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第35話 ダンジョン機構総司令室

(車両が全て大破...?それに隊員も満身創痍だって...?)


背中に嫌な汗がぶわっと浮かぶ。そうだ、言われるがままにダンジョンを出たせいで車両を返した隊員達に巨大化したモンスターの事を伝えていなかった。


「了解した。司令室に向かう」


報告を聞くや否や、広瀬は信じられない速さで椅子から立ち上がると


「本田さん。大変申し訳ありませんが私はこれで失礼させて頂きます」


と告げ、足早に部屋を去ろうとする。彼が立ち上がった際にちらりと見せた、まるで虎のような気迫に、私は背筋に緊張が走るのを感じた。これまでの穏和な雰囲気から一転、広瀬は既に「戦う男」になっていたのだ。


「一佐、お待ちください」


しかし広瀬がドアノブに手をかけた時、東が彼を呼び止める。


「一佐、司令室に本田さんをお連れしては如何でしょうか?彼は既に単独で件のダンジョンに侵入し、モンスターを撃破しています。現場で戦った人間が居た方が状況把握も捗るかと思います」


「しかし准尉、ここの司令部は機構の中枢と言うべき存在。そんな場所に外部の人間を入れるのは...」


そこで東は仕方なさそうに微笑む。階級は広瀬のほうが上のはずだが、彼らの間には自衛隊や軍隊で良くイメージされるような、厳格な上下関係というものがあまり感じられなかった。


「その理屈はこの城塞一号に本田さんを招いた時点で通用しませんよ。それに彼はとっくのとうに、我々の一員として戦う意志と覚悟を示しています。であればその意志を汲むのが筋ではないでしょうか?本田さんも、そう思うでしょう?」


東は今度は私に向かい、いたずらっぽく微笑みかけて来た。


東と初めて出会った時からそうだったが、この人はこちらに話しかける時、必ずこちらの目を真っ直ぐと見つめてくる。それは決して不愉快だったり、気恥しいものでは無く、「この人を信じておけば問題は無いだろう」という不思議な安心感を与えてくれた。


そしてその感覚に従い、私は椅子から立ち上がる。


「はい。それに今伝えられた被害は、私がダンジョンから出る際に言伝をしてさえいれば防げたはずです。その償いの為にも、私に出来ることがあればどんな些細な事でも協力する所存です」


私の人生の中で今まで、ここまで地位が高い人間に対して声高々に宣言をした事は無かった。私の言葉を受け、広瀬はゆっくりとドアノブから手を離す。


「その目...。東の言う覚悟というのは本物のようですね。良いでしょう、司令本部へとお連れします」




広瀬に連れられて足を踏み入れた司令室。それは明らかに、広大なコンサートホールを改造したものだった。大理石(ここはダンジョンなので現実世界における大理石ではないのかもしれないが)でできた真白の壁は美しいステンドグラスで所狭しと彩られており、天井には煌々と輝く巨大なシャンデリアがぶら下がっている。


そしてそれらに囲まれた観客席。本来ならそこにあったであろう数百以上の席は全て、無機質な白いデスクに置き換わっており、その上で職員達が操作する数多のパソコンが青白い光を放っている。更にホールの最奥にあるステージ上には一枚の巨大なモニターが備え付けられており、ダンジョン内と思しき映像から、まるで解読出来ない英数字の羅列が目まぐるしく動く様が、モニター上で分割され同時に映し出されていた。


あまりにもちぐはぐなその光景に、私は司令室に入った瞬間から目がチカチカしてしまった。広瀬はそんな私を巨大モニターの前に設置された長テーブルに案内する。これも、幅がステージと同じ位の巨大なものだ。


「平川陸将、並びに宮野空将。只今戻りました」


(陸将に空将...!この人達が...!)


モニターとテーブルを挟む形で座っていた二人の人物を見て、全身に緊張が走る。




これはダンジョン機構に入省(厳密には防衛省に入省だが)した際の研修で学んだことだが、ダンジョン機構は陸海空の戦力を柔軟に組み合わせることでダンジョンの脅威に対抗することに加え、「日本からダンジョンという脅威が排除されるまでの、一時的な組織である」という対外的な政治的スタンスを保つ為に、ダンジョン機構には陸将や幕僚長といった、所謂「将官」に当たる階級が存在していない。その為、重要な作戦の立案は、ダンジョン機構の正隊員に陸海空の将官を交えて行われるそうなのだ。




この二人は陸上自衛隊と航空自衛隊のNO,2。そんな彼らがこの場に居るということは、それだけ重要な場に自分は呼ばれたという事になる。


「広瀬一佐。彼は件の、本田聡さんですね?」


モニターを見ていた平川陸将がこちらに視線を寄越す。歳は私よりも少し上だろうか、広瀬と似た、穏やかな雰囲気の人物だった。とても「将」が付く階級の人間とは思えない。


「初めまして、本田さん」


平川陸将に続き、手短に挨拶をしつつこちらに視線を移してきたのは、スキンヘッドに細縁フレームの眼鏡をかけた宮野空将であった。こんな事口が裂けても言えないが、正直ヤクザの組長だ、と言われたほうがしっくり来るほどの強面だ。


「彼をここに招いた、という事は今回の作戦立案に彼の助力が必要だと考えたからですね?」


「左様です、宮野空将」


「であれば話は早い。本田さん、どうぞこちらにお座り下さい」


宮野に促されるまま、私はおずおずと勧められた席に座る。広瀬達に見せた威勢は何処へやら、二人の将の前に私はすっかり萎縮してしまっていた。


「では聡さん。まずはこちらの映像を」


平川陸将が手元のノートパソコンを操作する。すると目の前の巨大モニターが1度全て消え、続いてとある映像を映し出した。


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