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第三十四話 昔話7

空はどんよりと曇り、教室の窓には激しい雨により雨粒がぶつかり、音を立てている。

そして教室は、そんな雨粒なんかよりも窓から見渡す事の出来る校門の前に数台のパトカーが止まっている事で授業中だと言うのに盛り上がっていた。

「おぃおぃ、誰かのお迎えが来たぞ〜」

「誰だよ。問題起こしたの〜」

「やっべ、俺かもしんねぇ」

何も知らずに浮かれる生徒たちだが、三島のクラスに二人の刑事が入って来た事で教室は一気に静まり返った。

刑事は先生達の制止を無理に振り切り、三島の目の前に立ち止った。

老いぼれた刑事は、三島を睨みつけその睨みを跳ね返すかのように三島も若菜を睨みつける。

「何の用だよ。今、授業中だぞ・・・刑事だったら何やっても、いいってぇのかよ。おぃ」

「遂に死人まで出しやがって」

若菜の言葉に全員が驚き、三島に目を向ける。そして、三島本人も驚きが隠せず動揺する。

そんな三島を殴り倒す若菜。そして、懐から令状を取り出し、三島の顔になすりつける

「見えるか、三島〜。てめぇの逮捕状だ。ようやく出たんだよ・・・死人出しちゃてめぇも、もぅお終いだな。クソが」

放心状態の三島の手に手錠をつけ、若菜達は形だけ令状を読み上げ、訳も分からないまま三島は引きずられるかのように、教室から連れて行かれた。



「三島ーーー!違うだろ。なんかの間違いなんだろ?・・・なんとか言えよーーっ」

校舎の窓から身を乗り出し、車に乗せられようとする三島に向かって叫んでくる生徒達の声も届かず、三島は素直に乗り込もうとしていた。

「元!」

田村や丸山、部員全員が玄関から出てくる。それを見越していた警察は、三島と田村達の間にバリケードを築き上げ、田村達を通せんぼした。

「三島!乗るなよ!お間はないもしてないだろっ」

「元が何したってんだよ、どけよ!てめぇ等」

無理やり押し込まれ車は走り出し、上の学年の教室からは「二度と学校に来るな!」そんなヤジが飛びだし、上の階にいる一年の教室からそいつ等に向かって投石物が落とされた。





薄暗い留置所の隅でうずくまったまま、動きを見せない三島は、定期的に行われる取り調べにも何も反応を見せず、取り調べをする警官達を困らせていた。

しびれを切らせた警官達は勝手に作った報告書を三島に見せ、これにサインしろと脅迫じみたことをしてくるが、机に出されたペンを握ろうともしなかった。


「・・・お・・おぃ・・・三島元。ちょっといいか?」

留置所で一切飯にも手を付けることがなかった三島。そんな所に若菜の金魚の糞が現れ、状況が一変した。

「おぃ、何か反応したらどうだ?気づいてるんだろ」

「何のようだ・・・お前もあのでっち上げた報告書にサインしろとか言ってくるのか」

「いや・・・あの判断は、正しかった。あれにサインしてたら法廷で面倒なことになっていたからな。・・・そして外では、さらに面倒なことになってるんだ。」

「・・・新たな被害者がでたな」

三島の読みに、井手口は驚き「そうだ」と口を開くのに時間がかかった。

「被害者からの証言もこれまでの被害者が言ってきたことと全く同じ事を言ってきた。・・・つまり」

「俺は犯人じゃない」

「おそらく、そうなるだろう。・・・今、こっちは大忙しさ。若菜さんも対応に追われてる」

「・・・・聞きたいことがある。」

「聞くだけならな」

「お前はどうして、俺が犯人だと思ったんだ?・・・犯人のあの発言がどうして俺に関係があるって思ったんだ」

「それは・・・」

「若菜に情報提供したのはお前だってあのくそ爺ぃから聞いてるんだ。・・・言えよ、言っておくが俺はここから出たら、お前ら二人をマジで潰すぞ。」

「・・・・脅迫って事か」

「どう捕らえようと構わねぇよ。・・・お前の対応次第では、どうなるかわかったもんじゃないぞ」

しばらく悩む、井手口。そして、自分の年齢やこれまで努力して積み重ねてきたものが、こんな餓鬼に崩されるのかと思うと心が痛んだ。

「・・・さすが、俺達に尻尾見せなかっただけはあるな。この悪魔め・・・」

「どうかな。悪魔呼ばわりする相手とお前は今から取引するんだぜ。どっちが悪魔だよ」

「取引するって何で決めつけてるんだ?」

「お前は取引をするさ、これまでもそうやって生きてきたんだろ?金魚の糞は糞らしく、くっ付いて行けばいいんだから」

「そこまで言うのかよ・・・」

「取引は?」

「するさ・・・お前一人に人生狂わされたくないからな」

「そうやって先輩をあっさり切り捨てれるのも、すごいよな」

「別に、俺は先輩や後輩と交友関係を築いたことがないからな・・・で、俺の情報源なんだが」




警察署の裏口で自分の持ち物の確認をし、サインをすますと出口へと向かっていく三島

そんな三島をじっとにらみ続ける若菜。そんな老いぼれた刑事には目もくれず、横に立つ金魚の糞に声をかけた。

「なぁ、お前も馬鹿だよな」

「・・・何がだ?」

「悪魔との契約がうまくいくとでも思っていたのか?・・・俺の苦痛は、そんな些細な情報だけじゃ、癒すことはできないんだよ。・・お前ら全員覚悟しとけよ」

若菜は、三島と井手口の間に何があったのか知らないので、井手口の方へと目をやる。

井手口は、こんな周りに人がいるようなところで取引をしたことと、その取引が失敗に終わった事に体を震わせながら怒りを露わにしていた。

こんな餓鬼に・・・ただの餓鬼に俺の今まで積み重ねてきた物が崩される。作り上げてきた信用も何もかも。。。

「貴様・・・」

「おぃ、井手口」

落ち着かせようと若菜が、井手口の肩に手を乗せるがそれを乱暴に振り払い、三島に殴りかかった。

三島は何も抵抗することなく倒れ、その上に井手口は跨り何度も声を荒げながら殴り続けた。

その瞬間、警察署の外から無数のフラッシュが焚かれ、怒りに我を忘れた井手口はそれに気づくが、殴ることをやめようとはしなかった。

数名の刑事達に抑えられ、井手口は奥へと連れてかれた。


殴られた所を抑え痛そうな素振りを見せながら、父親と田村の親父さんが待つところへと向かい、車に乗せられると、カメラが車の周りにへばり付きなかなか思うように進まなかった。

「どうも、すみませんでした」

車がようやくスムーズに動き出した頃、ようやく俯いたまま三島は口を開いた。

父親は、運転に集中し後部座席に座る親父さんが力強く三島の頭を無言で撫でてきた。

その時、ようやく三島は解放されたことを実感した。そう考えると涙がこぼれ始め、久しぶりに人前で大泣きをした。





雲行きの怪しかった天気は、次第に雨が降り始め今では、大粒の雨が音を立てながら降り注いでいた。

田村の親父さんの家に厄介になる中、落ち着きを取り戻した三島は「・・・ちょっと出かけてくる」そう言うと外へと出て行った。

『俺の情報源なんだが・・・実は、高校時代の同級生なんだ。』

暗い夜道、誰も通らない道を一人、歩く三島。

『あの事件が起き始めた頃、町中で情報収集をしていたら偶然、そいつに出くわしたんだ。出くわしたと言っても、向こうが声をかけてくれなかったら、全然気づかないくらい変わってて。』

整備もされていない道を歩くとリズムよく砂利を踏む音だけが三島の耳に入ってくる。

『俺よりも、いい大学に進学したって聞いてたけど、話を聞いていると、どうやら職を転々として過ごしているみたいなことを言っていた。』

足音は、次第に早く鳴り始め、歩幅も広くなっていった。

『・・・で、本題なんだが、そいつにダメ元で事件のことについて話して、心当たりがあるか聞いてみたんだ。そして、お前の葬儀場での事件を聞いた。』

歩いていたはずが、今では全力疾走に変わり、足音と三島の息づかいが聞こえ始める。

『その時のそいつの話し方が、やけに面白そうに話をしてて、・・今思えばこの時に疑っているべきだった。あいつは、高校の時からそうだった。いつも一人で、誰かと話しているかと思えば、相手を見下したような口調で話してたんだ。』

畑が広がる景色は、住宅街に変わりそれでも三島は、スピードを落とすことはなかった。

『俺達は、まだ動けない。まだ証拠が不十分なんだ・・・それで、お前も毒島達を使ってそいつの情報を集めてほしい・・・そいつの名前は』






「・・・ったく、どいつもこいつも馬鹿ばっかだ。」

小さな部屋で数少ない荷物を大きな鞄に詰めながら愚痴を呟く

部屋の明かりもつけずに行う作業は、捗らず壁一面に張られた物の回収にまでは手が回らなく、諦めて部屋を出ると部屋の外には、雨にぬれた三島が立っていた。

一番会いたくなかった人物が、目の前にいる事に驚くが、いつも通りを装おうとして笑って見せるが、その笑みは明らかに歪んでいた。

「よ、よぉ・・・結構早く出れたんだな」

「まぁな・・今日は仕事休みなのか?」

「あぁ、仕事な・・・辞めたんだ。別の町に行こうと思ってな」

「そっか・・・」

「それにしてもどうしたんだ。こんな時間に・・・」

「いや、ちょっと確かめにな・・上がるぞ」

玄関で通せんぼする男を横にどかし、三島は土足のまま部屋へと入ろうとしてくる。

「だぁ!待て待て、今かなり部屋が散らかってんだ。だから、ちょっと・・おぃ人の話聞けって!」

部屋の奥へと入ろうとする三島を止めようとするが、全く止める事も出来ず、三島は部屋の壁一面に張られた物を目にした。

部屋一面に飾られたある物とは、三島に関する写真や記事、《俺は三島元》《俺を殺してみろ》と直筆で書かれた文字だった。

雨脚の強かった天候は、雷も光り始め、ある男を睨みつける三島とその三島に目を合わせようとしない塚本の姿を鮮明に映し出した。

「お前がカッパ男だったのか・・・」

「カッパ?・・・何言っている。俺はそんな名前をつけた覚えはねぇよ」

塚本は、髪を乱暴に掻き始め、手で顔を蔽い隠す。

だが、顔で隠しきれなかった口元は笑い始め、体を揺らし始めた。

「俺は・・・元だ。三島元」

「違う。お前は塚本 真だ。・・元じゃない」

まことね・・・そんな馬鹿な両親から貰った名前なんか、捨てたね。下らねぇンだよ、そんな名前も・・・何もかも!」

「だから人の名前を借りて、好き放題暴れたって言うのかよ」

「好き放題暴れた?何言ってる・・・俺はプロデュースをしただけだ・・原石を見たんだ。脂肪が纏わりついた原石を俺は、そいつがいつ化けるかを見たかった。だが、お前は!一体何なんだ!脂肪を剥がしてやったって言うのに、また脂肪を蓄えやがって!」

「・・・餓鬼だな」

「何?」

「自分の思い通りに行かないから、その玩具を捨てる餓鬼と同じだ」

「・・確かに、そうだな。・・・だが、その餓鬼は玩具から電池を抜く事を忘れていた」

塚本は、下に転がった鞄を乱暴に開け、鞄の中から鉤爪を取り出し両腕にはめ込んだ。

「・・・今電池を抜いてやるよ。三島元」







しばらく時間が流れ、三島は何事もなかったかのように扉を開け、塚本の住むアパートを後にした。

部屋の中央では、塚本が大の字に仰向けに倒れ、体中に傷を作り息を荒げていた。

息を荒げて、まだ意識がはっきりとしている事に塚本は笑い始めた。

「カッカカカカ・・・結局、あいつも電池を抜かなかったな・・馬鹿め。・・見てろよ三島・・・俺が本物の三島元だって事を証明してやる」

鉤爪を床に突き刺し、立ち上がると塚本はよろつきながら、部屋を出ようとしていた。

「ころ・・殺して・・殺してやる。・・・名前名乗りまくって、全員殺してやる。・・・この街に収まる事が出来なくしてやる」

そう呟きながら、塚本は壁を支えにし玄関へと向かい歩き始めた。


その頃、井手口は三島とした取引の事を若菜に伝え終え、塚本の身柄を確保しようと動き始めていた。

「三島が動く前に奴を抑えるぞ!」

若菜の声に刑事達は低い声で応え、慌ただしく動きはじめる。


ぎこちない足取りで、玄関までやって来た塚本だが、扉に手をかける前に扉が独りでに開き、顔を上げた。

壁に手をかけながら立つ塚本の前に、仮面をつけた男が立っていた。

「・・・お前、電池を抜きに来たのか・・・」

塚本の問いかけには応じず、仮面男は両手に付けた鉤爪を見て手に持っていた布のかかった細長い棒のような物から布を取った。

「てめぇか・・・先輩から牙を抜き取ったのは」

仮面の下から怒りの籠った声を出し、塚本は壁に張られた三島に関する情報を見た。

「お前・・・・ねじ」

塚本が全てを言い終える前に仮面男は、刀の柄の部分で塚本の顎を突いて砕いた。

部屋の奥へと押し戻された塚本を追って、仮面男は刀を抜き部屋の奥へと入って行った。

部屋の扉は、今度こそ独りでに閉まり、部屋の奥からは無抵抗な塚本の悲鳴が響き渡った。


部屋の在りかを突きとめた若菜達が声を荒げて部屋に押し入ったのは塚本が悲鳴を上げるのをやめ、しばらく時間がたった後だった。





新聞やテレビでは、高校生を誤認逮捕したニュースが報じられ、ブラウン管を通して警察のお偉いさん方が誤認逮捕を認め、頭を下げている映像が流れた。

「ざまぁ見ろ」

学生服を身にまとい、学校へと繰り出す三島だが、学校に到着した途端、事件が待っていた。

担任の先生に呼び出され、校長室へと連行される三島。

「すまん・・・俺だけでは、どうする事も出来なかった」

校長室に入る前にそう言われ、何の事なのか分からず部屋に入った三島。

そして、担任の放った言葉の意味をすぐに知る事になった。

へそ曲がりの校長は、ニュースになった事に対しかなりご立腹のようだった。

「しかし、校長!彼は、単なる被害者です!」

担任の言葉も虚しく、校長は三島にある一言を伝えた。


教室へ戻ると、クラスメイトは三島に声をかけてくる。

「おぅ、元。なんだもしかして、取材とかの打ち合わせか?」

「テレビとか雑誌見たかよ。刑事の何人か地方に飛ばされたらしいじゃん。すげーなお前」

「で?何だったんだよ。校長に呼ばれたりしてさ」


「いや、・・・ちょっとな」

答えを待つ生徒たちだが、三島はその輪を抜けて自分の席へと向かう。

「何だよ。あの地獄から解放されたんだぜ。ちょっとは嬉しそうな顔すれよ」

「いや、嬉しいには嬉しいんだけど・・・」

「おぃおぃ、なにもしかして照れ隠しか?可愛いねぇ全く」

周りからは大きな笑い声が出始め、三島は鞄を取り出しながら軽く笑って見せる。

「なんだ?荷物まとめて?帰るのか?・・・もしかして取材とか!」

「いや、そんなんじゃねぇよ・・・」

明らかに元気のない声に疑問を持ち始める。

そして、丸山が「どうした?」と三島の様子を窺うように声をかけてくるが、三島はそれに応える事も出来ずに教室から出て行った。


三島が出て行くのと入れ違いに担任が、教室に入ってきてHRをし始めようとする。

だが、それに納得することが出来ず生徒達は騒ぎだし、担任から三島が退学になった事を伝えられた。







何もする事なく部屋でじっとする三島。

携帯には、何件ものメールや着信が残り、その一切に応える事もなく携帯の電池が切れた。

「一体何やってたんだろうな・・・俺」

終いには、何もすることがないため自問自答をし始める。

そうしていくと自分の心の中で考えてもなかった事を答え始めた。


何故、あの戦いを辞めなかったのか、それは戦いをやってみてかなり楽しかったからだ。

道場では禁止された技でも、あのリングの上なら相手がどんなに痛めつけられようが、審判が止めに入るか、相手が動かなくなるまでやる事が出来る。

相手にどうしてあんな怪我までさせたか・・・それは、別の相手と戦いたかったから。一度戦った相手ともう一度、対戦する気なんてないから。

「違う」

違くない。仮面をつけて暴れたのもそうだ。カッパ野郎なんてどうでもいい。ただリングの上が、つまらなくなった。だから、表の世界に出た。

そして辞めたいと言い始めたのは、どちらにも飽きたからだ。

「違う!・・・くそっ、ちげぇって言ってんだろ!」


何かに当たろうにもこの部屋には何もない、相手がいればそいつを倒せば済む事だが、相手すらいない。

相手は自分の心の中にいるからだ。

つまり収めるためには、自分を傷つけるしか方法がなかった。

頭を抱えながら悶える三島の目に入った物は洗面台に置かれた剃刀だった。

右手に剃刀を握ると、自分の左腕を傷つけ始めた。

「だぁあ!くそっ痛いな、この野郎!」

下の階で暴れ始めた三島に気付き、田村が様子を見にくるが、左腕が真っ赤に染め上がった三島を見て、それでもなお、自分の腕を傷つけようとする三島を止めに入った。

「元!何やってるの!・・・止めなって!げんっ!」





落ち着きを取り戻した三島は、俯いたままベットに腰掛け、その横に田村も腰を下ろした。

「ったく、何やってんのよ。馬鹿なんじゃない?」

「あぁ・・・馬鹿だよな」

「こんな事繰り返してたら、いつか死ぬわよ」

「・・・いいよ別に・・もう」

「そんな事言わないでよ・・・」

俯く三島よりも小さくなる田村を見て「悪い・・」と小さく呟いた。

会話もなくだたベットに座ったまま動かない二人だが、先に口を開いたのは三島だった。

「俺があんな状態の時に、お前もぅ来るなよ・・・」

「・・・なんで?」

「なんでって、マジ何するかわかんねぇから・・・」

俯いたまま田村を横目で見ていると田村と目が合い、思わず目をそらした。

「・・・いいよ」

「あ?」

「別にいいよ。私、何回でも止めに入るから・・・その時に何されても私の責任だもん。それで元の気が収まるなら別に・・」

三島に近づこうとする田村を三島は手で押し返した。

「もういい、止めろ・・・マジでそうなっちまうから」

「だから別に・・」

「お前な!中学の時の事、覚えてないって言うのかよ」

「それが何よ!それで私が男性恐怖症になったとでも言いたいの?」

「なってないって言うのか?」

「なってない!」

そう言う田村の顔の前で、三島は手を叩き大きな音をたてた。

その行動に田村は怯え始め、両手で体を抱え込み、体をふるわせ始めた。

「だから言っただろ。・・・もぅ帰れ、マジで来るなよ。次来たら、どうなってるかわかんねぇぞ・・」

再び俯く三島を見て、田村も腰を上げ玄関へと向かった。

「それでも・・・私、来るから。」

その言葉を聞き三島は田村を睨みつけた。

「元は、そんな事しないって信じてるから」

そう言って田村は、部屋から出て行った。






『最近体の調子はどうだ?』

「いや、特に問題はないよ・・・それより、母さんの調子は?」

『あぁ・・こっちもそれほど問題はない。港の方でな、養殖業の仕事に就かせてもらって・・まぁ初めての体験だからな・・・色々と学ばせてもらってるよ』

親父との会話はそう長くも続かず、高校を退学された事を伝えて電話は終了した。

繁華街の方へは近づく事も出来ないし、なにもないこの街では日中はただ意味もなく住宅街を散歩するだけの毎日を送っていた。

その途中、小さな店で小さなイベントをやっていて、熱い季節だと言うのに黒いコートを羽織った男が火の玉を自在に操っていたが、そんなイベントには目もくれず店の中に入り食材を買って家へと戻った。

そして、家へと戻るとまた発病を繰り返し、そのたんびに田村は三島を止めに部屋へと本当に入ってきた。

「何でくるんだよ・・」

「私が勝手にしてる事だもん。元には関係ない」

自分の意識を取り戻して毎回のごとく同じ質問を繰り返し、毎回同じ回答をしてくる。




今日も一日、元気に散歩に行こうと思い玄関へと繰り出すとアパートの前に一台のバイクが大きなエンジン音を立てながら止まっていた。

バイクにまたがるフルフェイスのヘルメットとライダースーツを身にまとった男は、ヘルメット越しにこっちを見ている気がした。

だが、残念ながら三島の知り合いに走り屋に転身した奴はいないと思い、彼の前を通り過ぎようとすると、ライダーマンは三島の肩を掴んで止めた。

「な、何すか?」

「よぉ、三島・・・久しぶりだな」

ライダーはそう言いながらフェイス部分を上げ、顔が見えるようにしてきた。

その顔を見て、驚く三島を見て笑うライダー

「せ、先生!何してんすか?・・・え?学校は?」

「これも学校の仕事の一環でな・・・・乗れ」

小さなヘルメットを三島に渡し、後ろの席をバンバン叩く先生に従い後ろに跨ると、急発進をして、その勢いは前輪が浮くほどのスピードだった。

「ちょ・・・先生!」

「ちょっと急ぎの用だからな・・・しっかり掴まってろよ!」

「ここ住宅街っすよ!誰か飛び出してきたらどうするんスか!」

「大丈夫っ!何とかなる!」

「ぜってぇ、ならねぇぇぇぇーーー・・・」

三島の叫び声と巨大なエンジン音は、住宅街を木霊し消えて行った。







住宅街を抜け、二人乗りバイクは国道を暴走し車を何台も抜き去っていく。

「ったく、一週間しか経ってないってのに一年ぶりにあった感じがするな三島」

「いえ、俺は別にそんな事は思っていません」

「おぃおぃ、そういう時は便乗するのが、情ってもんだろ」

「そう言うキャラでもないんで・・・」

「そうか?お前は何かと情に熱い奴だと思ってたんだが・・・」

「そんな事ないですよ」

「いや、そうでもないさ・・・・そうでなきゃ、みんなあんな事はしねぇよ」

「・・・・は?」

「言っただろ、これも職務の一環だ。校長に頼まれて、お前を呼びに来たんだ」

「・・・・?」

「まぁ、それは学校に着いたらわかるだろうよ。それよりも今は俺の昔話に付き合え」

「はぁ・・・」

「三島。・・・お前は親友を殺したのは自分のせいだと思っているだろ」

「それ以外にだれがいるって言うんですか!」

「まぁ落ち着け。・・・俺も一人、親友を俺のせいで亡くしてるんだ・・・」

「えっ・・・」

「走り屋をやってた頃な・・・・いつも、このバイクで後ろに相棒を乗せて走ってたんだ。ある日、俺は両親とマジ喧嘩してムシャクシャしてた。いつもよりスピード出ていたのかも知れない。相棒も俺の事を心配してきた。そんな相棒の気持ちも踏みにじって俺はさらにスピードを上げてしまったんだ。スピードに負けて前輪を持ってかれた事に気付いた時にはもう遅かった。」

バイクは、赤信号で止まり三島は先生の昔話に聞き入っていた。

「病院で目を覚ました時、両親が横で心配そうにこっちを見ていて、目が合う両親の目から涙が溢れてきた。そんな両親の姿を見て俺は本当にとんでもない事をしてしまった・・・そう思った。・・・相棒がその事故で亡くなった事を聞いたのは両親の前で大声で泣いた次の日だった。・・・俺は自分の事を責めた。なんで、相棒が気にかけていたのに無視するような態度をを取ったのか。なんで、意識を取り戻したすぐ後に相棒の事を気にかけてやることが出来なかったのか・・親友の家族に頭を何度下げても、墓石の前で何度謝っても、この気持ちから脱する事は出来なかった。・・・何が言いたいかわかるか?」

「はぁ・・あの・・」

「・・・今のお前は、俺にそっくりなんだ。俺もそれで何度も暴走した・・・けどな、それを救ってくれたのは、仲間だった。一人で背負い込もうとするな、お前にだったたくさん仲間がいるだろ」

「いや、でも・・・みんなに心配をかけちまう」

「けどな、一人で背負い込んでる奴を見て心配しない奴なんていると思ったか?・・・今、お前の仲間はその迷惑を担いで行動を起こしてる。・・後はお前がそれに応えてやるかどうかの瀬戸際なんだよ」


バイクは学校に到着し、三島はグラウンドに座り込むクラスのみんなや部活の仲間達を見て驚いた。

「みんな、お前の退学を取り消そうとずっと座りこんでる。お前が退学になった次の日、校長に全員が退学願を突きだしたんだ。さすがに一クラス分の退学願なんて、受理なんてできないからな・・それを校長が断ってからずっとあの調子だ。」

「な、なんで・・・」

三島はバイクから飛び降り、グラウンドへ駆けて行った。



「なぁ報道の奴等に電話とかしたらいいんじゃね?大事になったら、それで元だって気付くぜ」

「おぉ、確かに・・おぃ誰かテレビ局に電話しろって」

「自分でやれよ、馬ー鹿」

「誰が馬鹿じゃ、丸ハゲ!」

「ハゲじゃねぇ坊主だ!バリー・ボンズと呼べ」

グラウンドでみんな座り込みを続ける中、三島が来た事に誰かが気付き「元だ!」と声を上げた。

「お前等、何やってんだ!」

「よぉ、元。遅かったじゃねぇか」

「お前らな・・・退学届なんて今すぐ破り捨てろ。」

「あぁ破り捨てるさ。校長が元の退学を取り消したらな」

「校長が、お前等全員の退学届を受理したらどうするつもりなんだ!」

「受理なんかしねぇよ。授業料とかで食ってる学校が俺たち全員を蹴ったら生きていけないからな」

「けどよ・・・」

「元!お前は何でもかんでも、一人で背負い込もうとしすぎなんだよ!・・・俺達にも少しは分けろ。・・・友達ってのは、そう言うためにいるんじゃないのか?みんなでワイワイ楽しんで、みんなで泣く所は泣いて、一人が苦しんでる時はみんなで苦しむためにいるんだと俺達は思ってる。そうそとしてくれたのは、元、お前だ。」

グラウンド上空には、テレビ番組のヘリが面白がり飛び回り、これ以上の厄介事は勘弁と校長はようやく、グラウンドに座り込みを続ける集団の代表者と三島を校長室へと呼び出し、三島の退学処分は、取り消しになった。

校長室の窓から外で報告を待つ集団に、目標が達成された事を伝えると、待ってましたと言わんばかりの歓声と大量の生徒鞄が上へと放り投げだされた。



「どぉ?退学処分が取り消された感想は?」

「ん・・・まぁ、悪くないかな」

学生服を着て道を歩いている途中、田村に掴まった三島は照れを隠しながら久しぶりの学校へと向かって行った。








最後まで読んでいただきありがとうございます。

昔話もこれで終了します。というか、これ以上、無理!

えっ?何、この終わり方!という方・・・申し訳ございません!

これからも、暖かい目で見守ってください・・

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