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第三十八話 山を抉る程の広角魔法

屋根の上ではエルフと仙田が武器を手に飛び交い、その下ではゴブリンの攻撃に対し防戦一方の三島がいた。

「くそっ、こんなんじゃ駄目だろ!」

ナイフを交互に攻撃してくるゴブリンに一定の距離を取っていた三島は、一気にゴブリンに近づき、脇腹に拳を入れた。

攻撃に集中していたゴブリンは突然の攻撃に怯み、その間にゴブリンの両手首を掴んだ。

ゴブリンは、ナイフを逆手に取り、三島に突き刺そうと力で押してくる。

「ぐっ・・・・」

ゴブリンの馬鹿力で次第にナイフが三島の顔に近づいてくる。

ジワジワと近づくナイフを見て、顔がこわばり始める三島。そして、そんな顔を見て、長っヒョロい舌を口かだ出すゴブリン。

「に・・人間様を・・舐めんなよ!」

三島は、ゴブリンの両足を払い、バランスを崩したゴブリンを腰にまわして地面に放り投げた。

仰向けに倒れたゴブリンに、止めの一発として大きな鼻に拳を入れた三島。

「仙田っ!」

倒れるゴブリンを放置し、三島は仙田が戦う屋根へと向かう梯子を探した。

レンガ状の倉庫の脇に梯子を発見し、三島はそれに向かって走り出す。

梯子の前に到着すると、後ろから何やら殺気を感じ取り、後ろを向くと伸びていたはずのゴブリンが、ナイフを振り下ろしていた。

三島はゴブリンの攻撃をかわし、後ろに回り込むと、壁に向かってゴブリンを蹴り飛ばした。

「しつこい野郎だな」

再び拳を構える三島。そして、ナイフを持っていたゴブリンは、地面にナイフを投げ捨てると三島のマネをして拳を構えた。

「ほぉ、武器捨てていいのかよ」

「ギィィィ!」

ゴブリンは声を上げて、三島に拳をぶつけようとパンチを繰り出すが、三島はそれを難なく避け、顎下に掌手を入れた。

仰け反りながらゴブリンは、地面に倒れるが、再び立ち上ろうとするが、その前に三島がゴブリンの顔を蹴りあげ、下に落ちているナイフを二本とった。

「悪気はないんだ。だから、さっさと降参して元の世界に戻れ!」

三島は、ナイフをゴブリンの腕に地面事、突き刺し、痛みに声を上げるゴブリンを無視して、もう片方の腕にもナイフを突き刺した。

両方の腕を地面に固定されたゴブリンは、地面に仰向けになりながら悲鳴を上げ、三島は梯子を上がって行った。




仙田は、エルフの魔術と剣の攻撃に翻弄されていた。

「あぁもう、魔術って案外卑怯よね」

エルフの周りには光の弾が無数に現れ、仙田に襲いかかってきた。

仙田は光の弾を避けながら、鎌で叩きつぶし、全てを叩き落とす頃にエルフが仙田の前に現れて攻撃をしてきた。

「キャァ・・」

鎌で防いだものの吹き飛ばされ、屋根の下に落ちそうになっていた。

そんな仙田を三島が受け止め、仙田は屋根から落ちる事はなかった。

「何苦戦してんだよ。お前らしくもない」

「元・・・なんで・・。ゴブリンは?」

「戦闘不能にしてきた。あれ以上動いたら、腕が引きちぎれるくらいにな」

「それに刀は?」

「あっ、悪い・・・折れた」

「折れたぁ?」

仙田がそんなリアクションを取っている中、エルフは剣を構えて二人に襲いかかってきていた。

三島は、エルフの行動に気付き、仙田の前に立ちエルフから剣を奪った。

剣を構え、三島は使い慣れない剣を振り回すが、重いのと使い勝手がわからないからと、屋根から放り投げた。

「ちょっと何で、捨てんのよ!」

「使いずらい!」

エルフの周りには、光の弾が出来始め、三島の動きが止まった。

光の弾は、三島に目がけ放たれ、仙田が三島の前に飛び出し、弾を叩き落とした。

「私が前に出る!」

仙田はそう言って鎌を構えて、エルフに突進していった。

エルフは、腰からナイフを取り出し、仙田を交戦をし続ける。

「仙田っ!頭を低くしろ!」

三島の声に仙田は頭を下げ、そんな仙田の後ろから三島が飛び出し、仙田の頭を鷲づかみにしてエルフに蹴りを入れた。

エルフは、防御できずに屋根を滑り落ちる。

ったい!髪の毛抜けた絶対に!」

「悪い、悪気はなかったんだ。」

「これで千尋の頭が禿げたらどうしてくれんのよ!」

「そんぐらいで禿げる訳ないだろ」

ギャーギャー喚く中、エルフは再び屋根の上に飛び上がり、屋根に着地する事なく上に上がり始めた。

「何する気だ。あいつ・・・」

「まさか・・・広角魔法!」

仙田は、エルフに向かって高くジャンプし、術式が完成する前に倒そうと鎌を振り下ろした。

だが、エルフは姿を消し、鎌は空を切った。エルフは、術式を唱えながら三島の横に現れ、三島に向かって大きな光の魔法を飛ばしてきた。

光に包み込まれそうになる三島を仙田が拾い上げ、屋根から落ち、地面に激突した。

「いった・・・」

「仙田!大丈夫か」

「大丈夫・・・。ただ、久しぶりに高速移動使ったから、体が麻痺してるだけ・・それよりも・・」

倒れる仙田を壁に寄りかけるようにしながら、仙田は光の走った方向を見つめ三島もその光景を見て唖然とした。

「あ、あのヤロー・・・」

三島に向けられて放たれた攻撃は、目標物を見失い、遠くへと飛び、山中へと落ちた。

「山を削りやがった・・・」

山に落ちた光はその場で大爆発を起こし、山は頂上から大きなショベルカーにでも削り取られたかのように、大きく削れた。

「・・・っ!」

仙田は、体が動かず呻き声を小さく出す。

「・・・お前の鎌借りるぞ。」

「・・元。駄目、無茶よ。・・・一旦引いて、体制を整えてから・・」

「その前に、また山じゃなくて街を削られたら、大変な事になる。」

仙田の横に転がる大鎌を手に取ろうとするが、仙田が動かない手を無理動かし、鎌を放そうとしない。

「駄目・・・元。・・あいつは、私がやる」

「いや、俺がやる。・・・それにな」

「それに?・・・」

「お前に死なれちゃ俺が困るだろ。」

三島は、仙田にそう言い残すと、再び屋根の上に上がって行った。

「優しすぎるんだよ・・・元。」




二人を見失ったエルフは、再びあの魔法を足元に放とうと、呪文を唱えていた。

「させるかっ!ボケが」

エルフの横に現れた三島は、鎌を振り下ろし、エルフの腕を切りつけた。

「くそっ、切り落とすつもりだったのによ。」

一度のみで攻撃を終わらせる事なく、三島は第二撃をエルフに繰り出した。

距離を取ろうとするエルフに距離を再び詰め、エルフは腰に付けたナイフを取り出し、三島に反撃に出た。

エルフの連撃を鎌で防ぎ続けるが、後ずさりをし始める三島。

「くそっ、強いなてめぇ!」

後ろにはもう屋根はなく、これ以上下がれなくなった三島。そして、エルフはあと一押しだと思い、攻撃が大きな一振りになった。

「甘いんだよ!」

三島は、鎌から手を放し、エルフの腕を捕まえ、地面にエルフを叩きつけた。

うつぶせに倒れたエルフの腕を未だに掴んでいた三島は、そのまま腕を反対方向へ曲げ、エルフの肩を外した。

エルフは低い重低音で叫び声を上げ、三島はエルフからナイフを奪った。

その隙に立ちあがったエルフは、ぶら下がる腕を庇いながら、体術で三島に攻撃をしてきた。

エルフの力はかなり強く、防いでいるというのに、内側に響いてくる。

「くそっ、一撃でもまともに喰らったら、生きていられるかもわからねぇな、こりゃ・・・。」

奪ったナイフを構え、エルフの攻撃を防ぎながら少しずつ、エルフの腕や足を傷つけていた。

エルフの腕や足からは次第に、赤い血が流れ始め、三島の体に付着し始めた。

エルフの攻撃に目が慣れ始めた三島は、攻撃が出始め、今度は逆にエルフを屋根に追い詰めた。

三島は、追い詰めたエルフを屋根から蹴り落とした。

だが、エルフを落とした下には、仰向けに倒れるゴブリンがいた。

「やべっ!」

三島は、ナイフを手に取り屋根から飛び降りた。

エルフは、ゴブリンの腕に刺さるナイフを取ろうした。

「させるか!」

三島は、エルフに飛びかかり、エルフはゴブリンからナイフを抜き取る事が出来ず、後ろに退いた。

「お前はさっさと、元の世界に戻れ」

仰向けに倒れるゴブリンに指を刺しながら言い放ち、再びエルフに向かって行った。

エルフと三島の交戦が続く中、ゴブリンは黒い煙に巻かれながら、姿を消し、残りはエルフのみとなった。

清楚なイメージのあるエルフは、イメージを覆されるような、形相で三島を睨みつけ、鋭く尖った歯をむき出しにして三島に襲いかかる。

そんなエルフを見て、少々がっかりする部分もあったが、次第に三島の顔には笑みがこぼれ始めていた。

「ははっ、つえぇなお前!・・・だがな!」

エルフの攻撃を避けながら、三島は反撃し、エルフの腹に拳を入れた。

膝まつくエルフに「俺の方が強い」と言い放った。

エルフの喉元にナイフを突き付け勝負は終了した。

「さぁ、お前の負けだ。さっさと戻りやがれ!」

エルフは顔にも無数の切り傷を作り、血を流していた。

「元!そいつから離れて!」

仙田の声に気付き、振り返ると仙田が壁を支えにしながらこっちに近づいてきていた。

そして、何やら不気味に笑うエルフに気が付いた。

「何笑ってやがる・・・」

エルフに目を向けると、切り口が白く光り輝いている事に気が付いた。

「お前、なにする気だ!」

三島は強くナイフを首元に突き付けるが、エルフは不気味に笑うだけだった。

仙田がまた更に強く「離れろ!」と声を張り上げ、三島はエルフから離れようとした。

エルフに背を向け、走り出す三島。その後ろではエルフの笑い声が聞こえ、一瞬その笑い声が叫び声に変わった気がした。

その瞬間、三島の後ろからは、光が輝き始め、三島を包みこんだ。





三島が次に姿を現したのは、ホテルの屋上で、下を見ると仙田が三島にしがみ付き、目を閉じていた。

「仙田・・・今、なにが起きたんだ?」

「よかった・・・。生きてた」

三島の声に元の世界に戻って来た事に気付いた仙田は、慌てて三島から離れた。

「今のどういう事だ?・・・あいつは、一体何をしたんだ。」

「自爆よ。私達を巻き込もうとしてた。・・・まぁ、エルフが死んだ瞬間に、元の世界に戻れたみたいだけど・・・」

「自爆・・・・。」

一瞬にして光に包まれた光景と山を大きく削ったエルフの攻撃を思い出し、その自爆もそれ以上の物だと思う三島。

「待った・・・・。向こうの世界で壊れた物は、こっちでも壊れるんだよな。・・あの街が危ない。」

その言葉にふと、仙田もある事を思い出していた。

「大変・・・・」

「どうした?」

戸惑いを隠せない仙田は、体を震わせながら、ある言葉を呟いた。

「美野ちゃん達が、あの街に向かってる」


急ぎロビーから外に出た二人は、田村の携帯に連絡を取ろうとするが、呼び鈴が鳴るだけで、田村が出る事はなかった。

「くそっ、大事な時にでねぇんだから、美野の野郎!」

携帯を閉じ、三島と仙田は何か移動手段がないかと、辺りを見渡す。

「仙田!美野達がどこにいるか、わからねぇか?」

「全然、駄目!・・・もう、この街、人多すぎ!」

仙田の中では、おそらく本人も騒いでいるのだろう。仙田は「大丈夫だから」と自分に言い聞かせていた。

「おぅ、お前等。こんな時間に外に出ていと思っているのか?」

そう言いながら現れたのは、ツーリングを楽しんできた三島の担任の先生だった。

先生の跨るバイクを見て、三島は先生からバイクを奪った。

「お、おぃ、三島。何する気だ。」

先生からヘルメットも奪うと「仙田!」と叫びそのヘルメットを仙田に投げ渡した。

「先生!ちょっと借ります!・・・それから、今から外に出ようとする奴等は、何としても食い止めてください!」

バイクに跨った三島は先生にそう言い放つと仙田も後ろに乗り込み、先生の制止を振り払い、バイクは後輪を滑らせながら方向転換し、急発進した。



混雑する道路を猛スピードで走るバイクは、車をどんどんと追いぬかし、さらにスピードを上げて行く。

「仙田、あの爆発が、本当に起きるのか?」

「多分、爆発はしない。でも、壊れた物は必ず壊れる。だから、爆発に近い事が起こるのは確かよ。」

「くそっ・・・」

信号や入り組んだ道は、次第に一直線の道路に変わり、バイクはさらに加速をした。

後ろに座る仙田は、携帯を取り出し、田村に連絡を取ろうとするが、全く反応がなかった。

「お願い・・・美野ちゃん。出て・・・」

「駄目だ。あいつ、携帯を携帯することがないからな・・・多分、こんなに連絡しても出ないって事は、実家に置いてあるんだ。・・・くそっ、まだ爆発は起きてないよな。いつ爆発するんだ」

留守電にすらならない携帯を閉じ、仙田が口を開いた。

「ねぇ・・・聞きたい事があるんだけど」

「あぁ?何?」

「美野ちゃんの事、・・・好き?」

「何だよ。こんな時に、今、それどころじゃないだろ!」

「答えて!」

冷たい風を切り裂くように仙田の声に、三島は少々悩んだ。

「わからねぇ・・・」

「えっ?」

「わからねぇけど、死なせる訳にはいかない!」

「じゃぁ・・・仙田と美野ちゃんだったら?」

「あぁ?」

「正確には、仙田千尋と田村美弥・・・助けれるのは一人だけだとしたら、どっちを取る?」

「おぃ・・・仙田。何考えてやがる・・・」

「選んで・・・。」

「選べねぇよ!そんなのっ・・・・。それから、今から俺が思っている事をしれかしたら、許さねぇぞ。」

「元・・・・あんたは優しすぎるのよ。でも、それはとても残酷な事。」

仙田は、自分の頭に着けていたヘルメットを外し、三島の頭に丁寧に付けた。

「選べないのは、優しいからじゃない。・・・ただ臆病なだけよ。」

耳元で仙田はそう呟くと、バイクの上に立ち上がり、空高く飛んでいった。





田村御一行は、ようやく駅に到着し、長い間電車で揺らされ、固まった体をゆっくりと伸ばしていた。

「あぁ~ようやく着いた~。」

「ねぇ、美野。それで、三島君とはどうだったの?」

「えっ?何が?」

「もう、せっかく私達が計画したんだから~。で、どうだったの?」

「どぉって・・・まぁ、いつも通りグダグダと・・話して終わっちゃった。」

田村の報告に、がっくりと肩を落とす友人達。

「もぅ、美野だってわかってるでしょ。三島君は、自分から来るタイプじゃないんだって、だから美野が猛アピールするしかないじゃん。」

「いや~でも、やっぱり私、このままの状態でいいんじゃないかなって思ってるんだけど・・・」

言い訳ぐるしい田村のセリフに「逃げてる」と声を揃えて言い放つ友人達。

「ま、まぁ今回は、ちゃんと女の子同士で楽しもうじゃない!」

「あっ、美野~・・・ちょっと待ってよ」

「さぁいざ逝かん!」

そう言いながら、田村達は駅から離れ始め、そんな田村達の前に肩で息をする仙田が現れた。

「美野ちゃん・・・・」

「あ、あれ?千尋・・・どうしたの。体の調子は大丈夫なの」

女子のグループから抜け出し、仙田に近づいてくる田村。

「付いてきて」

そんな田村の手を取り、歩き始める仙田。

「ちょ、ちょっと千尋・・・どうしたの?」

「いいから、ここから離れないと。」

「何?どうしたの?・・・千尋、らしくないよ?」

「いいから!ここは危ないの!・・・少しでもいいから離れないと」

そんな仙田の手を振り払い、田村は仙田の顔を見つめた。

「あなた・・・だれ?」

「それは・・・。」

その時、突如地面が揺れ始め、辺りを気にし始めると、その瞬間、地面が大きく揺れ始め、建物が崩壊し始めた。


地面の揺れは、道路を走る三島のとこにも到達し、前を走る車が陥落した地面へと吸い込まれる光景を目の当たりにした。

「うわぁっ!」

三島は、急ブレーキをかけるが、ハンドルを取られ、バイクから放り出された三島は地面に何度も叩きつけられた。

バイクは、炎上し地面の揺れは激しさを増していった。




ホテルにいた生徒達は、各自の部屋でテレビをつけ、臨時ニュースに釘付けになっていた。

「おぃ、丸山!・・・元に連絡取れたか!?」

そう言いながら、友人が一人、丸山と三島の部屋に入って来た。

「今、してる所だ!・・・頼む、元、出てくれ・・・。」

丸山は、混雑する中、テレビを見ながら携帯で三島に連絡を取ろうとしていた。

先生達は、至急、点呼確認をし始め、ホテルの外に出ている人数を数えていた。

「ホテルにいる人数は何人だ!」

三島の担任は、声を張り上げながら、他の先生に指示を出し、ロビーにある大きなテレビを見て唖然としていた。

「これは・・・。」

テレビに映し出された光景は、夜だと言うのにハッキリとわかるくらい山が抉り取られている光景だった。

「先生っ!」

ロビーに降りてきた丸山が先生に声をかけるが、テレビに映る光景を見て、思わず足が止まった。

「丸山、三島達から連絡はあったか?」

「だ、駄目です。回線が混雑してるみたいで・・・ただ、田村達が、あの街に行ってます。」

丸山はテレビで震源地を現す、赤いバツ印の所を指差した。




外は夜だと言うのに辺りで立ち昇る炎で明るく照らし出されていた。

そんな中、仙田は意識を取り戻し、周りに転がる瓦礫に気が付いた。

「あの爆発を地震にしたのね・・・。」

仰向けに倒れていた仙田は、足元が瓦礫に挟まれている事に気付き、その瓦礫をどかし、瓦礫の下に田村がいる事に気付いた。

「嘘・・・。嫌!美野ちゃん。しっかりして!」

瓦礫の下敷きになる田村を救い出そうとしながら、先ほど起きた出来事が脳裏によみがえり始める。

地面が大きく揺れ始め、その場に倒れた仙田。そんな中、大量のレンガが崩れ、仙田に降り注ごうとしていた。

「千尋っ!!」

そう言いながら、田村は仙田に駆けより、仙田を抱き上げ走り出そうとするが、レンガの方が早く田村達に降り注いだ。

助けに来たと言うのに、逆に助けられてしまった仙田は、瓦礫から田村を救い出し、自分の行動が裏目に出てしまった事を悔やみ、その場に泣き崩れた。




三島が意識を取り戻したのは、長かった夜が終わりを告げ、朝日が昇る頃だった。

道路には大きな亀裂があり、亀裂の中なる数台の車が黒煙を立ち昇らせていた。

路肩に倒れているバイクはすでに消し炭に成り果て、とても動かせる状態ではなかった。

体中に痛みが残り、歩くのが精一杯だった。

「美野・・・。仙田・・・。」

ヘルメットをその場に脱ぎ捨て、凸凹になった道路に沿って三島は、震源地へと歩き始めた。


上空には取材用ヘリが飛び交い、現場へと急行していた。

三島はおぼつかない足取りで、道路を歩き続ける。

「移動手段にヘリって言う手もあったな・・。運転できないけど」

ヘリを恨めしそうに見続けていると、空に黒い斑点が徐々にこっちに近づいてくるのが見えた。

それに気付いた三島の足は自然と止まり、黒い斑点だった物が、仙田だとわかり、その仙田は三島の前に着地した。

「仙田・・。無事だったのか・・」

「まぁね・・。肩を貸して」

仙田はそういいながら、三島の肩を背負い、おもっきりジャンプして、田村のいる街へと向かった。



海に面し、綺麗なレンガ調の街並みは崩壊し、悲惨な街へと一変していた。

ある一定の広さを確保した場所には、仮設テントが設置され、三島はそのテントの中に案内された。

「私は、ここにいる事は出来ないから」

そう言って仙田は、テントの中から出て行った。

テントの中には、いくつもの担架や簡易な布団が並べられ、その上にはたくさんの人が並べられていた。

ベットや布団に寝かされる人達は、呻き声を上げ、そんな人達の合間を縫って、三島は奥へと突き進んでいった。

三島が辿りついた場所には、体中を包帯で巻かれ、布団に寝かされた田村が待っていた。

「げ、元・・」

「美野・・・。」

三島は、田村の横に座った。

「ごめん・・ね。こんな事になっちゃって・・」

「何、謝ってんだよ。お前のせいじゃないって。」

田村は、言う事の利かない腕を動かしながら、自分の胸元に置かれている一枚の紙を手に取った。

「私、・・・これ知ってるよ。トリ・・トリアージって言うんだよ。緊急性が高い人や・・・。もう駄目な人達を判断する奴だよ。私は・・・ごめん、うまく目のピントが合わないの。・・元、見てくれる?」

三島は、その紙を見て、田村の持つ紙には、黒色の一本の線が引かれ、白い文字で0と書かれているのを見た。

・・・カテゴリー0。誰が見てもわかる。希望がゼロなんだ。

「大丈夫だ。美野・・・もうすぐ医者がお前の所に来るさ。」

田村の手を強く握り、鼻を啜りながら田村に言い聞かせる三島。

「あぁあ、・・・こんな事になるんだったら、早く元に言っておけばよかった・・。あのね・・・元。」

「ん・・なんだ。」

「私ね。・・・元の料理が好き。・・・本当に大好き。」

田村の目からは涙が流れ始め、それに呼応するように三島の目からも涙が流れ始めた。

「ねぇ・・・聞いてる?・・私、ちゃんとハッキリと言ったよ。」

「あぁ、聞いてたよ。俺もな、俺の作った料理をいつもうまいって言ってくれるお前の笑顔が好きだった。・・・中学の頃からずっと。」

「ホント・・?」

「あぁ、本当だ。俺がちゃんと言えればよかったんだ・・。」

悔やむ三島を見て、田村は首を横に振った。

「ううん、そんな事ない・・・。私、嬉しいよ。でも・・・今言った事、忘れてね。」

「な、なんで・・・?」

「私、もぅ駄目なんでしょ。」

「何言ってんだ。美野は助かる。」

「いいの・・・。また元に・・・剛のような悲しい思いはさせたくないの・・。だから、私の事、忘れて、新しい人、見つけてね。」

「何、辛気臭い事言ってんだ。ら・・らしくないぞ。いつもみたく、俺を跳ね飛ばすような事やれよ。」

「・・・じゃぁ、ちょっと私に、顔近づけて・・。」

「あ、あぁ・・・」

田村に言われたとおり、顔を田村に近づけた。

すると、田村は、両手を上に伸ばし、三島を捕まえるとそのまま抱きついた。

「さ、最後ぐらい・・・突き放さないで、甘えたっていいでしょ。」

耳元で田村にそう囁かれ、三島はそれに応え、田村の背中に手をまわした。

「あぁ、いくらでも甘えろ。・・・好きなだけ甘えろ。」

三島の答えに田村は三島を強く抱きしめ、三島も田村を強く抱きしめた。

最後に強く抱きしめた田村の腕は、力を無くし、三島の背中を滑り落ちた。

だが、滑り落ちる田村の手を地面に着く前に三島が受け止めた。



「一年前、お前が俺の手を放さなかったように、今度は俺がお前の手を一生離さないからな。」





最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

えぇ、こんな時に言うのもなんですが・・・ちょっと書き忘れていたので


第三十話で日本の総理大臣がアメリカの大統領に言った名言ですが、自分のウル覚えの記憶が正しければ、たしか事実です。

青春時代をラグビーに捧げたMから始まる総理が、現在ご婦人が外交で活躍する大統領に、

「How are you.」と聞こうとして「Who are you」と言い、大統領も冗談だと思い「私は、ヒ○リー夫人の夫です」と英語で答えました。

そして、『轟』のように木を三つ使うお名前で、英語が大の苦手だった総理大臣はおそらく「私は元気です」と大統領が言ったと勘違いしたんでしょうね。

総理大臣は恐ろしい事を言ってしまいました。


「me too(私もヒ○リー夫人の夫です)」



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