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IF6:亡命…?いや、ただの里帰りだこれーっ!?

翌日、エリザとライ様を“ただの友人として”受け入れる為に一足先に帰るお義兄様達を見送ったボクとキリカは、エリザやライ様と合流して改めて首都、【狐宮(きつねのみや)】に向けて出発した。


あ、国境警備兵の皆にはお義兄様経由で『聖女と聖教会が何か仕掛けてくるかもしれないから注意して』と伝えておいた。

そしてお義兄様は追加の兵と武器も置いていってくれた………なんで準備がいいの??


とにかく、聖教会は獣人連合国であるこの国、アスターを魔王が支配するコキュートスの配下の国とか抜かして滅ぼそうと躍起になってるしね。

獣人皆殺し計画とか本当にふざけてる。


だからボク達獣人連合国は聖教会とは真っ向から対立しているんだ。


…………そんなに、ニンゲンが偉いのかな?

神に最も近しい姿だから人族が最も尊い種族だとか、意味が分からない。

その人族の王族であるエリザやライ様も聖教会の思想は理解出来ないって言ってたから聖教会は本当に狂ってる。


まぁそんなの関係無くエリザはボクやキリカの友人で居てくれてるし、ライ様も獣人に対する忌避感は皆無だし、人族の大半の人は獣人や亜人に好意的だし、聖教会って何がしたいのやら……



「……さて、そろそろ行くか?」


「あはは……お義兄様の後を追い掛ける事になるけどね…?」


「んっ。でも、兄さんと義姉さん達の、恋路を邪魔したくない。」


「ははは、馬に蹴られたくは無いからな俺達も。な、エリザ!」


「まぁな。」



ともかく、ボク達も旅路を再開した。

相変わらずの徒歩だからノンビリだけどね!



それから更に1週間後、色々な部族の村や町を通り、時には山賊みたいな野盗なんかに遭遇しつつ首都までの道を中程まで来た。



「んっ。そろそろ狼族の町。」


「ほう?ローナの故郷か??」


「そうだね、ボクはそこの族長の娘だし。」


「なるほど、道理で。」


「むふん♪キリカの妻、実はすごい人。」


「いやいや、実も何もそもそもそうじゃ無かったら当時はまだ盟主の息子だったキリルお義兄様の従者候補にはならなかったでしょ?」


「そうだな。連合国の盟主は王族とは違うにしても、その従者となれば身元のしっかりした者で無くてはなれん。

……もっとも、ローナの場合はキリカのつがいだったからいつかはそうなっていたであろうが。」


「それはタラレバだよエリザ。」


「はっ。言われなくとも分かっとるわローナ。」



怒った様な口調でそう言いつつも顔も目もニヤニヤしてるから軽口だと分かってるみたいだ。

まぁそうじゃなきゃボクもわざわざあんな事言わないし。



「まぁまぁ2人共!戯れは後にしようぜ!

それよかローナ!案内よろしくな!」


「良いですよライ様。とは言え、ボクも数年ぶりなので上手く案内出来るかは保証しかねますが。」



ちなみに、ボクはライ様に対しては未だに敬語口調だけどそればかりはいくら直そうとしてもダメだった。

頑張って“ライ様呼び”には出来たけど。

ライ様から見た前までのボクは、友好国の姫の従者で婚約者の友人、つまり赤の他人だし、そもそも立場がかなり違うから仕方ないとしても、今はライ様視点でも妻の親友で旅仲間、対等であるはずなんだけど………いや、でも『親しき仲にも礼儀あり』って事で良いか。ライ様は今はアルカディア王国の王配殿下だけどフェンリル帝国の第3皇子でもあるんだし。

もっとも、大雑把な性格のライ様は気にしてないみたいだからいいや。



「んっ…ローナ。」


「ありがとキリカ。」



とか考えてたら突然キリカがしっぽを差し出してきた………

その差し出されたキリカのしっぽを………

モフモフ!モフモフモフモフ!!

すー……はー……くんくん…はふぅ〜♡

よし。なんか頭がスッキリした。

つがいの匂いは最高の精神安定剤だね!!



「急にイチャつくなお前ら!?」


「俺達に触発されたか?すまんな♪」


「そうかも…?」


「んっ。アンタたちも大概バカップル。

キリカとローナには負けるけど。」


「そこを張り合うのかお前は……



堂々と胸を張りそう言ったキリカに苦笑いで返すエリザ。

その手は無意識にライ様の手をニギニギしつつ身体をしっかり密着させてるし、やっぱりライ様がいて良かったと思う。

じゃないとエリザは嫉妬でおかしくなっていたかも…………?

元来、忍耐強いタイプの人であるエリザだから分からないけど。

と言うかライ様、愛しのエリザに甘えられて満足そうな笑顔だねぇ…まぁ、その腕がエリザの胸に挟まれてるのもあるんだろうけど…それも愛の形、なのかな…?



「……良いなぁ……。」



ボクは、見た目やキリカとの身長差、性格のせいもあってか、甘える方より甘えられる方だ。

…気質的にはエリザの方がボクよりもっとカリスマ性も頼りがいもある(私生活は割とポンコツだけど)、けど甘え上手だ(私生活がポンコツだから)。

本当はボクだってもっと、キリカに甘えたい。

子供の様に泣きじゃくりながらキリカに縋り付いてしっぽに顔を埋めたい。



「……。」


「んっ…?ローナ…?」


「……なんでもないよキリカ。」



けど、ソレが出来たのは死の恐怖を味わって精神的に不安定になってたあの時だけだ。

まぁ、キリカは察しがいいから時折さっきみたいにしっぽを差し出してくれるけど。



「…ローナ、今日の宿であるローナの実家、【狼屋敷】のローナの部屋に着いたら話がある。」


「…なんで?」


「………んっ。わかる、デショ??」



本当になんで??

これなんかキリカがめちゃくちゃキレてる??

目がガチだよこれ。



とにかく、屋敷には着いた。

先ずは両親に挨拶を………と思ったら玄関先に箒で掃き掃除をしてるお母様が居た。

族長の妻なのに自ら屋敷の掃除を手伝っていたりと甲斐甲斐しいのは狼族のさが

使用人の仕事を奪うな、以前にそもそも使用人って年嵩のお婆さんが居るだけだったし……その使用人も今は多分孫に変わってる、はず。

ボクが従者に選ばれた頃には引退する様なことを言ってたし。


ともかく、割烹着を着て掃き掃除をしていたお母様はボク達に気付くとおっとりとした雰囲気で声をかけてきた。

……両親は2人共狼族なんだけど、お母様は狼族の女性にしては珍しく、(普段は)おっとりしてる稀有な人だ。

ボクもお母様の性質を多少受け継いでるからか冷静な方………だと思う。

エリザ曰く『は?冷静?ローナが??キリカならともかくローナが??』らしいけど。



「おかえりなさい桜奈、久方ぶりね。」


「お母様、ただいま帰りました。お久しぶりです。」


「ええ♪霧華ちゃんもお久しぶりね。」


「んっ。レーナも元気そうでなにより。

ソージローは?」


「旦那様は書斎ですよ。」


「………ソージロー、狼族なのに書類仕事平気なの?」


「キリカ、賢狼って知ってる??」


「んっ。冗談。ソージローはケンロー、だから、書類平気なの知ってる。」


「…………可愛いなぁもう!!」



抱き締めてほっぺスリスリしちゃうぞ!

身長差的に頭頂部になるけど!

ついでにくんくん…すー…はー…うん、落ち着く。



「意味不明な流れで何故か流れる様にイチャつくな!?」

「バカップルかよ。」


「戦闘後に確定イチャイチャしてるキミ達に言われたくないよ万年バカップル。」


「おやローナ?喧嘩売ってるのか??そのまま返すぞ?ん??」


「…………んっ。馬鹿な事言ってないで、行くよ、皆。」


「あらあら…?」



あー、うん。

今のやり取りでお母様は気付いたね。

普段はおっとり糸目なその目が少しだけ開いたし。


ともかく、ボク達はお父様の居る書斎へと向かった。



「……おや、おかえり桜奈、霧華姫様。」


「ただいま、お父様。」


「んっ。ソージローおひさ。」


「それと……そちらのお二方は初めまして、ですな?

アルカディア王国女王陛下様、並びに王配殿下様。」



お父様がそう呼んだからか、エリザは敢えて“女王モード”に雰囲気を変えて口を開いた。



「………今はそなたの娘の友人であり冒険者仲間であるただのエリザとライだ。故にそう畏まる必要は無い。

許す、楽にせよ狼族大名殿。

ここからは妾もプライベートに切り替える。」


「承知しました……ではエリザさんにライさん…改めて初めまして。

僕が桜奈の父、総二郎だ。娘が世話になっているね。」


「いやいや、世話になっているのは私の方だそーじろう殿!

ローナが私の友になってくれたのは望外の喜びだ!」



ちなみに、ボク達連合国の人達は名前に独特の習慣がある。

だから他国の人には発音しにくい。

お父様は総二郎、お母様は麗奈、ボクは桜奈(ろうな)が本当の名前だ。

キリカとキリルお義兄さまも本当の発音は霧華、霧流(きりゅう)

でもまぁ、それだと他の人達(主にエリザとライ様)が分かりづらいから皆意識して分かりやすい様に呼んでいるって訳。

ララとビビに関しては偽名で、番であるお義兄様や2人の実の両親しか本名を知らない。

………ボクとキリカに関してはアルカディア王国に長く居たせいでこちらの呼び方がクセになっちゃってるけど。

本当の呼び方を忘れちゃわないようにしないとね。




「ふふっ…そう言って貰える娘は果報者だ。

所で、ローナは何か僕に話があるんじゃないかな?」


「うん。実はー



ボクは手短にキリカと結婚した事、エリザとライ様の亡命の事を伝えた。

お父様は顎を手でさすり、ひとつ頷いた。



「分かった。盟主であるキリル殿が受け入れたのならば僕からは何も言うことは無いよ。

そもそもアルカディア王国は我等アスター連合国の同志。

受け入れる事にそもそも反対をしない。」


「ありがとう、お父様。」


「それよりローナ、君の結婚の事だ。

つがいとの婚姻は狼族としての本懐だからな、おめでとう。キリカもな。」


「んっ!ありがとソージロー♪」


「ふふっ……あの小さかった“キリカ姫様”が、まさか僕の娘になる日が来るとはね。

番だとは知らされてなかったからビックリだよ。

どうもキリカの方はうちの娘に懐きすぎだとは思ってはいたけど。」


「あはは……その節は本当にごめんなさい…。」



ボク、何故かキリカとは結婚出来ないと決め付けていたからね。

そもそも、何故か番への執着心も起きなかったから余計に。

今は『ぜっっったいに!!キリカを手放してやるものか!!!!』だけど。

………まぁ今となってはどうでもいい、かな?




それから、両親への挨拶もそこそこに、実家の自室に入るなりボクはキリカに押し倒されて抱きしめられました。まる。

普段と違い、今はボクがキリカの胸に顔を埋める状態になってる。

………そこっ!!キリカはつるぺたなのに?とか言うな!!

おねロリ??アハハハハハハハ!!

何言ってんのか全然わかんないやぁ〜!!


なお、大好きなキリカの胸に密着してるこの状況。

ご覧の通りボクは内心荒れ狂ってる。

理性のタガが他人より強固だと自負してるボクだから表面上は何時もの無表情、だとは思うけど。


え?ボクは無表情系クールキャラだったっけ?って??

え、最初からそうだけど!?ボクをなんだと思ってるのさキミ達は!!

は?エリザも『お前はクールキャラを気取ったただの嫁バカ(わんちゃん)だ』って言ってた?黙らっしゃい!!



「ローナ。無理してない?」


「無理…?なんで??」


「んっ。ローナはもっと、キリカに頼ってくれても良い。」


「じゃあしっぽモフモフさせて?」


「んっ。素直で宜しい。」


「すぅぅ………はぁぁぁ…………うん、キリカのしっぽはこの触り心地が最高だね。」


「んっ…ぅぅ……ローナ、もっと。しっぽ以外もなでなでぺろぺろして…?」


「分かったよキリカ…………



この後めちゃくちゃイチャイチャした。

と言うか甘えたいのに甘えられないのバレてたからいっぱい甘やかされました。

………キリカ、普段は甘えた狐さんなのに意外と母性強かった………とだけ言っておく。

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