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第九話 カウントダウン、開始

「人殺しって・・・あいつは、まだ高校生で・・」

「確かに、この世界には前科持ちの奴等は五万といる。だが、奴は本当に人殺しの訳ではない。奴の戦い方が、そんな異名を持たせるような戦い方だったんだよ。・・・俺とあいつが、出会ったのは、たしか・・去年のこの辺りだったかな・・」

ガマガエルと伊吹は、非常口とカモフラージュされた階段を下へと降りる中、ガマガエルが三島との出会いを語り出した。

「俺の開催してる大会だと言うのに、売上はいつも、あの忌々しい但馬組に持っていかれてばっかしだった。」

ガマガエルの持つタバコが強く握り潰される。

「その時の王者が、但馬組の飼い犬でね・・・賞金も何もかも持って行きやがった。・・・だからと言って、一番人気のその王者を、理由もなくリングから降ろす事も出来なかった。」

伊吹が、目の前にある扉を開け、ガマガエルがその扉をくぐり、後に続いて扉をくぐると、そこには、中心を金網で囲まれた闘技場と、周りを熱気に包まれた観客達が、圧し潰されるようにそのリングを囲んでいた。

「話を続けるぞ」

ガマガエルは、大きなゴールデンに輝く皮のソファーに座り、話を続けた。




大きな黒皮のソファーにふんぞり返り、苛立ちを隠そうと煙草を吹かすこの俺に、近づいてきたある餓鬼がいた。

「どうした、おっさん。負けてるのか?だったら、いい事教えてやるよ。俺に千円でもいいから賭けときな。きっと終わる頃には、何十倍にもなってるよ」

俺が、そいつに何か言い返そうとするが、その前にその餓鬼は俺に背を向けて闘技場へと向って行きやがった。

俺は、苛立ちをその餓鬼にぶつけようとしていたが、その餓鬼の服の上から見てもわかるような、鍛え抜かれた大きな背中に思わず息を飲んだ。

真っ白の胴着を着こんで、闘技場の前で上の胴着を脱ぎ、ズボンの太ももの裏にご丁寧にも《元》とゼッケンまで縫いつけて。

そんな見知らぬ餓鬼は、リングに上がると何を血迷ったか王者を指名しやがった。

周りの観客は、そりゃみんな王者にかけるに決まってる。無名の餓鬼と現王者、比べるまでもねぇ、月とすっぽんよ。

俺ももちろん、王者に賭けた。

だが、その餓鬼も俺をここのオーナーと知って話しかけてきたのかは、知らないが少し気に入った。奴に十万かけておいた。

これで、負ければ俺は大損だ。負けたらただじゃおかねぇ、指の二、三本置いて行ってもらうつもりだった。

そんな、ガマガエルの言葉に思わず息を飲む伊吹。


王者も、見知らぬ餓鬼に挑発されたまんま、引き下がれねぇ、真っ黒の皮膚のスキンヘッドはリングに上がった。

観客も、命知らずの餓鬼に罵声を浴びせる。中には応援する奴もいたが、もちろん本心じゃない。

睨みあう二人・・・二人の体格を比べて見ても、体格差は明らかに王者に有利。

ますます、王者に掛けられる賞金は跳ね上がり、餓鬼のレートは半端ない数字になっていく。

試合開始の鐘が鳴った途端、観客の声は一気に静まり返った。

リングに拳を抑えながら、沈んだのは王者で、餓鬼が両手を挙げてガッツポーズを取っている。

試合開始直後、王者の拳が餓鬼の顔面を狙って振り下ろされた。だが、その餓鬼はその拳を狙って拳を突き出した。

王者の拳は、鈍い音を響かせながら潰れ、リングに倒れたんだ。

「ウラァー!声がねぇぞ、ゴラッ!」

リングの上で静まり返る観客に怒鳴り散らす餓鬼は、金網を蹴ったり、大きな音を立てて観客を飲み込んで行く。

「今日から俺が、ここの王者だ!俺を殺せるもんなら殺してみろ!」

未だに、観客からは声も物音も出て来ないのに痺れを切らせた餓鬼はリングの上で、拍手を始める。

そうすると、次第に客の中から拍手が少しずつ出始め、最終的には餓鬼を応援するコールと、王者にかけた野郎どもの、今ではただの紙きれが宙を舞った。

拳を潰され選手生命を失った元王者を担架で運ばれる中、他の組に取られる前に、手を打たねばそう思い、俺は急いで奴を買いに急いだ。

「いくらだ」

「はぁ?」

リングから降りてくる餓鬼に話しかけるが、奴は何も知らないのか、変な態度だった。

「お前は、どこかに属しているのか?」

「別に・・・ここなら強い奴がいるかなって思って来ただけだ。でも、拍子抜けだ」

「なんだ、道場破りでもしてると言うのか?」

「まぁそんな感じだ」

餓鬼のそのそっけない態度に、思わず声を出して笑った。

「面白い、面白いぞ!いいだろう、餓鬼。俺はここの大会の主催者だ。お前に強い相手を探して来てやろう。」

「餓鬼じゃない。元だ」




奴の名前が、広まるのは、時間の問題だった。

人殺しの異名がついて回るのもな。奴と戦った相手は、ほとんどではないが、選手生命もしくは、日常生活に支障が出るほどの怪我を負わせる事も多かったからだ。

そんな勝ち戦に、賭ける奴等も減って行っちまう。それを回避するために俺は元に無理難題を押し付けた。

名目はバトルロアイヤルだが、実際は4対1の試合も、奴は難なくこなしていく。

一番ひどかったのは、奴の両手を縛ってリングの上にあげた事もあったな・・。

それでも、勝ち残る奴は、面白くないとリングの上で相手選手を挑発しまくった。

そう言う訳で、今度はリングの上に武器をばらまく事にした。

木刀、トンファー、ヌンチャク、棍棒、三節根、ありとあらゆる武器を地面に置き、その達人をリングに上げるが、奴はその達人をも上回る身のこなしで、達人達を倒しちまった。


もう、ここまでか・・・俺は奴にリングから降ろさせようと考えた。これ以上、奴をリングに上げていても商売にならねぇ・・だが、連日の試合で疲労が溜まっていたのか、次第に敵の攻撃を喰らうようになっていた。

それでも、勝ち続ける奴を倒そうと、挑戦者は増え、観客も遂に奴がリングに膝をつく・・そう思うと一気に客足も倍増した。

俺も、奴が地に足をつく所を、見たかったが、さすがに俺も鬼じゃない。二人にタコ殴りにあうあいつを見て、休養を取らせることを決意した。

更衣室で、ファイトマネーを数える奴に休養を取るよう勧めた。

「はぁ?なんで?」

「なんでって、お前な・・・疲労が溜まってんだろ。リングの上で死んでもらっちゃ困るんだよ」

「大丈夫だよ、最近ようやく面白くなってきてんじゃん。ワザと殴られりゃ、敵の気持ちも高ぶって、攻撃力が増してくる。大振りになるけどな」

「ワザと・・・」

奴の体には、青痣があるにしても、これと言った怪我は確かになかった。

俺は大きな笑い声をあげながら、更衣室を後にした。

そして俺は、奴の底知れぬ力に惹かれていくようになっていた。






「だが、事件が起きた」

ガマガエルの手に持った煙草の消し炭が、ボトリと落ちた。

「人殺しの元、その名前は、裏の世界でしか広まる事はなかったんだが、表の世界でもその名前は広まるようになっていた。」

「まさか・・・」

伊吹は、リングで戦う奴等を見ながら、ガマガエルに冗談でしょ?なんて感じで口を開いた。

「そう思うだろ?・・俺も初めはそう思った。だが、奴は実際、人を一人殺したらしい。ニュースにこそならなかったものの、あいつは一度、サツに捕まった」

今まで見てきた三島とは、明らかに違う一面を聞いてるようで伊吹は、あり得ない。としか思えなかった。

「奴はその後、どうやったかは知らないが三日も経たないうちに、娑婆シャバに出てきて、もう闘技場には出ないそう言い残して俺の前から消えた」

「あいつは・・三島は、本当に人を殺したんですか?」

「俺も聞きたかったが、その問いかけには何にも答えてくれなかった。さてと・・・俺が言えるのはここまでだ。そろそろ、店仕舞いだ。掃除よろしく」

ガマガエルはそう言うと、金色のソファーから重たそうなケツを持ち上げ、自室へと戻って行った。





先ほどの店に戻り、客がいなくなった店で、伊吹は、ゴム手、長靴を装備しスポンジ、バケツを持ち、掃除場所へと向かった。

「新人君は、トイレ掃除〜。いつかなってやる、テーブル拭き〜。もしくは、オーナーの部屋で待機〜」

なんて、虚しくなるような鼻歌を歌いながら伊吹は、便器を掃除し始める。

異様なくらい多い洋式トイレ。たまに、トイレの中で寝ている奴もいる。そして今回は、三つ目の部屋で倒れている客がいた。

「お客さん。ここで寝られても困ります。」

ゴム手で、直に客の頬を叩く。水が付いたゴム手の張り手を喰らい、一瞬、眉を歪ませるが、再び寝入ってしまう。

「困ったな〜。そんな狸寝入りに付き合うほど、俺も暇じゃないんだよ。さっさと起きろ。何が目的だ」

そう言って、今度は水の滴るデッキのついたタワシを、客の顔に徐々に近づけていく。

徐々に近づくタワシを客は、顔の目の前で止めた。

「ほら、起きてた」

「本当に寝てたら、どうするつもりだったんだよ。お前」

「水浸しで帰ってもらいます」

伊吹は、ゴム手袋の水を払い、そのしぶきを客にかける。

客の怒りも段々と上がっていく。

「てめぇ・・・ただで済むと思うなよ」

「お前こそ、単騎でこんな所に飛び込んできやがって何の真似だ?どこの人間だ」

伊吹の問いかけに口を開こうとしたその時、トイレの向こうでガラスが割れる音が聞こえ、伊吹はトイレの外に出る。



「こんちわ〜、お客さんです〜。会長さんは、どちらにおられるでしょうか?早ょお、出てこいや!」

トイレの外に出ると、入口付近には、柄の凄い色をしたスーツを着こなす、男達が色とりどりの武器を持ち、立っていた。

「これはこれは、但馬組の若い衆が一体何のご用件かな?」

ガマガエルが、奥の部屋からゆっくりとこちらに手だねを揃えて降りてくる。

「いやね、そちらの人間が、こっちの人間に手〜出したってもんでね。この落とし前、どう取ってくれんのかな〜って思いまして、参上仕さんじょうつかまつった次第でございます〜。」

下手な言葉だな〜なんて思いながら、伊吹はそのやり取りを、トイレの前で見届ける。

「はて?何の事だか・・・」

「すっとぼけんじゃねぇやっ!こっちは六人も病院送りや(マジで)。そんな大人数、一瞬で片づけれんのは、あんたの所の元しか、おりゃせんやろ!」

目の前に倒れるテーブルを勢いよく蹴るが、あんまり動かなかった。と言うか、案外重くて、硬くて、足の先がジンジンします。けど、そんな顔は絶対見せません。男の意地や・・なんて想像しながら心の中で笑う伊吹。

「元?・・・そんなもんは知らん。今どこで何をしてんのかも、知らん」

「そして、なんでも〜そいつは、人探しをしているようで〜。伊吹っちゅう黒いコートに身を包んだ奴を探しているようでさ〜」

あの馬鹿野郎・・・顔をしかめる伊吹。

「会長さん。確か、新人さんで〜伊吹っちゅう名前の子おりましたよね」

「さぁ〜知らんな」

その時、トイレの扉がキィっと鳴って動くのを感じ、後ろを振り向くと、先ほどの客が伊吹にめがけナイフを持ち、突進してくるのが見えた。

伊吹は、とっさに避け、そのナイフを叩き落とし、その男の腹にひざ蹴りを喰らわせ、地面に伏させた。

「ぐっ・・・兄貴!こいつだ・・間違いねぇ」

倒れながら、客は、入口付近にいる奴等にそう叫ぶ。

その言葉を合図に、若い衆は、伊吹に向かって突進してくる。だが、その前にオーナー達が通せんぼをするように前に立ちはだかり、その場で戦闘が始まった。

「伊吹!」

オーナーが、立ち尽くす伊吹を見ながら叫ぶ。

「お前、やっぱクビだ!退職金は、お前の口座に振り込んどいてやる。」

そう言いながら、オーナーは二人の男の首を鷲掴みにし、振りまわしている。

「だから、お前は逃げろ!」

「了解です。お世話になりました」

伊吹はそう言うと、カウンターの上を飛び越え、太刀を一本取り、「オーナー!」そう叫び、オーナーに向かって投げた。

「おぅボーナスもつけといてやる!」

太刀を取ると、オーナーは小さな体には合わない、その太刀を、豪快に振り回し始め、敵は後ずさりを始める。

その光景を見る事なく、伊吹は裏口へと走る。

だが、オーナー達の攻撃を掻い潜り、先周りをしていた奴が目の前に立ちはだかる。

伊吹は、突進してきた奴の頭を掴んで、自分の大きな巨体を浮かせ、敵の背中を滑らせ、後ろに回り込み、そいつのケツを蹴飛ばした。

「ほぉ、あいつも闘技場に出せば、面白い事になったかもしれないな」

オーナーは、その伊吹の動作を見てゲロゲロと笑った。

階段を上がり、後を追ってくる奴等に椅子を投げ、怯んだその上に伊吹はダイブし、追手をその場で、食いとめ、裏口の扉を開き、朝方の霧の濃い街中へと消えて行った。






白タクは、三島の家の近くで止まり、代金を払おうとする三島に「要らない」そう言って、霧の深い住宅街へと消えて行った。

「今日はやけに霧が深いな・・・」

ポケットの中で、壺を転がしながら、アパートへと階段を上り、自分の部屋に入った。

ポケットから、壺を取り出し、蓋を開けるが、中から魔法のランプみたいな登場をするかと思い、少し離れるが、何も起きない。

「あれ?」

なんて、壺の様子を窺っていると、中から何やら少しずつ何かが出てくる。

「うわっ・・・スライム?」

ウニョウニョと出てきはじめ、次第にテーブルの上に倒れる何やら透き通った仙田が現れ始めた。

体が完全に出ると、仙田は立ち上がるが、やけにフラフラと足がおぼつかない。

「あんた・・壺の中に私がいるって事、忘れて・・ぐるぐる回してんじゃないわよ・・あぁ・・気持ち悪い・・・吐きそう・・」

「おぃぃ、てめぇ俺の部屋に来て三回中、二回も吐く気か!」

千鳥足の足がテーブルにぶつかりそうになるが、仙田の足はテーブルを透き通り、横の壁にもぶつからず、隣の部屋に侵入してしまった。

「仙田!戻って来〜い。不法侵入だぞ」

壁に耳を押しあてながら、仙田に言うが、おぼつかない足音が、段々とこっちに近づいてくる。

「あぁやな予感だする・・・」

その予想は的中、壁を透き通って仙田は現れて、三島の足に足を取られ、仙田は三島に倒れ込んできた。

「あぁ・・・ちょっと楽になってきた・・・」

仙田は、そう言いながら、全く避けようともしない。むしろ逆に、三島に抱きついてきた。

感触こそないものの(まぁ実際は謎の物体だから)、実際、これは絵的にはヤバい光景だ。

「仙田!・・・仙田さん!・・・離れろ!離れて下さい。お願い!」

「あぁちょっと待って、落ち着いてきたから・・・」

嫌嫌々嫌嫌、無理、無理だから〜!そう思い、壊れそうになる理性を持ちこたえながら、仙田を引き剥がそうとするが、

「いや〜、ちょっと、まっ、待って待って、吐く吐く吐いちゃう!・・・ウェップ・・」

「おいぃぃぃ、てめぇ。俺の顔面に吐瀉物ゲロをぶつけるつもりか!」

「ん・・・大丈夫、実体がないから、実際にかかる事はない」

「ねぇ、トイレまで運んであげるから、離れて、お願い。俺の理性がブチ壊れちまいそうなの」

「はぁ?あんたね、実体がない物にでもそんな事、思うのか!」

仙田は、倒れる三島に顔を突っ伏しながらそんな事を言ってくる。

「喧しい!それが、男の悲しいさがってもんだ。それに、そんな事をさせようとしているのは誰だ!お前だろ」

「はぁ・・・これだから男って奴は・・・あぁ・・ヤバい・・熱くなりすぎた・・」

次第に仙田の顔が見える範囲でわかるくらい青白くなり始める。

「仙田さん?・・・ちょっと仙田さん?」

「10・・・・9・・8・・7」

突然、カウントダウン・・・

「えっ、嘘・・・ちょっと仙田?・・・マジ?まじで?」




「ゼロっロロロロロロっっっ!」

「ぎゃぁああぁぁぁぁーー仙田、この野郎ーーっ!」





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