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第20話 プレシャと、そうお呼び下さい

「あ、明智さんを...?」


私の頭に、再び”はてな”が浮かぶ。


「左様です」


「でも、何故明智さんなのです?彼女は私とは何の関係も無い、ましてやついこの間出会ったばかりの関係ですよ?」


女は再びその場に腰を下ろす。


「申し訳ありませんがそれもまた、今はお話することが出来ません。加えてこれまでの経験と私が彼女を『守護対象』と呼称したことから、何となくお察しされているかと思いますが、この力は『ダンジョン内で守護対象又はその守護者、又はその両者に差し迫った危険があり、かつその危険を直ちに排除するのに有効な手段が無い場合』に初めて発動します」


「......」


知りたい情報をはぐらかして来た上に、勝手に話を進め始めた女。しかしだからといって、彼女に掴みかかって無理矢理それらを吐かせる訳にも行かなかった。


この女は私の脳内に直接話しかけることが出来る上に、音も立てずに家の中に入って来たのだ。下手に手を出して危害を加えられたり、家を壊されたりでもしたら...。そう思うと、私は女に対して強気には出られなかった。


「...一旦、話を整理させて下さい」


私は相変わらず立ったまま、女にそう告げる。


「まず貴方はダンジョンに関わる何か凄い存在で、ダンジョン内のモンスターに効く弾丸を自由に作り出せる。だがそれを使うには私か明智さんが、ダンジョンの中で危険な状況にならなければならない。そして私はこの力を使って明智さんを守って欲しい...ここまで間違いありませんか?」


「はい、間違いありません」


女はにこりと、お手本のような営業スマイルを返す。状況と場所が違えば可愛らしい仕草と思えるのだが。


「では、お話を続けて下さい。先程貴方は、この力には少々の制限があると言いかけていましたが...」


「その通りです」


女は待ってましたとばかりに、人差し指をピンと立てる。


「『ダンジョン内のエネルギーを規定した範囲で具現化する』と申したように、この力を用いるには大前提ダンジョン内に聡さんがいる状態で、エネルギーをどのような形で出力するか予め定められている必要があります。そしてその形が『メインスキル』の【無限弾倉インフィニティマガジン】、という訳です」


「形を後から変えることは出来ないのですか?」


女は首を横に振る。


「残念ながらメインスキルは一度形を定めてしまうと、それを変更することは出来ません。ただその代わり、メインの力とは別に二つ、その形を定めずにある程度自由にエネルギーを使うことが出来ます」


女は人差し指に続いて中指と薬指を立てた。


「その一つ目が『補助スキル』という名で使わせて頂いたものになります。これは『聡さん本人がご自身の能力の範囲で行える動作を代わりに行う』というものです」


「というと...?」


「例えば銃の装填を行った【自動装填オートリロード】。今の聡さんに銃の知識はありませんが、仮にそれをしっかりと学べば、拳銃や小銃の再装填リロード程度なら問題なく行えるようになります。このように貴方の能力でなら本来不自由なく行える諸々の動作が、知識不足等の障害により行えない場合、それを補うという形でこれを用います。ただ...」


女は続ける。


「そんな聡さんでも数メートル以上離れた場所にあるものを、道具も何も使わず引き寄せることは不可能です」


その発言に私は小首を傾げると共に、何処か楽しそうに己の能力を話す女に少し警戒心が解けて来たことでその場に胡坐をかいて座った。


「でも貴方は今日それをやってのけましたよね?」


女は再び、よくぞ聞いてくれたとばかりにぱっと表情を明るくする。所作と言葉遣いから知的な雰囲気を醸し出している一方で、私の言葉にいちいち反応を示すところは子供のような無邪気さを覚える。


「はい。それこそが二つ目の『緊急生成スキル』です。メインスキルでも補助スキルでも対処出来ないような状況に陥った時、私の判断で、ごく短時間ではありますが聡さんの能力を遥かに超えた、メインスキルに匹敵する現象を引き起こす事が可能です。ただしその分反動も大きく、これを使った場合には約一分間メインも補助も使うことが出来なくなり、更にそれが経った後でも能力の幅が制限されます。先刻の戦闘で小銃では無く小口径の拳銃に弾丸を補充したのは、その為です」


そこまで話し終えた女はふぅ、と小さく息を吐く。


「ここまでが、私の能力の概要になります。ここからは聡さんからのご質問にお答えしますね」


女は背筋を改めて伸ばし、期待の眼差しを私に向ける。


「分かりました。ではまず、その体は一体なんなのです?それも、貴方の能力なのではないのですか?」


「ご説明します」


すると女は先程まで掲げていた右の掌を私の鳩尾に伸ばして来た。


「な、何を...」


私は無意識に腕を交差させてそれを防ごうとする。しかし彼女の手は私の腕に遮られる無く、何と私の体を透り抜けたのだ!


「この体は私の中に残るエネルギーを用いて作った義体です。実体が無い分生成に必要なエネルギーは極めて少ない為、スキルの柵に捕らわれる事も無い上に、ダンジョン外でも作り出すことが可能です。私の声と同じように、これを視認出来るのは聡さん本人のみですけどね」


私の体から腕を引き抜いた女は、目を丸くしている私に、にやっといたずらっぽく笑う。


「それとこれは余談になりますが、この体は私が適当に作ったもので、後から好きに形を変えることも出来ます。性別は勿論、年齢、顔や体の造形、ひいては着衣の有無までそれはもう自由自在に。試しに裸になってみせま...」


「ま、待て!このままでいい!変える必要は無い!!」


例え実体が無いとはいえ、家族の前で裸の他人を晒す訳には行かない。私は慌てて女を止めた。それが愉快だったのか、女は口に手を当てくすくすと笑う。


「勿論冗談ですよ。ではこの姿で今後もお付き合いさせて頂きますね。気に入って頂ければ、私としては嬉しいです」


女はくるりと私に背を向け、弾むような足取りで机に向かって歩き始める。


「今後も...ってことはこれからも私の前に現れるつもりか...?」


女は足を止め、顔だけをこちらに向けた。


「聡さんが望む以外に私が必要だと判断すれば、そうさせて頂きます。今回体を作ったのも、脳内に話しかけるよりもこうして直接お話したほうが良いと判断したからです。もう随分と長い間、この家では言葉を交わすという時間が失われているようですからね」


女は何処か寂しそうな顔で、私の後ろの仏壇を眺めた。思わず私も、遺影に向かって振り返る。言われてみれば確かに、彩と陽葵が無くなってからこの家で言葉を発す機会は、仕事から帰って来た時に遺影に向かって手を合わせる時だけだ。家の中で、誰かと会話をするのは何十年ぶりだろうか...


「あの...」


身体を元に戻した時、そこにはヒグラシの物悲しい鳴き声が響くだけで、既に彼女の姿は無かった。


「......」


私は彼女がまだテーブルの傍にいるような気がして、彼女が立っていた場所まで歩み寄り、手を伸ばした。だが当然掴めるものは何もなく、私の右手は虚しく空を掴む。


「名前、何だったっけか...」


私は拳を開き、そう呟いた。すると




『私の名はプレシャ・スカース。プレシャと、是非そうお呼び下さい。今日は本当にお疲れ様でした。今夜はゆっくりとお休み下さいね』




脳内に、プレシャのアナウンスが響いて来た。そうか。姿は見えなくても、直ぐ傍に居るのか。そう考えると、何だか不思議と心が安らいだ。


「ありがとう、プレシャさん」


そして私は、つい数分前まで警察に連絡までしようとしていた相手に対し、感謝の言葉を述べてしまうのだった。







最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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