第四十話 総集編
目覚ましに叩き起こされ、重い瞼を開く三島。
大きな音を鳴らす時計のスイッチを叩くように止め、目覚ましは音を鳴らすのをやめた。
「んあぁ!くそ~・・・。」
寝起きが弱い三島は、自分がいつものベットに寝ていない事を思い出し、ベットに目をやるが、仙田の姿はなかった。
「あり?」
上体を起こし、辺りを見渡すが仙田の姿はどこにもなかった。
だが、なにやら三島の横でモゾモゾと動く感触に気付き、布団の下を覗きこんだ。
ロイがまた、布団の中で寝ているのかと、下を覗きこんだ三島は、猫ではなくまだ起きたくないと眉を歪める仙田に驚いた。
「オギャァァァー!!」
「ヒィィ!何?」
三島の叫び声に飛び跳ねながら起き上る仙田。
「おま・・おま・・仙田、・・何?・・違う、なんで?・・えっ?」
「あっ・・三島君。おはよう。」
「あっ、おはようございます・・・」
仙田は目を擦りながら、三島に挨拶し、ベットを独占していたロイは、背中を伸ばしながら欠伸をしていた。
「って、違う!なんで、俺の布団に入ってんだよ。」
「えぇ、だって寒かったんだもん。」
にこやかに微笑む仙田。
「だからと言って・・」
さらなる指摘を入れようと口を開く三島だが、何を言えばいいのか、わからず仕舞いで、そんな中チラッと目に入った時計が、早く外に出なければ学校に遅れる時刻を表していた。
「み、三島君・・。絶対に見ないでよ・・」
居間と隔離された洗面台に、学生服を手に持ち向かう仙田が、念を押すように三島に言い放ってきた。
「見ない見ない」
急ぎ学生服に仙田の前で着替えてしまった三島は、両頬に赤い手のひらの後を残しながら、軽くあしらい、そんな態度に仙田は、その場で胸元のボタンを外そうとし始める。
「わかった。俺、先に行くわ。仙田は後から来い!」
「あぁ、ごめん。嘘、嘘だから。」
玄関に向かう三島を引きとめ、仙田は洗面所へと向かった。
電車の横転事故から数カ月、路線は無事に開通し、何事もなかったかのように電車は走り、その電車に三島と仙田は揺られていた。
「でも、あれだな。・・・ここで、仙田と会ったんだよな。」
「うん、そうだね」
「あれからまだ半年いってないのか・・・。何か色々とあったな」
偶然にも、最初に出会った席に座る二人。
「そうだね。・・・私、最初は三島君って怖い人だと思ってたんだよ。」
「だろうな・・・めっちゃ怯えてたもんな」
「うん」
微笑ましい高校生の前に立つサラリーマン達は、まるで怨念をぶつけるかのように髪を逆立てしていた。
「やっぱりな。・・・数人は、ここに来ると思ってたよ。」
校門前に立つ先生が、登校してきた二人を見て頭を抱えていた。
「お前等な・・・。その、こっちは色々と対応に追われてるんだ。それで、しばらくの間、休校するって伝えたよな。」
「あっ・・・。」
「あっ・・じゃねぇよ。こうやって俺がここに立っているのもだな。こうやって間違えて登校する奴がいるから。すでに何人来たと思ってんだ。」
先生は、二人にずっとここに立たされる気持ちと、ここにやって来た生徒達の愚痴を吐き出すが、吐き出している最中にも、生徒が現れ「この、馬鹿野郎がーー!」とやって来た生徒を追い回すほど、先生のストレスは溜まっていた。
「あぁ・・学校が休みだって事、すっかり忘れてた。忘れてなきゃ、学校なんかに来ないのに・・・。」
先生に追い回された揚句、三島に拉致られた丸山は、ジャンケンで負けて二人にハンバーガーを奢るはめになっていた。
「まぁそのお陰で、俺は朝飯をタダでありつけているけどな。」
暴走族に窓を半壊にされたバーガーショップも、普段通りに営業を続け、ガラスは強化ガラスへと変貌を遂げていた。
「ノリでジャンケンなんかするもんじゃないな・・・・。」
一つの教訓を学んだ丸山とは、店で別れた。
「さてと、俺は帰るけど、仙田はどうする?」
「うん、私も帰る。」
「そうか・・」
そう言いながら、駅で別れる物だと勘違いいていた三島は、駅員に定期を見せ、家の方向へ走る電車に乗り込み、病院とは反対方向に走る電車に仙田が乗っている事を疑問に思った。
「もしもし、仙田さん」
「ん?何?」
「帰るんじゃなかったの?」
「うん、帰るよ。三島君の家に」
突っ込む気力もなく、三島は頭を抱えながら終着駅へ向かって行った。
駅前のスーパーでは、何やらイベントをやってるらしく、人だかりが出来ていた。
「えぇ~それでは、本日新鮮なお肉とお野菜が大特価で販売中でございます。・・最後まで御清聴、誠にありがとうございました。」
ここぞとばかりに両手から火を出しながら、お辞儀をするイベントスタッフ。
周りからは拍手が出て、人だかりはバラバラと去って行き、取り残された三島は、イベントスタッフに声をかけてた。
「お前、ついに運送業までクビになったのか?」
「はい?・・・あっ・・」
イベントスタッフは、片付けをしながら、頭を上げ、三島に気が付いた。
「駄目な奴だとは思ってたけど、職を転々とするなんて同情するよ。・・伊吹」
「はぁ、ちげぇし!・・これは副業だ!・・・って、うわっ嬢ちゃん!」
三島の横に立つ仙田に驚く伊吹、そして、伊吹の事を知らされていないため、飛び退く伊吹に首をかしげる仙田。
「あの・・なんでしょうか?」
首をかしげる仙田を見て、拍子抜けした伊吹は警戒を解いた。
「なんだよ。今はご本人様って訳か?」
「え?なんで、知ってるんですか?」
「三島、デートか?」
「はぁ?んな訳・・・」
続きを言おうとする三島は、仙田が今にも泣き出しそうな顔でこっちを見てくるのに気が付き「いや、あの・・」と言葉が濁ってしまった。
「んな事より、お前等、準備しなくていいのか?」
「はぁ?何言ってんだ」
タバコを咥える伊吹に、頭でもおかしくなったか?発言をする三島。
三島の態度に何やら怒鳴りつける伊吹を他所に、三島の服を引っ張る仙田。
「あ、あのね。・・・三島君に付いてきた理由でもあるんだけど・・その、ベルが鳴ってるの。」
「はぁ?早すぎだろ。・・・河童倒してから、まだそんなに日にち経ってないぞ」
「それなんだけど。・・・多分」
続きを言おうとする仙田よりも早く、伊吹が割って入って来た。
「そんなの決まってんだろ。この戦いも終盤って訳だよ。」
伊吹の言葉を合図に、三人は駅前のスーパーから姿を消した。
「はぁ?どういう事だよ。」
誰もいない地下鉄のホームに飛ばされた三人。そして、さっそく飛ばされたにもかかわらず、三島は伊吹に質問をしてきた。
「もう、残り人数が少ないってことだよ。・・・お前、ニュース見てないのか?ここ最近、世界中で地震やらテロやらで、いろんな場所が壊れてんだぜ。」
岬高の生徒にテレビまで壊された三島は、ここ最近のニュースは全く耳に入ってはいなかった。
「お前等も、北の方でエルフとかと戦ったろ。誰もが知ってそうな生物だ。それはつまり、言い伝えに残るほど強い奴って事だ。事実、エルフや河童、鬼と言った連中は、上のランクにいる。」
「そして、上のランクにいる同士が戦えば、被害も拡大するって事よ。」
伊吹の説明に仙田も参加し、三島に伝えてきた。
「待った。つまりもう上の連中しかいないってことか?」
「そうよ。読み込みが速いわね」
「つまり、俺達が互いに戦う時期ももうそろそろって訳だ。」
伊吹の言葉に全員が顔を見合わせ、言葉を失った。
「貴様・・・が・・・影なる者・・・か」
その片言の言葉に全員が目を向けると修行僧の恰好をし、カラスのような立派な嘴と立派な羽を生やした奴が、用心棒を肩手に現れた。
「そんな、私が気付かないなんて・・。」
「まさか烏天狗かよ・・・。」
仙田は大鎌を取り出し構え、三島は鞄から短刀を取り出し、鞄をホームの壁に放り投げた。
炎を両手に出し、攻撃に備える伊吹。
そんな三人に、制止を求めるように烏天狗は手を前に出した。
「待・・・て、私は・・・争う気・・・はない。」
敵意を見せない烏天狗に、三人は戸惑いながらも武器の構えを解いた。
「どういう事だ、伊吹」
「知らねぇよ。天狗に聞け」
「誰が・・・影なる者・・だ」
三人を見ながら烏天狗は問いかけ、それに応じるように三島は一歩前に出た。
「まさか、天狗の敵討で、俺だけ殺すってか?」
「違う・・。我が・・・好敵を・・倒す程・・・の実力が本・・・当にあるの・・・かが見たい・・・だけだ。」
「仙田、伊吹・・・悪いが、今回は俺一人でやらせてもらう。」
烏天狗は、用心棒を構え、三島は後ろに立つ二人に目を向けることなくそう答えた。
「ご自由に・・。」
出番なしとわかった伊吹は、高みの見物を決め、心配症の仙田は手に持つ鎌を強く握りしめていた。
「殺す・・・気で来い。・・・私・・・も本気で・・行く」
「当り前だ。手を抜いたら相手に失礼だしな。それにそれが俺の戦い方だ。」
短刀を鞘から抜き取り、右手に短刀、左手には鞘を持ち、烏天狗が動くのを待った。
「Let's roll.」
伊吹の言葉と指を鳴らし、火花が合図となり烏天狗と三島の足が動いた。
用心棒を前に構え、突進してくる烏天狗。三島は、烏天狗に向かい走りながら、間合いに相手が入った瞬間、前に出されていた用心棒を真っ二つに切り落とした。
それを読んでいた烏天狗は、切られ先の尖った用心棒を三島の肩に目がけ突き出すが、鞘でそれを防いだ。
二つに折れた用心棒と足を使いながら烏天狗は攻撃を繰り返し、三島もその攻撃を鞘と短刀そして、足で応えた。
烏天狗の上段蹴りを下にしゃがんで避け、三島はがら空きのもう片方の足を蹴り崩そうと足を出すが、烏天狗は羽を伸ばし、宙に浮いて難なくかわした。
三島は、烏天狗に目がけ高く跳び上がり、空中で蹴りを三度、腹に入れ地面に落とした。
仰向けに倒れる烏天狗目がけ、三島はそのまま落ち、加速と自分の力を込めて短刀を突き刺そうとするが、烏天狗は横に転がり三島の攻撃をかわした。
素早く立ち上がると腰に付けた刀を抜き、烏天狗は三島に向かって駆けだした。
烏天狗が、刀を振るうと空気が切れる音がホームを木霊し、交わし切れなかった攻撃を三島が短刀で防ぐと、金属同士がぶつかる音で、木霊していた音はかき消された。
動きの止まった三島を烏天狗は、蹴り飛ばし片膝を付く三島。
烏天狗は、刀を振り上げ振り下ろそうとする。
そんな中、三島は短刀を鞘に戻し、振り下ろされる刀を待った。
短刀で振り下ろされた刀を受け止め、素早く鞘から刀を抜き取り、烏天狗の両足の太腿の腱を切りつけた。
「ヌゥ!」
足の自由が利かなくなった烏天狗は、刀を横に振るい三島の首を跳ねようとした。
だが、三島は烏天狗の間合いから離れ、後ろに回り込んだ烏天狗の背中から短刀を突き付けた。
「さぁ、あんたの負けだろ?」
「見事・・・我が好敵を・・・倒した事・・だけ・・は・・・ある。・・だが、まだだ。」
烏天狗は、背中に生えた羽を広げ、三島を跳ねのけると、狭いホームの中で羽を羽ばたき始めた。
黒い羽根がホームを覆い、烏天狗の姿がうまく視界に捉え辛くなった。
「馬鹿か、羽音でばれるっての!」
床に落ちる用心棒の片割れを羽音のする方へ投げる三島。
まっすぐと飛んでいった用心棒は、黒い羽根が集中する所の真ん中に突き刺さるが、翅の塊が砕け散るだけで、烏天狗の姿はなかった。
大きな羽音はホームに響き渡り、完全に居場所がわからなくなってしまった。
「くそ、幻術か?」
「そんな物は、出来ぬ」
三島の後ろから声がし、背中に殺気を感じ取る三島は、前に飛び退いた。
それは正解で、後ろでは刀が横に振り抜かれ、三島は背中の薄皮を切られ、生温かい血が流れ出すのを感じ取っていた。
「これ・・で・・・さっきの・・借りは・・返した・・ぞ。・・次は・・しっ・・かり・・と、・・背・・中から、刺せ」
舞い上がる黒い羽が、三島に纏わりつき始める。
三島は、くっ付いた羽が三島の動きを弱めている事に気付き、羽を振り払い、纏わり付かれないよう走り始めた。
「逃げ回・・・っている・・だけでは、・・・私には・・追い・・付かんぞ。」
羽音と烏天狗の声が、三島の周りから聞こえ続ける。
「・・・フッ、お喋りは、禁物だぜ。」
三島は、目の前に迫る壁に向かってジャンプし、壁を蹴り、黒い羽根の壁から抜け出した。
そんな黒い羽根の上には、羽音を立てながらその場に留まる烏天狗を見つけた。
「はぁっ!」
三島は、短刀を振り抜き、烏天狗の羽を切り落とした。
バランスを崩した烏天狗は、地面に叩きつけられ、三島は起き上ろうとする烏天狗の頭に短刀を突き付けた。
「二度目はねぇぞ。変な動きをしたら、刺す。」
「・・・いい・・だろう。・・私の・・・負け・・だ。」
三島は、短刀を鞘に戻し、深く息を吐いた。
「悪かったな。天狗を切っちまって・・・」
「問題・・は・・ない。・・・この・・戦いに・・参加する・・・時・・点で、・・覚悟の・・上」
「でもよ・・。」
「何を・・・して・・いる?私を・・・救う・・つもりか?・・・無駄・・な、事だ。・・・戦い・・とは、常に・・・そういう・・ものだ。」
烏天狗の言葉に思い詰まる三島。
「そんな・・・事では、・・人間・・・に、・・勝て・・んぞ。」
「人間代表を知っているのか!?」
「いや・・知らぬ。・・・ただ・・人・・・間は、・・・貪欲な・・生き物・・だ。・・・かつての・・戦い・・で、それ・・を証明した。」
「どういう事だ?」
「魔・・術でも・・道術・・でも・なく・・奴は・・・指すら・・触れる・・・事無く・・圧勝・・・した。」
「そんな馬鹿な。」
「用心・・・する・・事だ。・・・お前・・達の・・勝・・利を・・願う」
烏天狗は、煙に巻かれ姿を消した。
「お疲れさん。・・・お前の身のこなしは凄いな。」
伊吹はそう言いながら、近寄ってくる。
「まぁね。・・・でも、背中切られた。」
「そうみたいだな。・・・ちょっと見せてみろ」
「あ?・・・あぁ。」
そう言って三島は、伊吹に背を向け伊吹は、その場にしゃがみ込んだ。
「おやま~。ばっさり切られてんぞ。」
「イデデデ、触んな!ボケ!」
「悪い悪い、冗談だ。・・確か脱脂綿があったはずだ・・・」
そう言いながらポケットを探る伊吹の喉元に鎌を突き付ける仙田。
「元・・・そいつから離れな。」
「はぁ?何言ってん・・・って、仙田!何してんだ!」
「お、おぃおぃ、嬢ちゃん。これは何の冗談だ?」
伊吹の言葉に鎌はまた更に、強く付きつけられる。
「仙田!何してんだ!」
「元は黙ってて!・・・・伊吹、そのポケットの中で握ってる物をそのまま出しなさい。出さなければ、首を飛ばすわよ。」
「仙田っ!」
「うるさい!」
伊吹は、仙田に言われた通り、ポケットから握り拳を出した。
「開け」
「おぃ、仙田・・・」
伊吹は、握った拳を開くと拳の中に入っていたのは、脱脂綿ではなく小さな瓶だった。
「えっ・・・おぃ、伊吹・・・」
さっきまでの戦いでかいていた大量の汗は完全に引き、今は脂汗が大量に流れ始める三島。
「冗談だろ。伊吹・・・な、何やってんだよ。」
そんな三島の態度に思わず舌を鳴らす伊吹。
「チッ、おぃ嬢ちゃん。俺は自分のためだけじゃない。お前のためにもやろうとしたんだぞ。・・・さっきの戦いを見ただろ。まともにやって楽に勝てるとでも思っているのか?」
「お、おぃ、・・・伊吹・・・」
「あ~ぁあ。失敗したんじゃ仕方ねぇな。・・・三島、最初に言ったはずだ。隙を見せるなと・・。命拾いしたな」
伊吹の言葉に仙田の鎌が首をかっ切ろうと動くが、伊吹はその前に姿を消した。
「元・・・大丈夫?」
気が動転する三島に仙田は駆け寄って来た。
「伊吹・・・・えっ・・伊吹?」
「元、落ち着いて・・」
「伊吹、俺の血を・・・」
瞳が小刻みに震え始める三島。そんな三島を落ち着かせようと三島を抱き寄せた。
「大丈夫、取られてないよ。」
「仙田・・・・」
仙田をゆっくりと引き剥がし三島は仙田に声をかけた。
「ん?」
「お前は・・・どうなんだ?・・・俺は・・邪魔か?」
「それは・・・。」
答えに戸惑う仙田。
そんな仙田の姿を見て、首を横に振る三島。
「いや、悪い。・・・今の質問は忘れてくれ。・・・ごめん。」
「嫌、答える。元、私は・・」
「悪い、止めてくれ。・・・今、何聞いても・・死にそうだ。・・・最後に聞くよ。」
頭を抱え込む三島を見て「だから、優しすぎるのよ」と呟く仙田。
「元、伊吹からは私が守ってあげる。・・・だから」
「・・・・だから?」
仙田がこの後、何て言うのかわかった気がした。
そして、仙田はしばらく黙りこみ、一呼吸入れてから思い口を開いた。
「最後は、私が殺してあげる。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
なんやかんやで、四十話まで来る事が出来ました。
あと数話で終わると思います。最後までよろしくお願いします。




