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Ⅺー3 天月草をめぐる謎

■副館長マルゴの疑念

 マルゴは副館長室でラウ伯爵の筆頭秘書レオンについて思いをめぐらせていた。レオンにはよく会うが、挨拶以外はしたことはない。昨日の打ち合わせがほぼはじめての対話だった。


 十年ほど前、ラウ伯爵が「遠縁の青年レオン」を紹介してくれたとき、マルゴは驚いた。青年の美貌とその名に驚いたのだ。名まえが同じだけでなく、突き抜けた美貌はあの〈天月の子〉に似ていた。ただ、性格はずいぶん違うようだった。天月のレオンは快活で明るい表情をしていたが、青年レオンは、冷たい目のまま、すべてに無関心なようだった。マルゴは、ひそかにラウ伯爵の一族と「遠縁の青年レオン」について調べた。


 シャンラ王家と縁戚関係にあるミン王国。その北西部に広大な世襲領をもつラウ伯爵一族はうわさにたがわぬ名家で、巨万の富を有する世界有数の資産家だった。

 伯爵には実母がいるが、三十年近く前に離婚して、長くアカデメイアの発展に尽くしてきた。仲睦まじいと評判だった夫婦が離婚した原因はいっさい不明だ。ただ、夫の身体が弱く、これ以上の子が望めないとして、公爵家令嬢の彼女に対して伯爵家が気を遣ったといううわさもある。公爵家では跡取りと期待された男子が早世し、断絶の危機に陥ったため、娘が離縁して実家に戻り、公爵家を継いだというのが、一番信憑性が高い。親の離婚後も、夫婦の子である現ラウ伯爵は、両家を行き来し、どちらからもたいそうかわいがられたという。

 ラウの母ミレニアは才女の誉れが高い。ラウがアカデメイア副理事長を引き受けたのは、母の願いを受け容れたからと言われる。彼女は長く理事長をつとめたあと引退し、息子に副理事長のポストを任せ、いまは文化支援者として多忙な生活を送っている。


 離婚後、彼女は並みいる求婚者をすべて蹴散らして自立を目指した。城と領地を相続の先取り分としてもらい、取り戻した持参財産とあわせて富豪に名を連ね、父の死とともに公爵の爵位とその領地のすべてを継承した。いま、ラウ伯爵には母以外の親族はいない。祖父母にあたる元公爵夫妻は一人きりの孫を溺愛し、孫が公爵家の爵位と財産をすべて受け継ぐことを強く願っていた。ラウは公爵として伯爵を兼ねることもできるが、伯爵の地位と財産を別の親族に継承させるという選択肢もある。伯爵が結婚して子を儲けるか、ふさわしい養子を迎えるかした場合だ。しかし、伯爵は結婚する気はなさそうで、レオンは養子候補の筆頭と言われる。

 伯爵家はこの数世代にわたって一人の子しか得られておらず、かつての傍系もほとんどはすでに絶えていた。伯爵家の「遠縁」をさがすのはほとんど不可能に近かったが、「遠縁のレオン」とその母は実在した。先々代の伯爵つまり現伯爵の祖父が若い頃に親しくした遠縁男性の直系子孫という。遠縁男性が妻もろとも不慮の事故で亡くなり、伯爵家がその男子をひきとって生活の配慮をし、結婚後は伯爵家の古くからの領地の一つの管理責任者としてその領地にある館を与えたという。


 領地には部外者が立ち入ることはできない。領地のそばにはいくつかの村がある。村人はその一家とほとんど接触はないが、何度か姿を見たことがあり、男の子は黒い髪で黒い目をした愛くるしい子だとみなが口をそろえた。学齢期に入ると、その子はどこか遠方の名門学校の寄宿舎に入ったが、休暇中には戻ってきて、母親と仲良く過ごす姿が見られたという。その事実だけからでも、〈遠縁のレオン〉と〈天月のレオン〉が同一人物のはずはない。レオンはあのコンクールまで一度も山を下りたことなどなかったからだ。学校についても探したが、名を変えているらしく、まったく手がかりはなかった。

 〈遠縁のレオン〉が表に出てくるのは、十八歳になり、成人を迎えて、アカデメイアに入学手続きをした頃からである。幼くして父親を喪ったレオンの利発さと美しさを高く買った伯爵が、その子を伯爵家に迎えて、事実上の後見人になる予定だったらしい。しかし、彼は、母親とともにアカデメイアに来る途中に事故にあい、母親は彼をかばって亡くなった。レオンはかろうじて命を取り留めたものの、事故の衝撃ですべての記憶を失ったという。しかし、亡母の供養を欠かさず、今も命日には必ず墓に詣でている。


 しばらくしてレオンはアカデメイアに入学し、優秀な成績で卒業して、弁護士資格をとり、ラウ伯爵の財団に迎えられた。黒い髪、黒い目の美貌の青年は、事故のせいで陰を帯びるようになったのか、無口で謙虚であった。

 ラウ伯爵は、ただ一人の縁者を大いに気に入っているらしく、あちこちにレオンを連れて行き、自慢している。そして、レオンも伯爵の期待以上の能力を発揮し、いまやレオンがいないラウ財団は考えられないとの世評だ。伯爵の母である女公爵もレオンがお気に入りで、レオンの前途は洋々としていた。だが、レオンは無欲で控えめで、野心のかけらもないともっぱらのうわさだ。色恋沙汰にもまったく無縁で、禁欲主義者の堅物だという。それも女公爵がレオンを気に入っている理由らしい。


 マルゴがいくら調べても、彼が〈遠縁のレオン〉であることを示す証拠以外は何もでてこなかった。何度かレオンにあったときに彼の力を読み取ろうとしたが、すべて空振りだった。彼からはいっさいの異能は感じられず、右手の指は微妙に歪んでいてピアノ演奏に向いているとも思えなかった。事実、彼がピアノを弾く姿を見た者はいない。〈天月のレオン〉であれば、いくら隠してもピアノに目を輝かせるはずだ。だが、彪吾の担当になったあとも、彪吾がピアノを弾くそばでレオンがピアノに関心を示したことはない。

 マルゴは、安堵した。結局、他人のそら似だったのだろう。名も偶然の一致だ。〈天月の子〉が生きているはずはない。


■天月士ミライが語るもう一つの秘密

 天月に戻ったあと、ミライは、もう一つの秘密をカイにだけ打ち明けた。


「じつは、レオンさまが異能を発揮するきっかけになった五人の子どもたちは、いずれもそのあと不幸に見舞われたのです。レオンさまの失踪から数年たっており、それぞれの不幸も異なりましたし、不幸が起こった時期もバラバラです。それに、その五人がレオンさまの異能と関わっていることを知っているのは、亡き元宗主さまとわたしだけです。ですから、レオンさまの失踪とその五人の不幸を関連づけるべきではないと思いますが、天月の中にレオンさまを害する者がいるのであれば、その者が関わっているかもしれません。

 五人の子どもたちのうち、一人は正気を失って自死し、もう一人は手足の自由を失って転落死し、さらに一人は視力を失って事故死し、一人は原因不明の病気になって病死しました。いちばん年下の子どもも病気になったのですが、天月附属のホスピタルに送られ、そこで治療を受けて回復し、いまはホスピタルで医師として働いております。その者は、マルゴ修士の姪ヨヌです」


 カイは、かねてより決まっていたホスピタルの訪問を早めた。

 天月ホスピタルは、初代〈銀麗月〉が開いたとされ、代々の〈銀麗月〉がホスピタルの改善や拡張に関わってきた。カイもまたその責務を負っている。カイは、歴代〈銀麗月〉の方法に倣い、ホスピタルを訪れ、大地や天空の気の巡りを確認するとともに、ホスピタル関係者数名に面談することとした。その一人にヨヌを入れたのは言うまでもない。


■天月医師ヨヌの興奮

 〈銀麗月〉に謁見できる機会が与えられたと聴き、天月医師ヨヌは興奮した。〈銀麗月〉との正式の面会は非常に大きな名誉であったからだ。


 若い時に病に倒れて以降、ヨヌは目指していた天月修士の道を断念せざるをえなくなった。選んだのは医師の道だ。天月は医薬術にも秀でており、医師の地位は天月の中でも高い。ホスピタルでの仕事にもやりがいを感じていたが、やはり天月の本流ではない。そんなホスピタルとその関係者にとって、〈銀麗月〉の正式訪問は至高の栄誉であった。それは、〈銀麗月〉がホスピタルを重んじるという公式メッセージであり、天月全体に対してホスピタルの存在意義を示す絶好の機会であったからだ。

 

 ホスピタルの奥には、〈銀麗月〉や天月宗主、各国王族などの最高位の賓客を招く特別室がある。入り口は他とは別で、厳重な警戒が敷かれている。むろん、ヨヌも足を踏み入れたことなどない。

 天月士としての正装を身に着けたヨヌが扉の前に立つと、両側に立つ天月警備隊士がおもむろに特別室の扉を開いた。恭しく礼をとると、涼やかな声が響いた。

「近くにまいれ」


 奥の椅子には、見たこともないほど美麗な青年が座っていた。〈銀麗月〉の宝冠をかぶり、プラチナの細い糸を刺繍に用いた白絹の長い法衣をまとっている。公式訪問時に着用する〈銀麗月〉の礼装の一つだ。漆黒の長い髪をゆるやかに肩にはわせた〈銀麗月〉のそばには、黒い衣装の侍従がいた。その侍従が、〈銀麗月〉の言葉を告げる。公式の場で、〈銀麗月〉が自らの言葉を直接語ることはない。常に侍従が代わりに言葉を発する。

「座るがよい」

 やや低めの静かな声だった。ヨヌは用意された椅子に腰かけた。

 ひとしきり形式的な問答をしたのち、〈銀麗月〉は、ヨヌがここに来たいきさつとここで働く理由を尋ねた。ヨヌはここぞとばかり、ホスピタルのためにホスピタルの意義と役割をあげていった。これこそ、ホスピタル幹部が自分に期待している役割だったからだ。

 

 〈銀麗月〉の問いにヨヌが答える。

――いつホスピタルに来たのか?

「わたしがホスピタルにまいりましたのは、十八歳になったばかりの頃でした。ある日突然発病し、命も危うい状態となったのです。ホスピタルに入院したおかげで、無事回復いたしました」

――いかなる症状であったのか?

「ある日突然、吐血し、息が止まりかけました。身体の表も内臓も赤く腫れ、のども詰まりかけていたようです。手足はしびれ、動くことはできず、声も上げられませんでした。わたしの場合は、さいわいそばに友人がおり、ホスピタルに緊急搬送してくれたおかげで、一命をとりとめました」

――原因は思い当たるのか?

「いいえ、まったく思い当たりません。前日まで、普通に講義をうけ、武術の鍛錬もする生活でございました」

――めずらしい病であったのか?

「はい、そのようです。ホスピタルの医師も見たことがない症状とのことでした。内臓の炎症を和らげる薬が効いたようであり、その後は全身の気力を緩やかに回復させる薬を処方され、こちらで養生いたしました。ただ、もはや激しい運動を伴う鍛錬はできなくなりましたので、医学を学び直し、こちらに勤めている次第です」


――天月に入ったのはいつか?

「七歳の学童期に天月に入りました。両親を含め、親族の多くが天月の関係者であり、天月で学ぶことは父母の願いでございました」

――天月での学びはいかがであった?

「楽しかったです。友だちもたくさんできましたし、学ぶ内容はおもしろく、天月武術の鍛錬も楽しみでございました。成績は常にトップクラスでひそかに自慢しておりましたが、わたしの驕りにすぎませんでした。上には上がいたからです」

――いかなる意味か?

「わたしたちの世代には、天月でもまれな天才がおりました。彼には音楽の才もありました。しかし、その子は事故で亡くなったのです。みんな驚きました。その子は英才教育を受けており、わたしたちと同じクラスで学んだわけではないのですが、行事などで一緒になることもあり、みんなの憧れの的でした。彼に憧れていた多くの女子たちは泣き崩れ、事故死が伝えられた日には、授業が成り立ちませんでした」

――亡くなった子はそれほど慕われていたのか?

「はい。彼はとても明るくて人気者で、天月の申し子と言われていました。一度でも彼を見た者はみな彼を好きになってしまうのです。もちろん彼を妬む者もいましたが、彼は気にしていませんでした。彼の音楽がわたしはとても好きでした。いつまでも聞いていたくて、わたしはしょっちゅう彼がピアノを弾く部屋の近くに忍び込みました。……彼のことを思い出すと、今でもつらいです」

――天月は音律もすぐれている。その子も相当修練したのだな。

「そう思います。ただ、彼は一度聞いたものをすべて覚えるらしく、わたしたちとは修練の意味が異なっていたようです。それほどすぐれた彼が、まさか天月の規律を犯して山を降り、事故死したなんて、……いまだに信じられません」

――わたしが天月に来る前のことではあるが、多少は耳にしておる。その者のことは、今では語る者もいないようだな。

「まことに申し訳ございません。避けるべき話題を〈銀麗月〉にお聞かせしてしまいました」

――いや、よい。友の思い出を語ることを誰が責められようか。もっと語ってもよかろう。そなたにはほかにも友がいたのか?

「はい。良き友もおれば、いささか困った友もおりました。不幸にして亡くなった友もおります」

――それはいささか妙だな。天月に入った者が若死にしたというのか? ホスピタルでも救えなかったのか?

「さようです。いずれもわたしより少し年上の者ですが、みな、天月を降りているときに事故にあったり、病気になったりしました。天月でいたなら、すぐにホスピタルに運び、命を助けることができたのではないかと今も悔やまれます」


――ホスピタルでの今の暮らしはどうか?

「とても快適です。医師としてもやりがいを感じております。ホスピタルのみなさんは親切ですし、空気も環境もよいですから、わたしに限らず、ここに来たひとはみな喜んでおります」

――ホスピタルをよくするためになにか望むことはあるか?

「いまでも天月本部から十分な支援と予算をいただいておりますが、可能であれば、救急医療の設備の拡充が望まれます。わたしがここに運びこまれたとき、ドクターヘリがあれば、もっと速やかに治療ができたそうです。さきほど申し上げた者たちのように、天月の外で事故や病気になった者も救うことができると存じます」

――救急医療体制が不十分なのだな?

「さようです。わたしは海外の病院に研修のためなんどか留学しました。そこですばらしい技術をもつ医師にも出会いましたし、最新機械・器具を目にいたしました。そのようなものがこのホスピタルにもあれば、天月の者はもとより、ふもとに住む人々も救うことができると存じます」

――わかった。検討しよう。

「まことにありがとうございます。ご高恩に感謝申し上げます」

 

 ヨヌは感動していた。

 〈銀麗月〉は、ヨヌの境遇に関心を示し、彼女の訴えに耳を傾けてくれた。〈銀麗月〉が若き天才カイであることは人づてに聞いていた。ただ、世代が違うため、間近に見たのは初めてであった。美しかった。かつての憧れの友レオンが長じておれば、おそらくあのように〈銀麗月〉の宝冠をかぶっていたに違いない。〈銀麗月〉は二人以上が同時に存在することはできない。〈銀麗月〉としての権威や権限が分かれるのを避けるためだ。したがって、もしレオンが〈銀麗月〉に選ばれていたなら、カイが〈銀麗月〉になる道は閉ざされていただろう。


 ヨヌは最後に見たレオンの姿を思い出そうとした。小雨が降りしきる中、彼はその時もピアノを弾いていた。曲もよく覚えている。庭の木に隠れるヨヌの姿が見えたのか、レオンは声をかけてくれた。

――ヨヌだろ? おいでよ。渡すものがあるんだ。

 ヨヌは自室のデスクから小さな袋を取り出した。最後の日にレオンがくれた香袋だ。その中には、干した薬草が入っていた。今はない。

――山に生えていた薬草だよ。とても薬効が高いんだ。

 レオンはそう言って、この香袋をくれた。レオンがかわいがっていた銀狼の子をヨヌが助けたことへのお礼だと、レオンはにこっとして言った。ヨヌの胸はキュンとした。あの時の胸の高鳴りは今でも忘れられない。


 レオンが事故死してからは、この香袋を肌身離さず持ち歩くようになった。ホスピタルに運ばれたときも香袋を首にかけていた。あとで医師が教えてくれた。

「あの香袋の薬草でキミの命が助かったんだよ。薬草の宝庫と言われる天月山でも、あの薬草はめったに手に入らないものなんだ。九死に一生を得たね」

 病床のヨヌはレオンに心から感謝し、改めてレオンを失ったことに深く涙した。そして、医師になろうと決意したのだ。


 だが、小雨にけぶるレオンの姿には、いつもなぜかもう一つ別の姿がかぶさるようによみがえる。そのレオンは、顔も姿もおぼろだ。ピアノの音もかすかだ。レオンを失ったショックによる幻影と幻聴なのだろう。失踪後にレオンのことを思い出そうとするたびに、ふわっと広がる霧のような記憶であった。つかもうとすると、すぐに消えてしまう。


■天月草

 カイは天月の自室に戻り、考え込んでいた。

 ヨヌによれば、レオンは規律違反を犯して事故死したことになっていた。天月内でも情報が操作されたに違いない。ヨヌはレオンに悪意をもっておらず、むしろ非常に好意的であり、禁術をうけた記憶ももっていないようだ。レオン事件との関係はなさそうだが、彼女の症状は気にかかる。


 カイは、異能に関する禁術の一つを思い出していた。それは、全身を赤く腫らす術で、治療のすべがなく、食べることも眠ることもできなくなって死に至るという。他の四人が死んだのに対し、レオンに憧れていたヨヌだけが助かった。あの事件のときも、ヨヌはむしろ他の四人を止めようとして巻き込まれただけのかもしれない。それに、彼女を救った薬草はレオンにもらったものだと言っていた。

 届けられた診療記録で確認したところ、その薬草は非常に珍しいものであった。天月山の急峻な崖の一か所にのみ群生し、それ自体が毒にもなるが、強力な毒消しにもなる。初代〈銀麗月〉がその薬草を発見し、「天月草」と命名したと薬草書に記録されている。レオンはその書を読んだのだろう。むろん、十歳の子どもが読み通せるような書物ではないが、レオンなら可能だったと思われる。そしてそのうえで、自ら薬草を採取したに違いない。


――まさか、病気を予測していたのか?

 諸々のことを考え合わせると、可能性は二つだ。

 一つはレオンの禁術が身体に深く根を下ろし、しだいに身体をむしばんでいった可能性。もう一つは禁術を受けた者に対して、だれかが遠隔で効果を及ぼした可能性だ。レオンの意思とは無関係に禁術の効果が進んでいたのかもしれない。


 カイはカムイとともに出かけることにした。天月草の場所を探すためだ。薬草書におおよその場所は記録されているが、乱獲と悪用を避けるためだろう、正確な場所はあえて記されていない。

 近くまで来た時、カムイが空を舞って場所を特定した。切り立った崖の中腹のわずかな石棚の上に一面に生い茂っていた。下に流れる清流から立ち上る蒸気と天空からの昼夜の適度な光が生育に必要なのだろう。カイは、そばの木から数枚の木の葉を摘み取り、空に放った。そして、その木の葉の上を飛びながら高く昇り、数本の薬草を摘み、元の場所に戻った。レオンも同じ方法を使ったに違いない。

 このレベルの軽功を使えるのは、〈銀麗月〉以外にいない。カイも十歳のころにほぼ同じ力を持っていたが、まだ水平に飛ぶ力にとどまっていた。まさか、レオンは十歳にしてすでに上へと高く飛ぶことができたのだろうか?

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