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IF8:襲撃の後で。

キリカの部屋でしばらくのたうち回ったボクは、やっと平常心を取り戻した。



「うぅ……まさかドッペルの副作用があんなに強く出るなんて……


「んっ…とすれば、ドッペルローナは、よほど、凄惨な死を迎えたんだね…?」


「あー…うん、近くで見てたけど、剣で心臓一突きからの頭まで逆袈裟斬り。」



あの時、聖女の死体と共にドッペルの死体も回収したけど…半分にされた顔は絶望に引き攣っていたし…内蔵や脳漿(のうしょう)をぶちまけていてむごい死に方だった…。

およそ、ヒトとしての尊厳を無視した死に方。

ドッペルとは言え自分がそんな死に方をしたのと同じだった訳で……

それを聞いたキリカは直ぐに目から光が消えー



「は?聖女コロス。」



と言って陽炎が……待って待って!?

そんなに怒り狂っても相手はもう居ないから!!



「あのぅ…、その聖女はボクが殺して闇の空間へ放り込んだから確実にもう死んでるけど…?」



ボクが聖女の魔力を手に入れた以上、殺した聖女が偽物やクローンである可能性は低いはず。

ドッペルの秘術も知らなそうだったし。

それを聞いたキリカは直ぐに怒りを収めてくれた。

それと同時にボクに抱きついてきた。



「そうだった、流石ローナ、キリカの妻。」


「ひゃんっ♪あの……胸に顔グリグリしないで…?」


「ローナ可愛い。」


「……………襲うよ?」


「ばっちこぃ。」



その後、平常心を捨てて再び狼さんになったボクはキリカと滅茶苦茶イチャイチャした。



それから更に1時間後……

やっと復興現場へ行くと、ボク達を見付けたエリザが腰に手を当てて、呆れた様なジト目で見てきた……




「で?襲撃の翌日だと言うのに、元とは言え襲撃をしかけた者が所属してた国の王族2人に連合国首都の復興指揮を任せて昼までイチャイチャしてた事に対する言い訳は?」


「ハイ、ナニモゴザイマセン。」


「んっ。反省は、してる。」



と、ボク達が謝るとライ様も呆れたように苦笑いを浮かべた。



「お前ら真面目なのか不真面目なのか分かんねーな全く!

バカにしてる訳じゃねぇが、獣人ってのは国の大事(おおごと)よりつがいとイチャコラすんのがそんなに大切なのか??」


「んっ。だから兄さんも嫁の故郷へ突撃した。」



そう言ったキリカは相変わらずの無表情だけど何処か雰囲気がドヤってるね、可愛い。

まぁ、ライ様は更に呆れ顔だけど。



「は……………?

嘘だろ………マジかよ連合国……それでよく今まで侵攻されなかったな?」


「あ、獣人は基本スペックが他種族の倍近くあるから……



そう言いつつボクはキリカの頭を撫でる。

ボクの手に頭を擦りつけてくるキリカが可愛い。好き!!



「フェンリル帝国に次ぐ武力大国だからな、アスター連合国は。

だから()()()()鹿()()()()()()手を出さないものなんだがな。

むしろ我がアルカディア王国の方がアスター連合国に庇護されている国なくらいだ。」


「何故かエリザが誇らしげなのは可愛いがそれはそれとして、

俺の故郷、フェンリル帝国がお前らの同盟相手で、その上お前ら連合国の絶対的味方であるアルカディア王国に第3皇子である俺が婿入りしてる事実に感謝しろよな連合国!?」


「あ、うん。けど、その味方であるはずのアルカディア王国軍に襲撃されたのによくエリザとライ様の指揮が受け入れられたね?」

「そこはエリザの人徳だろ。」


返しが早いなぁ!?

間髪入れずにドヤ顔で返してくるライ様!!

本当にエリザの事好きすぎでは!?


「流石俺の妻だな!エリザの魅力は世界一ィィィッ!!」


「ら、ライ、恥ずかしいから、そのやめてくれ?」


「…………あ、ダメだわその顔。キスするぞ??」


「え。んむぅっ!?あふ…んちゅ…♡」


「…………んっ。ダメだコイツら。」


「多分ボク達には言われたくないと思うよ??」


「エリザとライは、キリカ達のこと、言えないと思う。」


「それはそうかもだけどさぁ………



と言うか人族なのに人前で堂々と舌を絡ませるキス出来るんだ!?キミ達も狼族か何かなの!?

一応、外だから気を使ったのか直ぐにキスをやめたけどさ。

人族にもボク達みたいな倫理観の人がいるもんなんだなぁ………

あ、ちなみに獣人達は特に気にしてない。

つがいが居る人は特に。なにせ自分達もそうだからね。

と言うか発情期にはその……我慢出来ずに外で致すこともあるし、ね…?

あ、でもエリザは恥ずかしそう。

真っ赤な顔を誤魔化すように咳払いをした。



「こほん…ま、まぁ、妾…んんっ…!

私が知らぬ……知らない以上、今回の襲撃は聖教会の仕業で彼奴等きゃつら……アイツらはアルカディア王国軍のフリをした聖教会軍だと説明したらアッサリ納得してくれたからのぅ……してくれたしな。」



うん?ライ様からキスされて動揺してるのか口調が素と女王陛下モードでブレてるよエリザ。あえて触れないけど。

ライ様は満足そうな笑顔でニッコニコだけど。

キリカは…まぁ何時もの無表情だけど空気を読んでスルーしたかな??

そして、ライ様は笑顔を引っ込めて真剣な顔になった…流石。切り替えが早いな皇子様。



「そもそも、盟主のキリル殿が俺達の歓迎会を開く為に準備してた時の襲撃だし、エリザが親獣人派なのは有名だしな。」


「んっ。キリカのおかげ。」


「そうだな、わっ…私がキリカやローナと親友なのもアスターでは有名な話だし。

だからこそ私の指示ではないと獣人の皆が信じてくれた。

最悪、逆賊の王としてこの場で処刑される事も覚悟していたから感謝しかないぞ。」


「ははは……そもそも伝令兵さんがエリザを含むボクたちに助けを求めて呼びに来た時点でお察しでしょ?」


「まぁ、そうだな。

むしろ獣人の皆に『アルカディアの女王として、此度の襲撃には妾が責任を取ろう』と言ったら『ならば盟主の居ない今、臨時で我らの指揮官となってくださいエリザベート女王陛下!!』と頼み込まれた程だ。

………っと、話し込んでいてはダメだな。

さぁローナ、お前にもしっかり働いてもらうぞ?

キリカ、お前は連合国の姫として皆を鼓舞しろ、ここからはお前の仕事だぞ?」


「うん、任せて!」

「んっ、任せて。」



それから数日間、ボク達は聖女共勇者パーティーが荒らした首都を整備して回った。

まぁ、たった四人だけで攻めてきたから元々大した被害は無かったし、ボク達獣人はポテンシャルが高いからほぼ無休憩連続労働出あっという間に立て直したんだけど。

人的被害?ある訳が無い。獣人相手に勝てると思ってたのだろうか??……まぁ、あの聖剣は確かに脅威だったけど。

そうこうしている内にキリルお義兄様達が帰ってきたので、お義兄様の部屋へと皆で集まった。



「盟主ともあろう者があんな卑劣な奴らの策にまんまとめられた…!すまない…!」



ーからのお義兄様の謝罪。

流石に土下座まではしなかったけど、非公式の場とは言え、配下であるボク達や他国の王族であるエリザ達に対して頭を下げるのは盟主としてはかなりの謝意だ……



「んっ。兄さんは悪くない。キリカが盟主でもローナの故郷を襲撃されたら迷わず進軍した。」


「わたし達も止められなかったから同罪ですぅ〜……


「あたし達も一緒になって戦いに向かったから同罪ですぅ~……


「まぁまぁ、結果的にはボク達が首都陥落を防げたから大丈夫だよ、人的被害も無しだったし。」


「その件は本当にありがとう。

我が軍も戦死者なしで、相手の人族の軍は全滅させたからね。」


「……………そうか。」



頭を上げたお義兄様はそうあっけからんと言った、けどこれは戦闘種族であり、死と隣り合わせで身近であるボク達獣人の価値観からくるものだ。

別に命を軽んじてはいない。

ただ、同胞ならともかく毎回相手の死を悲しんでいたら、躊躇していたら、生きていけなかった時代があったからだ。


けど…それを聞いた人族であり、かつての彼等の王であったエリザは、今まで復興指揮で張り詰めていた緊張感がとけたのか、

少しでも生き残りがいてアルカディア王国民へ戻ってくれる事を願っていたのか、

沈痛な面持ちになった……国から離反して聖教会の信者となっていた者達とは言え、元はアルカディア王国民……やはり何かしら思う所があるのかもしれない。



「エリザ。」


「……うん…あぁ…。」



が、ライ様に頭ぽんぽんされたら何とか表情は取り繕った。

うん、この様子なら多分、大丈夫かな…?

後は、部屋でライ様が慰めてくれるはず………親友としてボクが出来ることは………


モフッ……



「ローナ…?」


「大丈夫、エリザは何も悪くない。」


「ああ。そう、だな。」



これくらいだ。

きっと、人族の同胞を、こんな形で無為に喪った哀しみは、面識もない獣人のボクには理解出来ないから。


エリザは確かに彼等の王だった、けど、彼等にどんな理由があろうとも最終的に聖教会に従い、お義兄様達に殺されたのは彼等が選んだ事だ。だから死んだのは彼ら自身のせい。

獣人であるボク達はそう捉えるのがさがだがら。


だから、本当の意味で慰めれるのは同じ人族でエリザの夫でもあるライ様だけだ。


ライ様に連れられてエリザが退出したのち、お義兄様は空気を変える様に微笑んだ。



「それでね、身内だけになったから話は変わるけど。

僕はララとビビ、2人と結婚することにしたよ。」


「んっ…?むしろ、なんで今まで結婚してなかったの…?キリカの場合、肝心のローナが受け入れてくれるまでが長かったからともかく、兄さんの場合はララとビビの2人から迫られてたはず。ヘタレ??」


「ぐっ…ぅぅ…!」



やめて、その言葉はボクにも刺さる。

そうだよ、ヘタレてたよボクも!!

『キリカは運命の人と出会う』とかいう謎の固定概念でね!!

執着の種族である狼族なのになぜそんな思考回路になっていたのか、今にして思えば本当に謎だけど。

ともかく、キリカにそう言われたキリルお義兄様は苦笑いだ。



「我が妹は辛辣だなぁ……


「でも実際メンタルクソ雑魚じゃんキリ君☆」


「あたし達を2人まとめて受け入れる覚悟キメるの遅すぎ〜♡ざぁこざぁこ♡」


「は?夜は覚悟しといてね??」


「っ…!☆」

「っ…!♡」


「………うん?これ、お義兄様のどこがヘタレだって??」



お義姉様2人に挑発されたお義兄様は何時もは糸目で優しげな雰囲気である顔を、スゥっと目を開いて睨み付けた…!?

えっ……これ、あるいは覚悟完了したお義兄様が覚醒した??

というかララお義姉様とビビお義姉様もキャラ変わってなぁい??

なんか挑発したと思ったら普段は温厚なお義兄様の怒気に恍惚とした顔になったんだけど??

それを見たキリカもキョトンとした雰囲気になる。



「んっ…?まぁ、なら、良いか。」


「え、まさかのスルー?」


「んっ。きっと、触れても良いことないと思う。」


「………うん、ソウダネ。」



と、恍惚としていたお義姉様2人が再び挑発的(メスガキ)な顔…になった。

あ、うん。確かにこれは触れるべきじゃないやつ、だね…?キリカと2人で空気になろう。うん。



「くすくすっ…☆やれば出来んじゃんキリ君☆」


「くすくすっ…♡おにぃちゃんのそうゆうところ、あたしは好きだよぉ〜♡」


「ふふっ…僕も2人の事が大好きだよ。

…………でも、それとこれとは別だからね?」


「あんっ☆」

「ひんっ♡」


「………キリカ?」

「んっ。退散しよう。」



『これは夜とは言わず今から始まるな。』そう感じ取ったボクとキリカもこの部屋から出ていく事にした。

流石にお義兄様達の致してる場面は見たくないし…………





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