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第三十五話 化物になっちまった

「・・・ようやく、片付いた」

「なんか、久しぶりにこの部屋の床を見たかもしれない」

「ったく、どんだけ汚れてたんだよ。お前の部屋は・・・」

汚れに汚れまくっていた田村の部屋にある物は、積み上げられた段ボールのみとなっていた。

「あとはこの段ボールを外に出すだけだな」

「うん、そうだね・・・いやはや、なにからなにまでご迷惑をおかけしました。」

「まったくだ。今思い出しても、お前の部屋は酷すぎる。」

段ボールを手に持ち、部屋から出て行く二人。

「うっさいボケ!元の部屋見たく何にもない部屋もどうかと思うけど?」

「うるせっ、俺の場合は岬高の奴等に全部捨てられたんだよ」

「元々そんなに物がなかったじゃない」

「あ〜うるさいうるさい、何も聞こえません」

リズムよく階段を下りて行くと親父さんの軽トラがちょうどよく登場し、段ボールを荷台に積み上げて行った。


「これで最後だな」

段ボールを積み終え、体を伸ばす三島と田村。そして親父さんは、大家さんに挨拶に行ってくると言って、アパートの中に入って行った。

取り残された二人、気まずい空気が流れる中、先に田村が口を開いた。

「だから、別にあんたのせいじゃないからね。私はそろそろ、お父さんとの仲違いを直そうと思って・・・」

「わかってるよ。何回言ったら気が済むんだ。」

「そうだけど、何か距離を感じる」

「そりゃお互い様だ。」

また話が途切れ・・結局、親父さんが戻ってくるまで一言も話さずに終わった。

軽トラに乗り込む親父さんと田村。

「それじゃ、学校で」

「あぁ、また明日な」

親父さんの運転する軽トラは、走り出し走ってすぐの曲がり角で曲がり軽トラは姿を消した。

未だにアパートの前で立ち尽くす三島の携帯が震えだし、取り出した携帯には仙田と書かれてあった。

携帯に出ると、仙田からは「そろそろ、呼ばれます」と伝えられ、それを言い終えるとすぐに電話を切られた。

アパートに立っていた三島は姿を消し、次に現れた場所は辺り一面、薄暗い砂漠に囲まれた場所だった。





「やっほ」

汗がにじみ出る中、なにもせずに立つ三島の前にそう言いながら仙田が現れた。

「よぉ、お前は何か涼しそうだな」

「そぉ?ただ汗をかいてないだけよ」

「で?今回の敵はどんな感じなんだ?」

三島の質問に少々戸惑いながら、仙田は「あんたは知らなくていい」と答えた。

「知らなくていいって、なんだよそれ」

「今回は、私達でやるわ・・・あんたには重荷になる」

「どういう事だよ」

「・・・にしても、伊吹の奴遅いわね」

「おぃ、無視かよ」

「もちろん、無視」

「無視してねぇじゃねえか!」

「うるさい、ボケ!」

ギャーギャー喚く間、今回は黒いコートは羽織っていない伊吹がようやく登場した。

「よぉ、・・・こんなに熱いのに、お前等は元気だな」

「ゲッ・・伊吹、何だよその格好は・・・」

黒いズボンと黒いランニングシャツのみで登場した伊吹に三島達は、一歩引くような体勢になった。

「おぃおぃ・・・止めてくれ、暑すぎて突っ込む気にもなれない」

「そ、そうか・・」

仙田は、刀を三島に手渡すが「絶対に使うなよ」と念を押された。

「伊吹、今回は私達だけで終わらすからね」

大鎌を取り出し、肩に担ぎながら伊吹にそう言うが、伊吹はやけに元気がない

「はぁ?・・・なんで」

「おぃ、伊吹・・・やけに元気がないな。何かあったのか?」

「いや・・・別に・・ちょっと井手口の手帳読んでたら、朝になっちゃって・・」

「井手口?・・・っ!あのヤロ、帰って来たのか」

「よせ、三島。・・・あいつは、もう関係ねぇよ。」

「関係って・・お前、あいつが何やらかしたか知ってんのかよ」

「だが、お前だってあいつの人生を横に振ったんだぜ。・・・引き際ってもんを覚えろ」

納得のいかない三島と今回やけに張りきる仙田。そして、やけにテンションの低い伊吹。

そんな三人の上空に、なにやらヒュルヒュルと音を立てながら落ちてきた。

「なんだ?あれ」

三島は音を出す黒い物体に首をかしげながら見ていると、その黒い物体は上空で無数に分かれて三島達に振ってくる。

「クラスター爆弾!」

三島はそう叫び、伊吹は三島の声に驚き「なぁにぃ!」と言いながら上空を見上げ降ってくる黒い物体を確認した。

「俺に任せろ!」

伊吹はそう言うと、三島と仙田を後ろに下げ、右腕の紋章の一つに触れて何やら呪文を唱え始める。

すると、伊吹を中心に赤い壁が現れ、赤い壁は三島達をも囲んだ。

三島達を襲ってきたクラスター爆弾は、砂漠地帯に降り注ぎ、真っ赤な炎となって三島達を襲った。








「目標に着弾を確認」

遠くでクラスター爆弾が、燃え広がるのを双眼鏡で覗く一人の兵士がそう言った。

「続いて第二攻撃を続けろ。」

「しかし、大尉。相手はどう見ても人間でした。これ以上の攻撃は無駄かと思いますが」

大尉と呼ばれる男の顔には無数の傷があり、その顔で兵士を睨みつけると兵士は縮こまった。

「フン、あんなんで死ぬような奴等が、たったの三人でここに現れると思うか?・・・続けろ!」

「アイマム」

兵士が発射台に指示を出そうと向かう中、大尉は覗いていた双眼鏡で土ぼこりが舞う中、何かが一瞬、赤く光り輝いたのに気が付いた。

「全員、伏せろ!」

大尉の言葉に全員が遮蔽物に身を隠すが、こちらに飛んできた光り輝く物は、炎となって彼等に降り注いだ。

炎に身を包まれた兵士の悲鳴と武器が暴発した音が鳴り響き、薬莢を身につけていた兵士は薬莢がさく裂し倒れるが、薬莢は炸裂し続け倒れた兵士を未だに踊らせていた。

「無事な者はいるか!」

大尉の声に「無事であります」と言う声が何度か帰って来た。

「総員に告ぐ!動けるものは、持ち場を離れ建物に避難しろ!」

住宅街へと非難する途中、一人の兵士が「敵襲!」と叫び、その短い命を全うした。

彼の周りにいた兵士は、目の前に現れた砂の大蛇に銃を発砲するが、弾は貫通するだけでまるで歯が立たなかった。

大蛇は兵士達を襲い続け、大蛇に飲み込まれずに住宅街へと逃げ込んだのは大尉を含め数名しか残っていなかった。


「・・・すでに俺達の戦力は、ほとんどを失ってしまった」

兵士の頭の中には敗北と言う言葉しか浮かんでこなかった。だが、敗北を認め黒い煙にまかれる者は一人も出なく、大尉の言葉に耳を傾けていた。

「だが、我々はすでに死んだ身だ。もう失うものは何もない!向こうの兵力はたったの三人だ!奴等を住宅街へおびき出し、白兵戦で持って奴等の命を奪い、先に行った者達への鎮魂に当てる!」

「「オォー!!」」

「恐れるな!全ては、我等の手の中にある!」


薄暗かった砂漠地帯は、夜に変わり、三日月の光が兵士達を薄気味悪く照らしていた。

二人一組で行動する兵士達は、住宅街を捜索し、敵を探し続けた。

「くそっ・・・いないな」

痺れを切らし一人の兵士が声を洩らす。

だが、もう一人がアイコンタクトを取り、細い道に置かれた木箱に腰掛ける一人の男を捕えた。

『大尉に報告を』

無線兵が本部に連絡を取ろうとする中、上から砂利が降ってくる事に気付いた。

銃を構え、上を見上げると住宅街の屋根に大鎌を手に持った女が、三日月を後ろにして立っていた。

「・・・死神か」

「ちょっと違うね。私は吸血鬼バンパイアだ」

女は屋根から飛びおり、二人の兵士に襲いかかった。






『いいか、お前は手を出すな』

『わかった?伊吹もそう言ってんだから、あんたの出番は今回は無しよ』

住宅街に入ってきた後、二人にそう言われ木箱に腰を下ろし、思い悩む三島。

「・・・俺だけ、こんなもんでいいのかよ・・・いい訳ねぇだろ。」

自問自答を続け、そんな中、鎌を持った仙田が三島の元にやって来た。

「何悩んでんのよ。あんたらしくない」

鎌や仙田の服には赤い血が付着していた

「お前・・・いや、なんでもない」

「言っておくけど、私が今回何もしなくていいって言ったのは、あんたのためじゃないわよ。人間相手なら絶対にあんたは気後れする。間違いなく足手まといになる」

「わかってるよ・・・」


「でも、納得いかないって顔だな」

そう言いながら現れたのは、赤く光る弓を持った伊吹だった。

「俺達には、人が殺せるのに、お前は虫すら殺すのに躊躇している。」

伊吹は、赤い弓の弦を引き、弦を放した。ピンと言う音が鳴り、弓からは炎の矢が飛び出し遠くにいた兵士の一人にあたった。

まるで、SF映画のようにその弓を喰らった兵士は倒れ、体が燃え始める。

「三島、お前にこんな事が出来るのか?」

伊吹の問いに応える事が出来ず、ただ黙りこむ三島。

「ここに集まり始めてるわね」

仙田がそう言って「ひとまず、あの家の中」と言うと三島の肩を掴み家の中に入って行った。


「敵は、正面から三人、屋根から狙撃しようとしている敵が二人・・・私が正面のをやるわ。屋根にいるのを伊吹がやって」

「お前に指図されるのは少々腹が立つが、まぁいいだろ」

「ちゃんと殺さなかったら、私があんたを殺すから」

「へぃへぃ」

伊吹は建物内から弓を引き、屋根でころ合いを測る兵士に狙いを定める。

仙田は、大鎌を構え建物から飛び出し、建物に向かって射撃をしようとする兵士達に飛びかかって行った。

鎌を一人の兵士に向かって投げ、胸に突き刺さった兵士に怯み、兵士は一瞬遅れを取ってしまった。

倒れた兵士から鎌を抜き取ると、白兵戦に持ち込もうとする兵士達は、銃で仙田を刺そうとするが、仙田は一瞬にして姿を消し、次に現れた場所は、一人の兵士の後ろに現れた。

後ろに現れた事に気付かず、辺りを見渡す兵士の胸から鎌が飛び出し、正面にいる兵士は残り一人となった。

伊吹は、弓を構え屋上にいる兵士の人数を確認する。

全てを確認し終え弦を放すと、人数分の矢が飛び出し、屋根にいた兵士達は全て燃え上がった。

仙田も顔に無数の傷跡がある兵士をちょうど倒し終えた。

建物内に腰をおろしていた三島は、何か物音がした事に気付き刀を構え、建物の奥へと入って行った。

部屋の中は薄暗く、目を凝らしながら進んでいくと、曲がり角で待ち構えていた兵士が、シザーナイフを構えて三島に襲いかかって来た。

「くそっ!」

突きだされるナイフを避けながら、右手は刀を抜こうとするが仙田に言われたとおり、一瞬気後れしてしまった。

チャンスと思った兵士は、三島に飛びかかる。

「チキショウ!舐めんなよ」

瞬時に三島は刀を抜き、兵士の下腹部から肩にかけて切り上げると、兵士に背を向けて素早く刀を鞘に戻した。

三島の背中には兵士の生温かい血が降り注ぎ、ドサリと兵士が倒れる音が耳に入ってきた。


「元は?」

「あのヤロ・・・どこ行きやがった」

建物内に戻って来た仙田と伊吹が三島を探すが、建物の奥から足音が聞こえ目をやると、体中を血に染めた三島が来た事に驚いた。

「三島・・・お前、どうした?」

「元・・・」

「別に・・・何でもないさ」

顔についた血を拭いながら三島はそう言った。








「まさか『兵士』も人間として・・いや侍や忍びですらいるんだから、少し予想はしていたけどさ・・」

二人分の料理を作る中、三島は耳の生えた仙田に話しかけるが、仙田はただ黙っているだけだった。

「なぁ仙田。返事ぐらいしてくれよ・・・淋しいじゃん、独り言喋ってる変な人に見られんじゃん」

「どうして、何もしなくていいって言ったのに、人を殺したの?」

「・・・・じゃぁ、お前は何で俺に何もしなくていいと言った?」

「それは、さっきも言ったけど足手まといに・・」

「違うね。お前は俺に人を殺させたくなかったんじゃない。自分には、まだ良心が残っていると思いたかったんだ。」

「・・・っ!違う!私は・・」

「どこが違う!俺は鬼を殺した時から・・・もうこっちの世界に全部浸かっちまってるんだよ!」

「浸かってなんかなかった!元は、まだ戻る事が出来た!・・・それなのに・・もぅ戻れないじゃない!」

「いいんだよ。俺は決めたんだ」

『決めたんだ』それは一体何を決めたのか、その言葉を先に予想してしまった仙田は「ヤダ・・やめてよ」と小さく呟く。

「・・このゲーム、俺が優勝する」

「違う!元っ、それはあんたの意思じゃない。尾形って奴に翻弄されてるのよ!」

「・・・お前だって最初に言ってただろ。最終的に俺達は、争う事になる。感情移入したのはどうやらお前の方だったらしいな。」

その言葉に仙田は言葉がつまり、頭を掻き始めた。

「・・・オッケ、わかった。私もあんたの意思を尊重するわ・・・もう何も言わない。好きにするがいいわ」

仙田はそう言うと猫から抜け出して姿を消した。二人分作っていた料理に手をつけずに寝てしまった三島。

温かかった料理も次の日になれば、完全に冷めきっていた。





「で?気まずくなって、こっちに来たの?」

『違うわよ。もぅあんな奴知らない』

病院で仙田は独り言をし始め、ここが個室で本当に良かったと改めて思った。

「駄目だよ。それじゃ三島君、一人になっちゃう」

『いいのよ別に、あいつが追い出すような事言ってきたんだから』

「そうだけど・・・三島君、優勝するとか絶対に思ってないよきっと」

『そんな事ない、あの時の顔は本気で言ってた』

「三島君は・・・美野の話を聞いて思ったんだけど、なんでも一人で背負い込んでみんなを突き離したりする人柄なんだよ」

『そんなの自業自得よ』

「でも、誰かが傷ついたら必ず助けてくれる。・・・偽善者とかそんなんじゃなくて、なんか言い表せないような人間なんだよ」

『人間じゃない。あいつは、忍びよ。化け物なのよ』

「そうだけど、ちゃんとした人間よ。・・・三島君を戦わせたくなかったのは、三島君を本当の化け物にさせたくなかったからじゃないの?」

『それは・・・そうかもしれないけど、あいつはそれを裏切った。』

「裏切ったんじゃいよ。三島君は、その伊吹って人とあなただけを化け物なんかにさせたくなかった。でも、解決方法がなかった。だから、三島君は自分も化け物になる事を決めた」

『・・・・・・・・』

「一人で背負い込ませないために三島君は、化け物になった。でも、私から言わせれば三島君は、今でも立派な人間だよ。」





三島が目を覚ますと冷めきった二人分の料理のみが、目に入りため息を漏らす。

「何ため息なんてしてんのよ。」

誰もいないはずの部屋で誰かに声をかけられ、辺りを見渡すと子猫の上に耳を生やし、尻尾を揺らす仙田が立っていた。

「あり?・・・なんで?」

まだ意識のはっきりしない三島が頭を掻きながらそう呟く。

「勘違いすんなよ。別にここにいればあんたの寝首をかけると思ってここにいるだけだから。それに病院の飯はもう飽きた。・・・昨日からなにも食べてないの。お腹すいた」

「ん・・・ちょっと待ってろ。今、温めなおすから」

そう言って二人分の飯をレンジで温めながら、意識が未だに朦朧とする三島。

レンジがチンっと音を鳴らし、三島のようやく意識を取り戻した。

「仙田!おまっ・・・なんでここにいるんだ!」

さっきの話をまるで聞いてなかった三島に子猫は爪を立てて顔を思いっきり引っ掻いた。





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