第三十話 昔話3
『きっと今から言う事に、君は困難してしまうかもしれない。だが、それで君の気持ちが楽になるようだったら嬉しいと思っている』
三島の家には、代理で尾形の家に謝罪に行ってくれた代理人が、尾形の親父さんから受け取った物だと言ってボイスレコーダーを再生していた。
『・・・すまない。君は、自ら謝りに行きたいと言っていたらしいね。でも、君はそれでいいかもしれない・・・だが、私は君を殺そうとしてしまうかもしれない。だから、しばらくは私に会わないでくれ。』
暖簾が下ろされた店の前には、本日休業と書かれた看板が置かれ、ボイスレコーダーの周りに三島と親父さん、そして母親が囲むように立っていた。
『・・・最後に言いたい事がある。あいつは、・・・剛は、俺に隠し事をしていた。それが一体、何なのかわからなかった。そして、この事があって、俺の疑問は確信に変わった。・・・元、・・・剛を殺したのは、君じゃない』
スーツ姿の代理人は、声の止まったボイスレコーダーを自分の鞄にしまうと、おそらく向こうの方も錯乱状態にあるのだろうと、説明し定食屋から出て行った。
「元・・・しばらくは、学校を休め。・・・学校には、俺が連絡しておくから」
何の表情も浮かずに、ただ立ち尽くす三島。そんな三島を気遣い声をかける親父さん。
「いや・・・行くよ。俺」
ここにいても、なにも意味はない。だったら、余計な事を考えないようにいつも通りに学校に行って、その事を忘れたい一心で三島は、学校へ通っていた。
だが、学校へ行ってもあの事件の事が、離れる事はなく、逆に掘り返してくる輩までいた。
「よぉ、三島 元」
自分の教室で、一人行儀悪く席に座っている三島の元に数名の先輩方が就職難の、うっ憤を晴らそうと教室へやってくる。
毎回のようにやって来ては、何も反論もしない三島に、心にもない事をズカズカと言ってくる。
数日間の根競べの結果、ついに痺れを切らせたのは先輩の方だった。
三島の机を豪快に蹴飛ばし、三島の胸倉をつかみ持ち上げた。
「おぃ、三島。・・・何も反応しなきゃ、俺達が何にもしないと思ってたのか?」
「・・・・・」
それでも何も反応を示さない三島。
教室では、クラスメイトの数名が、先生を呼びに教室から飛び出した。
「・・・何か言えや、おぃ」
三島にガンを飛ばすが、そんな先輩にすら目を合わせようともせず、何も考えないようにしていた。
だが、先輩のある一言で、現実から逃げようとしていた三島を一気に現実へと引きずり戻された。
「なぁ、三島。・・・人を殺すってどんな気持ちだ?」
生気の無かった目は、一気に燃え上がり、周りの生徒が、ゴキッなんて鈍い音の次に見た光景は、胸倉を掴んでいた先輩が、顎を殴られ宙を浮く光景だった。
教室は、女子生徒の悲鳴と先輩が机をなぎ倒し、地面でのた打ち回る声で一気に盛り上がりを見せる。
「三島!てめぇ」
先輩方が、怒鳴り声を上げる中、三島は首が据わらない赤ん坊のように頭を揺らし、足元はフラフラと揺れていた。
「・・・・そんなに、死にたいらしいっスね」
そう呟くと三島の足は、立ち止り目の前にいる敵に向かって走り出した。
一方的な惨劇が続く中、連絡を受けた先生が職員室から飛び出し「三島」そう言って教室に入って来た時には、ボロ雑巾になった先輩方が床に転がり、三島は何事もなかったかのように、自分の席に座っていた。
「・・・活動停止?」
道場では、田村から説明を受けた部員達が、ざわつき出す。
「ちょ・・・元は、この部活をやめたんだぞ。なのになんで、俺達にまで飛び火がかかるんだよ?」
そんな質問が飛んできて、田村も大人達が出した一方的な判断に、不満の色を隠せない。だが向こうから言われた通りに報告を続ける。
「一応、・・元もこの部活にいたんだから、この熱が収まるまで学校内での活動は中止するって・・・」
こんなことが、いつか起こるだろうと先読みして自ら部活を辞めていった三島だが、大人達はそれよりも遥かに上回る処分を下し、その処分に生徒達は、頭を抱え込んでいた。
「だけど、学校外ならつまり活動が出来る訳だから、みんなそれぞれ、各々の道場があるでしょ。もし、ない人がいたら、うちの道場でも小学生が中心だけど、練習はやってるからそこに来てくれてもいいし・・・」
一通り説明をし終わると、いつ開くか分からない学校の道場の鍵を閉め、部員達は解散し、道場の前で、田村は渡された鍵を強く握りしめた。
「だから言っただろ。しばらく休めって・・・まぁ当分は行かなくて済みそうだけどな」
「ごめん・・・親父」
一ヶ月間の自宅謹慎を受けた三島は、定食屋の厨房に立ち、父親と母親の手伝いをしていた。
全く表情を変えずに調理をする三島に、両親は目を合わせながらため息をつく。
「心配しなくていいよ。・・・俺、大丈夫だから」
「その言葉を聞いて余計心配になった」
父親は、頼まれてもいない料理を作る三島に新たな注文のオーダー表を見せ、三島はその料理に取りかかる。
そして三島が勝手に作った料理を、客にサービスとして母親が出していた。
仕事もまともに手をつけれなかった三島は、しばらく外に出て新鮮な空気でも吸ってこいと言われ、店の外に出され繁華街を目的もなくブラブラと歩いていた。
繁華街では、岬高の人達が、三島の名前を使って顔をでかくして歩き回り、何かあれば「三島を呼んで来い」と言っているとクラスの友達から聞いていた。
だが、そんなつるんでいた友人達も、最近は三島に近寄らぬようになっていた。
行く当てもなくただブラブラと街を歩いていると知らぬ間に上にあった太陽は、どこを探してもいない時間になっていた。
人通りもなくなり、誰も通らない道の真ん中をただ歩いてる三島は、尾形がこの街に用があると言っていた事を思い出した。
「・・・・一体どんな用があったんだ?」
目的もなくただぶらついていた三島だが、その事が気になり始め知らぬ間に、この街で尾形を探すようになっていた。
だが、クラスの友人からも尾形をこの街で見たという話も聞いた事はなかった。
つまり、普通の所にはいなかった・・・
そんな推理を頭の中で繰り広げる中、ふとこの街の噂を思い出した。どこかの店で、ストリートファイトを賭け商売にする所があると・・・
「探してみるか・・・」
すでに薄く明るくなってる時間だというのにやっている店を転々とすると一つのクラブを見つけた。
入口には青い光で店の入り口を照らす店で、何の根拠もなく入ると外と中でこんなにも音が違うのか?というくらいに爆音が流れ、カラフルなレーザーが店を飛び交ってた。
この音に顔を思わずしかめる。
そして、人が密集する広場を抜け、席がかなり空いているカウンターに腰をかけ一休みしていると、カウンターに立つ従業員が声をかけてきた。
「この店は初めてか?」
「えっ?えぇ・・・まぁ」
「何か飲むか?」
まだ高校生になったばかりなのに、年齢を疑われない自分の容姿に少々傷つきながらも、まぁ青臭いと言われるりはマシか、と自分に言い聞かせ普通に注文をすると、すぐに作り始め出来上がった物を渡すと、よっぽど暇だったのか、それともそれが商売上手な秘訣なのか知らないが、従業員が話しかけてくる。
「何でこの店に来たんだ?」
「いや・・・ちょっと、友達を探しに・・・でも、ここにはいなさそうだな」
「人探しか・・・ならこの店に来て正解だ」
「そうですかね。・・・みんな踊ってるだけですよ」
「たしかにな。・・でも、この店に来る理由で他があるって知っているか?・・・お前さんは、どちらかというとそっちの部類だろ」
「えっ?」
首をかしげる三島に、従業員はある所を指差す。
そして、指の差された方向を見ると非常口のランプが光る扉があり、その扉からちょうど一人出てくる所が見えた。
「あの扉の向こうに行ってみろ。きっと探してるもんが、見つかるか、その手掛かりになる」
「・・・向こうには何があるんですか?」
「自分の目で確かめろ。・・・きっと違う世界が見えるさ」
三島の前にある空になったコップを取ると、さっさと洗い始め、三島はその扉へと近づいて行った。
非常口をくぐり抜け、長い廊下を歩き、奥にあった扉を開くと、そこには彼の言った通り、本当に別の世界が広がっていた。
中央に金網で囲まれたリングがあり、そこに群がる客。
その目当ては、リングで戦う二人だった。
長身の黒人が、軽いフットワークで相手を翻弄し、客のボルテージが最長に達した時に、意識のおぼつかない相手にアッパーを食らわせ、リングに沈めた。
それを合図に、コングが鳴り響き、客の歓声が腹の底に響いた。
リングでガッツポーズを決める黒人。そして、三島の横で黒いソファーにふんぞり返って座っていたガマガエルのような人は「くそっ!」なんて言いながら横にいたつき添い人を蹴飛ばしていた。
「あいつなら大丈夫だって言ってたのは、お前だよな!なのに何だあの有り様は!・・・サップと曙の試合じゃねぇンだよ!」
「すみません。オーナー!」
ガマガエルの前で土下座する狐のような男を横目に見ながら、三島はリングでは次の戦いの案内をしていて、会場を水着のような格好をした女性が大きな籠を持って歩き回り、その籠の中に客がこぞって札を入れ始めていた。
「どちらかに、カケマスカ?」
集金をしに来た女性に片言の日本語で声をかけられるが、「今日は様子見で」そう言って受け流した。
リングの中では、ボクシングや柔道、空手などなど異なった競技出の選手が掴み有、絞め有、関節有といったルール無しの戦いが繰り広げられ、すべてを見終わる前に三島は、この会場から出ていった。
先ほどのカウンターに再び戻ると、これまた再び従業員が話しかけてきた。
「おかえり、探し物は見つかったか?」
「確かに・・・あいつがいたような、感じはする・・・水下さい」
「はいよ」
従業員は、コップを取り出し、三島の前に水の入ったコップを置いた。
「で?どっちの方にだ?」
「どっち?」
「決まってんだろ。見ている方かそれとも・・・」
この従業員は、恐ろしいほどに読みがいい。そう思いながら三島は、先ほどの質問に少々悩む。
「多分・・・戦っている方」
「ほぉ、なら探し人はどこかに属していたのか?」
「属す?」
「あの戦いに参加するなんて、大体は借金を抱えた馬鹿か、どこかに属した馬鹿だ。」
「さぁ・・・借金の話もどこかに入っていたなんて話も聞いてないけど」
「そうか・・・なら、かなり少数人数だが、もう一つの馬鹿があるんだ」
「どんなのだ?」
彼の話術にはまり、抜けれなくなった三島。
身を乗り出し、答えを聞こうとする。
「それは、・・・その戦いに意味を探し求める馬鹿だ」
「意味を求める・・」
「おうよ。・・・金にも地位にも目を取られる事なく、その戦いに果たしてどんな意味があるのだろう。そうやって自分は間違っていないと、正当化させようとする馬鹿だ」
『やっぱり俺、間違えてないよな・・』そんな尾形のセリフを思い出し、水を一気に飲み干す。
そして、三島は尾形がここにいたと確信する。
「あいつは、一体何を探してたんだ?」
「さぁな・・・それは本人にしか、わからねぇよ」
「俺は・・・・知りたい」
「そうかい」
尾形が、一体何を求めていたのか、何を思ってこの戦いに参加していたのか・・
「なんだか、よくわからないけど、ありがとうございます。・・・それじゃ」
「おぃおぃ、ちょっと待った」
立ち去ろうとする三島に手を出し「180円」と言ってきた。
「えっ、水ってただじゃないんですか?」
「当り前だ。ここのミネラルウォーターを舐めんなよ」
「ケチ」
そう言ってテーブルに小銭を置くと三島は、店から出ていった。
そして、カウンターに立つ従業員に、数人の仲間が集まって来た。
「お前、あんな青二才を、デートに誘ってどうする気だ?」
「まったくだ。毒島さんの眉間のしわが、さらに深くなるだけだぞ」
そんな事を言ってくる仲間に馬鹿と一度、言ってから話し出す従業員。
「お前等、知らねえのか?・・・あいつは、三島だ。間違いない」
三島という言葉に首をかしげる仲間に、もう一度、馬鹿と言い「これから、面白くなってくるぞ」そう呟きながら、気分よくコップを磨き始める。
次の日、カウンターの前に鞄を一つ持ち三島がやって来た。
「よぉ、早い決断だな」
「考えるよりまず、行動するタイプなんで」
「結構だ。」
「でも、どうやって参加したらいいのかわからなくて・・・」
「だったら、俺からアドバイスをやろう。・・・適当な試合が終わった後にリングに入っちまえ。そして、適当に相手選んで試合を始めちまうんだ。」
「そんな事したら・・・」
「お前の注目度は一気に上昇する。その戦いで圧倒的な力の差で勝ってでもしてみろ。お前の顔は、誰も忘れたいしねぇ」
「確かに・・・」
「なら、頑張ってこい」
カウンター越しに三島の背中を叩き、三島を後押しする。
「あと、一つ言い忘れた。試合する前にどこか偉そうな奴に、自分を売り込んどけ。わかったな?」
「わ、わかった」
少々戸惑いながら、三島は偉そうにふんぞり返るガマガエルを思い出し、売り込む相手をそいつに決め、三島は非常口の扉の中へと入って行った。
「どうした、おっさん。負けてるのか?だったら、いい事教えてやるよ。俺に千円でもいいから賭けときな。きっと終わる頃には、何十倍にもなってるよ」
声は裏返ってなかっただろうか?表情に余裕はあっただろうか?そんなことを悩みながら上着を脱ぎ、リングへと上がり、昨日見た黒人を指名した。
ところが、そいつは現在の王者だと言う事を言われ、血の気が一気に引いた。
マジか・・・あんな弱いのに・・
指名された王者は、ゆっくりとリング上がり、三島を見下してくる。
「ヘィ、サムライボーイ。今さら止めようとか思ってないだろうな?」
「日本語上手だね。なんて言うんだっけ?ベリーウェル?」
「very wellだ。教育のなってない餓鬼だ」
リングの外では、水着姿の女性が忙しく、歩き回る。
「昔、日本の首相が、アメリカの大統領にお元気ですか?って聞きたくて言ったと言われてる名言を知ってるか?」
「・・・知らないな」
「who are youだ。アメリカでは有名は人なのかもしれないが、首相も大統領の事を知らなかったんじゃないかな?・・・あんたは、ここで有名なのかは知らないが、俺もあんたを知らない。だから、俺もあんたに言いたい事はwho are youだ。井の中の蛙って知ってるか?」
コングが鳴り、王者は渾身の力を込めて三島に向かって拳を振り下ろす。
だが、三島にとってそのパンチは、あまりにも遅く見えた。
10秒も経たないうちに王者は、リングに沈み、周りは一気に静まり返る。
その空気をブチ壊したい。そう思って三島は、床を思いっきり踏んだり、金網を蹴って音を鳴らし始める。
「ウラーッ、声がねぇぞ!ゴラァッ!」
リングを降りるとガマガエルが、三島を待っていた。
「いくらだ」
周りでは、意味を無くした切符が宙を舞い、三島にかけていた人達は、喜びはしゃぐ中、ガマガエルは、三島を餓鬼呼ばわりしていた。
「餓鬼じゃない・・・・元だ」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ついに三十話まで書く事が出来ました。
そして、ネタが尽きてきました。
なんとか、頑張ろうと思います。これからもよろしくお願いします。




