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第19話 突然の美少女登場 

「彩、陽葵、ただいま。父さん、大変な事になっちゃったよ」


あれから東の厚意で、今度は車で直接家まで送り届けて貰った私は、帰宅早々、遺影に向かって力無く微笑んでいた。


「父さん結局、戦うことになっちゃいそうだ。二人共ごめんね」


東に入隊の意志があることを伝えた時、家族の事が過らなかった訳では決して無い。ただそれでも、彼が上からの圧力で、背負う必要の無い重荷を背負うことになるのなら、せめて自分の意志でそれを決めたかった。


だがそんな想いがあっても「死んだ家族はきっと私に、戦いに身を投じることなんて望まないだろう」という、昨晩の思いを早々に裏切ったという事実は変わらない。


(私は、どこまでも弱い人間だな...)


私はそう心の中で呟いた。その時である。


「そんなことはありませんよ、聡さん。奥さんも娘さんも、貴方の事を誇りに思うはずです」


あの声が聞こえて来た。しかも今度は脳内に響くのではなく、私の耳に、ごく自然に流れ込んで来たのだ。私は驚きの余り声のする方に振り向き、そして飛び込んで来た光景に、心臓が止まりそうになった。


「こんばんは、聡さん。こうして面と向かってお話するのは、これが初めてですね」


夏のうだるような西日に照らされたリビング。その中心に置かれた、今や私しか使わないテーブルの傍に、黒いスーツを着た若い女が静かに佇んでいた。


すっきりとしたボブカットで整えられた黒髪に、凛々しい顔立ち。微笑を浮かべてこちらを見る細い眼。すらりとした体付き。年は二十歳そこらだろうか、かなりの美人だ。


「あ、あんた一体...!?ど、どうやって家の中に...!?」


「驚かせてしまい申し訳ありません。順を追って説明したいところですが...部屋が少々暗いですね。お邪魔させて頂いている身で厚かましいお願いですが、灯りを付けては貰えませんか?この体では照明のスイッチを押せないので」


女は遠慮がちに肩を竦め、そう願い出て来る。しかし冷静さを失った私は震える手で傍に置かれた携帯に手を伸ばし、警察を呼ぼうとする。しかし




『110番をするのは得策とは言えませんよ。この姿は貴方にしか見えないので。危害は加えないことをお約束しますので、どうか部屋の灯りを付けて下さい。お願いします』




今度はあの脳内に直接響く声で、女が忠告してきた。私は女のほうを見る。言葉が流れている間、彼女は笑みを浮かべているだけで口を一つも動かしていない。


「わ、わ、分かりました...」


私は携帯から手を放し、その手でリビングの灯りを入れる。


「ありがとうございます。では楽な姿勢で聞いて下さい」


部屋が明るくなると、女は私の傍にゆっくりと歩み寄り、丁寧な仕草でその場に正座した。一方の私は驚きが冷めず、その場に立ち尽くしたまま彼女を見下ろす。どう考えてもそれは「楽な姿勢」とは言えなかったが、女は構わず言葉を続けた。


「それではまず、自己紹介をさせて頂きますね。私は『プレシャ・スカース』と申します。一昨日から貴方に直接語り掛け、そして『スキル』という形で貴方に力を与えていた存在です」


「......??」


私は、女が言っている意味がよく分からなかった。


「混乱されるのも無理はありません。一つ一つ、説明させて頂きますね。聡さんは本日の作戦において、あの明智という女性隊員が用いていた『怪弩』と言う名の武器を覚えてはおいででしょうか?」


「お、覚えています。あの化け物みたいなボウガンのことでしょう?」


「左様です。ダンジョンにはあの『怪弩』を始めとして、聡さん達が住む世界の常識では考えられない現象を引き起こすものが数多存在しています。私という存在は、そんなイレギュラーなものの一つだと、今は理解して下さい」


「な、なるほど...」


私は彼女の言う通り、「この女はダンジョンに関わるもの」として、無理矢理飲み込んだ。


「そんな私が扱うイレギュラーな現象。それは『ダンジョンに内在するエネルギーを規定した枠内で自在に具現化する』というものです。聡さんは一昨日からダンジョン内で『インフィニティマガジン』という形で弾丸を無から生成する場面を、何度も目の当たりにしていますね?」


「えぇ」


「それが私、厳密には私と言う存在を使役出来る聡さんの能力です。ただこの能力には少々の制限がありまして...」


「ま、待ってくれ!話を進めないでくれ...!」


そこで私はどうしても聞きたい事があった為、女の言葉を無理矢理止めた。


「まず貴方がダンジョンに関わるもので、その力の一つが私に宿った、ということは何となく分かりました。だが、何故私なんです?一昨日あの場には私以外の一般人は勿論、ダンジョン機構の隊員が何十人といた。貴方の意図は分からんが弾丸を作り出せる力は、少なくとも私なんかより私より若い人間か、ダンジョン機構の人間のほうが使いこなせるはずです」


その問いに、女はすくっと立ち上がると浮かべていた笑みを消し、真剣な表情で私をじっと見つめた。


「この力が貴方に宿った経緯については、貴方に多大な混乱を招く為今は決して話す事は出来ません。ですが私の意図、即ちこの力の行使の仕方。それだけはこの場で伝えておきたいと思います」


「行使の...仕方」


はい、と女は大きく頷く。


「そしてこれは私からの願いでもあります。本田聡さん、貴方にはこの力を使い、明智優芽一士という人間をダンジョン、そしてその他の脅威から護って頂きたいのです」


最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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