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第八話 やっぱり、返してくれ

「下半身麻痺・・・」

「そう、生まれつきね・・・」

病院の廊下で、仙田の着替えと、三島の着替えを両方持って来てくれた田村が、長椅子に座る三島の横に腰を降ろした。

「私のお父さん、介護のボランティアしてるでしょ。それで、年も同じだからって私に紹介してきたのよ。初めは、本当に迷惑そうな顔でこっち見てきてさ、そりゃ、私だって好きでこんな所に来てるんじゃないわよ!って言いたかったけど、さすがにあんな管ばっかり刺された彼女にそんな事は言えなかった。・・・」

診察室から、仙田の両親が現れ、三島達に一礼し、軽い挨拶を済ませると仙田の病室へと向かって行った。

「でもね、私が通い続けて行くと、千尋も段々と表情が出てくるの。笑ったり、喜んだり、悲しんだり、寂しがったり。私があんたの事で落ち込んでた時も千尋に励ましてもらったりもした。・・・そしてね、医者も奇跡だって言うほどの出来事が起きたの。わかってると思うけど、彼女が突然、立ってね、何も知らないで病室に入ってきた私に飛びついて来たの。・・・嬉しかったわ〜、もぅ涙もんよ。本当に動けなかった千尋が私に飛びついてきて、「私、美野と同じ高校に行きたい!」って言ってきたの。あの時、本当にいい笑顔だったわ。今でも思いだせるぐらいの満面の笑顔でこっちを見てくるの・・・」

横で、涙しながら喋る田村の言葉に三島は黙って耳を傾けた。

「一応、通信の高校に通ってる事になってたから、転校は簡単に出来た見たい。まぁ私達の高校に転校だなんて、どう考えたって世間体に見ても考えられない事だけどね。・・・でも、やっぱり、そう簡単には新しい友達も出来なかった。でも、元に会って千尋、ちょっと変わった気がしたの・・・でも、こんな事になるなんて・・」

『それでも、私は自由が欲しかったの』仙田の言葉が三島の中で何度も繰り返される。

「自由か・・・」




両親が病室から出て行き、その後に三島と田村は病室に入った。

「千尋・・・」

そう言いながら、田村は仙田に近づく。

仙田は目に涙を浮かべ、周りに置かれた時計や花瓶を奥に立っていた三島に向かって投げてくる。むやみやたらに飛んでくる物を三島は避ける事も何も出来ず、ただ立っている事しかできなかった。

「千尋、千尋。落ち着いて、私よ」

「嫌、嫌なの!そんな顔しないで!そんな目で見ないで」

田村は暴れる仙田を抱きしめ、『とりあえず、外で待ってて』と三島に目で訴える。

病室から出た三島は、扉をはさんで聞こえてくる仙田の泣き声を聞きながら扉に寄りかかるように、腰をつき、顔を両手で覆い隠した。


「おぉ、懐かしいな、その恰好」

そう言いながら廊下を大柄のおじさんが歩いてきた。

ズカズカと大股に歩き、大きな足音を立てながらやって来るのは、クマを素手で殺した事があると噂される。田村の親父さんだ。

「親父さん・・・お久しぶりです」

「その扉でそんな恰好をしてた奴は、お前を含めて二人目だ。お前もこの部屋から出て行けって締め出された口か?」

「いや、美野に出てろって目で訴えられたんですよ」

「ほぉ、あいつも成長したもんだ。」

立派な顎髭を指でなぞる親父さん。

「あの・・・俺、一体どんな顔してたんですかね・・・全然、わかんなくて。何すればいいのかもわかんなくて・・」

「顔か・・・そりゃ健全者にはわからない事なのかも知んないな。・・・だが、何すりゃいいかなんてもんは、わかるだろ。」

「わかんねぇっすよ・・」

そう言いながらさらに縮こまる三島。

「元、お前は彼女のなんだ?」

そんな三島の顔の前に田村の親父さんは、腰を下ろし、グィッと自分の顔を寄せる。

「何って・・・そりゃ、と・・友達ですよ」

「友達か・・・・それがわかってるなら、大丈夫だ。最初にここで落ち込んでいた奴は、まず友達になる事から始まってたからな。それと比べるなら、お前は楽なもんだ」

そう言うと、親父さんは立ち上がり、別の部屋へと入って行った。

「おぉ、そうだ。たまには道場に顔出せよ。きっと餓鬼共も喜ぶ。」

部屋から顔だけだし、親父さんは話しかけてくる。

「冗談、俺はもぅ行けませんよ。もぅみんな俺の事なんか忘れてますよ・・・」

「忘れるもんか・・お前は子供の記憶力を馬鹿にしているのか?子供は読み込みが速い上に体で覚えちまったら、一生離れねぇんだよ。たまに言われるんだぞ、「元兄げんにいは今日は来ないのか?」ってな」

親父さんはそう言うと、再び部屋に入ろうとするが、それを三島が呼び止め、親父さんのもとへ駆け寄った。

「親父さん・・」

「なんだ。俺はそんなに暇じゃないんだぞ」

「一つ、聞きたい事があるんですけど・・」

「なんだ、言ってみろ」

「もし・・・もしもですよ。死ぬほど欲しい物があって、それが手に入るなら代償にいつ死ぬかわからないって言う代価を払ってでも、欲しいと思いますか?」

三島の問いに首をかしげる親父さん。

「何の事だ?」

「いや、だから例えば無しですよ」

「ふん〜・・・・死ぬほど欲しい物か・・・わからんな。・・だが、元。お前はどうだ?一度、自分の命を捨ててまでも、ある物を追い求めた事のあるお前なら、どうだ?」

「止めて下さい。結局、俺は何も見つけれなかった。・・・でも、今・・・」

似たような体験をしている・・元は思わず、声を閉じ、親父さんは眉を細める。

「おぃ、元・・・お前、まさかまた・・」

「やってません。・・・やっぱ答えは自分で探します。失礼します」





病院を出ると、外は完全に闇に閉ざされ、街灯が唯一の光だった。

病院の中庭に椅子に腰掛け上を向くと、真上には街灯が三島を照らしていた。

「あぁあ、星を見ようと思ってたのに・・・」

「なにが星よ。似合わねぇっつうの」

後ろを振り向くと、田村が立っていた。

「あれ?もぅ戻ってきたのか」

「面会時間終了よ。あんたこそ、何いなくなってんのよ」

「ん〜ちょっと、考え事・・」

「考え事ね・・考え無しで行動するあんたが考えたって無駄だと思うけど」

「そうだよな・・・やっぱ、本人しかわからねぇよな」

「それより、早く電車に乗らないと終電逃すわよ」

「悪い、先に行っててくれ」

「・・・了解」

田村は、椅子に座る三島を置き、先に帰った。


しばらく、椅子に座っていると、携帯のバイブが震えはじめた。

携帯を取り出し、開くと画面には《仙田》と書かれてあった。

「もしもし・・・」

『・・・』

「仙田か?」

『うん・・・さっきから椅子に座ってるのが見えて』

三島は、後ろを振り向くが、病院から見える窓はすべて真っ暗で、仙田はどこにいるかはわからなかった。

「なぁ仙田・・」

『うん?』

「自由が欲しかったって言ってたよな?」

『・・うん』

「今でも欲しいか?・・正直、俺は誰かに乗っ取られるなんて嫌だから賛成はできない。でも、お前はどうだ?」

『・・・私、いつも、同じ病室で看護師に手伝ってもらって、お風呂に入ったり、散歩に出かけたり・・とても窮屈なつまらない世界。・・でも、足が動くようになって世界が広がったの。美野と一緒の高校に行って、美野にいろんな所に連れてってもらって・・・だから、こんな広い世界があるんだって、ようやく知ったの。でも、またこの世界に逆戻り。・・・あのね、私の中に彼女がいないの・・・』

「やっぱり、それが原因か・・・」

『・・・何か知ってるんでしょ。教えて』

「・・・伊吹が、お前の体の中から何かを抜き取ったんだ。目に見えるものじゃないが、確かに何かが抜けるような気がした」

『あのね、三島君。私、その戦いについて私、何も知らないの。だから、その伊吹って人も知らない』

「えっ?でも、あいつから聞いてるんじゃないのか?」

『彼女から、伝わってくるのは気持ちだけ。虫が服の中に入ってきた。とか、服脱ぎたい。とか・・・』

「そっか、なら戦いについては何も知らないんだな?」

『うん・・教えてくれないの』

確かに、あの戦いは教えたくもない。それに仙田は、三島が知らない間もあんな戦いをしてきた。

「・・・伊吹は、あいつを抜き取った後、返して欲しかったら、この世界で俺を見つけろって言っていた。仙田、俺はお前が探して欲しいなら、伊吹を俺は探す。どうする?」

『・・・私ね、体の中でベルが鳴らなくなったの。多分、彼女がいなくなったから・・・三島君はこの戦い、続けるべきだと思う?』

「俺は・・・正直、お勧めは出来ない。・・でも、決めるのはお前だ。決めてくれたら、俺は伊吹を探す。・・・あぁ、やっぱ仙田が返して欲しかろうが欲しくなかろうが、伊吹を探すわ・・」

『・・・ごめん。まだ、わからないの。それに、その伊吹って人を探すって言ってもそう簡単に見つかる訳ないよ』

見つかる訳ない。その言葉に確かに・・なんて納得しながら三島の口が引きつった。

「確かに・・・でも、とりあえず俺はあいつを探すよ。・・・・その後にお前から答えを聞くよ」

三島は、電話を切ると、とりあえず病院を後にした。





「まぁ・・・とりあえず繁華街に来たものの、写真もなけりゃ、手がかりもなし。そんなんで見つかんのかな?」

街の光がまるで朝のように明るく光り、そんな中で一人、季節はずれの季節ハズレの針葉樹(まぁ冬になると綺麗になるんだが)の下にある椅子に腰を下ろし、来る人来る人を一人一人見て回る。

「いねぇな・・・あんまりここに長居はできねぇのにさ・・」

繁華街の住人らしき、人達は次第に三島を見て、ざわつき始め、誰かに連絡を取る人まで出て来ていた。

そんな光景を見て三島は、場所を移動しようと重い腰を持ち上げる。

「潮時か、そろそろ離れねぇと・・」

「ネェ、誰を探してるンデスカ?」

椅子から立ち上がるとチャイナ服を着た、女性が話しかけてきた。

「別に、黒いコートに身を包んだ男だよ」

「ウチの店、寄ってかない?安くしとくヨ〜」

チャイナは、三島の腕を掴み、強引に店に引っ張り込もうとする。

「・・・お前、俺を知らないのか?」

「知ってるヨ〜。だからウチの店長サン、呼んでる。このビルの七階に待ってるヨ」

ビルの上を見ると、すべての窓ガラスには黒いスモークがかけられ、明らかに危険と言う空気を噴き出していた。

「悪いな・・・俺、急用だから。伊吹と名乗る黒いコートの男を見つける事が出来たらその店に入ってやるよ」

三島は、チャイナ娘の腕を払い繁華街から逃げ出した。



街中を歩いていると、後ろから数人の黒いスーツに身を包んだ男が付いてくる事に気づいた。

「やっちまった・・・」

走り出すと後ろの男たちも走ってきた。

三島は、人の縫い目を抜けて走り、男達は通行人を突き飛ばしながら、追ってくる。

天狗の時と同じ状況だ。でも、天狗の時の方が大変だったかな?

そんな事を思いながら、三島は裏路地へと逃げ込んだ。男たちも後を追うように裏路地へと入り込む。

「こっち、こっち」

三島は、手招きをするように男達を奥へと誘い込む。

次第に道幅は狭くなり、人一人分の狭さになっていた。

「くそ、ちょこまかと・・」

苛立ちを声に出してくる男たち。

三島は、曲がり角を曲がり、男達が曲がると、三島は、消火器を持ち、待ち構えていた。

「いらっしゃ〜い」

安全ピンを抜き、男達に噴射した。

「ぬわっ」「くそっ」

白い粉をまき散らされ、男達は、バラバラに声を発するが、その声は段々と殴られる音と悲鳴に似た声に変わり、白い粉が晴れ始めると、そこには大の男達が、数名倒れ、三島は最後の一人を蹴り飛ばしている所だった。

「あぁ、くそ・・・煙が晴れる前に倒す予定だったのに・・・」

三島は少々、悔しがりながら裏路地から抜け出し、乱れた服を整えながら何事もなかったかのように人ごみに紛れ、駅に向かって歩きはじめた。




駅に着き、時刻表と時計を見るが、終電も逃してしまった事に気づく。

「最悪だ・・・」

バス乗り場を見るが、そこも、手おくれ。最終手段はタクシー・・・は、まだいいだろう。

「歩くか・・・」

夏休みに入り、まだ一週間も経たないうちに何やら、凄いビックイベントに出くわした気がする・・・なんて思いながら、トボトボと歩く三島。

警察官に補導され、「また君か・・」なんて溜息混じりに言われて「へへっ、すいませ〜ん」なんて頭下げて。

誰も通らなそうな道、激しく揺れる車を通り過ぎ。

段々とビルの背も低くなり、あともぅ少しで、田畑が見え始める道、そう思いながら歩いていると、再びビックイベントが始まりそうな気がし始めた。

真っ赤なオープンカーが三島の横に止まり、大きなサングラスが印象的な女性が話しかけてきた。

「ねぇ、人探しは順調?」

「何の事」

三島は、そう言いながら、歩く足を止めなかった。車も三島に合わせてトロトロと動く。

「ちょっと、止まりなさいよ」

「なんで、金はないよ」

三島の足は段々と速くなる

「わかった、本当の事言うから。止まって」

「やだ」

三島のスピードに合わせ、車も早くなり、彼女の髪がなびくような速さにまで達していた。

「ねぇ、止まってよ!」

「前危ないよ〜」

「えっ?・・キャァ!」

彼女が前を向くと、道が大きく曲がっている事に気づいた。

急ぎ、ハンドルを切り、車はそこで停止し、三島は道なき道を走りはじめた。

「ちょっと、人の話はちゃんと聞けっつうの!」

「ごめんね。おっかない女性には、近づかないようにしてるの」

車から降りる頃には三島は、畑の中に小さくしか見えていなかった。

「千尋の体を借りてた本人が、せっかく来たって言うのに何その態度」

彼女がそう言うと、三島は足を止め、どんどんと彼女に近づいてきた。

「お前、仙田か」

彼女の前に来ると三島はそう聞いてきた。

「残念ながら今は、・・・えぇっと、この子、名前いっぱいあるのよ。今は阿形ょ」

「借りてるって、どういう事」

「一時的によ。伊吹の目を盗んでこっちまで来たんだから。もぅ持ちこたえれそうにない」

「今、あいつはどこにいるんだ?」

「着いてきなさい。それで、私を早く解放して」

彼女はそう言うと車に乗り込み、その場で気を失った。

「おぃおぃ、連れて行ってくれるんじゃないのかよ」

車に乗り込もうとしていた三島は、彼女から何かが抜けるのが見えた。いや、実際は見えてはいないのだが、何となく白い物が見える・・と言うか感じる?そしてその物体は、宙をフラフラと舞って、移動を始める。

「冗談だろ、ついて来いってか?もぅ足がヘトヘトだってぇの!」

三島は、謎の物体を追いかけ、車はその場に放置しまた街の方へと走り出した。



再び、人でごった返す道の間を縫って物体を追いかける三島。

謎の物体は、針葉樹がメインストリートに飾られる繁華街に入り、三島は一度躊躇し「あぁもぅ!」少々、開き直りながら物体を追い、中へと入って行った。

道幅は広く走りやすいが、また目立ちやすい。再び、周りの視線が痛く感じ始める。

店の中からは馬鹿デカイ音が漏れ、道には音が絶えなかった。

「あれ?・・・あれ、元じゃね?・・・おぃ元!」

声のする方を見ると一番音が漏れているゲームセンターの前に同じクラスの男子が数名、UFOキャッチャーをしていた。

三島は、一度走るのを止めて、息をついた。

「元、お前、こんな所で何してんだよ」

かなりバテている三島に、水を渡す。

「ちょっとな・・・こっちに急ぎの用が・・」

「用ってお前、・・・早く逃げろ。もぅ見つかっちまってるぞ」

友人たちは、周りを見て心配をするが、三島は物体が、また遠ざかっているのを見てペットボトルを渡し、再び走り出す。

「悪い、時間が無いんだ。また今度な」


しばらく走り続けると物体は、下に階段が伸びる店の中へと入って行った。

「ここか・・・ちょっと、ラッキーかな?」

三島はそう呟き、階段を降りると周りで三島を追っていた奴等は、舌打ちをしながら悔しそうに三島の追跡を諦め、繁華街へと姿を消した。


階段をしたまで降りると、黒い扉があり、その扉を開くと、ガンガンと音が鳴り響き、色々な光が飛び交う世界が広がっていた。

今日は、どうやら何かのイベントがあるらしく、店には人がごった返し、踊り狂う人々もいた。

その中を、三島は間を縫い、カウンターがある所へと向かった。

「オレンジジュース」

カウンターの奥で三島に背を向け作業をする人に声をかける。

「ジュース?ジュースでいいのか?」

「いいんだよ。さっさとこっち向け。魔術師」

「はぁ?・・・あっ」

黒い帽子、黒いピッチリとした服で真っ黒に染める伊吹がカウンターに座る三島を見て、驚き銜えていたタバコを下に落とした。

「何、黒い色が好きなのか?」

「驚いた。こんなに早く俺を見つけるとは・・・」

「そりゃ、俺も初めは、探すかどうか迷った。でも、やっぱ返してくれ」

伊吹はポケットから土で出来た小さな壺を取り出す。

「こいつの事か?」

「・・・そん中に入ってるの?」

「まっ、封印するって言ったら大体こんなもんだろ」

「封印って、彼女俺の前に出てきたぞ」

「マジか・・穴でもあいてたか?」

壺の周りを見回す伊吹

「で、返して欲しいんだけど・・・」

手を差し出すが、伊吹はその手の上に壺を置こうとはしない。

「そういう場合は、何か俺にくれないと」

「彼女もそうだけど、お前等は交渉好きだな・・」

しぶしぶ手を引っ込める三島。

「その通り、世の中、一方的になると思うなよ」




「伊吹・・・この店に勤めて何年?」

横に置いてある豆に手を伸ばす三島

「なんだよ、突然・・まぁ最近かな?まだ一年経ってないと思う」

「だよな〜。俺の事、知らないみたいだしな」

「はぁ?お前みたいな餓鬼。誰もしらねぇよ」

その伊吹の態度に、三島はニタリと笑った。

「伊吹、あぁ〜、伊吹君。じゃぁ一方的な交渉をしようじゃないか」

「はぁ?」

「その壺を俺に返して下さい。返してくれないとね〜、大変な事になるよ」

「なんだそりゃ、なんかの脅しか?」

「そうだな・・・多分、伊吹の首が飛ぶ事になる」

「ハッ、やってみろ。餓鬼んちょ」

「わかった。ちょっと待っててね」

三島は、カウンターから立ち上がり、店の奥へ行くとガードマンが立つ扉に難なく入って行った。

伊吹はその光景に目を疑い、目を何度も擦り、見なおすが、ガラス張りの部屋に三島とこの店のオーナーが何やら話しあっている。時折、伊吹の方を指さしながら。

しばらくすると、オーナーが三島と一緒に降りてきて、伊吹の方に近づいてきた。

「あぁ〜、ちょっといいかな」

「は、はい。オーナー」

ガマガエルのような顔をしたオーナーに体が固まり、何を言われるか、わからない。そう思い唾を飲み込む伊吹。

「君、クビ」

「・・・・はい?」

「これ、今日までの給料な。はい、お疲れさん」

テーブルに見た事がないような厚さの封筒を差し出され、それでクビ?

「えっ、ちょ、オーナー。自分・・・クビ?えっ?クビ・・・ですか」

「そうだ。読み込みも悪い、お客さんへの対応も悪い。だから、クビだ」

伊吹の思考が止まったかのように見えるが、頭の中はフル回転していた。

クビ・・・収入ゼロ・・家賃の滞納。経営不振・・大家の真っ赤なお顔・・・真っ赤なお鼻のトナカイさん。

「いや〜まさに未曾有の出来事ですな〜」

カウンターに座る三島の声に我を取り戻す伊吹。

「て、てめぇ・・・何の真似だ」

顔を引きつり、身を乗り出しながらオレンジジュースを飲む三島に言う。

「だ・か・ら。一方的な取引しましょって言ったでしょ。まだ間に合います。俺が一声かければ、あなたのクビは繋がる事になります。さぁどうする」

三島の逆光を浴び、瞳が不気味に光る顔がズイッと伊吹に近づき、完全に三島に飲み込まれた伊吹。

「くそっ」そう呟き、伊吹は壺を三島に渡した。

「これで、よしっと。オーナー、裏道に白タク一台持ってきてくれたらうれしいな」

「おぅ、任せとけ!」

ガマガエルは大きな口で笑いながら携帯を取り出し、電話をはじめ、伊吹はクビが繋がった安心感と、一瞬、三島に飲み込まれた恐怖心から解放されその場に腰をついた。

「伊吹、残念だったね。俺、こっちの世界に結構長く浸かってたんだ。特に、この店で取引なんて成立しない。世の中には、一方的な世界だってあるんだよ」

三島はそう言うと、壺をポケットにしまい、店を後にした。

「まぁ、あいつに喧嘩を売ろうとしたお前が、悪い」

ガマガエル・・・いや、オーナーがゲロゲロと笑いながら伊吹に話しかける。

「オーナーは、あいつと知り合いなんですか?」

「あぁ、あいつには儲けさせてもらったからな。感謝しても、こんなもんじゃ足りないくらいにな」

「儲け・・・って、まだ高校生じゃないですか」

「お前、あいつを知らないで喧嘩売ってたのか?・・・ストリートファイトだ」

「それって、この店の地下でやってる賭け商売ですか?」

「そうだ。・・・無敗の王者」


ガマガエルは、大きな口のサイズにしては、小さなタバコに火をつけ深く深呼吸をし、話を続けた。

「あいつは『人殺しの元』ってここじゃ呼ばれてる。まぁ生ける伝説さ・・・」



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