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第1話 おじさん、ダンジョンへ

「それじゃ田中君、後はよろしく頼むよ」




仕事が一段落した私はPCをシャットダウンさせると共に、書類の一部を前のデスクに座る後輩である田中俊に渡す。




「ありがとうございます。お疲れ様です!」




二十歳以上歳が離れているにも関わらず、田中はいつもと変わらずの朗らかさで書類を受け取る。この対ダンジョン機構に就職してから約一年、彼もかなり仕事が出来るようになってきた。大した仕事もしていないし出来ない私だが、それでも上司としては嬉しい限りだ。




「それじゃあね」




私は鞄を手に取るとオフィスを後にし、薄暗いエレベーターホールでエレベーターを待つ。彼がいるこの建物はその他の官庁の中で最も新しいが、その中の体勢は他の省庁と全くと言って良い程変わらない。




エレベーターで一階に降り、職員カードで出入り口の自動ゲートを開け、私は蒸し暑い夏の夜の中へ繰り出す。




その瞬間、目の前の道路を「耐ダンジョン防衛・封鎖機構」と白字で記載された装甲車が通り過ぎる。街中を武装車両が走る等、かつての日本では考えられない事であったが、今ではそれも見慣れた光景だ。




ダンジョンが出現し、対ダンジョン機構が設立されてから約二十年。緊急の為とはいえ、自衛隊以上の規模の軍事機構を、国民の意思を一切汲み取る事無く設立した事に対し、国内外は荒れに荒れた事を良く覚えている。




もっともその時の私は、家族の事で頭が一杯で、世間の動きを気にしている場合では無かったが。




信号が青に変わる。私は横断歩道を渡って、地下鉄の駅へと続く階段を、いつもと変わらない重い足取りで降りる。




マイホームなんて、買わなければ良かった




何度自分に言い聞かせても、この階段を降りる時だけは、そう考えてしまう。




「幾ら安泰だからって、今の時代にマイホームはちょっとねぇ...」




あの時大人しく妻の意見に従っていれば。それで運命が変わらないとしても、少なくとも、一人で暮らすには広すぎるあの一戸建てにローンを払い続けるなんて事には、ならなかったのに―




『警告、警告。ダンジョンの出現を検知。周囲の皆さまは落ち着いて非難をして下さい。繰り返します...』




物思いにふけっていたその時、低い天井の構内に、けたたましい警告音が鳴り響く。それに伴ってホームに続く階段から、悲鳴と共に人々が物凄い勢いで駆け上がって来た。




「ヤバいヤバいヤバい!!!」




「いや、死にたくないッ!!」




老若男女問わず、皆恐怖に顔を歪めながら、我先に改札を通り、地上に戻ろうとする。私はそんな人達が作る波に呑まれ、一瞬で冷たい床に押し倒される。




「ま、待ってくれ...」




だが誰かに手を強く踏まれ、その痛みに顔を歪めたとき、目の前の薄汚れた冷たいタイルが一瞬で黒い土の地面に変わった。




そしてその直後、頭上から降り注ぐ悲鳴がより一層強く、そして悲壮に満ちたものに変わる。




間違いない。私達は、ダンジョンに閉じ込められたのだ。かつての私の家族と、同じように

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