第三十七話 高二の秋と言ったら定番の・・
「修学旅行じゃぁぁぁぁぁぁ・・・!」
まだ計画段階だと言うのに、三島のクラスでは委員長ですら、こんなテンションで、教室は生徒達の歓声と指笛が鳴り響いていた。
毎度のように問題を起こし、昨年利用した場所からは二度と来るなと忠告され、毎度のように行き先が変わるこの高校も結構珍しい。
だが、毎回のように南下するうちの修学旅行先を勝手に予測し、海だのナンパだので盛り上がる生徒達。
「聞いて驚け、今回は海を渡るぞ!」
担任の言葉に、沖縄だと予想が付き「うぉぉぉ・・!」と唸り声を上げる。
「旅行先はだな・・なんと北海道だ!」
予想が裏目に出た生徒達は、硬直し最終的には大ブーイングを起こした。
「嘘だ!何故、こんな秋も深まる季節に北に行かなきゃいけないんだ!」
「まぁ、そう嘆くな。単純に言うと、南に歓迎されなくなってしまったんだ。・・だったら、今度は上から攻めて行こうと言う作戦でな・・」
さらにボルテージが上がる生徒達に、昨年までの旅行先での喫煙飲酒、他校との暴力事件などを上げられ、自分達も吝かではないと落ち着きを取り戻す。
その頃、扉を挟んで隣のクラスからもブーイングの声が聞こえ始めていた。
「さて、落ち着きを取り戻した事だし、それよりも重要な事を言わなければならない。」
その重要な話とは、全員が知っている事で、毎回の如く問題を起こす生徒達を監督できないと先生達が嘆いた所、学年を二分割し別々の場所で修学旅行をすると言った感じになり、毎年のように我々B組は、半分に分けられしまうのだ。
そこで重要になるのは、グループ編集。そして、どちらのクラスに吸収されてしまうか?その二つだった。
「俺はCがいい!なんせ、あの田村がいるんだぜ?それに頭のいいAなんかに吸収されてでも見ろ。修学旅行終わったら、がり勉君になってるぜ。」
学力別でクラス分けされている訳でもないが、何故か平均的にA組に頭のいい奴等が集まり、三島や田村・丸山にとっては、何故俺達はAじゃないんだ?と時々疑問に思っている。
グループ分けは、案外スムーズに進み、仲のいい奴等同士や、同じ部活仲間で丸く収まった。
三島・丸山その他諸々グループは、あみだくじの結果、念願のC組へ吸収されることが決まった。
喜びはしゃぐその他諸々だが、丸山にとっては異種武道の仲間がどちらかと言うとAに集合しているため悔しがり、三島にとっては少々、気まずい物になってしまったと思い悩んでいた。
やっぱ夜はすすきのじゃね?自由行動の予定を考える中、そんな言葉が飛び出すが「アホかお前等は」と先生に頭を叩かれた。
「そんな夜遅くは、自由行動時間を過ぎてるだろうが!」
「先生っ、突っ込む所そこ!?」
「・・・と、言う訳で俺達は道央方面に旅行する事になった。」
三島の部屋で猫仙田に報告をし、修学旅行と言うフレーズに喜びはしゃぐ仙田。
「いや~小説で読んでたけど、一度体験してみたかったのよね。」
「なぁ・・・毎回思うんだけど、仙田は一体どんな小説読んでるんだ?」
「どんなって、そりゃ学園物に決まってるでしょ。・・修学旅行って言うのは、新たな恋が芽生えたり、思いを寄せていた恋が実ったりするような場所なんでしょ。」
期待に胸をときめかせる仙田は、完全に上の空で、なにか遠くを見据えるかのように物思いにふけっていた。
「あぁ・・でも、ここの高校じゃそんなのも、期待できないかもね・・」
「まぁ、確かにな・・・。でも、大丈夫だろ。多分・・・。仙田も行くんだろ?」
「もちろん。美野ちゃんと一緒だよ。」
グッジョブと親指を立ててみせる仙田。
「へぇ~どこ行くんだ?」
「えぇっと確か・・・隣のクラスの丸ちゃんって奴と一緒に行動するとか言ってたな・・・」
「・・・はぁ?」
三島の反応に、内緒の予定だった事をばらしてしまったと、顔を青ざめる仙田。
「いや、違うから。丸ちゃんって言う女子だからね女子!」
「・・いや、無理すんなって。」
「・・・・・ねぇ、お願いだから。美野ちゃんには言わないでね!」
「何?美野も知らないのか?」
てっきり田村と丸山が企てた物だと思っていた三島とまた要らぬ事を言ってしまったと後悔する仙田。
「さて・・・白状してもらおうか?」
「ニ、ニャー・・・」
都合のいい時だけ、猫になろうとする仙田。
子猫に寄生した仙田は、外に逃げ出そうとするが、そんな猫の尻尾を捕まえた三島。
「逃がさん!」
「緊急脱出!」
仙田は、猫から抜け出し、白い塊となって壁をすり抜けて行った。
そして、尻尾を掴まれた猫は三島を引っ掻き、次の日三島は顔に大量の引っかき傷を作って、登校する事になった。
「ねぇ、なにその引っかき傷は?・・もしかして、またロイちゃんをお風呂に入れたの?」
登校中、田村と仙田と遭遇し傷の部分を田村に指摘されるほどの大量の傷。
「ん~まぁ色々とあってだな・・・」
「ふ~ん、最近ロイちゃん綺麗好きになってたじゃない。なんで、お風呂に入れたの?」
「いや、別に風呂って訳じゃなくて・・・。それより、親父さんとは最近うまくいってるのか?」
「えっ?ん~ぼちぼち・・。そんな事より、修学旅行の自由行動。そっちはどんな感じなの?」
互いに触れられたくない話題になると、他の話題に持って行こうとする二人。
この調子だと、田村は本当に知らないらしい。田村の後ろでは、言わないでくれと仙田は三島に手を合わせて懇願している。
「まぁまだ決まってないかな?そっちは?」
「ん~、こっちもなんか友達に主導権を取られちゃって、なぁなぁな感じ」
「そっか・・こっちもそんな感じだ。」
願い通りの三島の反応に、顔を輝かせる仙田。
そんな仙田に後で訳を聞かせてくれと、念を飛ばし、そんな念を感じ取ったのか仙田は何度も頷いていた。
「で?なんでそんな計画が立てられてるんだ?」
修学旅行の企画中は、自由行動がとれる甘すぎるこの学校で、廊下で生徒達が行きかう廊下に仙田に呼び出され、三島の開口一番の言葉がそれだった。
「あのね・・・その、男子の方は、どうなってるか分からないけど、女子の方では・・その、三島君と美野はね。・・なんて言えばいいのかな?・・その夫婦みたいな感じになってて」
要約すると男子の一番人気の田村だが、女子の方では田村はすでに三島と付き合っていると言う事に確定されており、二人の関係がこじれている事に勘付いた一部の女子達が、ふたたび縒りを戻そうと恋のキューピットを計画しているらしい。
「だ、だから私も・・・その、二人には仲良くしててもらいたいし・・そ、それで迷惑だって事は分かってるけど・・その蔑にしてほしくないと言うか・・」
戸惑う仙田を見て、断るような雰囲気でもなく、仕方なく了解した。
「ん~・・・まぁ、わかったよ。」
そう言って三島は教室へ戻って行き、取り残された仙田がもう一人の仙田に声を掛けられていた。
『でもさ、本当にいいの?』
「えっ?なにが・・」
『いや、だから・・・。私と千尋って一応、意思が疎通してる部分があるから言うけどさ・・・周りがお似合いだからって言ってるだけで、千尋はそれでいいの?』
「それだったら、あなただって同じでしょ?意思が疎通してるから言うけど・・」
『な、何言ってんの!私は、吸血鬼なの!』
「はいはい、そうでしたね」
心の中で騒ぎだす仙田を笑いながら、仙田も自分の教室へと入って行った。
そんなこんなで、修学旅行当日。
空港の荷物検査で大半の生徒が引っ掛かり、飛行機を一本遅らせたり、バスガイドに対し彼氏がいるか?だの色恋話で盛り上がり、やけに下ネタに乗ってくるバスガイドでテンションがおかしくなった生徒達のせいで、バスが左右に揺れるだの色々と学校側で組みたてられていた予定が狂う中、待ちに待った自由行動が始まった。
「うわっ、道が広っ!・・・おぃ、見ろよ。一両編成の列車だ!」
「って言うか寒っ!雪降るんじゃね?」
珍しい物を見てテンションが上がる三島達のグループだが、担任の先生がレンタルで借りたバイクに跨り、エンジンを吹かしながら颯爽と走って行くのを見て、テンションはダダ下がりになった。
「あれ、いいのか?」
「明らかな監督不届きだよな・・・」
「まぁ・・いいんじゃないかな?さっさと俺等も行こうぜ」
丸山の一言で行動を開始した三島グループは、数少ない列車に乗り込み、一面に広がる田畑を見て乗り込む方向を間違えた事に気付き、次の駅で反対方向へと向かった。
「バリー、てめぇ覚えてろよ・・・。」
きっとこれだ!そう言って列車に乗り込んだ丸山に対し、目的地に到着した時刻を見て痛い目で睨みつける三島と諸々の集団。
「ま、まぁこれも修学旅行の醍醐味って訳で・・・」
小さな運河が流れる街に到着すると、携帯を忙しく動かし始める丸山。
そして、あからさまに偶然を装いやって来たのは、田村のグループだった。
「よぉ、偶然だな」
丸山の声に男子グループはさっきまでの出来事はすっかり忘れたかのように、テンションが上がった。
一人のテンションがおかしくなり「田村様~」と言って駆けよる男子に対し、田村は見事なハイキックを喰らわせた。
明らかに計画されていたこのイベントに対し、やけに不機嫌な田村。
「奴に近づくのは危険だ。ゴルゴよりもやばいぞ!」
そう言って丸山達は田村から離れて行き、取り残された三島と田村。
「ここまで計算されてたとはな・・・」
「そうだね。」
「あれ?美野も知ってたのか?」
「まぁね。千尋の隠し事ってなんて言うか・・・すぐにわかっちゃうと言うか・・」
「まぁ・・・確かに・・・」
小さな運河に掛る橋の上から一歩も動かない二人。
「つーか、そんなに俺等って仲悪くなってるように見えてたのか?」
「知らないわよ。周りからそうやって見えてるんだからそうなんじゃない?」
「そうなのかな・・・?」
「そうなんじゃないの・・・」
「じゃぁさ、俺等はこの後、みんなの前にどうなって帰ればいいんだ?」
「そりゃ・・・わかんない。」
「そうか」
「それよりも、さっきから気になってるんだけどさ・・・」
「あぁ、俺もそうだ。」
なるべく目を合わせないように横に目をやる二人。
その先には、小さなテラスに小さく隠れているつもりであろう小さな仙田が、大きな新聞を広げこちらを窺っていた。
「どうしたらいいんだろ・・・」
「それは俺にもわからん。」
店員に何度も注文を聞かれ、焦りながら断る仙田を見て、このままでは可哀想だと場所を移動し始めると、仙田も後を追いかけてきた。
地図もなく知らない道を歩く二人の後には、新聞を開いたまま歩く仙田がいた。
「ねぇ、やっぱり気になるんだけど・・・」
「そうだな」
そう言って曲がり角を曲がり、急いで駆けだす仙田と曲がり角で二人とぶつかった。
「あ、あれ?二人とも・・・どうしたの?」
「仙田じゃん。どうしてここにいるんだ?」
「あ、あのね・・・その、みんなとはぐれちゃって・・・」
「そうなの?じゃぁ、私達と一緒に行動しましょ。」
「えっ、でも・・・」
「いいじゃん。人数多い方が楽しいだろ。」
そんな感じで三人で行動し、最終的に全員と合流し集合場所へと戻った。
ホテルで出された夕食の量に、不満たらたらの学生がホテルから脱出し、居酒屋で発見される馬鹿までもいた。
そんな中、仙田からの電話に気付き、丸山との二人部屋から出た。
「もしもし?」
『あ、あのね。・・・こんな時になんだけど、その・・』
「ベルが鳴っているのか?」
『う、うん・・・』
「そうか・・・ここ場所になる可能性もあるのか?」
『た、多分・・・私達がいるから・・』
「それだけは、何とか回避しないとな・・・」
『それで、今から最上階に来てくれないかな?』
「わかった」
電話を切ると、三島はエレベーターに乗り最上階のボタンを押した。
扉が開くとその前には仙田が立っていた。
「付いてきて」
「わかった」
仙田について行くと、仙田は非常扉を開き上へと上がって行った。
「どうするつもりなんだ?」
非常扉の中には階段が続き、仙田は黙々と上に上がって行く。
「美野達からはどうやって抜け出したんだ?」
「美野ちゃん達は、みんな出かけてるわ。千尋は夕飯で苦しいからって部屋に残った」
「そりゃ、いい言い訳方法だな」
「言い訳じゃないわ。事実よ・・・美野ちゃんが残ろうとしたけど、無理に行かせた」
立ち入り禁止と書かれた扉を開くと、都会のビルから抜けてくる風は強くて冷たかった。
「うわっ、さみ・・・」
凍える三島の手を取ると仙田は「飛ぶわよ」と言うと、立ち並ぶビルに向かって走り出した。
「えっ、ちょ、ちょ、ちょっと・・・何する気だ?そっち、行き止まり!」
「いいから、タイミング合わせて飛びなさい!」
訳も分からず仙田の言葉に従い、歩調を合わせ三島と仙田はビルの屋上から飛び出した。
高くそびえ立っていたビルは下に、三島と仙田はその上を飛んでいた。
「うおぉ!飛んでる!」
「飛んでない。ただジャンプしただけ、次行くわよ」
「へ?」
高く飛んでいた二人は次第に落ち始め、下にあったはずのビルが徐々に近づいてくる。
「ノオオオォォォォ!」
無事に着地した二人、そして仙田は再び三島の手を取り走り出し、また高く舞い上がった。
そんな事を繰り返していると、先ほどまでいたホテルは次第に見えなくなる距離まで離れていた。
「まぁ、ここまで来れれば大丈夫でしょ。」
田畑が広がる場所にまで飛んできた仙田は一呼吸入れ、何度も走馬灯が見えた三島は肩で息をしていた。
そんな二人は田畑から姿を消し、せっかく人里離れた場所にまで来たと言うのに朝に行った運河が街を流れる場所に飛ばされた。
「・・・ったくよ。意味無かったじゃないかよ」
「みたいだね」
「伊吹は?」
「ここにはいないわ。私達だけみたい」
「頼むから人じゃありませんように・・・」
「まぁその願いは、届いたんじゃないかな?・・・来るわよ」
大鎌と刀を取り出し、三島に刀を渡すと、仙田は大鎌を構えた。
三島も刀を手に取ると、レンガ状の倉庫の屋根に何かが立っているに気が付いた。
屋根の上に立っていたのは、人の形をしているが、肌の色が緑がかった奴とどす黒く染まった奴だった。
手には弓を持つ緑と大きな棍棒を持った黒い奴。
口からは立派な犬歯が飛び出し、こちらを睨みつけてくる。
「エルフとゴブリンか・・・」
仙田はそう口ずさんだ。
「えっ・・あれがそうなの?俺のイメージと違うんだけど。・・・ってか、なんで相反しそうな奴がダッグ組んでるんだよ。」
「それだったらこっちだって、吸血鬼と忍びよ。相反しそうじゃない?」
「まぁ、確かに・・・接点はなさそうだな」
エルフは、弓を構え二人に照準を合わせ始め、武器を構える二人。
だが、エルフに気を取られていた間にゴブリンが二人の前に現れ、棍棒を振り下ろした。
後ろに飛び退く二人。そして、棍棒はコンクリートを破壊し、エルフはその隙に弓を放った。
二人に向けて矢が大量に飛んでくる。
三島は仙田の肩を掴み、壁に飛び退いた。
「くそっ、いいチームプレイだ。敵ながらあっ晴れってか?」
「なら、二手に分かれましょ。私がエルフをやる。あんたはゴブリンをどうにかしなさい」
殺せと言わなかったのは仙田の配慮だったのか、わからないが「了解」と言って、三島は壁から飛び出した。
飛び出してきた三島に対しエルフは、弓を構えるが、飛んでくる仙田に気付き、防御の体勢を取った。
「はぁぁぁっ!」
仙田の一振りで弓が砕け、エルフは腰に差してあった剣を抜いた。
「同じ西洋の化物同士頑張ろうじゃない!」
体を軸に仙田は鎌を振り回し、エルフへと襲いかかって行った。
壁から飛び出した三島は、目の前に立つゴブリンに向かって走り出し、刀を鞘から抜いた。
大きな棍棒に防がれ、パキンと言う音が鳴り響き、三島の持つ刀は折れた。
「マジ!?」
折れた刀に目を取られる三島にゴブリンは、棍棒を振り落とし、紙一重で避けた三島はゴブリンの顎下にひざ蹴りを喰らわせた。
脳がぐらついたゴブリンは、棍棒から手を放し、その隙に三島は棍棒を運河へと投げ捨てた。
「男だったら拳で勝負じゃろうが!」
三島は手でゴブリンを挑発するが、ゴブリンは腰から二本のナイフを取り出した。
「あれ?・・・」
戸惑う三島に両手にナイフを構えたゴブリンが襲いかかった。




