第三十二話 昔話5
「格闘スタイルが、変わるなんてよくある事だ。体重の変化や使う武器でな」
「でも、そんな事、今までなかったよ」
「考えすぎだよ。・・・それに元は、あんな事が起きたんだ。格闘スタイルを変えたい気持ちもわからんでもないだろ」
「でも・・・剛にそっくりなの。そんなこと考えられる?」
「さぁな、それは元に聞かない事にはわからんだろ・・・・まったく、放課後に呼び出してくるから、何事かと思ったよ。俺はてっきり・・あぁいいや」
「丸刈り君・・・」
「だから丸山だって・・」
先ほどあった出来事を部員の一人に相談するも、まったく進展はないまま・・だが、その間にも被害者は増えていく一方だった。
犯人を三島と決めつけ集団で、街を徘徊する岬高の生徒達。そして、仲間が被害にあった奴等もまた、三島と言う人物を探し繁華街をうろつく。
舟高の学生服を着ている人達を片っ端から、殴り倒していく暴れ者までが現れていた。
「こりゃ、さすがにやばいっしょ・・」
道場の前に呼び出された部員と、呼び出した丸刈り君が話を始める。
「だからって、俺達が動く意味があるのか、丸刈り」
「だからよ。俺の名前は・・あぁいいや。俺達で犯人捕まえンだよ。・・・これじゃ自体が収まらない」
「でもよ・・・元じゃないって確証がないだろ」
「お前な・・一体何年、あいつとつるんできた。こんな事できるほど、あいつの肝は座っちゃいねぇよ。」
「それに・・・俺達は秋の大会が控えてるんだ。これ以上、問題起こしたら出場すらできなくなっちまうぞ」
「強制はしない。・・俺は今日から始める。だから・・」
「そうじゃない!・・・お前一人だけでも、問題起こせば周りに被害が出る・・わかってんだろそんぐらい、学習すれよ」
「俺も部活を辞めた。・・・さっき田村に渡してきた。」
丸刈りの発言に驚き、一人の部員が丸刈りの胸倉を掴み上げた。
「てめっ、なんで相談しなかった!」
「悪い・・・なんて言えばいいのか、わからなかった」
その言葉に、胸倉を掴んでいた生徒は、丸刈り君を殴り飛ばした。
倒れる丸刈りに再び襲いかかろうとする奴を周りで見ていた部員達が止めに入った。
落ち着きを取り戻した生徒は、取り押さえている奴等の手を乱暴に振り払った。
「元もそうだった。俺達に何の相談もなしに、勝手に辞めやがって・・・一体何のための仲間なのかわかったもんじゃねぇよ。」
そう言って一人が立ち去ると、芋づる式で丸刈りの前から部員達は立ち去って行った。
ガマガエルの店を出て、誰もいない道を歩いていると「よぉ、三島」そう言って三島を呼び止め、若菜と井手口が現れた。
「最近、お前のせいで舟高の生徒たちにも被害者が出てきているな」
「・・・また、親父の店に顔を出したらしいな。いい加減やめてくれ、営業妨害だ。」
若菜は、咥えたタバコに火をつけていた。
「お前が暴走するのをやめて、自白する気になったらな・・・お袋さん、体の調子が悪いらしいな。今でも通院してるとか」
「快方に向かってたんだ。お前達が来るから逆に悪化した。」
「おぃおぃ、逆恨みか?誰のせいだと思っている。元、お前のせいだろ」
そう言いながら、若菜は三島の顔を掴んだ。
「その顔の痣はどうした。・・・今回の獲物にでも噛みつかれたか?」
「関係無いだろ。・・・放せ、ボケ」
若菜の手を振り払うと、若菜の態度が急変した。
「おぃ、態度には気をつけろよ。今の時間帯なら、補導することぐらい出来んだよ」
「補導ぐらいが何だ。・・・今から帰宅するってのに、呼び止めてグチグチ言ってくる方が、どうかしてると思うけどな。」
「せいぜい尻尾掴まれないように気をつけれよ」
若菜は、立ち去る三島に向かって大きな声で言った。
暖簾の下ろされた店には、まだ光がともっていて、疑問に思いながら店に入ると田村の親父さんが、カウンターに座っていた。
「親父さん・・・何してるんですか?」
「よぉ、元。邪魔してるぞ」
店の掃除をする父親を横に「ちょっと話をしようや」そう言って三島を捕まえて外へと出ていった。
誰もいない公園のベンチに座り、誰も使う所を見た事がない自販機から適当に飲み物を買ってきた親父さんが、三島に一本渡すと横に座って来た。
「すみません、最近道場に顔出せなくて・・・」
「俺が言いに来たのは、そんな事じゃない。」
「じゃぁ、なんです?」
「元・・・言いたくはないが、俺の門下生、全員がちゃんとした道を歩んでいる訳じゃないって事は知ってるよな。」
親父さんの言葉に、田村の事件を思い出した三島は「えぇ」と短く答えた。
「まともじゃない道を歩んでいるが、ちゃんと家族もいて、普通に生活している奴からお前の話を聞かされた。・・・お前、何やってんだ」
「いえ・・・何も・・」
「安心しろ。お前の親父さんに、その事は言ってない」
「だから、本当の事を言ってくれって訳ですか?」
三島の掴んでいたスチール缶が音を立てて、握りつぶされ、俯く三島。
「あぁ・・・」
「親父さん、ズルイっすよ・・・それって、脅しじゃないですか。」
「そう捕えられても仕方ないかもしれないな・・・」
缶コーヒーを一気に飲み干した親父さんは、椅子から立ち上がり、なぜか準備運動を始める。
「元・・・お前と組手をやるのって、何か月ぶりかな?」
「親父さん?・・・」
公園の中心で一人演舞をし始める親父さん。拳の突き出し一つ一つに力が入り、拳の周りの空気が揺れ動く。
「来い、三島・・・お前がどれほど腕を上げたのか見てやる」
椅子に座っていた三島は、立ち上がる動作もなしに親父さんに向かって行った。
向かっている三島に目がけ、突き出される拳を避けて、懐に忍び込み大きな脇腹に三島の拳が入った。
「まだまだぁ!」
親父さんは、周りを動き回る三島を捕えようと手を伸ばす。
その伸びた手を、体全体で絡め捕り、関節をかける三島だが、親父さんの剛力に対し、うまく関節がかけれない。
そうしているうちに、親父さんの空いたもう一方の手は、三島の腹に見事な掌手を喰らわせる。
重い一撃をくらった三島は、一度距離を取り腹を摩る。
「イッテ・・」
「どうした・・・これで終わりか?」
「まだまだっスヨ!」
一気に駆けだし、迎え撃つ親父さんの重い攻撃を避けていく。
さっきのお返しと言わんばかりに、一瞬で親父さんの下に潜り、掌手を繰り出す。
親父さんは内側に響く攻撃に少し声を洩らすが、その声に気をぬいた三島の胸倉をしっかりと掴んだ。
「しまっ・・」
しまった。そんな短い言葉を言う前に、親父さんは片手で三島を持ち上げると、地面に叩きつけた。
受け身を取れなかった三島は、一瞬息が出来なくなりその隙に、親父さんは上から拳を振り下ろしてきた。
振り下ろされた大きな拳は、三島の鼻の前で止まり「よし、一本」そう言って親父さんは拳を下ろした。
「あそこに剛がいたんですよ・・・・」
「あぁ?」
息を切らせた親父さんは、椅子に座り息を整えようとする中、地面に倒れたまま動かない三島が切り出してきた。
「あいつ・・・よく繁華街の方に用事があるって言って、俺達と別れてたんです」
「剛が?・・・そんな話は聞いてないが?」
「でも、間違いないです。・・・根拠はないですけど・・」
「お前の勘か?」
「あいつが何か隠し事をしてたのは、確かです。・・俺は、あいつがあそこで何をしていたのか、知りたいんです。」
「それが一体何なのか・・・それがわかるまで、止めるつもりなないんだな?」
「はい・・・」
「そうか・・・なら、もぅ何も言わない。だがな、この街で起きている事は間違いなく、お前が原因だ。それを忘れるな・・」
「最近、顔を出さなくなってきたな・・・」
ガマさんが、黒塗りのソファーを新しい、ゴールデンのソファーに取り換える作業を見守る中、横に立つ塚本に話しかけてくる。
「えぇ・・この前は、熊に襲われて腹が痛いから来れないって連絡がありましたけど・・」
「その熊って言うのも、微妙だけどな・・・熊って、この街で見たことねぇよ」
「何かの例えですかね・・・」
「それじゃ、例えられる本人が可哀想だろ。・・・俺を見てガマガエルだとか言ってる奴もいるらしいからな」
その言葉に、思わず顔が引きつる塚本。
その固まった表情を見逃さなかったガマさん。
「なんだ。お前も、そう思っているのか?」
「いえ、とんでもない」
「早く来ないかな〜?無敗の王者〜」
そう言ってガマさんは、設置し終わったソファーにダイブする。
「くそっ・・・やっぱ如意棒なきゃ本気出せないな・・・おぃ大丈夫か、お前等」
舟高狩りにあっていた生徒達を助けた丸刈り君。
結局、協力してくれる人は誰もいなくて、一人でこんな事を繰り返していた。
「こんな事やっても、進展がないな・・どうしたらいいんだ・・」
独り言を呟きながら、路地裏を歩き回っていると、またどこかで乱闘が起きているのか、声が壁を反響して聞こえてくる。
声のする方へ向かうと、そこには繁華街のライトを背にして黒い仮面をした男が立っていた。
彼の足元には、呻き声を上げる人達が転がり、仮面の男は彼等に目もくれず一向に動こうとしない。
「・・・お前か、元のまがい物は」
地面に転がる鉄パイプを手に取り構える丸刈り。
だが、そんな丸刈りの態度に全く反応を見せない、仮面男。
「これ以上、俺の仲間の顔に泥塗らせてたまるかぁ!」
狭い路地だと言う事を感じさせない丸刈りの武器捌き。だが、仮面はその攻撃を避けるだけで、手を出そうとはしてこない。
相手にされない事に腹を立て始める丸刈り。
振り下ろした鉄パイプは、地面に当たりそれを蹴り飛ばされてしまった。
「くそっ・・」
丸刈りは、仮面を剥ごうとするが、その前に仮面が動いた。
「伏せろ、丸刈り」
その言葉に一瞬迷いが生じ、その隙に丸刈りの頭に手を載せて上へジャンプする仮面男。
丸刈りめがけて振り下ろされてきた鉤爪を蹴りではじき返した。
黒い雨合羽で身を包んだ男は、仮面男と距離をとった。
「ようやく対面できたな・・・」
仮面の男は、後ろで状況が読み込めない丸刈りを無視して話を進める。
カッパで顔がよく見えないが、カッパの下から見える口元が、ニタリと笑った。
足元に転がる鉄パイプを足で蹴り上げると、そのパイプを手に取り、カッパ男に向かって投げた。
飛んでくるパイプをかわし「俺を殺してみろ」そう呟き、高笑いを残しながらカッパ男は闇に消えていった。
「大丈夫か?」
仮面男は、丸刈りの方へ振り返る。
「あ、あぁ・・・」
「悪い、お前を餌につかっちまった」
「いや、いい・・助けてくれてありがとう」
緊張が緩み始めると、先ほどの舟高狩りの奴等を追い返した時に出来た怪我に痛みを感じ始め、その場に腰を下ろす丸刈り。
「部活、辞めたらしいな」
「やっぱり、お前・・・元か?」
丸刈りの問いかけには答えず、仮面男はその場に倒れている人のポケットから携帯を取り出し救急車を呼び始める。
「お前は、部活に戻れ。・・・こんな事するのは、俺だけで十分だ」
携帯を戻すと、仮面男はカッパを追って路地へと消えていった。
体が言う事を聞かない状態で、繁華街を歩こうと誰も丸刈りに目を止める事もなく、通り過ぎていく。
「やっぱそうだよな・・・そう言う街だもんな」
壁に手をつけて体を休めながら、丸刈りは薄情なこの街に、思わず笑ってしまう。
通り過ぎていく人達が全員、芋に見え始める。誰も俺を見ようともしない。
だが、そんな芋畑が広がる中を一輪の花が、丸刈りの元へ駆け寄って来た。
「丸刈り、どうしたの?」
「よぉ・・田村、やられちまった・・・」
「待ってて、今、救急車・・・」
携帯を取り出すが、その手を丸刈りは止めた。
「いや、いい。・・・帰って寝る」
「何言ってんの、その怪我で」
「田村・・・・犯人は元じゃない。悪い、いの一番にお前に連絡しようとしたんだけど、携帯壊れちまって・・」
その言葉である事を思い出し、唖然とした表情で丸刈りを見つめる田村。
「あ・・・」
「な、なんだよ・・」
「呆れた。あんたもしかして、それを確かめるために部活辞めたの?元が、あんな事する訳ないじゃない。・・・言っておくけど、あれ受理しないから。破り捨てたから」
丸刈りの肩を担ぎながら、歩き始める田村と丸山。
田村の言葉がなぜか笑えてくる。担がれていると言うのに腹を抱えて大笑いし始める丸山。
気付かなかった。俺は元を信頼してたんじゃない、もしかしたら元がやってるんじゃないかと疑っていたのかもしれない。
それを確かめるために、こんな事を繰り返して、元じゃないとわかって安堵の気持ちもあるが、少し残念な気持ちもあったのかもしれない。
もし犯人が元で、それを知った田村を俺が慰めて、それで・・・
「ちょっと、なに笑ってんのよ。担いでるこっちの身にもなれ!」
ずり落ちていく丸山の肩を担ぎなおしながら田村がそう言ってくる。
「いや、悪い悪い。・・・ただお前って凄いなって思ってさ。なんか今度は泣けてきた」
「はぁ?訳わかんない」
「お前等ってスゲーな。ちょっと羨ましいわ・・・ジェラシー的なもんを感じちまうぐらいだよ」
「お前等って誰の事よ。」
「俺、疑っちまったよ、あいつの事・・・ホント最っ低だな」
「そんな事ないよ。私だって心のどこかではそう思ってたのかもしれない。でもスッキリした。丸刈りのお陰だよ・・・」
「田村・・お前は絶対に疑うなよ・・・こんなの俺だけで十分だ」
「はいはい、一応心がけます・・・ちょっとシャキッと歩け」
「了解っす・・・田村、またみんなで、飲み会しようぜ。部員全員でさ、もちろん元も」
「そん時は、また丸刈りの家の空き倉庫、使わせてよ」
「まぁ別にいいけどさ・・・それと俺決めた事ある。」
「何?」
「もぅスキンヘッドやめる。丸刈りなんて、もぅ呼ばせねぇ」
「えぇ〜いいじゃん。丸刈り」
「いいんだよ。どうせ就活の時までに髪伸ばさないとだめなんだから」
「じゃぁなんて呼べばいいのさ・・・」
口を尖らす田村
「普通に丸山でいいんじゃね?」
「やだ、つまんない」
「じゃ適当」
「丸ちゃん」
「おっ、それいいじゃん」
悪のりのまま、光り輝く繁華街を歩く二人、そして話しの話題は、退部届の話題になっていた。
「そういや、あの退部の理由は何?・・・なんだっけ?恋に破れたんで部活を辞めますだっけ?なにさ、誰かにフラれたの?」
「いや、別にそういう訳じゃなくて・・」
口ごもる丸ちゃんを見てニタニタし始める田村。
「なにさ〜言っちゃえよ〜」
丸山の脇腹を小突き始める田村。
「イダダダダダっ!おまっ俺、怪我人!」
「さぁ吐いて楽になれ!」
「痛いって・・・ちょ、ちょっとーーーぉぉ!」




