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『第4回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』

体育祭の日、量子力学を愛する先生と二人きり。

作者: 佐藤そら
掲載日:2022/12/20

 この日は、体育祭だった。


 事件は突然起きた。


「危なーい!」


 わたしの脳天を飛んできたボールが直撃した。




 ん? あれ?

 誰かがわたしをお姫様抱っこしている……。

 これは、夢か?


 わたしは、確かボールが当たって……




「あれ? まったく、誰もいないのか……」


 男の人の声が、わたしの耳元で聴こえる。

 聴き覚えのある声だ。


 誰かが、ふかふかのベッドにわたしを寝かせた。



 ハッとした!


「ん? 気が付いたか?」


「先生!! 痛っ!!」


 ベッドから飛び起きようとして、わたしは頭を押さえた。


「無理するな。今は休んでなさい。車で病院まで送ってくから」


「へっ?」


 車で!?

 それって、先生と二人きりってこと!?

 というか、今もすでに二人きり!?


 ここは保健室……。

 でも保健の先生の姿も周囲には見当たらなかった。


 そうだ、今は体育祭の真っ最中。

 校舎には誰もいない。


 先生は、メガネのフレームをクイッと上げると、保健室の窓からグラウンドに目をやった。

 その眼差しは、キリッとしていて、真剣だった。

 どこか大人の色気を感じさせる横顔だ。


「うちのクラス、勝ってるみたいだぞ」


「は、はい」



 先生の様子は、化学の授業の時とはまるで違う。

 実験をする時は、いつもキラキラした目をしていて、とても無邪気にはしゃいでいる。その姿は、とてもかわいい。


 先生は、量子力学が好きで、よく本を読んでいる。


 しっかり者で、頼りになる。


 女子生徒からはかわいいと言われて照れているが、本当は『かわいい』よりも、『カッコイイ』と言われたがっている。


 実は、牛乳ばかり飲んでいる。


 鶏肉が、かなり好きだ。


 そして、なんだかいつも深爪。



 ああ、わたしは、知らなくてもいいことを知りすぎた……。



 先生は腕をまくると、わたしの額をじっと見る。

 そんなに見つめないでよ。


 先生の手が、こちらに伸びてきた。


「少し、腫れてるな」


 距離が近くて、わたしは先生から離れようと咄嗟に立ち上がり、よろけた。


「おい、危ない!」


 わたしは、先生の腕の中に抱きしめられていた。


 先生の鼓動が聴こえる。


 わたしは、慌てて先生から離れた。


 先生の耳が赤い。

 冷静そうな先生が、動揺しているのが分かった。


「く、車を出すから、ここで待ってなさい」


 先生は保健室を立ち去った。



 量子は、粒子と波の両方の性質を持っていて、波の状態の時は目に見えず、広がっている。

 人々が見ると、それは目に見える粒子の姿になるそうだ。


 この気持ちは、波?


 先生に、わたしの心は粒子となって見えていますか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「かわいい」よりも「カッコイイ」と言われたい、牛乳をよく飲む、鶏肉好き、深爪、照れると耳が赤くなる…。 似ている人を知っているので、その方のボイスで脳内再生されました。 私も生徒だったら恋…
[一言] 最後の一行にぐっと引き込まれました!
2022/12/20 18:30 退会済み
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