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第五話 凹凸のないこの体

三島が、初めてあの世界に連れてかれた長い一日が終わってから(あのまま二日目に突入したのは言うまでもない)三日目の朝日がアパートに差しこんでくる。

三島の左腕にはまだ、痛々しい傷跡がくっきりと残っており、未だに包帯を外して学校には行けないような気がする。

いや、実際はもぅ外したい!だって蒸れるんだもん!ほんと、昨日なんて暑さに耐えかねて包帯外そうとしたら女子から一気に反感をかった。

「いや、ちょっと外さないでよ!絶対」

「止めてよね!夢に出てきちゃうじゃない!」

「全身18禁野郎!」(これは男)


「わかった、なら俺は、しばらく学校に来ねえ!傷が完治するまで休む!」

「出席日数、足りないからそれは、無理だ」

教員からの一言で三島は大人しく席に座るが、左腕は蒸れて蒸れてムズムズする。学校が終わり、急ぎ校舎から飛び出し校門の前で包帯を外し、傾く日差しに左腕を当て開放感に浸る中

「ママー、あれ見て」

「なぁに?・・・キャー!見ちゃいけません」

学校の目の前にあるコンビニから出てきた家族にそんなリアクションを取られ、左腕を隠しながら、家に戻りシクシクと泣きながらベットに潜り込み、三日目の朝を迎えた。


そして、今日からは、なんと!待ちに待った夏休みです!!

・・・だと言う事をすっかり忘れて三島は、今、学校に到着・・・と言う訳ではない。出席日数の足りない生徒の、生徒による、生徒のための、・・・補講である。

「・・・で、あるからにして」

黒板に向かい色々と書きこむ先生。そして、それをボケーっと見ている三島。教室の窓からは部活で汗を流しながら、頑張る生徒達の声と夏の虫達が争うように鳴りまくる。

他のクラスの出席日数が、危ない人たちも三島のクラスに押し込められ、その中には仙田の姿もあった。

各教科によって、生徒の数は変わるのだが、一番ひどかったのは物理でその教室には、担任と三島、そして仙田しかいなかった。

「よし、今日はここまで、また明日な。・・って他の奴等は、もぅ日数足りてるから来ないし、後は三島と仙田・・・お前らしか来ないな」

先生は、そう言い残すと教室から立ち去った。


「けど、まさか仙田が補講受けるとは、知らなかったな・・・」

教室で、鞄に遊び道具をしまいながら、仙田に話しかける。

「私、よく病院のせいで学校来れない事あったから」

「へぇ〜・・・なんか、病気なの?」

「えぇ・・ちょっと・・・三島君は、なんで補講受けてるの?」

そっか、確か仙田は転校生だったな・・・なんて思いながら、無理に笑いながら

「ん?・・・まぁ、ちょっとな・・」

隠し事が苦手なりに笑って誤魔化してみた。

「お互い様ですね」

「そうだな、お互い様だ」

なんて事を言いながら、教室を後にした。

「・・・そういや、今度はいつ向こうの世界に連れてかれるんだ?」

「えっと・・多分、今日ぐらいには呼び出しがあると思います」

「そんなのわかるの?」

「三島君は、聞こえないんですか?」

廊下を歩きながら、不思議そうに三島を見てくるが、一体何の事やらさっぱり。

「聞こえるって何が?」

「・・・あぁ、そっか正規登録じゃないですもんね。」

「どうせ、俺は飛び入り参加ですよ」

「ごめんなさい。・・・実は、今も鳴ってるんです。私の頭の中でベルが」

自分の頭を指さしながら仙田は、そんな事を言ってくる。

「ベル?」

「昔の黒電話みたいな感じかな?」

「それって、日常会話に支障出るんじゃないの?」

「いや、聴覚とは別の所で鳴ってるんです。だから、特に気になりません。心臓が絶えず動いてるみたいな感じかな?」

「うん、よく理解できないから進めて下さい」

「今は、小さな音ですけどこの音が段々と大きくなってきて、一定の音量に達したら向こうの世界に呼び出されるんです。」

下駄箱から靴を取りだし、外に出る

「で、それが今日だと」

「えぇ、多分今日の夕方ぐらいかと・・・」

学校の時計は、午後二時を指していた。

「思ったんだけど、向こうの世界で壊れた物がこっちの世界でも壊れるのか?」

「そうです。でも、なるべく被害の出ない所。とか、思っても無駄です。呼び出される場所は決まってませんから。森の中だったりする事もあるみたいですよ」

「へぇ〜」

「だから、戻る場所も大体は呼び出された場所ですけど、たまに変な所に戻されたりする事もあるんです」

「変なところ?」

「この前は、誰もいない学校内でした」

「そりゃ、怖いな・・・」

「そういう時は大体、彼女が私のわかる場所まで移動してから、私に変わるんですけど、その時はすぐに私に変わっちゃって・・もぅ警備員に見つからないように逃げるの大変でしたょ」

校門で、仙田はタクシーを拾い中に乗り込んだ。

「それじゃ、私これから病院なんで・・・あっ、これ私の携帯の番号です。呼び出しの時になったら連絡します」

「んっ、わかった」

仙田を乗せたタクシーは、黒い排気ガスを出しながら三島から離れて行った。


仙田から紙を受け取り、三島も帰ろうとした時、後ろから田村がひざ蹴りをしてきた。

「元ー!貴様、彼女に何をした!」

「お前こそ、俺に何をした・・」

蹴られた背中をさすりながら田村に言うと「ひざ蹴り」と端的に答えた。

「部活、終わったのか?」

田村は、畳んだ胴着を帯で結び、手提げバックのように腕にぶら下げている。

「終わらなきゃ、ここにはいません。・・そういや、子島ねじま君って覚えてる?」

「あぁ・・あの期待のホープとか、俺が遊び半分で言ってた奴?」

「そう。もぅ強くて、私でも倒せなくなっちゃったさ」

「・・・そっか、今年はあいつが優勝かな?」

「あんたもたまには、顔出して稽古つけてあげなさいよね。前部長」

「無茶を言うな。現部長」

「ねぇ、一緒に帰ろう」

これは、唐突のお誘いではなくいつもの会話

「はぁ?家が、同じなのに別々に変える方法があるのかよ」

「まぁそれもそうね」

そんな事を言いながら、終着駅までレッツ、ゴー



スーパーの近くまで来て、三島はふところ寂しい冷蔵庫の中身をふと思い出す

「あっ俺、食糧かわねぇと・・・」

「あんた偉いよね。ちゃんと自炊してさ」

そんな事を言いながらスーパーに入り、レジかごを取る

「お前こそちゃんと自炊しろよ」

入口で玉ねぎが、安いのが目に入りすかさず、かごに入れる

「いいじゃん、今はお湯一つでラーメンが食べられるいい時代なんだよ」

特売品!の所でカップめんを田村は三島のレジかごに入れる

「偏った食生活は、お肌にも体にも悪いだろ」

「女か、お前は」

「お前こそ、女か」

「学校一の美少女ですっ!」

「自分で言うな、ちょっとぐらい謙虚さってもんを持て」

「あら、学校一美少女のこの私と一緒に下校出来る事を、光栄に思いなさい・・・って言わないくらい謙虚だと思うけど?」

「それを言ってる時点で謙虚じゃねぇ・・・おぉっ、豚肉が100グラム88円だと!いいねぇ」

「えぇっ・・私、牛が食べたい」

「なんで、お前が俺ん家で飯を食う事になってるんだ」

「すき焼き!」

「うるせぇ!この大富豪野郎!」

「鍋パーティーしようよ〜」

「真夏に鍋なんか食えるか!それに食器がねぇ・・・この前壊したから」

「大丈夫、私の奴がある」

「お前のカビてるだろっ!」

「あぁ!酷い。一度その惨劇を見たからって、またそうなってるとか、思ってるんでしょ」

「思うも何も、あれは酷かった・・・」

忘れもしない去年の秋頃・・・悪臭漂う上の階。さすがに女性の部屋、様子を見る訳にもいかず、しばらく日にちが経ち、顔を赤く染めモジモジしながら田村が「部屋の掃除を手伝ってください」そう言われ、上の階に上がり彼女の部屋の扉を開けるとそこに待っていたのは・・・


「あぁ・・今、考えても鳥肌が立つ・・・」

背筋が一気に凍りつく、忘れもしないあの精神的障害トラウマ

「お陰さまで潔癖症になれたでしょ」

「あんなの見たら誰でもなる!」

買い物を終え、アパートの階段を上がる頃には空は赤く染まっている頃だった。

「なぁ、美野。またあの惨劇にはなってないだろうな?」

「なってません。ご心配なく」

「お前の友達は、あれを見た事あるのか?」

「上げれる訳ないでしょ!・・・でも、最近は千尋が家に来たかな?」

「マジか!大丈夫だったのか?」

「だから、言ったでしょ。綺麗なままなんだって」

「そうか・・・なら安心だな」

階段で別れ際になり、田村が口を開いた。

「ねぇ・・そう言えば、いつ行く?」

「ん?なにに」


「お墓参り」


田村の一言で三島は、部屋へと続く廊下を進む足が、ピタリと止まる。

夕日で赤と黒の入り混じったアパート、影に隠れ黒色の三島と、日が当たり赤色に染まる田村。

しばらくの間、蝉の声だけが鳴り響き静かに時間が流れた。

「・・・そうだな、お前等の大会が終わってからでいいんじゃないかな?」

「そう、わかった」

田村はそう言うと、階段を上がり三島からは完全に見えなくなった。

三島も部屋の鍵を開け、扉を開き中に入り扉を閉めるた途端、三島が手にしていたビニール袋が突然落ち、玄関にいるはずの三島の姿はどこにもなかった。




三島が次に現れた場所は、誰もいなくなった薄暗い街だった。

「おぃおぃ、冗談だろ。まだ食材を冷蔵庫に入れてねぇんだぞ」

それに、この世界に呼ばれる時は仙田から一報があるはずだが、携帯を見ても着信はない。

「それにしても、虫がうるさいな・・・」

何やら視界が歪むと思っていたが、よく見ると周りに虫が大量に飛んでいたのだ。

手を振って追い払っても、限りがない。

「この世界にも虫っているんだな・・」

「んな訳ないでしょ、今回の敵よ」

仙田の声がして、声のする方を見ると電柱から仙田がこっちに飛び降りてくる所だった。

「仙田っ、お前、その恰好はなんだ!」

「ん?・・・仕方ないでしょ、検査の途中で呼び出されたんだから」

仙田の服装は、よく病院で入院患者が着てる、あの青色の服だった。

「おまっ・・・なんだその、はだけそうではだけないその服装は!」

「おぃそれセクハラだぞ・・・」

「・・・で、どうして電話で教えてくれなかったんだよ。」

「あの子のせいだよ。あのおっちょこちょい、自分の電話番号教えたくせに、お前の電話番号を聞かなかった。」

「あぁ、そっか・・・で、今回の敵ってこの蚊の事?」

周りを飛んでいる蚊を指さし聞くと、「その通り」と首を縦に振りながら答える。

「待った。なんで中ランクの中に蚊がいるんだ?明らかに最弱だろ」

「馬鹿ね、そうでもないのよ。言っておくけど、この蚊、伝染病持ってるわよ」

「マジで!そりゃ困る」

必死に虫を払うが、全くキリがない

「この国じゃありえないけど、海外では案外重大なのよ。人間でも死者が出るくらいなんだから。吸われたら終わりね」

「じゃぁどうしたら?」

「発症するまで時間があるわ、だから発症する前に蚊を全部倒せればいいんだけど・・・」

周りを見渡すと周りは蚊だらけ、虫が苦手な人が見たら気絶するだろうな・・

「無理だろ。この数でこの小ささ・・・どうするの?」

「まぁ、大丈夫よ」

仙田は一度手を叩くと一度に三匹も手の中で蚊が死んでいた

「本当か?」

「多分ね・・・」

「なるほど、蚊が中クラスなわけわかったかも。発症する前に全滅させれなければ、死ぬわけだしな・・・」

「正解」

「・・・・で、どうするの?」

「まぁ見てなさい」




仙田が、いいから見てなさい。そう言ってから時間が流れた。

「あっ、吸われてる」

よく見ると、右腕に赤い出来物が出来ていた。

「あっ、私も・・・」

仙田はそう言いながら、足の裾を上げ内股うちももの様子を窺う

きわどいラインに、三島は驚き、仙田の裾を元の位置まで降ろす。

「馬鹿野郎!お前、男の前で何考えてやがる!」

「はぁ?何言ってんの・・・痒いのよ。別にいいじゃない」

「い・・いい訳ねぇだろ!」

「あんたが見なければ済む話じゃない・・ヒャ、やだ虫が中に入ってきた」

突然、仙田が腰のあたりで結んである糸をほどき始める。

「馬鹿!止せって、何やってるんだ」

「イヤ〜、気持ち悪い!・・・ちょっと邪魔しないで、出す!全部出す〜。放してっ!」

「お前・・・お前が良くても、仙田はどうなんだ!」

「・・・いやって言ってるけど、私はこれがヤなの!」

「お前な、あくまでお前は、仙田の体借りてるんだろ?本人の意思を尊重してやれよ」

「いいじゃない、別にそれと言って凹凸がある訳でもないんだからさ!」

「おぃぃぃ!てめぇ、やっぱ仙田の体から出て行け!今の問題発言は聞き捨てならないぞ。セクハラとかそういう問題じゃねぇぞ」

なんとか仙田を取り押さえる三島。そして、服の中に入った蚊と格闘する仙田

「イヤっ・・・ちょっと・・中で暴れないで!・・・ふわっ・・あっ・・・いやっ」

「ふぉぉぉぉっ・・」

糸をほどこうとする仙田を止めるが、目の前で変な声を出し始める仙田。

「ちょっと!私を見て鼻膨らませてるんじゃないわよ!気持ち悪い!」

顔を真っ赤にし、少々涙目になりながら、仙田は三島にチョップを喰らわせる。

「いてっ、いや・・そもそもお前が、服を脱ごうとしなければこうはならないんだ!」

「ヤダっ!脱ぐ!絶対に脱ぐ!」

「よしなさい!・・とりあえず、どうやってこの蚊をせん滅させるんだ」

「それは、私たちじゃ無理よ。・・・もぅ何やってんのよ。伊吹の奴・・」

「伊吹?」

「あの黒いコートの男よ!・・・嫌、また中に入ってきたぁ!あぁ!もぅ破る!この服!邪魔!」

「馬鹿な真似はやめなさい!」

暴れる仙田の腕を必死に止める三島。

「は・な・せぇーー!!」

「ぜってぇ、無理!」

「うるさい、馬鹿。しね」

そんなやり取りと、服を脱ごうとする仙田を阻止しようと頑張る三島。


そんな中、仙田がある事を思いつき、勝ち誇ったかのように口元が笑った。

「そうだ。・・・彼女の気持ちもう一つ教えてあげようか?」

突然、動くのを止め三島にグィッと顔を寄せる。

「な、なんだよ・・・」

「あんた気づいてないかもしれないけど、私を抑えている時に彼女の胸にあんたさっきからソフトタッチしてんのよ」

「なにぃぃい!」

「隙あり!」

一瞬固まった三島の隙をつき、仙田は三島の腕から脱出し三島が届かないよう電柱の上にジャンプする。

「仙田!バカな真似は止すんだ!」

「もう遅い!」

仙田は、服の糸をほどきだす。

そして、おそらく心の中で仙田が必死に止めようとしてるんだろう。一人で会話をし始める。

「何?・・・いやよ、私、ムズムズするの嫌いなの!・・・あなただってヤでしょ?・・だったらいいじゃない・・・ねぇお願い・・」

仙田は完全に糸をほどき終えた。

「さぁ、覚悟はいいかしら?」

「止しなさいって!きっと仙田が泣いてるぞ」

「・・・さっきから金切り声をあげてるわ」

「だったら、止めろよ・・・」

「でも、私は中にいる虫達を追い払いたいのっ!・・・もぅ嫌!ごめんね千尋!」

「よせーーー!!」

止めようとする二人の声も聞かず、彼女は服を脱ごうと両手で襟をつかむ。

仙田の周りにも、三島の周りにも蚊がこれでもかと言うくらい飛び回る。

そして突然、その蚊達は燃えた。

小さな蚊は、小さな炎に包まれ、一瞬にして燃え暗がりのこの世界に一瞬だけ光を照らし、一瞬にしてまた薄暗い世界へと戻った。

この出来事に驚き、仙田は電柱の上で両襟を掴んだまま動かない

一方、三島は、三島の服の中にも蚊が入っていたらしく、小さな炎が服にちょっと燃え移り「あっつ!」とか、言いながら服を叩いている。


「これは一体どういう事か説明してもらおうか?」

そう言いながら、現れたのは右手に炎を纏い、こんな暑い中、真っ黒のコートを着た男、改めて伊吹が現れたのだが、顔には少々怒りがこもっているように見える。

「はて?どういう事と言うのはどの事かな?」

電柱の上で仙田が、そんな事を言う

「なんで、上位クラスの俺が中クラスに落ちてるかって事だよ。・・・で、状況を見るからに原因はこの男にあると見た」

伊吹は、三島に指さしながらそう言う。三島は首をかしげるが、その態度に伊吹の怒りのパロメーターが少し上がった。

「その通り。彼は私達の新しい仲間よ」

「なんで最下位クラスの奴なんか仲間にしたんだよ」

「彼は、天狗に勝ったのよ」

「それは、お前の力を使ったからだろ」

「使ってないわ。私の力が発動してからしばらく経っても、彼は戻ってこなかった」

伊吹は「なに?」なんて驚きながら三島を再び見るが、・・まぁ確かにあの力は意味もない所で発動しちゃったしな〜なんて頷いていた。

「わかったでしょ。中クラスになってでも仲間にしておきたかった理由」

「・・・まぁ、ちゃんと殺生が出来るのかが俺にとっては問題だけどな」


伊吹は、三島に近寄って行った。

「おぃ、クソ餓鬼。問題です。蚊は全滅しましたが元の世界にはまだ戻れません。それはどうしてでしょうか」

「さぁ・・・まだ蚊がどこかにいるんじゃないですか?」

「正解。実は俺が一匹、捕らえているからだ」

伊吹は、コートの中から小さな瓶ケースを取り出した。その瓶ケースの中には蚊が一匹、狭い空間を一生懸命に飛んでいた。

「俺はこいつを捕える事で、これ以外の蚊をすべて燃やしつくした。つまり、こいつが俺に捕まったせいでそれ以外の蚊は全滅したと言っていい。チームってのは一人でも穴があれば、そこから必ずほころびが生じてくる。お前のせいで俺達が死ぬなんて事だってあるんだ」

伊吹は、完全に三島を見下しながらそんな事を言ってくる。

「・・・何が言いたいんですか?」

「このチームに留まり、死ぬのを先延ばしにしたいなら、この最後の一匹、お前が殺せ」


電柱の上では、仙田が伊吹を止めようと声を張っているが、伊吹はその声を無視して瓶を地面に叩きつけた。

狭い空間から自由になれた蚊は、空高く舞いあがろうとしている。

「早く殺さないと見逃すことになるぞ。この街の中からこの小さな一匹を見つけるのは相当面倒な事にもなりかねん」

蚊は、何も知らず三島の目の前を飛び交う。

三島の右手は蚊の方へとゆっくりと近づき、手を握れば今にでも潰せる。そして蚊は、三島の右手にとまり、三島の手で食事を始める。


潰せ、そうじゃないと元の世界に戻れない。肉を早く冷蔵庫にいれないと大変な事になる。さっさと元の世界に戻るんだ。早く潰せ。

三島の指が徐々に閉じて行く。あと少し、だが再び指が途中で止まる。

早くしろ!蚊の食事が終わっちまうぞ。たかが蚊一匹だろ!人の命とは訳が違う!

三島は、覚悟を決め手を握った。

だが、蚊はその前に食事を終え、手の隙間を縫いすでに飛び立っていた。

「残念、不合格」

伊吹はそう言うと手で鉄砲のような形を作り、蚊に向けると「パァン」なんて口で言う。

すると、蚊は突如燃え、消し炭になりながらヒラヒラと下に落ちた。

そして伊吹はその手で作った拳銃を三島に向けた。



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