平穏な日々 【月夜譚No.263】
玩具が部屋に転がっている。その楽しかった残骸の中央で、大の字になって寝息を立てる幼子二人。
入り口の扉に肩を寄りかからせて笑みの混じった息を吐いた彼女は、そっと中に入り込んだ。
トランプに独楽にぬいぐるみ。様々な遊びに興じたらしい。ボードゲームの駒を手の中に集めながら、彼女は幸せそうな寝顔を盗み見た。
ついこの間までは言葉も喋れずにいた子等だが、いつの間にこんなに大きくなったのだろう。家事に育児にと毎日を追われて、彼等の成長の過程の機微がすっぽ抜けたらしい。
けれど、これだけは覚えている。
この世に生まれてきてくれた瞬間。
母の顔を見て笑ったあの日。
覚束ない足で大地を踏み締めた姿。
成長の欠片はちゃんとここに残っている。
「んー」と苦しそうな寝言が聞こえて振り返ると、一人の足がもう一人の腹の上に乗っかっていた。
彼女は目を細めるとそっと足を退かし、二人のふっくらとした頬を愛おしげにつついた。