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世話焼き上手な佐藤さんはいつも楽しそうに俺を構ってくる

作者: 滝藤秀一
掲載日:2022/02/19

 教室では小テストが行われていた。

 筆音だけが静かな室内に響いている。


(……まずい、消しゴムを忘れた)


 そんな中で開始早々に俺は頭を抱える。

 間違えられないというプレッシャーに押しつぶされそうなったときだ。

 隣から消しゴムが放られて、それは俺の机の上に着地した。


 視線をそっちに向ければ佐藤さんが口元を緩めて笑顔を浮かべている。


「はい、それ使って……あははは」

「……う、うん。ありがとう」


 小さな声でのやり取り。

 佐藤さんは今にも吹き出しそうになりながらも、今日も俺に世話を焼いてくれる。

 ありがたい。本当にありがたいんだけど……。

 涙目になるくらいそんなに笑わなくてもいいだろう!


「この世の終わりみたいな顔だったね」

「気づいていたならもっと早く貸してよ!」

「うーん、鈴木君のそういう顔見たくってさ」

「くぅ!」


 そんな小テストの時間が終われば……。


「忘れ物多いね、鈴木君……もしかして、私にもっと世話焼かれたい、とか?」

「ち、ちがっ、そんなわけないだろ!」


 こっちの反応を確かめるようにんんっと、小首を傾げる佐藤さん。

 これ以上佐藤さんを調子に乗らせるわけには。

 今日はもうお世話になどならないぞ。


 そう決心したのだが――


 それはすぐに崩れ去る。

 体育の授業がキックベースというのがいけなかった。

 いつもよりも気合いを入れ頑張りすぎて、1つでも前の塁をと全力疾走していて俺は見事に転んでしまう。

 気持ちが空回りするとはまさにこのこと。

 膝を結構すりむいてしまい仕方なく1人保健室へと向かう。


「誰もいない……」


 しょうがない自分で処置しようとして絆創膏などを探しているとドアが開く。


「よかった。すりむいちゃって……」

「まずは外の水道で傷口洗ってきて」

「佐藤さん! なんでここに……?」

「私、保健委員だし。ホームランにしたくて無我夢中で走りすぎだよ」

「……」

「すぐマンガに影響されるのは子供っぽくていいと思うけどね」


(なにを! そうかお見通しだったか)


 佐藤さんは俺が野球漫画を愛読していることを知っている。

 話題に出すことも多いし、一度彼女には貸してもいた。

 くそっ、こうも早く世話を焼かれてしまうとは。


「……」

「お風呂入るとき、少ししみるかもしれないから、その時はちょっと我慢ね」

「なにその小さな子に諭す的な言い方。俺は幼児じゃないんだけど!」

「えーっ、鈴木君子供でしょ」


 消毒してくれながらも、かまわれてしまう。

 佐藤さんにとって俺はまるで手のかかる子供のような感覚なのか。



 この日の佐藤さんによる世話焼きはこれだけでは終わらなかった。

 放課後、天気予報の降水確率は40%と微妙な数字だったにもかかわらず外は雨模様。

 置き傘をしていない俺は見事に傘がない。


 みなが下校する中、教室で困っていると佐藤さんが声を掛けてくる。


「その顔は傘持ってきてないんだね。良かったら私の傘に入ってく?」

「いや、さすがにそこまで甘えるわけには……それに……」

「そっか。鈴木君は相合傘恥ずかしいし、意識しちゃうか」

「っ! す、するわけないだろ。いいよ、そのくらい……俺が高校生だということを見せてやるよ」


 挑発されるような目で見られて、思わず誘いに乗ってしまった。


 少し水たまりができ始めてアスファルトの道を並んで歩く帰り道。

 そういえばなんだかんだで、雨の日以外もこうやって一緒に下校する日が多い。


「うーん、今日も鈴木君のお世話頑張った」

「……あのさ、その要介護みたいな感じに言うのやめてくれないかな?」

「うーん、今日も鈴木君を楽しく構えた」

「楽しかったならまあ良くないけどいいことにしよ……あと、クラスメイトに時々呆れられた感じで見られてる気がするよ、俺たち」

「あー、羨ましがられてはいるかもね。私はあんまり気にしてないけど」

「お、俺も気にしてねーし……って、そっちの肩ぬれてるじゃないか」


 佐藤さんは俺が濡れないように配慮してか、こっち側に傘をよせていたので、それを佐藤さん側に追いやる。


「…………ねえ鈴木君、仮の話だけど私が転校するって言ったら、どうする?」

「えっ……?」

「ふーん、そんな悲しそうな顔してくれるんだ」

「……構われなくてせいせいする」

「ほんとに?」

「ほんとだよ!」


 いつも変わるようで変わらない心地いい距離感。

 少なくとも高校を卒業するまではこの関係がずっと続くと思っていた。

 半年前から俺の日常には必ず隣の席の佐藤さんがいる。


 そのはずだった……。


 ☆☆☆


 翌日、隣の席の佐藤さんは登校してこなかった。

 担任の先生も理由を話すわけでもないから、転校したということはないだろう。

 だが妙に昨日の下校時の言葉が残ってしまっているのか、心にぽっかりと穴が開いてしまったかのような強烈な淋しさを覚える。


 授業にはまるで身は入らず、何度も注意されるがその様子を隣で構ってくれる佐藤さんが居ない。

 佐藤さん本人には言ったことはないけど、世話を焼かれたい構われたい一心でわざと忘れ物をすることがなかったとは言えない。

 いつからかそのやり取りを楽しんでいた。


 たぶん自分で思っていた以上に……。


 だから彼女がいない、それだけでこんなにも不安になってしまう。

 たぶん風邪だろうと思う。昨日雨に濡れてしまっていたからな。


(あーそれなら俺のせいだよな……)


 お詫びしないとだろうか。


 転校なんてことは……いやいや、さすがにない。ないだろ!

 考えるだけで途端に胸が苦しくなっていてもたってもいられなくなる。


 どうすればいい?


 一緒に帰ったりもしたけど、俺は佐藤さんの正確な家の場所すら知らないし、それどころか連絡先さえも交換してはいなかった。


「おい、おい広樹ひろき、お弁当でも忘れたのか?」

「えっ…………あっ、いやそうじゃないんだけど」


 いつの間にか午前中の授業は終えお昼になっている。


「ははーん、佐藤さんいないと調子でないのか?」

「そ、そんなわけないだろ。構われなくてせいせい」


 しない。全然しない。

 誰か佐藤さんの家知ってる人は……と教室内を見回す。

 佐藤さんと仲がいい女子なら、そう思ってその子が1人になったところをみて反しかけてみる。


「あのさ、佐藤さんの……」


 そこまで言いかけて言葉が止まる。

 いきなり個人情報を聞いても平気かな。佐藤さんにまず確認してからでないと……。


「……はいこれ、佐藤ちゃんの住所」

「えっ、まだ俺なにも?」

「鈴木君に話しかけられてびっくりだよ。しかもその時間もぴったりとはいやはや……お見通しだってさ。やっぱりすごいな、佐藤ちゃんは」


 疑問に対する答えはそれだけだった。



 学校が終わると急ぎ足でスーパーによって佐藤さんの家へと急ぐ。

 渡された住所には、いつも佐藤さんと別れる公園からの地図が丁寧に書かれていた。


 おかげで迷うことなく佐藤と表札が書かれた家の前までやって来れた。

 何度か迷いながらも呼び鈴を押すと、玄関で待ち受けていたように佐藤さんがすぐに顔を出す。


「わざわざきてくれてありがと」

「いや、雨に濡れたのが原因かもしれないから、お見舞い」


 マスク姿と少し声が違うのですぐに風邪だとわかってほっとする。

 というより、佐藤さんの顔を見れたら不安が消えてすごく安心できた。


「あっ、少し上がって行って」

「うん……」

「昨日おそくまで鈴木君をどうお世話するか考えてたら遅くなっちゃって、ちょっと体調崩しちゃって……」

「いや、そんなこと考えてないでちゃんと睡眠取って! ヨーグルトとか買ってきた。あんまりご飯食べてないだろ?」

「気が利くねえ。今お茶でも入れるから」

「いいよ。俺やるから座ってなよ」

「それじゃあ、いつもとは逆にお世話してもらおうかな」

「……すぐ、そうやって……」


 佐藤さんの笑顔を見るといつからか顔が赤くなる。

 これがどういうことを意味しているのかがわからないほど、俺は幼児でもなかった。


「昨日の転校って話が気になって、今日ずっとそわそわしてたんでしょ?」

「っ! そ、そんなことないよ。い、いつもと違ってやけに静かだから慣れなかっただけで……」

「今日はその不安な正体が何なのか悟らせてあげようと思ったんだけど、学校休んじゃってごめんね」

「いや……ていうか、なんだよそれ!」

「ほんと鈴木君はわかりやすいなあ。明日からはちゃんと学校行けると思うから」

「たくっ……あの、佐藤さんスマホ持ってる?」

「……持ってるよ」

「その、連絡先……」


 自分のスマホを差し出すように前に出す。

 こっちの意思を伝えるのにそれが精いっぱいだった。

 恥ずかしくて、とても佐藤さんの顔を見ることが出来ない。


「そっか。まだ交換してなかったね。この先、こういうことあってもすぐ連絡つけば鈴木君としては不安にならずに済むってことか」

「うんっ……って、不安になってない。なってないから!」

「はいはい……」


 佐藤さんが風邪で休んだこの日がちゃんと自分の気持ちを自覚した時。

 そしてちょっと勇気を出して連絡先を交換出来た。



 次の日には佐藤さんの風邪も良くなったようで――


「おはよう、鈴木君」

「おはよう、佐藤さん」


 朝から不安がるといけないと待ち合わせての朝の通学。


「さあて、今日も鈴木君に世話を焼いてあげなきゃ」

「ふっ、今日の俺は佐藤さんに世話を焼かせない」

「おっ、言ったね。意気込んでるとこ悪いけど……」


 佐藤さんは笑顔で近づいて少し曲がっている俺のネクタイを正してくれる。

 距離が近くて彼女のシャンプーの匂いが鼻に届く。


「っ! ちょ待って。今のはノーカウントで」

「顔が赤いね、鈴木君。それでは一昨日、昨日の不安の正体について実感させてくからね」

「……いや、もうそれ実感してるし」

「ほんと、かな?」

「ほんとだよ!」


 実感はしていても言葉に出来るかはまた違う。

 俺がその言葉を言えたのはもう少し後になってからだ。


最後までお読みくださりありがとうございます。

休息を兼ねてもう1本短編を書いてしまいました。

少しでも楽しんでくだされば嬉しいです。


今後の執筆の励みになるので、もしよければ下の☆☆☆☆☆を塗りつぶして評価してくだされば嬉しいです。

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