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第6話 ベルルの秘策





 公爵達が出陣した半時間後―

 ルーフェル達は、重い空気を漂わせ一言も喋らすに牛にブラッシングをしており、その空気を感じ取った牛達も心做しか元気がない。その様子はまるで葬式のようである。


「私達… ここで牛のお世話をしていて良いのかな…」


 ルーフェルがボソッと呟く。


「公爵様が仰ったとおり、未熟な私達が行っても足手まといになるだけだから、仕方が無いじゃない…」


 アイシャが溜め息交じりにそう呟く。だが、その表情は自分の未熟さに対する悔しさが滲み出ていた。


「でも、私だって皆の力になりたいよぉ~」

「わたくしもですわ~」


 姉妹が同時にそう叫ぶと、アイシャはルーフェルとサターナを説得する。


「二人とも落ち着きなさいよ。私達は公爵様の言付けどおり、この領地を守りましょう?」

「アイシャちゃん……」


 ルーフェルが悲しげな目で、親友の顔を見つめた。

 父である魔王と祖父が危険な戦場に向っているにも関わらず、自分達は何も出来ない無力感でルーフェルとサターナの心は押し潰されそうになる。


 だが、それはアイシャもレヴィアも同じで、彼女達の父親も戦場に向かっているからだ。

 二人が落ち着いているのは甘やかされた姉妹と違って、そのように教育されているからであった。


 すると、突然ベルルが泣き始めてしまう。


「うぅ~ お祖父様~」


 その様子に気付いた四人が慌てて駆け寄る。


「どっ どうしたの、ベルルちゃん?」

「どうしたのよ、ベルル?」

「どうしましたの、ベルルちゃん?」


 そんな四人に、ベルルは大粒の涙を流しながら必死に訴え始めた。


「お祖父様が… グス… 昨日仰ったのです…。おそらく自分はもう帰って来ないから、わたくしに強く生きるようにと… そして、ルーフェル様に誠実に忠節を持って、お使えせよと… グス…」


 ベルルの両親は流行病で既に他界しており、彼女の身寄りは祖父のデスセバスチャンだけであり、その彼が亡くなれば天涯孤独の身となってしまう。


 そのため、お利口さんとはいえ幼いベルルには、その悲しみが耐えらず思わず涙してしまったのだ。


 その言葉を聞き、ルーフェルは目頭が熱くなるのを感じた。


「デスセバスチャンさんが、そう言ったの!?」

「グス… はい……」


 アイシャの質問に、ベルルは嗚咽を漏らしながら答える。


「デスセバスチャンさんのその言葉が、武人としての覚悟の言葉なのか、それとも歴戦の戦士としての勘なのか……もし、後者ならこの戦い相当やばいのかも知れないわよ?!」


「そんな……!? じゃあ、アイシャちゃん! お父様やお祖父様も危険だってこと!?」


 幼馴染の言葉に、ルーフェルがそう尋ねるとツンデレ少女は黙って”コクリ”と首を縦に振った。その不吉な言葉が、言霊となって不幸を呼び込まないためだ。


「……」


 ルーフェルとアイシャが、お互いの顔を見て沈黙する。

 そして、数秒後ルーフェルはこう叫んだ。


「やっぱり、私達も戦場に行こう! そして、お父様とお祖父様― ううん、みんな(魔王軍)を助けに行こう!!」


「そうね……。ここで活躍すれば、四天王に近づくわね!」


 アイシャもルーフェルの意見に賛同し決意を固めるが、冷静さは維持しているので、続けて具体的な方針の論議を提案してくる。


「とはいえ、私達がこのままノコノコと戦場に行っても、状況は何も変わらないわ」


 四人がこのままルンルン気分で、戦場に駆けつけても援軍としては、あまりにも無力であった。


「まずは兵力を集めないとだけど……」


 そのためにはアイシャの言う通り、まずは兵力をどうにかしなければならない


「でも、戦える人(魔族)は、お祖父様と出陣しているよ?」

「そうなのよね……」


 ルーフェルの指摘に一同が腕を組んで思案に暮れると、突然牛達が「モーモー!!」と鳴いて騒ぎ始めた。


 すると、ルーフェルがこのような事を口にする。


「えっ!? みんなも一緒に戦ってくれるの!?」

「ルーフェル! アナタ、牛達の言葉が解るの!?」


「うん。何となくだけど…」

「流石はお姉さまですわ!」


 どうやら、召喚したルーフェルには牛達の言葉が解るようだ。

 そして、更に「モーモー」と鳴く牛達の通訳を始める。


「”デスセバスチャン様は、私達のお世話をしてくれました。そして、御主人様ルーフェルやアイシャ様、ベルル様も。その皆様の笑顔を守るためにも、一緒に戦いたいのです!”」


 集まってきた三〇〇頭の牛達の目には、決意が宿っておりその瞳はまるで炎のように燃えていた。


「みんな… ありがとう~ ありがとう~」


 その健気な想いに感動を覚えたルーフェルは、胸の前で両手を握り締めて涙目になりながら、感謝の言葉を牛達にかける。


「アンタ達…… ありがとうね」


 アイシャもルーフェルと同じように、胸に手を当てながらそう呟いた。


「牛さん達… 感謝します…」


 涙を拭いながら、ベルルも頭を下げる。


 こうして、ルーフェル達は三百頭の牛達を兵力とすることが出来たが、このままではまだ救援としては力不足であった。


「牛達の角による突進は強力だけど、何か作戦を考えないとただ突っ込むだけでは、下手をすれば手痛い反撃を受けて戦果をあげられないわ」


「う~ん…… 確かにそうだねぇ~」


 アイシャの的確な分析に、一同は再び腕を組みながら頭を悩ませる。


「はっ!? 今、わたくしの灰白質の脳細胞が“ピコピコーン”と音を立てて、名案を思いついた気がします!」


 すると、ベルルがこんな事を言った後に、自分が考えついた作戦を一同に伝えてきた。

 それは、先程まで泣いていたとは思えないような凛とした表情だ。


「牛さん達の角に刃物を取り付け、尻尾には油にひたした葦をくくりつけ、それに火をつけて敵陣の背面もしくは側面から走り込ませるのです! すると、その牛さん達の異様な姿と突進に人間達は怯えて、大混乱になるはずです!」


 ベルルは作戦内容を説明した後に、この作戦の名前を高らかに宣言する。


「わたくしこの策を“モーモーファイヤーの計”と名付けました!!」


「”火牛(かぎゅう)“じゃないの!?」

「わたくしには魔界漢字はまだ難しく… このような名前になりました」


 しっかり者に見えてもベルルはまだ10歳。漢字はまだ難しい。

 だが、アイシャはそんなベルルに容赦のないツッコミをいれる。


「でも、ベルルちゃん。刃物はともかく、尻尾に火は危ないよ~。牛さん達が、火傷しちゃうよ~」


 ルーフェルは、牛達に火の装備をつけることを心配するが、当の牛達が「モーモー!(いえ、御主人様、やらせてください!)」と作戦の実行を志願してきた。


「牛さん達……」

「アンタ達…。わかったわ! じゃあ、その作戦で行きましょう!!」

「アイシャちゃん!?」


 アイシャは、ベルルの立てた作戦を実行することを決める。


牛達(このこたち)の決意に、今は頼るしか無いのよ。その代わりにこの戦いが終わったら、たっぷりとブラッシングしてあげましょう?」


「……うん。そうだね…!」


 アイシャの言う通り、今は牛達の献身的な覚悟に期待するしかないのだ。

 そしてルーフェルは、目を閉じて祈るようにこう願った。


(どうか、牛さん達が無事で帰ってこられますように……)




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