第4話
先代のツェルプスト侯爵の未亡人を、無理やり口説こうとしている侯爵がいるという。
夫人からの依頼で、モニカは調査に入ることになった。
調査を行ない、必要なら宗教裁判を開くことになる。
夫人に話を聞きに行くと、相手はあのマルティン候だという。
あのブルンブルグ攻略の際の討伐長である。
夫人によると、しつこくいい寄られているという。
たしかに武人なところはあるが、話してわかる人という印象だったモニカは、意外に思った。
マルティン候のシェウダーに向かった。
会うなりマルティン候は、モニカを冷やかすようにいった。
「四頭立ての馬車とは… 出世したな」
「ヨアヒム公が、教会には権威が必要だとおっしゃいまして… 私は必要ないと思っているんですが」
「侯爵並みじゃないか。結構なことだ。で、今日は何の用だね?」
「あなたがツェルプスト侯爵夫人にいい寄っているという話を、聞いたんですが」
「いい寄っている? 確かに声はかけたが… でも…」
候はモニカを見ていった。
「アンタがいったんじゃないか! 教会で女を見つけろって」
「例の件だったんですか!」
確かに以前、宗教がわからないという侯爵に、女を見つけろといったことはある。
「しかし、夫人は迷惑だといってます」
「紳士の礼は尽くしたつもりだったがな」
「気を悪くされたなら、申し訳ありません。でも、夫人には…」
モニカはいい難そうにしたが、侯爵は察していった。
「ああ、もちろんさ。こっちだって無理やりいい寄ったわけじゃないぞ。あっちが断らないから…」
「夫人は、マルティン候が怖かったそうです」
「ワシが? ワシがか… つくづく新しい社会は住みにくいな…」
「あなたには助けていただきましたから、あなたを討伐する指示は出したくありません」
「もちろん、身は引くよ。あの人がそういってくれれば、すぐに引いたさ」
「ありがとうございます!」
モニカを見ると侯爵はいった。
「なんだ? ずいぶん疲れているようなじゃないか?」
「最近いろいろありまして…」
「ヨハンの処刑か?」
「はい…」
「なにいってるんだ! 出世したんだろう。だったら、なにを暗い顔してるんだ! 後任とうまくいってないのか?」
「なんか今では、私が実質ナンバー1のように、なっていまして…」
侯爵は笑っていった。
「なんだ! そうか! おめでとう!」
侯爵の明るい顔を見ると、悩んでいるのがバカらしく思えるほどだった。
「それでは、よろしくお願いします」
「アンタもつらいかもしれんが、まあガンバってな…」
マルティン侯爵の件はこれで終わりだった。
その後、ツェルプスト侯爵夫人から、お礼にと教会へ寄付があった。
莫大な金額だった。
モニカは、イヤな気分になった。
せっかくの友好に、値段が付けられたような気がしたからだ。
彼女には、自分が人間の真実を見いだせると思って飛び込んだこの宗教が、この社会が、すべて薄っぺらいものに見えてしょうがなかった。
あの頃は、すべてを美しくできる、この宗教にはそれだけの力がある。
そう信じて疑わなかった。
しかし、それは思い過ごしだったのだ。
だが、それがわかったとして、なにができるだろうか。