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『第4回 下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞』

体育祭の日、量子力学を愛する先生と二人きり。

作者: 佐藤そら

 この日は、体育祭だった。


 事件は突然起きた。


「危なーい!」


 わたしの脳天を飛んできたボールが直撃した。




 ん? あれ?

 誰かがわたしをお姫様抱っこしている……。

 これは、夢か?


 わたしは、確かボールが当たって……




「あれ? まったく、誰もいないのか……」


 男の人の声が、わたしの耳元で聴こえる。

 聴き覚えのある声だ。


 誰かが、ふかふかのベッドにわたしを寝かせた。



 ハッとした!


「ん? 気が付いたか?」


「先生!! 痛っ!!」


 ベッドから飛び起きようとして、わたしは頭を押さえた。


「無理するな。今は休んでなさい。車で病院まで送ってくから」


「へっ?」


 車で!?

 それって、先生と二人きりってこと!?

 というか、今もすでに二人きり!?


 ここは保健室……。

 でも保健の先生の姿も周囲には見当たらなかった。


 そうだ、今は体育祭の真っ最中。

 校舎には誰もいない。


 先生は、メガネのフレームをクイッと上げると、保健室の窓からグラウンドに目をやった。

 その眼差しは、キリッとしていて、真剣だった。

 どこか大人の色気を感じさせる横顔だ。


「うちのクラス、勝ってるみたいだぞ」


「は、はい」



 先生の様子は、化学の授業の時とはまるで違う。

 実験をする時は、いつもキラキラした目をしていて、とても無邪気にはしゃいでいる。その姿は、とてもかわいい。


 先生は、量子力学が好きで、よく本を読んでいる。


 しっかり者で、頼りになる。


 女子生徒からはかわいいと言われて照れているが、本当は『かわいい』よりも、『カッコイイ』と言われたがっている。


 実は、牛乳ばかり飲んでいる。


 鶏肉が、かなり好きだ。


 そして、なんだかいつも深爪。



 ああ、わたしは、知らなくてもいいことを知りすぎた……。



 先生は腕をまくると、わたしの額をじっと見る。

 そんなに見つめないでよ。


 先生の手が、こちらに伸びてきた。


「少し、腫れてるな」


 距離が近くて、わたしは先生から離れようと咄嗟に立ち上がり、よろけた。


「おい、危ない!」


 わたしは、先生の腕の中に抱きしめられていた。


 先生の鼓動が聴こえる。


 わたしは、慌てて先生から離れた。


 先生の耳が赤い。

 冷静そうな先生が、動揺しているのが分かった。


「く、車を出すから、ここで待ってなさい」


 先生は保健室を立ち去った。



 量子は、粒子と波の両方の性質を持っていて、波の状態の時は目に見えず、広がっている。

 人々が見ると、それは目に見える粒子の姿になるそうだ。


 この気持ちは、波?


 先生に、わたしの心は粒子となって見えていますか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「かわいい」よりも「カッコイイ」と言われたい、牛乳をよく飲む、鶏肉好き、深爪、照れると耳が赤くなる…。 似ている人を知っているので、その方のボイスで脳内再生されました。 私も生徒だったら恋…
[一言] 最後の一行にぐっと引き込まれました!
2022/12/20 18:30 退会済み
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