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第4話 おじさん、引き金を引く

「明智より展開中の全部隊へ緊急伝達!ダンジョン出入口前で特級三、杭蜘蛛と接敵!隊員が二名死亡した!これより撃滅に当たる!」




明智は胸の無線機のチャンネルを変え、ダンジョン内の全部隊へ杭蜘蛛の情報を送った。




「こちら東。そちらに民間人は残っているか、どうぞ」




無線から、落ち着いた調子のはきはきとした男の声が響く。




「こちら明智。一名、私の近くにいます。どうぞ」




「東より明智へ。こちらから増援を送る。それまで持ちこたえられよ。また本部隊長権限で小銃の発砲を許可。必ず民間人を守れ」




「了解」




無線でのやり取りを終えた直後、杭蜘蛛がその鋭い鋏角を明智目掛けて飛ばして来た。明智は素早く全身を地面に伏せそれを躱す。




「ひ、ひいぃ...!」




自分の直ぐ頭上を通り過ぎた角に怯えた私は立つことも出来ず、情けない声を上げながら地面に這いつくばる。




「そのまま伏せていて下さい!こいつは私が対処します!」




明智の声が注がれた直後、バキンバキンッ!という炸裂音が耳を貫き、私の脳を揺らす。




明智が杭蜘蛛に向かって発砲したのだ。2発の弾丸を続けざまに受けた蜘蛛はキュルル...!という声を上げ、痛みに悶えるように後退する。




(動かれたら護衛なんて出来ない...。このまま削り殺す...!)




バキンッ!バキンッ!バキンッ!




明智は一発一発、的確に弾丸を、八つの眼に次々と撃ち込む。




自衛隊に制式配備されているものと同じ、20式5.56mm小銃の装弾数は30。予備の弾倉まで使えば、このままその場に釘付けにした状態で殺せるはずだ。




明智は再装填の隙に反撃を貰わぬよう、最後の数発を鋏角に撃ち込んだ。弾丸はそれを容易く撃ち砕き、更に蜘蛛を仰け反らせ、大きく後退させる。どうやら鋏角は見た目に反して脆いらしい。




杭蜘蛛は残った6つの眼を輝かせながら全身をブルブルと震わせる。すると驚いた事にたった今破壊したはずの牙が、気色の悪い薄紫の体液を撒き散らしながら一瞬の内に再生した。




だが杭蜘蛛が己の武器を作り直すその間に、明智は既に弾倉を付け替え、薬室内に新しい弾丸を送り込んでいた。




バキンッ!




再び急所の眼に発砲する明智。しかし蜘蛛は突然、尻から糸を天井目掛けて飛ばし、一瞬の内に天井に張り付いた。まるで映画の撮影で用いられるワイヤーアクションを見ているかのようだ。




キキ、キュルル...!




不気味な威嚇音が、先程よりも高い音程で奏でられる。更にこちらを見下ろすその眼はアメジストのような濃紫から一転し、鮮血の様な赤色に変わっていた。




(攻撃色に変わった。眼2つでようやくか...)




明智はグリップ上の安全装置レバーを「単射」から「3点制限点射」に素早く切り替え、バースト射撃により頭上の蜘蛛に対して弾丸をばら撒く。




無差別に杭蜘蛛の全身を穿つ弾丸の1つが、八本ある足の一つに傷を付けた。その衝撃に怯んだ蜘蛛は悲鳴を上げ、手足をバタバタと動かしながら天井から落下する。そしてそれを好機と見た明智は、小銃から手を放し、代わりに腰に下げる刀に手をかけ、腰を深く落とす。その動作に伴い、彼女が身に着ける鎧が、青白く光ったのを聡は確かめた。




(あの傷なら私でも殺しきれる...!)




明智は踏み込んだ事で溜めた力を一気に解放して自分の身長の三倍程の高さまで跳び上がると、空中で杭蜘蛛に斬りかかる。狙うは銃撃の応酬で脆くなったその顔面だ。




だがその時、杭蜘蛛は再び尻から天井に向けて糸を飛ばして大勢を瞬時に整えると、これまた一瞬の動きで糸を切り、今まさに己を殺そうとしている明智に空中で覆いかぶさった!




「なッ...!」




明智は急いで刀で防御の姿勢を取る。しかし杭蜘蛛の体重が全て乗った鋏角の一撃が、無慈悲にも刀をバラバラに砕くだけでなく、彼女の肋骨付近を深々と突いた。更に胸に下げていた小銃のベルトが切れ、彼女の体から弾き飛ばされた小銃が、相変わらず動けずにいる聡の足元に転がる。




「ッ...!!」




その激痛に声を上げる間も無いまま、明智は背中から地面に叩きつけられる。だがそれでも彼女の華奢な体が貫かれていないのは、彼女が凄まじい力で鋏角を握りしめ、これ以上押し込まれないように抵抗していたからだ。




杭蜘蛛は勝ち誇ったようにシューッ、シューッという声を上げ、明智に体重をかけ続ける。その名の由来となっている鋭い杭のような鋏角は、蜘蛛の複眼が攻撃色に染まっている間は敵に打ち出す機能を失う代わりに鋼鉄のように硬くなる。




『警告。まもなく安定運用の限界を超えます。これ以上の負荷は筋肉への深刻な収縮障害をもたらす可能性があります。直ちに使用を中止するか、セーフティによる強制シャットダウンをお待ち下さい。シャットダウンまであと十、九...』




鋏角を握りしめる両腕の籠手の発光が赤くなると共に、そのような機械アナウンスが流れた。しかしそれを聞いた瞬間




「コード6E-1207!ACDS全解除!!」




と、口から血の混じった唾を飛ばしながら明智が叫ぶ。




『コード承認。全てのセーフティ及びリミッターを解除します。なお、ACDSを無効とした状態での運用により生じた収縮障害、又はそれに準ずる身体の異常について、対ダンジョン機構及び藤峰重工はその責任を一切負いません。ご了承下さい』




初めて聞くSASMAサスマの解除コード承認音声。それと同時に両腕のSASMAサスマから溢れる光が青に戻った。




これでもう、私は両腕を使えなくなるだろう。そしてその両腕が死んだ時、私の命はそこで終わる




だが、これでいい。このまま蜘蛛を引きつけていればあの民間人に危害が及ばないし、いずれ水本隊長からの増援が来る。それまでは、持つはずだ。




明智は自分の死に場所を悟る。ところが―




ガガガンッ!ガガガンッ!!




頭上から、良く知る銃声が駆けて来た。

最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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