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第8話 実験映像

『ダンジョン内のモンスターに対する通常鉛製弾頭と仮称:迷宮鋼ダンジョンこうを用いた特殊弾頭の効果の違いに関する資料映像』




『所管:防衛省管轄、対ダンジョン防衛・封鎖機構』






「これより検証を開始する。被験体、識別001ミ型小鬼。俗称『ゴブリン』」




ヘッドホン型の耳栓を付けた、機構の隊員らしき男が、傍にあるキャスター付きのテーブルから拳銃を手に取り、その銃口を数十メートル先で拘束されているモンスターへと向ける。四肢を鎖で拘束され、ギャーギャーと耳障りな叫び声を上げ続けるそのモンスターは人間の子供程の背丈で、全身緑色の肌、尖った耳に鼻、黄ばんだ歯という、醜い外見をしていた。




「発砲する」




隊員はモンスターの脳天に、9発の弾丸を続けざまに撃ち込む。放たれた弾丸はしかし、モンスターに皮膚に触れた途端に全て弾かれ、少しの傷を付けることも叶わなかった。もっとも弾丸の衝撃自体は伝わっているのか、モンスターは更に手足をばたつかせ、不愉快なその声の声量を増す。




「射撃終了。被験体に外傷、認められず。続いて特殊弾頭による検証に移行する」




隊員はテーブルの上に、たった一発だけ用意された、弾頭が赤く塗装された弾丸をつまみ、それを薬室に直接押し込み、スライドを元に戻す。




「発砲する」




パァンッ!




銃声が響いた刹那、モンスターは断末魔すら上げず即死し、たちまちに塵と化し地面に白い山を作った。




「目標、塵へと転化。特殊弾の効果を確認した」




隊員が結果を報告し、まだ細い煙の昇る拳銃をテーブルに戻したその時、映像が終了した。






タブレットから目を離した私に、東が今丁度映像の中に登場した、赤い弾頭の弾丸を見せて来た。




純迷宮鋼ダンジョンこう製特殊弾頭。我々ダンジョン機構が独自に開発した、ダンジョン内に存在するモンスターに対する切り札です。今観て頂いた映像からも分かるように、例え子供程の大きさしか無いモンスターであっても、従来の弾丸はそれに一切通用しません。今の映像以外にも、モンスターに戦車砲を撃ち込む実験も行われましたが、結果は同じでした。これが、機構設立以前のダンジョンで民間人と自衛官を含む数多の犠牲が生み出された、最大の原因です」




「切り札...とは?」




その表現に、私は疑問を持った。弾丸なんて、ものによって程度の違いこそあれど現代の軍隊や自衛隊では消耗品に過ぎないはずだ。それを切り札と称するとは、不思議な話だ。




「よくぞ聞いて下さいました。実を言うとこの弾丸はその名の通り、ダンジョン鋼と我々が呼称している、ダンジョン内から採られる特殊な鉱物を用いられて作られた金属で形成されているのです」




「ダンジョン内の...鉱物を」




「はい。ですがモンスターが常に跋扈するダンジョン内で、それを採掘するのは容易ではありません。更にダンジョンによっては鉱物資源そのものが殆ど見られない、という事例もざらです。このような前提がある為、その安定的な採掘は残念ながら依然叶っていないのが現状です。更に鉱物自体の加工も難しく、この9mmのパラベラム弾すら、一発十万円以上する代物なのです」




「一発十万円!?」




それに、私は度肝を抜かれた。こんな小さな弾丸一つで十万円、ということは昨日私が撃った弾丸だけで、私の年収以上の金が吹き飛んだ事になるだろう、何だか、頭がくらくらしてきた。




「はい。現状ではダンジョンの出現頻度に対し、これらの弾丸の生産体制が全く間に合っていません。故に我々は銃を切り札的な運用でしか用いる事が出来ず、それを補う為に再使用が可能、かつ整備性も高いこれを主力兵装にしているのです」




東は銃達と一緒に並べられた、あの刀を手にし、鞘から刀身を僅かに見せた。




迷宮鋼ダンジョンこう製携行打ち刀。量産を図る為に混ぜ物をしている関係もあり、殺傷力は弾丸に遠く及びません。加えてモンスターに肉薄して攻撃しなければならない為、これを扱う隊員は常に死傷の危険を帯びています。ですが...」




そこで東はパチンッ、と刀身を完全に鞘に戻し、その鋭い目で私を真っすぐと見つめて来た。




「貴方が発揮した、弾丸を生み出す事が出来る力があれば、この現状を変えることが出来るかもしれないのです」

最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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