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第33話 次世代型筋力超強化装甲、SASMA(サスマ)

「ぷ、プレシャさんこれは...!?」


自然と拳銃をキャッチしてしまった私は慌てふためき、思わず普通の言葉でプレシャを呼んでしまう。




『ご心配なく。安全装置がかかっている上、そもそも弾丸が込められていません。申し訳ありません。それを抜こうとした彼の放つ圧が余りにも強く、過剰に反応してしまいました...』




それを聞いた私は恐怖から拳銃を持つ手が自然と強くなった。私のような人間ですら広瀬の表情が変わった途端に空気が変わったのが分かったのだから、プレシャが感じた”圧”というのは相当なものだったのだろう。


「はっはっは。まさか銃に触れる前に奪われるとは思ってもみませんでした。やはり貴方の力は恐ろしいものですね」


机の上に広がる文字を見ても怯む様子一つ見せず、広瀬は再び人の良さそうな笑みを浮かべる。


「本田さん。手荒な真似をしようとしたこと、どうかご容赦下さい。プレシャさんの能力、その威力の程をどうしても直接見てみたかったもので。その拳銃には弾は一切こめられていませんのでご安心下さい。もし不安ならお帰りになるまで持っていても構いませんよ?」


「い、いえいえそんな!これはお返しします...!こちらこそ背広を破ってしまい申し訳ありません...」


私は急いで拳銃を広瀬に返した。本当に弾が入っていないのか、拳銃の仕組みをそもそも良く分かっていない私には確かめようがないが、プレシャがそう言うのなら問題は無いだろう。


「お気になさらず。仮にも守るべき国民に銃を向けようとしたのだからこれしきの報いは受けて当然。それと戒めとしてこの文字も残しておくことにしましょう」


そう言いながら広瀬は横の東に目で何かを合図する。それを受けた東は広瀬に小さく頭を下げるとそそくさと部屋を出て行った。


「さて。本田さんとプレシャさんの力の詳細が分かったので話題を次に進めるとしましょう。当初我々はプレシャさんの力を用いて常に不足状態にある弾丸を多量に生産することを視野に入れていました。しかし予測通り、プレシャさんの力はあくまで本田さんと明智優芽を守る為にしか用いることが出来ない。そうなるとやはり本田さんには現場にて直接戦闘を行って貰う必要がある。しかし本田さんは40歳という年齢に加え、自衛隊にも入隊した事が無い...。これらの事実を踏まえた上で本田さんとプレシャさんの力を十分に発揮してもらうべく、改めて考慮すべき事柄がありますので、本田さんが正規の隊員として現場に出るのはもう少し先になるかと思います。ただ折角我々の本丸まで足を運んで頂いたので、この機会に本田さんには、この国をダンジョンの脅威から守るダンジョン機構というものをより詳しく知って頂きたい」


その時東が部屋に戻って来た。その手には分厚いファイルと、シルバーの大きなジュラルミンケースがあった。


「良いタイミングですね。ではまず機構の隊員が用いる標準的な武装についてお教えします。以前東から聞いている通り遠距離からの攻撃が制限されている関係上、我々は近接戦闘にてダンジョンのモンスターと戦わなければならない。そして人間とは比較にならない膂力りょりょくを持つモンスターに対抗するための最重要装備が、これになります」


そこで東は机の文字を避けてケースを置くとそれを開く。中には優芽や他の隊員がいつも身に着けている、あの光る鎧が一式入っていた。


「藤峰重工製、次世代型筋力超強化装甲、通称SASMAサスマ。これを四肢に装備した人間は装甲が放つ特殊な電気信号により一時的に筋肉を限界以上に収縮させ、爆発的な力を発揮することが出来ます」


私はその説明を聞きながら、今まで明智や他の者達が見せて来たおよそ人間とは思えない跳躍や怪力を思い出していた。彼らの力の秘訣は、やはりこの装甲にあったようだ。


「しかしこのSASMAは人間の筋肉そのものに強い負荷をかける為に短期間で連続使用したり、一気に強い力を発揮すると伸びた筋肉が一時的に元に戻らなくなり、最悪二度と機能しなくなる『収縮障害』という病気を引き起こしてしまいます。それを防ぐべくSASMAにはACDSエーシーディーエスという、重度の収縮障害を起こす前にデバイスを強制シャットダウンさせる機能が搭載されているのですが...」


そこで広瀬は装甲の一つをおもむろに取り出し、自身の左手に身に着けた。瞬間ブオン、という機動音と共に装甲の隙間から青白い光が漏れ出す。


『次世代型筋力超強化装甲、サスマ起動しました。注意、本デバイスはユーザー登録がされていません。安全の為、本デバイスの運用にはユーザー登録が必要です。デバイスの発光が青から黄色に変わった後、予め設定された解除コードを音声にてご入力下さい』


「コード6E、1355」


広瀬が左手に向かって解除コードらしきものを唱える。するとSASMAの発光が黄色から再び青に変わる。


『解除コード、承認。これにてユーザー登録は完了です』


「今のがそのACDSを解除するパーソナルコードになります。モンスターとの戦闘では予測出来ない危機に陥る事が多々あり、それを脱するためにACDSを解除し、限界を超えてSASMAを使い続けた結果、一命を取り留めたものの日常生活に多大な支障を来す隊員が後を絶ちません」


そう言いながらSASMAを外す広瀬の顔は、やるせない思いが隠しきれていなかった。現場を指揮する立場の人間としては当然の感情だろう。


(彼らが私を必要としていることがより一層理解出来たな...)


広瀬がSASMAをケースにしまうのを見ながら、私は無意識に気を引き締めたのだった。







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