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転勤で故郷に戻ったら、美少女になった従妹が待っていた ~従妹の少女と名所を巡る京都恋物語~  作者: アレセイア


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第10話-2 名神高速道路で大人のデート

■奈々視点

 兄さんの運転する車は夜の京都を小気味よく進んでいった。

 進んでいくのは京阪国道。確か、と頭の中の地図を手繰る。

(この先にあるのが京都南インター、だよね)

 名神高速道路にアクセスできるインターチェンジだ。

 もう間もなく、といったところで軽く兄さんは目を細めた。視線の先には近寄ってきたコンビニ。ウィンカーを出し、減速させながら兄さんは告げる。


「ちょっとコンビニ寄るか。高速乗る前にコーヒーでも買おう」

「あ、ついでにお手洗い行きたい」


 兄さんの気配りは本当に助かる。高速前のコンビニに彼は車をスムーズに乗り入れ、停車。兄さんが扉を開けるのを見て、私も車から降りる。

 冷たい空気が吹き抜ける。温かい身体には心地いいくらいだ。

 とはいえ、ここにいたら寒いだけなので、さっさと二人で店内に足を踏み入れる。


「じゃあ、お手洗いを済ませて」

「うん、それから買い物しよう」


 また後で、と言ってからお手洗いに入る。

 用を済ませてからは、軽く鏡で身だしなみをチェックする。何せ初デートで意外と間近な距離でずっといるのだ。ふと考えて香水を取り出す。


(匂い軽く消しとこ……あ、そういえば)


 ふと兄さんも香水を使っていたことを思い出す。あれはきっと車で一緒になることを想定してつけていたのだろう。程よいつけ方で、車の中でも気にならなかった。


(とはいえ、兄さんの匂いっぽくないけど)


 悪い匂いではないが、兄さんの普段の匂いも嫌いじゃないだけに少し勿体ない気もする。軽く自分の手首の匂いを嗅ぎ、香水を確かめてからお手洗いを出る。

 店内を見渡すと、すぐに兄さんに気づく。彼はアイスコーナーを軽く眺めているところだった。その傍に行って私も中を覗き込む。


「アイス食べるの?」

「ああ、意外と悪くないんだぞ、ドライブしながらアイスも。僕は食べないけど、奈々は欲しいなら買っていいぞ」

「兄さんが食べないならいいかな。折角ならお腹空いた状態で美味しいもの食べたいし」

「同感だ。じゃあ、コーヒーだけにするか」

「そうだね、コーヒー何飲もっか」


 視線をちら、とホットドリンクコーナーに向ける。だが、彼は笑って首を振ると、レジの方を指差して言う。


「折角のドライブだから、こっちはどうだ?」

「そっち……ああ」


 兄さんの指先が示していたのは、コンビニにあるコーヒーメーカーだ。その場で挽きたてのコーヒーを入れてくれるマシンで、普通に美味しいコーヒーが飲める。


「車だから紙コップでも大丈夫だぞ」

「そうだね。ついいつもの癖で」

「奈々は普段、自転車だからな」


 そう言いながら兄さんはレジに向かい、店員さんにコーヒー二つを頼む。店員さんが出した紙コップを受け取ると、兄さんは私にそれを渡す。


「ん、兄さんの分も入れとくね」

「助かる。ありがと」


 兄さんが会計をしている間に装置にカップを入れてコーヒーの抽出を始める。程なくして兄さんも財布をしまいながら合流し、装置を見やる。


「しかし最近のコンビニコーヒーは本格的だよな」

「お、兄さんは缶コーヒーよりコンビニコーヒーが好み?」

「というより、コーヒーはどれも好きだからな。一番はやはり、喫茶店だろう」

「ま、それもそうだよね……はい、兄さん」


 先にできた一杯を兄さんに渡す。さんきゅ、と彼は受け取ると香りを味わうように一呼吸。うん、と彼は一つ頷いた。


「万人受けするコーヒーだ」

「違いが分かる男、宮崎春馬」

「茶化すな。別にそんなんじゃないよ」

「でも品評しているじゃん」

「それくらいは分かるってくらいだよ。味も香りも癖が少ないし」

「まぁ、確かにそれくらいは分かるかも」


 他愛もない雑談をするうちにもう一杯の抽出も終わる。紙コップを片手に二人でコンビニを出ると、再び車の中に乗り込み、ドリンクホルダーにコーヒーを置く。


「……なんかいいね、二つ並んだカップって」

「デートみたいか?」

「そうそう。そんな感じ」

「確かに分かる気がするな、普段となんだか違う感じだ」


 兄さんは笑いながらエンジンをかける。だが彼はすぐに車を動かさずコーヒーを手に取って楽しむように一口。それから一つ頷いて微笑んだ。


「ああ、いいな。確かに」


 兄さんの低く穏やかな声とコーヒーの香り。私も軽くコーヒーを口に運びながら、高鳴る鼓動を感じる――ああ、今とっても幸せだ。

 好きな人と、好きな時間を共有し合っている。それが心地よくて嬉しくて。

 ふと兄さんは私の視線に気づいたのか、兄さんは目を細めながら手を伸ばしてきた。ん、と頭を差し出すと、彼の手が優しく髪を梳いてくる。

 地肌を撫でるように淡く、それから髪を指で軽く梳くように。

 くるり、と彼の指が私の髪を絡めてから、頬をそっと撫でる。そのごつごつした指先の感触がくすぐったくて、だけどぞくぞくする。

 思わず吐息をこぼすと、兄さんは困ったように眉尻を下げた。


「奈々、すごく無防備な顔だぞ」

「え、そう……?」


 思わず吐息をこぼしながら身体は勝手に兄さんを求めるように動いている。助手席と運転席の間を埋めるように距離を詰め、彼も軽く身を乗り出す。

 頬に両手が添えられる。目を閉じる間もなく、間近な距離で唇が重なり合った。


(……ああ、苦くて、熱くて……優しい)


 触れた場所が熱を帯びたように火照ってくる。それを何度も確かめるように彼は軽いキスを繰り返す。唇が擦れるたびに頭が痺れるみたいだ。

 初めてのときはあんなに緊張していたのに、一度受け入れてしまえばこんなにも気持ちよくて、だけど、どこか物足りない。身体の芯に火がつけられたみたいだ。

 やがて兄さんは軽く頬を指先で叩く――その終わりの合図で、私は夢見心地のまま身体を引いた。兄さんも頬を微かに赤らめながら少しだけ視線を逸らす。


「……これ以上は、ヤバい気がする」

「……うん、ヤバい。え……これってもっとディープなやつ、ある、んだよね?」

「みたいだな……」


 してみたい、と、今はヤバい、という気持ちがせめぎ合い、何となく気まずくなる。二人そろってコーヒーに手を伸ばし、軽く一口飲んだ。

 ぼやけた思考に熱いコーヒーの苦みはよく効く。彼はそれを飲んでから深呼吸を一つし、切り替えよう、と小さく告げた。


「いろいろ思うところもあるが、今日はドライブだ」

「……それもそうだね、残念な気はするけど」

「それはまた今度、だ。もう付き合っているんだから、焦る必要もない」


 その一言にどきっとさせられ――だけど、そのすぐ後に兄さんは苦笑いをこぼす。


「まぁ、同時に妹分であることも変わりないんだが」

「何よぅ、それ。世話がかかるってこと?」

「そうかもしれないし、逆に頼り甲斐があるかもしれない」


 軽口を叩き合ううちに、いつも通りの雰囲気が戻ってくる。そっか、とふと私は目を細めながら兄さんの方を見て笑う。


「恋人だけど、私たちは従兄妹でもあるんだね」

「ん、でもそれが悪いことじゃない。要するに都合のいい立場を取ればいいんだから」

「なるほど、家では妹分として甘えて、外では恋人として甘えると」

「……甘えてばかりなのが気になるが、まぁ、そういうこと」


 兄さんはそう言いながらシートベルトをつける。私もシートベルトをつけると兄さんはパーキングを解除し、ハンドブレーキも解除。慣れた手つきで車をコンビニから出す。そして走行を開始しながら、ふっと表情を緩めた。


「とはいえ、今は恋人同士の夜のドライブだな」

「えへへー、やったっ、兄さんを独り占めだな」

「そして、僕は奈々を独り占めと」

「……なんか兄さん、告ってから攻撃力高くない?」

「さて、どうだかな」


 楽しそうに笑う兄さんは、どこか吹っ切れたように爽やかだった。すぐに高速道路に乗り入れると、アクセルを踏み込んでぐんと加速する。

 周りも高速で駆け抜ける車だけになり、雰囲気が一気に変わっていく。


「わ、一気にドライブって感じだ――ちょっとした旅みたい」

「ああ。といっても日を跨がない程度で戻るつもりだから、そんなに遠出はしないけど」

「えー、初デートでお泊りしないの?」

「さすがにそこまでの用意はない」

「兄さんのケチ」


 他愛もない会話だが、普段よりもなんだか楽しくてどきどきする。それはドライブのせいなのか、恋人になったせいなのか。

 だけど、私たちは同時に従兄妹同士――そこに緊張感はあまりない。

 視線を向ければ兄さんと視線が交わり、それだけで笑い合える。


「じゃあ、適当に滋賀行くか、草津あたりで飯食おうぜ」

「あ、いい感じにお腹空いてきたかも」

「なら丁度いいな。ラーメンでいいか?」

「もちろん。なんかそれもドライブっぽくていいよね」

「だろ? 何系のラーメンがいいかな」

「兄さんは何が好き?」

「僕はそうだな――」


 それから私と兄さんは車の中で他愛もない雑談をしながらドライブを満喫した。いつもこんな雑談をしているのに、ドライブのせいか、話題は尽きない。

 ラーメンの話から、好物の話になって、かと思えば、滋賀の歴史の話。

 いつもと違う兄さんとの会話――だけど、これもまた楽しい。

 ラーメン屋もパーキングエリアも楽しんで、二人だけの時間を過ごし――。

 そして、いつの間にか、そんな時間は飛ぶように過ぎ去っていた。

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