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第5話

日曜は、教会の慈善活動の日だった。

モニカは、貧しい人々にスープとパンを配っていた。

上層部の人間が配ることが大事なんだ、とヨアヒムがいったからだ。


末端が行なっている活動ではなく、上層部の意思で行なっている活動だと、周知させるためだ。

教会はすべての人々を見捨てない、という意思を示すんだ。


モニカも、もちろんイヤイヤやっているわけではない。

昔ならば、自分が施される側にいたかもしれない。

状況で施す側になったが、苦しい人々を援助することには、賛成だった。


ケーテンはヨアヒムの善政で経済的にも潤っていたが、それでも一定数の貧しい人はいた。

経済ですべての人を潤すことはできない。

構造的な問題である。

今日も配給に並ぶ列は、長かった。


列の中に背の高い男がいた。

マントを着て、顔が見えない。

モニカは思った。

「マントがあるなら、それを売ればいいのに… いい体格をしているようだけど、仕事に就けないのかしら…」

いけないとは思いつつも、こんな考えが浮かぶ。


その男の番になった。

モニカは、器に入れたスープを男に渡そうとした。


その瞬間だった。


男がモニカに近づいて、スープも取らずに走り去った。

「?」

モニカが不思議に思っていると、彼女を見た教会の女性が叫び声をあげた。

彼女の視線をたどって、自分を体を見たモニカは、自分の腹にナイフが刺さっているのを見た。

「これは… どういうことかしら…」

鋭い痛みがじわじわと刺された場所から広がっていく。

手にしたスープを落としてしまった。

「いけない! 神様のお恵みを無駄にしてしまったわ…」

彼女の血が、そのスープの上に落ちていく。

「私の血でスープを汚してしまう…」

そんなことを思っていると、意識が朦朧として、倒れてしまった。

「モニカ様!」

彼女に周りの教会の人間が集まる。

「騒がないで。大丈夫。大丈夫よ」

モニカはいったが、だんだんと目がかすんで、意識が薄れていった…


気が付くと、彼女は教会の自分の寝室にいた。

そばにヨアヒムが座っていた。

彼が叫ぶ。

「モニカ! 意識が戻ったか?」

「ええ。公爵様が、こんなところにいらっしゃるなんて…」

彼女は恐縮した。

ヨアヒムは構わずに、彼女に説明した。

「キミは暴漢に刺されたんだ。犯人はまだ捕まっていない」

「そうですか…」

「いま調査しているところだ」

「はい…」

「だが…」

ヨアヒムが、いい淀んだ。

彼女が問う。

「なんです?」

「凶器のナイフはシェウダーの工房製だった…」

「……」

「キミにはつらいことかもしれないが、ひょっとすると、シェウダーのマルティン候に関係する人間かもしれないな…」


あのマルティン候が?

陰謀などとは無縁に思えるあの人が?


彼女はやっと声をあげた。

「まさか…」

「キミが賛成なら、マルティン候を討伐しても良いが…」

ヨアヒムの表情を見ると、どうやら本気のようだ。

「その話はこれ以上聞きたくありません」

「キミがマルティン候と仲がいいみたいだが…」

「憶測でこれ以上この話をしたくありません」

「これは教会の権威にも関わる話だ」

「申し訳ありませんが、この話はもう止めにしていただけませんか…」

彼女はじっとヨアヒムを見た。

彼はうなづいていった。

「キミも動転しているだろう… もう少し時間がたてば、何が正しいかわかるだろう…」

「……」

「私も今まで気づかずに申し訳なかった。これからはキミに衛兵も付けよう」

「…ありがとうございます」

モニカには、これしかいえなかった。

「すこし1人にしていただけますか…」

「いいとも」

ヨアヒムは立ち上がった。

そして、モニカの手を握っていった。

「キミには期待している。生き残ったことは神の御意志だよ。

「そうでしょうか」

「きっとそうだ。これからも国のために働いてくれ」

「もちろんです」

ヨアヒムは、モニカを残して部屋を出ていった。


モニカの頭の中では、考えが渦巻いていた。

マルティン候がこんなことするとは思えない。


では、誰が?


今では心当たりが多すぎて、犯人を絞り切れなかった。

ヨアヒムにすら犯人の可能性を否定できないでいる自分に驚いた。

顔を上げると、部屋の大きさに、恐れを感じた。


「神様!」


助けを乞うたが、彼女に答えはなかった…


彼女にとって、神はもうとっくに疎遠な存在となっていたからだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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