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第7話 射撃場での事情聴取

対ダンジョン防衛・封鎖機構は防衛省管轄の機関であり、市ヶ谷にその本体を置いている。が、そこで取り仕切られる事柄はダンジョンの脅威に直接的に関わるもの”のみ”であり、その他の財務、広報、渉外、その他総務といった仕事は全て、霞ヶ関の合同庁舎内で処理されている。




これまでは全ての業務が一括して市ヶ谷庁舎で行われていたのだが、「武蔵小杉消失テロ」を起こした関係者の中に一般職として機構で勤務していた者がいたことが発覚し、情報の漏洩防止を徹底するためにこのような組織改編が行われた。




もっともその措置も「そんなことをしたところで抜本的な対策にはならない」、「一般職の採用のハードルをより厳しいものにすれば良い話ではないか」と言った内容の批判に、今でも晒されている。




加えて機構が抱える膨大かつ煩雑な業務をそんな単純に二分出来る訳も無く、日本の行政組織特有のアナログな文化も相まって仕事が滞る事態が多々起きており、現場からも改善を求める声が多く上がっている。




そういう訳で、対ダンジョン機構の職員でありながら初めて市ヶ谷庁舎の門をくぐった私は東に連れられるがまま、庁舎の地下にある射撃場に案内された。




「......これは!!」




東が部屋の灯りをつけた時、現れたその異様な光景に私は目を奪われた。狭い射撃場の床には緑のシートが敷かれ、その上にありとあらゆる銃器が所狭しと並べられていたのだ。中には昨日、私が発砲したものと同じ小銃の姿もある。




「驚かせてしまい申し訳ありません。ただ昨日貴方が起こしたという現象について、我々はそれの正体を何としても確かめなければならないのです。...まずはこちらにお座りください」




東はそう言いながら、壁に立てかけられていたパイプ椅子と、その傍に置いてあったタブレット端末を手にし、その場に立ち尽くす私に歩み寄る。




「は、はい...」




何が何やら訳が分からぬまま、私は用意されたパイプ椅子に腰かける。




「本田さん。先ずは貴方の緊張を出来る限り解きます。ここからも見えるように、この射撃場には二つのカメラがあり、これからの我々の動きを残らず記録しています」




東は天井の端に備えられた、赤いランプを点滅させている監視カメラを指さす。




「これらのカメラは貴方に怪しい動きが無いか監視する為のものではなく、この部屋で私が貴方に非人道的な行為を行っていないかを監視する為のものです。故に本田さん、これから私がする質問に対し貴方が黙秘を貫いたとしても私は決して、貴方に危害を加えるような真似を致しません。但しもし問いに答える意思があるのなら、その時はどうか虚偽を述べず、ありのままを話して頂きたい」




「...分かりました」




頭上のカメラが本当に自分を守る為のものなのか、私には当然判断することは出来ない。だが、そのことを伝えて来た東の声色がかなり穏やかであったこともあり、私はすんなりと返事をした。




「ありがとうございます。それでは本題に移ります。本田さん。貴方は昨日、貴方と貴方を護衛する隊員を襲ったあの蜘蛛の化け物を、隊員が携行していた小銃を用いて撃滅した。これに間違いはないですか?」




「はい、間違いありません。杭蜘蛛...という名前でしたっけ?あれは確かに私が殺しました」




「ありがとうございます」




東は手にしたタブレットに、何かを打ち込み、そして次の質問に移る。




「では次の質問です。蜘蛛の反撃を受け拘束された、貴方を護衛していた隊員の報告では、小銃が突然に浮かび上がり、黒い煙のような気体に包まれ、そしてそれが貴方の手に戻った途端、貴方は弾が切れた筈の小銃を乱射し蜘蛛をたちまちに殺したとあります。これは、本当に発生した現象でしょうか?」




その問いで、私の全身に緊張が走る。病院での診察においては自分の弱さ故に言及するのをさけたそれ。しかしここは病院ではなく防衛省内の密室、そして問いを投げかけてくるのは詳しい事情を知らない医者ではなく、既にあの現象を知っている、国の人間だ。




加えて先程の東の発言。彼は虚偽を述べた場合の処置について何も話していないが、それでも決して、嘘を述べるべきではないだろう。そう思った私は、全てを吐露した。




「それも間違いありません。襲われていた隊員を救う為に私は、銃に残っていた弾丸を全て撃ち切ってしまいました。錯乱していた当時の私はそれを理解出来ず、蜘蛛がこちらに迫っているにも関わらず引き金を引き続けていました。ですが突然、私の脳内に直接語り掛けてくるような、電車のアナウンスで流れるような、機械的な女性の音が響いてきたのです」




「その内容を、覚えていますか?」




私の発言に、東は怪訝そうな顔一つせず問いかける。




「いいえ、はっきりとは覚えていません。確か、インフィニティマガジン...何とかと言っていました。そしてその音声が響いた瞬間、丁度貴方が今言った現象が起き、私の手元には弾丸が完全にこめられた銃が戻っていました」




「...分かりました。ありがとうございます。それでは次に移ります。この動画を、貴方に観て頂きたい。尚、予め伝えておきますが今から流れる映像は本来、外部の人間に決して閲覧させてはいけない極秘資料となっています。その内容を、決して口外しないよう留意しておいて下さい」




「わ、分かりました...」




私は緊張の余り、身体が痒くなってくるのを感じた。どうやら自分は、とんでもないことに巻き込まれてしまったらしい。

最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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