、深々とお辞儀して、門を開けてくれた。

 門を抜けても広い道と手入れされた庭が広がるばかりで、なかなか城が見えてこない。ようやく正面にこれまたとてつもなく立派な城が姿を現した。また門衛が同じように、シュウとその客たちに敬礼する。入り口の扉を背にして、すでに迎えの者が待機していた。城代家老と侍従たちらしい。

(城代家老だなんて、なんか時代劇みたい)


「若君、お待ち申しておりました」

(若君? なんだ、それ?)

 見回すと、門の前に並ぶ者たちがみんなシュウに向かって深々とお辞儀している。

(ええっ? 若君って、シュウのこと?)


 風子とルルが顔を見合わせた。シュウには単なる案内役を頼んだつもりだったのに、いつのまにか、自分たちが「若君の大切なお友だち」になってしまったあ!


 室内は見事だ。城代家老が説明してくれているが、風子にもルルにも、その見事さがどれくらいのすばらしさなのかが、いまいちピンとこない。なにしろ初めて見るのだ。比較の基準がない。

 案内された客間も豪華な部屋だった。眺望がよく、遠くの山と隣国の平野が見渡せる。

 キュロスが伝えにきた。舎村長には明日謁見するという。そのとき、舎村長がルルの歌を所望しているという。ほら、やっぱりだ。風子がルルを見て、ニコッとした。ルルは軽く頷いた。そんなの朝飯前だよ。


■謁見

 翌日、風子たち四人は、立派な広間に案内された。そもそも普段着しか持っていない風子はトレーナーとジーパン、アイリに至ってはジャージーの上下だ。ちょっとだけ気を遣ったのか、いつもとは違って紺色だ。でも、縫い糸がほつれてあちこちからはみ出ているのは変わらない。

 リクとルルはお出かけ着を用意していた。リクは父親が買ってきた新しい服、ルルは〈ムーサ〉のオーナーが用意してくれた。舎村の古城に行くというと、オーナーはビックリ仰天して、すぐにデパートに走ってくれたのだ。

 モモとキキは広間に入るのを禁じられたので、部屋でキュロスが相手をしている。正面横には、シュウが立っていた。見たこともないほど立派な服を着ている。やっぱり、若君か! 城の女主人の孫だという。〈蓮華〉で「王子さま」とクラスメートたちが騒いでいたが、納得だ。


 中央の座席が空いている。やがて、号令がかかった。

「拝礼!」

 みなは頭を下げた。風子がそっと目をあげて見ていると、しずしずと一人の女性が入ってきた。何人かのお付きがついている。その女性は椅子の前に立った。

「頭を上げなさい」

 女官長とおぼしき者が四人に命じた。


 中央の女性は、若くはないが、非常に美しく、優雅で威厳がある。着ているドレスは品が良く、身につけた宝石も多くはないが、鮮やかに煌めいている。彼女が椅子に座ると、女官長が命じた。

「みなさんもお座りなさい」

 全員が座ったのを確認して、女官長が厳粛な面持ちで伝えた。

「国主さまにご挨拶申し上げなさい」


(え、だれから?)

 風子がとまどっていると、アイリが小声で伝えた。

(おまえだ! おまえがみんなを紹介しろ)

 風子がお辞儀した。

「〈蓮華〉の生徒で、都築風子と言います。シュウくんのクラスメートです。同じくクラスメートのルルさん。そしてリクさんです。それから、こちらは、アカデメイアの所属なのですが、わたしのルームメイトのアイリさんです。みんな、シュウくんと仲良しです」

(けっ、だれが仲良しだ!)とは思ったが、アイリを含め、みんながそれぞれお辞儀をした。国主が満足そうに頷く。彼女の目は、くたびれたジャージー姿のアイリに注がれた。

(この娘が、例の天才科学者か)

 女官長が告げた。

「今から国主さまのお言葉があります」


 国主が口を開いた。静かな声だが、威厳に満ちている。

「我が孫シュウに、みなのような友人がいて心強いぞ。このたびは遠路はるばるよく来た。どうじゃ? この城は気に入ったか?」

 四人は顔を見合わせた。だれが答えるのか? 

 アイリがまた風子に目で促す。

(おまえだ!)

「はい。とても立派なお城で、お部屋もすばらしく、圧倒されております」

 まともな答えだ。四人のうち、こんなことを言えるのは風子だけだろう。国主は再び満足したように軽く微笑んだ。 

「この舎村も、ルナ大祭典の開催に協力しておる。ルナ大祭典では、ミュージカルが披露されると聞いておる。この中にその歌い手がおると聞いたが、どの者か?」

 風子がハラハラと見守った。ルルは極めつきの礼儀知らずだ。わかっているのか、いないのか。あえて無作法なふるまいをする。昨日から、ルルにはさんざん言い聞かせた。

「絶対に礼儀知らずなことしちゃダメだよ。城から追い出されたら、元も子もないんだからねっ!」

 風子の言葉にアイリも同調した。

「ばあちゃんとスラさんの命がかかってるんだぞ。わかってるよな?」

「わたしです」と、ルルがしずしずと名乗り出た。余計なことを言わず、しっかりと国主を見ている。

(あ、それって「ガン見」だよ。無作法じゃん!)

 風子は肝を縮めたが、国主は気に留めていない。

「そうか、そなたか。ぜひ、一曲ここで披露してもらえぬか?」

「はい。では、始めます」


 ルルは一歩前に出て、いきなりアカペラで歌い始めた。

 ゆっくりと始まったのびやかな歌声が広間の天井に溶け込んでいく。聞いたことがないほど美しい声だ。やがて転調すると、およそ人間とは思えないほどの高音域の声がコロコロと転がされるように連なった。森の小鳥たちのさえずりのようでもあり、吹き抜ける風の吐息のようでもあった。再び転調すると、今度は、静かなゆっくりとした低い声が、聞く者の胸に響いてくる。大地の奥から吠え上がるような響きだ。最後は、再び最初の主題に戻ったが、速度が自在に入れ替わる。そして、荘重な声音で幕を閉じた。


 風子はあっけにとられた。何度も練習を見に行っていたが、ここまで見事なうたいぶりではなかった。

 アイリまでもが呆然としている。リクもだ。広間にいるすべての者が、絶句しているのがわかる。

 正面では、国主が目を閉じていた。シュウが興奮した面持ちで、目でこちらに感動を伝えてくる。やがて、国主が目を開いた。

「じつにすばらしい」

「ありがとうございます」

 ルルは片足を引いて、礼儀正しくお辞儀をした。ミュージカルの練習で仕込まれた挨拶だろう。

「これほどの歌い手を得たのであれば、ルナ・ミュージカルの成功は間違いあるまい」

 国主はゆっくりと女官長に何かを促した。女官長が何かをもって進み出て、それをルルに手渡した。

「わたしからの礼じゃ。そなたにつかわす。ここに滞在する間、みなで存分に楽しむが良い」

 国主が広間を出ていくのを見送り、その姿が見えなくなると、シュウが四人に駆け寄ってきた。「すごい! すごいよ! おばあさまがあんなに褒めるなんて初めて見た!」


 風子がヘナヘナとくずおれた。

「はあ、緊張したあ……」

 アイリも珍しくこう言った。

「あんたのばあさん、すごい迫力だな」


 ルルは手にしたものを机の上に置いた。

「なんだろ?」

 広げると、立派な黒塗りの箱の中に、見事な首飾りが入っていた。シュウが驚く。

「これ、これは……」

「何だ?」

 ルルが尋ねると、シュウは興奮を抑えきれずにこう言った。

「これは、おばあさまが私的に授与する最高位の勲章なんだ」

「へ? 勲章?」

 四人が顔を見合わせる。

「そうだよ。この首飾りをつけていれば、特別な手続きをしなくても、舎村に入れて、おばあさまに謁見できる」

 ルルは、「いや、あんたのばあさんに謁見なんてしたくないけどさ……」と言いながら、「ひょっとして謁見したときにお願いなんかできちゃうわけ?」とシュウに尋ねた。

「もちろんだよ。だから、だれもがこれを欲しがる。でもこの勲章をもらえるのは、年に一人いるか、いないかだって聞いている」


 四人はまた顔を見合わせた。どうやら、ルルは大きな切り札を手にしたようだ。

 部屋に戻ると、モモとキキが駆けてきた。「推し」の晴れ姿を見られなかったキュロスが残念そうにシュウに様子を聞く。そして、例の勲章のことを聞くと、ビックリ仰天した。それは、ルルの歌をまた聴きたいという意思表示であり、近いうちに再びルルを招くということを意味したからだ。


 広間の裏にある秘密の部屋には、エファと大神官のみがいた。

「どうであった?」

「お見立て通りでございました。この琵琶の弦が、あの子の歌声に合わせてかすかに揺れ、わずかですが音が出ました」

「そうか。やはり、あの者はわが一族に伝わる〈月の神ルナの使者〉かもしれぬ。だとすれば、あの者を逃してはならぬ。決して他の派にとられてはならぬ。心してあの者を見張り、悟られぬように守るのだ」

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