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第11話 明智優芽(あけちゆめ)一士

優芽はギプスが装着された、未だ強張りが残る両の手を時折眺めながら、上官である東が参加している作戦会議が行われている第一会議室の前で、東がそこから出て来るのを待っていた。




会議の内容は一昨日霞ヶ関駅内に出現したダンジョンの処遇についてだ。ダンジョン機構は出現したダンジョンに登録名を与えた上で、「封鎖対象ダンジョン」と「保存・調査対象ダンジョン」のどちらかにカテゴライズする。




前者は「それが存続することで国民の生活や財産、生命が著しく損なわれる可能性が極めて高い」と判断された場合にカテゴライズされ、直ちに封鎖、即ちダンジョンそのものを消滅させる処置が取られる。過去から今に至るまで、実に八割以上のダンジョンがこれに該当されており、その度に戦闘員が送り込まれ、「処置」を達成させる為に奮戦する。




一方後者は「国民の生活や財産、生命が著しく損なわれる可能性が相対的に低く、かつその内部に希少な資源や情報の存在が認められる」場合にカテゴライズされ、機構による厳重な管理の下で、資源採掘や現地調査が行われる。




今回のダンジョンは、駅構内にその出入り口が存在しているせいで丸ノ内線だけでなく、霞ヶ関駅を通る全ての地下鉄がその運航を休止していることもあり、まず間違いなく封鎖対象ダンジョンになることだろう。




その上で優芽は、これから発動されるであろう封鎖作戦に自分も参加したいと東に具申する為、かれこれ一時間近く会議の終了を待っているのだ。




(...私は、まだ戦える)




優芽はそれを自分自身に示すかのように、胸の前で拳を握る。あの民間人が助けてくれたお陰で、奇跡的に腕の機能を失わずに済んだ。リハビリの効果もあり、一昨日は感覚さえ無かったそれらが、今はもう十分に動かせる。




でもだからこそ。優芽は自分の不手際のせいで守るべき国民に銃の引き金を利かせた事に対し、強い後悔の念と無力感を抱いていた。それらを払拭し汚名返上を果たす為に、優芽は作戦の参加を望んでいるのだ。




「...!!」




その時会議室の扉が開き、幹部級の人間がぞろぞろと廊下に出て来た。彼らは皆そこに優芽が立っている事を確かめると、何か含みのある視線を向けた後に足早にその場を去ってゆく。




(この目は、嫌いだ...)




ダンジョン機構に所属した時からずっと、彼らが自分に向ける視線は常に普通の人間に対してするそれではないことは、「普通の人間」でない自分自身が一番良く分かっている。




「何をしている、明智一士」




不愉快に負け最後に出て来た人間を睨みつけてやろうか、とか考えていたその時、眉間にたっぷりの皺をよせた東が会議室から出て来る。




「東准尉。意見具申をしたく、お待ちしていました...」




その顔に怯みつつも、優芽は口を開く。だが東は彼女の顔を見て何かを察したのか、眉間の皺を更に深くして、手にしていたバインダーから一枚の紙を取り出し優芽に渡した。




「これは...」




「今回の作戦、上からの意向で明智一士には特別任務が与えられることになった。ここにその内容が書かれている。明日までに頭に叩き込んだ上でシュレッダーにかけておけ」




作戦に参加出来る。その喜びに目を輝かせつつ、優芽は「個別の任務なんて久しぶりだな」と思いながら、渡された紙に目を通した。




その瞬間、彼女の瞳に浮かぶ感情が喜びから、驚きと戸惑いに変わった。




「異論は下の階で聞く。第十三会議室が空いていたはずだ」




彼女の反応は想定の範囲だったようで、またもや優芽が何か言う前に東は踵を返し、エレベーターホールに向かって歩き始めた。






「一体どういうことですか!?あの民間人を作戦に加える上に私がその護衛に当たるなんて...!それに私はまだ一士ですよ!?そんな身分の人間に何故、『怪弩かいど』の運用を任せるんですか!?」




第十三会議室の扉を閉めた途端、優芽は東にまくし立てるように異論をぶつけた。




「理由は他でも無い。機構としては何としても、一昨日君が報告した現象の再現とその詳細を突き止めたいんだ。その為には、一昨日の状況を可能な限り忠実に再現するのが最も合理的だと判断した」




だがそう淡々と告げる東も、苦い表情を浮かべている。東もまた、本田が再びダンジョンに入る事に異を唱える人間であったからだ。




「そうだとしても流石に滅茶苦茶が過ぎます!彼はただのサラリーマンですよ!?SASMAサスマの運用訓練すら受けていない外部の人間を作戦に参加させて、それで死傷でもしたら...」




「その為の『第三種特殊発掘物』だ。『怪弩』の力があれば手負いの君だけでも彼一人を守り切るのは容易い。それにこの任務の目的はあくまで彼を護衛した上で一昨日の現象の再現を試みる事だ。『コア』との戦闘にまで彼を巻き込む必要は無い」




「それは...そうですが...」




そこで優芽は何も言い返せなくなってしまう。第一、階級の低い自分が決定された作戦に文句を垂れたところで何も変わらないことは良く分かっている。その上で東は、自分の異論と言う名の愚痴に付き合ってくれているのだ。




「...了解しました。明智一士、本任務を受領致します」




暫く難しい顔をしていた優芽だったが、これ以上多忙な東の時間を取らない為、最終的に意を決して作戦の受領を伝えると、東に対して敬礼をし、回れ右で会議室を出て行った。

最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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