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第9話 スキル発動...?

「もっとも」




東は刀を置き、そして最も近くに置かれた拳銃を手にすると、グリップの下部から空の弾倉を抜き、スライドをオープンの状態にする。




「貴方に起きたその現象...ここでは貴方が聞いた通り『インフィニティマガジン』と称しましょうか。それが一体どういう条件で発動するのか、貴方自身も解していないかと思います。そこで一度、この場で試して頂きたいのです。ここに並べられている銃器は全て弾丸が抜かれた状態にあります。仮にインフィニティマガジンが発動する条件が『弾が存在していない状態の銃器に貴方が触れる事』であるなら、それだけでここでの検証は終了となります」




堅物で生真面目そうな男が「インフィニティマガジン」などという、ゲームの隠し要素とかで出て来そうな単語をさも当然のように使っている事に若干のこそばゆさを覚えつつも、私は「それだけでここでの検証は終了となる」、という言葉に僅かな期待を寄せた。もしここであの現象が即座に起きてくれれば、少なくともこの閉塞感しか覚えない射撃場からは解放されそうだ。




そして私は五つに区切られた射撃スペースの一つに案内された。私の目線の先には、映画や漫画で良く出て来る、人間の上半身を模した影に点数の書かれた的が描かれたターゲットが鎮座している。




「あの、ここで今気にすることではないとは思うのですが、自衛官やダンジョン機構の戦闘員でもない私がこんなところで国の銃を持ってよいのでしょうか...?」




法令遵守の精神が骨の髄まで染み込んでいることが伺えるその発言に対し、東は苦笑を浮かべながら答える。




「貴方の立場を鑑みれば、それは至極当然の疑問でしょう。ですがご安心下さい。我々の指示に従う限り、ここでした言動によって貴方の業務上の立場が危うくなることは決してありません」




「は、はぁ...。そうですか、それは良かったです...」




東に私はぎこちなく笑みを返す。今の発言に苦笑いを浮かべていた彼だったが、その目の奥は決して笑ってなどいなかった。




もし仮に(それは絶対に、絶対にありえないことだが)私がここにある銃のどれかに弾丸を籠め、それを使って彼を攻撃しようとしても、引き金を引く前に私は制圧されてしまうだろう。そういう危険性を考慮した上で、ダンジョン機構は私をここまで連れて来たはずだからだ。




「では、始めます。先ずはこれを手にして下さい」




生まれて初めて手にする、拳銃。これよりもずっと大きいものを私は昨日乱射していた訳だが、それでも冷静な状態でそれに触れるのは、多少の勇気が必要だった。




私は東から手渡された拳銃を握り、おずおずとターゲットに向かって構えた。銃と言うものはそれぞれ正しい射撃の姿勢というものがあるらしいのだが、そんなものなど知らない私の構えは、東から見れば随分と滑稽に見えているのだろう。




「......」




何も、起こらない。どれだけ長い間構えていただろうか。しかしどれだけ待てど、あの脳内アナウンスも、黒い揺らぎも、現れることは無かった。




「9mm拳銃、反応なし」




背後から東のそんな声が聞こえる。その声色は先程の映像の隊員とよく似た、抑揚の無い淡々としたものだった。




「あ、東さん...」




「心配する必要はありません。次はこちらをお願いします」




東は有無を言わさず、別の拳銃を渡して来た。どうやら、ここにある全ての銃器を試すようだ。




それからの時間は、一秒が一時間に感じるような、極めて長く、そして苦痛に満ちたものだった。恐らくこんな短時間でこれ程の銃火器に触れた人間は、少なくとも日本では私以外にいないだろう。




拳銃。散弾銃。果てには自分一人ではとても持てないバズーカ砲やロケットランチャー、巨大な機関銃まで、私はありとあらゆる銃器の引き金に指をかけた。しかし最終的にはどの銃火器も、あの黒い揺らぎによってその弾丸が補充、装填されることは無かった。




「AW50、反応なし。全ての火器による検証、終了」




最後にそう告げた東の声には、隠し切れない落胆の色があった。




(これで...終わりか)




一発撃っただけで体が吹き飛びそうな、大砲のような狙撃銃の引き金に指をかけながら、私は強い罪悪感を抱いてしまった。




さっさとこんな場を去って陽の光を浴びたい。その心に嘘偽りは無い。しかし数時間前、「あなたの発揮した力があれば現状を変えることが出来るかもしれない」という言葉と共に向けて来た、東の希望に満ちた視線を受けた時、私の鼓動は確かに強くなっていたのだ。




ダンジョン。それは私から最愛の家族を奪った、忌むべき存在だ。その脅威を押さえ得る力が自分にあるとしたら。その正体を突き止め使いこなせれば、書類の山が積まれた狭苦しいオフィスでつまらない事務仕事を淡々とこなすより、よっぽど機構に貢献出来ることだろう。しかしその淡い希望は、私の中で脆くも崩れてしまった。




「本田さん。これにてこの射撃場での実験は終了となります。長時間、お疲れ様でした」




タブレットの画面を閉じた東が、聡に歩み寄る。




「申し訳ありません、私...」




「気に病む必要はありません。ただ、”この場”で何も起こらないとなると、以降は検証の前提を変えなければなりません...」




「え。それはつまり...」




東はそこで、難しい顔をしながら眉間に皺を寄せた。




「本田さん。先程も言った通り、貴方が発揮した力は我々ダンジョン機構の現状を覆す、極めて有用なものです。故にダンジョン機構及び防衛省の上層は、何としてもその仔細を突き止めるよう、現場の我々に求めてきています」




私は、生唾を飲み込む。次の彼の発言は、何となく予想がついていた。




「本田さん。残念ながら貴方に、拒否権はありません。本日はこれでお帰り頂いて結構です。ただ時機を見て貴方には次の検証、即ち我々ダンジョン機構が管理する『国有ダンジョン』内での検証に、足を運んで頂きます」

最後まで読んで頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので、是非ブクマや評価お願いします。

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