IF7:襲撃
翌日。
部屋から出た途端にお母様から『うふふ…昨日はお楽しみでしたね♡』と言われてボクとキリカは内心ビクッとしたけど、表面上は冷静を保ったまま3人で朝食へ向かった。
「おはようございますお父様。…と、そちらは?」
「ああ、おはよう。彼女は前任のお妙婆さんの娘さんで環さんだよ。」
「初めましてお嬢様、姫様。
私は環、と申します、よろしくお願いします。」
「んっ。よろしくタマキ。」
「よろしくねタマキさん。」
「はい、お二方。
本日の朝食は私の方で用意させていただきました。どうぞごゆっくり。」
「ありがとう、準備が終わったら君も席に着くがいい。」
「承知しました。」
あっ、ウチでは妙お婆さんの時から一緒に朝食をとるのが普通だったからこれは変わらないって感じだね。
その後すぐにエリザとライ様も起きてきて皆で食べた。
朝食をいただいたあと、
少しだけ休んでからボク、キリカ、エリザ、ライ様でボクの部屋へ集まった。
「さて、せっかくの親子の再会だが……ローナはもう少しここに居たいか?」
「ううん。
私情を挟む訳にはいかないし、ボクにはキリカが居るから平気。」
ボクはそう言いながらキリカの頭を撫でる。
エリザはそれで意味を察してくれた。
「分かった。
では直ぐにキツネノミヤへ向かおう。
キリル殿も準備をしてくれている訳だしな。」
「んっ。兄さん達を待たせるのも良くない。」
「んじゃ。行くか?」
「うん、最後にお父様とお母様に挨拶だけして行こう。」
お別れはアッサリ。
まぁ、永遠の別れでは無いし、狼族の“家族”の優先度は親兄弟より番、特に問題は無い。
両親もアッサリしたものだったし、お母様には『ここは貴女達の家でもあるし、何時でも気軽に帰ってきていいのですよ〜?今度帰ってくる時は孫の顔が見れますか?うふふ♡』なんて言われてしまった………
それを聞いたキリカの目付きがなんか、ちょっと、怖かった。
うん……キリカだって狐族だし、盟主の妹なら番が女でも問題ない様に百合妊娠の秘術、もしくは男体化の秘術のどちらかを当然知ってるよねぇ…ボクの貞操がやばぁい…?
流石にアルカディア王国の問題や、聖教会の問題が片付かない内には…いやアリだねキリカ相手だし。むしろウェルカム。(狼脳)
「むふん。」
「ン゛ン゛ッ…!」
とか脳内妄想してたらそれを察知したキリカが目をキラキラさせながら見てきていたのでわざとらしく咳払い。
「さて、お別れも済んだし行こっか皆!」
「んっ…!」
「そうだな。」
「おう。」
ボクがその事を誤魔化すように出発の音頭をとった事を直前のお母様の言葉とキリカの態度で2人も大体察したのか特に何も言わずに乗ってくれた…………うん、なんかごめん。
歩き始めるとすぐにキリカがボクと腕を組んできた…尻尾もボクの腰の辺りに添えている。
「キリカ?」
「…なに?」
「ボク、別に嫌な訳じゃないからね。」
「んっ。分かってる。ローナは真面目だから、でしょ?」
「はぁ……何も言わなくても分かってくれるとか好き。愛してる。」
「んっ。キリカも愛してる。
だから、ローナを困らせたくは無い。」
「………ごめんね?でも、そのぅ……秘術無しでなら今まで通りシても良いからね?」
「んっ♪だからローナ大好き。今日もシようね?」
「うん………
「コイツら隙あらばすぐイチャつくな。」
「番とはそんなものでは無いのか?私も詳しくは無いが……この2人はいつもこんな感じだぞ。」
「……エリザ、よく今まで俺無しで耐えてたな?」
「………夜でお察しだろう?ライ。」
「あー……そうゆう……」(遠い目)
そこっ!あんた達には言われたくないよ万年ラブラブ夫婦が!!
事件が起こったのはそこから更に狐宮に近付いてきてもう少しで到着する、という段階になってからだった。
「(!)姫様ーッ!!」
「…?兄さんの伝令兵。」
狐宮近くの整備された林道まで来た所で、その狐宮の方から軽装の兵士が駆けてきたんだ。
兵士さんはボク達に気付くと安心した様に駆け付けてきた。
「はぁっ…はぁっ…!もう狐宮の近くまできていたのですね!良かった…!」
「……何か、あった?」
「はい!実はー
その兵士さんから聞いた話によると……
もうすぐ本当にボク達の義姉となるであろうララお義姉様とビビお義姉様の故郷である兎族の里が人族の軍隊に襲撃された、と言う…!!
不幸中の幸いだったのは、兎族の皆は可憐な見た目に反して暗殺者系戦闘民族である為、全員殺気を事前に察知して逃げおおせていたから全員無事だった事だ。
が、大事な嫁(予定)であるお義姉様達の故郷が襲撃された事を知ったお義兄様は激昂。
お義姉様共々兎族の里へ出兵してしまった、とか。
しかし、それこそが敵の狙いだった。
お義兄様達が居なくなり警備が手薄になった今、狐宮にクズ聖女率いる勇者パーティが襲撃に現れた為、最後の希望としてダメ元でキリカやボクを迎えに来たらしい。
って何それボク達が狐宮の近くまで来てたのが奇跡的すぎるよ!!
と言うかお義兄様本当に脳筋だなぁっ!?
盟主が首都をガラ空きにするなよ!?
と言うかララお義姉様とビビお義姉様はストッパー役じゃなかったっけ!?
「あぁもぅ!!とにかく急ごう皆!!」
「クッ…我がアルカディア王国の民ともあろう者共が同盟相手に何を…!!
皆!飛翔魔術の準備は出来てるぞ!!そこの兵士殿も一緒に来い!!」
「ありがとうございますっ!失礼します!!」
ボク達はエルザの飛翔魔術の力で残りの道を一気に駆け抜けた!!
そして…!
「見付けたっ!!」
「急襲するッ!!
皆の者ッ!!私の発砲に続けーッ!!」
「行くぜッ!」
「了解!」
「んっ…!」
「分かりましたッ!!」
エリザの威嚇狙撃で足元を撃たれて足を止めたクズ共の前に降り立ったボクは、抜刀して聖女に詰め寄った!!
「エルーナ貴様ァァァァッ!!」
「ハッ…誰かと思えば殺したはずの犬っころですか。
死に損ないかアンデットですの?」
しかし、素早く聖剣を抜剣した聖女にあっさりと受け止められ、そのまま鍔迫り合いになる。
勇者にはキリカ、魔術士にはエリザ、騎士にはライ様がそれぞれ付き、伝令兵さんは遊撃に回りつつ周辺の他の兵士達の救援に向かった。
「残念だったね!ボクは死んでなんかいないっ!!」
「あらぁ…?おかしいですわね。
念の為に心臓を聖なる鎖で引きちぎったはずなのですが。」
「は?」
コイツ…!
ボクを殺した上に死体にそんなことまでしてたのか!!
……ってあれ?そもそもボクは死んで無いはずだ……いや、今はそんな事はいい!!
「ッ!らぁぁっ!!」
「まぁ野蛮。正にケモノ、ですわねぇ〜?」
「黙れッ卑怯者がッ!!」
「はて?卑怯??争いに卑怯も何もありませんわ。
勝つ為に最善を尽くすのが当然でしょうに。
本当におバカさんですわねケモノの皆様は。」
…ボクは自身の素早さを活かして何度も離脱と急襲を仕掛けるが、聖女はその全てをアッサリといなしていく。
何かがおかしい。
聖女は剣術も使えるとは言え、あくまでも護身用で主力は聖魔法。
そこまで近接戦闘能力は高くなかったはず。
でも目の前の聖女はまるで大木の様にビクともしない…!!
「はぁ………全く、囮を使って盟主をここから引き離した今、誰も居ないから首都陥落程度簡単だと思っていましたのに、まだこんな隠し球があったなんて予想外でした。」
「くっ!はぁぁっ!」
「でも、この程度、ですか?」
「ッ!?」
それだけじゃない…!
聖女が薙ぐように軽く振っただけの剣から物凄い剣圧が生じ、ボクは吹き飛ばされた…!
なので空中でステルス…と、アレを発動して姿を消しつつ素早く体制を立て直して着地し、一旦隠れてやり過ごす事にした。
「あらあら?人様に卑怯だのなんだのと言いつつ自分自身は魔術で隠れるだなんて、それこそ卑怯ではありませんこと??
まぁでもー
っ!?
しかし、余裕そうな笑みを浮かべた聖女が適当に剣を一振りすると、剣戟が意思を持つようにボクへ飛来した!?
咄嗟に避けるも掠った剣戟に服が裂かれ、更にステルスも解除されてしまった!!
ー無駄ですわよ♡
はいそこ。シャイニングバインド!!」
「ッ!?」
「終わりですわ!」
「か……は………
そして、光の鎖で拘束されたボクは、抗う暇もなく心臓を剣で一突きにされた。
「全く、殺したはずの貴女がまだ生きていただなんて、まるでゴキ○リですわね?
それとも、貴女はクローンかなにかですの?」
「だれ……が……グフッ……
「まぁ、それなら何度でも殺して差し上げるだけですわ♪
では、さようなら♡」
そのまま剣を振り上げ、心臓から頭まで斬り裂かれたボクはそのまま絶命した。
その直前に、思い出した。
そうだった。ボクは、ローナに憑依した………地球………人…………………
【終】
【ーなわけないだろ!!】
ー聖女の異常な強さに関して1つの仮説が頭に浮かんだボクは、刀に闇属性魔術、【魔術解除】を纏わせて仕返しとばかりに背後から心臓を一突きにした。
「うん、半分正解。」
「カハッ……!?」
「じゃあね、クズ聖女。」
それは、予想通りアッサリと聖女の心臓に到達したから、更に闇属性魔術、【即死】を刀を通して心臓に直に撃ち込んでやった。
そう、今聖女が殺したボクはドッペルゲンガー。
つまり囮、真のドッペルゲンガー術で作った、質量を持った分身だ。
と、分かっちゃいるけど目の前でもう1人のボクが殺されるのを見るのは気分が悪いな。
それを横目に見つつステルスで気配を消したまま聖女の背後に回り込んで心臓を一突き、って事。
上手く行って本当に良かった。
と言うかなんなのその聖剣?とか言うの、心臓に突き立ててから振り上げてるのに肋骨も頭蓋骨も簡単に一刀両断って、切れ味良すぎない??
そのドッペルは本当にもう一人のボクを作り出す秘術で作ってるから身体の構成は本物のボクと寸分の違いも無いはずなんだけど。
まぁ、良いか。とにかくこの剣を有効活用させてもらおう………ってなんかボクの方が悪役みたいじゃないか………
「っと、それより、他の皆だ。」
ボクはアンデット化対策も含めて聖女の死体を闇属性で作り出した空間に放り込んで処理して………ってうわ!?仮にも聖女だったからかボクの魔力が凄く高まった!?
凄い………まがりなりにも聖女の魔力だからか、光属性魔術の効率が上がった……?
これはステルスが捗っちゃうね!!
ボクは早速強化されたステルスを使いー
「ガハッ!?」
「1人。」
「グッ…!?」
「2人。」
「グハァ…!?」
「3人っと。」
残った勇者、魔術士、騎士の3人も背後からブスリ。
正にアサシン。まぁ従者でありアサシンなんだけどボクは。
うん、それにしてもこの聖剣、強い。
光属性の魔力を纏わせて使えば勇者や騎士も鎧の上から心臓一突き。
ボクがそんな聖剣と鍔迫り合いに持ち込めたのは反対属性である闇属性の魔力を持っていて刀にも闇属性が染み付いて魔刀化していたから、らしい。
他の皆が聖女の相手をしなくて良かった……!!
と言うかこの3人、他の皆が相手をしてた分、油断してた??
まぁいいや、死体を闇の空間へシューーット!
超!えきさいてぃんっ♪
………なんかテンションバグってるなボク。
なんでだ…??
※戦闘高揚+実はドッペルの死が本体にフィードバックしてる
「んっ。ローナ、お疲れさー
「キリカァァァッ♡クンクンスーハー………くんかくんか………
なんて思ったのはほんの一瞬。
愛しの番様、ボクの大事な可愛い妻であるキリカの姿を見つけた瞬間、本能に支配された。
ーローナside:BEASTー
「…おい、キリカ?ローナの様子がおかしくないか?」
「…エリザ、多分ローナは聖女との戦いでドッペルを使って、そのドッペルが殺された。」
「………するとどうなるんだ?」
「んっ。無意識下に……死の経験、が刻まれて、恐怖心から本能的に番を求める状態になる。」
「なるほど…?」
「はぁぁ〜♡キリカぁ〜♪きりかだぁ〜♪
ぺろぺろ……ちゅぅちゅぅ……んふふふふ♡」
※なお、この間もキリカはローナに耳とか頬とか舐め回されながらもいつも通りの無表情&淡々と喋ってる。
「ぶっ壊れてんなぁ…ローナのやつ……
「ライ、しばらく2人だけにしておいてやろうか。」
「だな。」
「んっ。今…はふ……ローナは他……んぅ……には見せ……ちゅぅ……んむ……今、キリ……れろ……しゃべ……んちゅ……口は……ちゅぷ……んぁ……やめ、……んちゅ……て?
……いい子。
とにかく、ローナはキリカの部屋に連れてく。ごめん、後はよろしく。」
「任された。」
「おうよ!任せとけ!!」
んぅ……?なんか、親友とその夫の声が聞こえた気がする………けどキリカの温もりと匂いに包まれた今はどーでもいいや……
その後の翌朝、正気に戻ったボクはしばらくキリカの部屋で羞恥心にのたうち回る事になったのは別の話だ。
………キリカには『ビーストモードのローナ、可愛かった、よ?』とか妙に満足げな顔で言われたけど。
なんか後半がギャグみたいになってしまった。
と言うか正史世界の聖女エルーナにもチートだとか言われてた原作エルーナをアッサリ倒すローナさんって何者……?
いや、確かにIF編序盤でも『倒すだけなら簡単だけど』とは言ってたけど。




