第三話 馬鹿野郎で…GO
「ぬぉあぁっ!」
天狗の一振りで、ガラスは全て吹き飛んだ。
完全に固まる三島を横に天狗は店の中に入ってきた。
「違うぞ〜。天狗なんていない。そもそも、天狗って言うのは漂流した外国人だという仮説だってあるぐらいなんだぞ!酒を飲めば白人の顔は赤くハッキリするしな。そのお面みたいにさ。外人は日本人に比べて鼻も高いし。ほらみろ、こんなに条件が当てはまるんだ!だから、天狗なんていねぇ!」
三島の願いもむなしく、天狗は鏃を一度軽く振ると突風が三島を襲い、その場に倒れる。
「くそっ!」
三島は下に散らばるガラスを掴み、天狗に投げつけた。
怯む天狗の隙をつき、三島は店から飛び出した。
『私を助けてくれたんだし、生き残るチャンスをあげる』
「チャンス?どんなチャンスだよ!・・・くそ〜!何なんだよ!これ」
逃げながら、後ろを見ると天狗は電柱の上を上手に飛んでいる。
「なんなんだよ!あんな下駄、履いてなんであんな事できるんだよ!」
追ってくる天狗から誰もいない町中を、めいいっぱい走りまくる。
「チャンス、チャンス、チャンス、チャンス!・・・思い出せ!俺!思い出さないとスッキリしないうちに死んじまうぞ!」
そんな事を叫んでいると、天狗はフワリと目の前に現れ、三島の行く手を塞いだ。
「くそっ!・・・この野郎っ」
路駐自転車を掴み天狗に投げるが、天狗は鏃ではじき返す。だが、その内に天狗との距離を離した。
「思い出せ〜。俺が気がついたのは、地下鉄のホーム・・・」
『これ、手放さないでね。私の力分けといたから』
「・・・どこにあんの?」
ホームで急いで立ち上がった時にそういや、なんか見えないもの落としたっけか?
「あれか!」
建物の間の路地裏に入り、天狗を巻こうと試みるが、天狗は建物の壁を上手に蹴り、地面に足をつく事なく、三島にピッタリくっついてくる。
一方、逃げる三島は、路地裏に置いてあるポリバケツや段ボールに足を取られ、思うように走れない。
「くそ〜、こっちは体育で40キロも走らされてヘトヘトなんだってぇの!」
途中、消火器を見つけそれを拾い、逃げていると再び前に天狗が現れ、前を塞いだ。
「なめんな!こっちは計算済みだ!」
消火器を天狗に吹きかけ、白い粉末が天狗を覆う。
消火器を使いきると、消火器を天狗に投げつけ天狗に当たる音がする。
「俺だってな!壁蹴りくらいは出来るんだよ!」
壁に向かってジャンプし、一度壁を蹴ると立ちこめる白い煙の上を三島は飛び越した。
後ろを振り返りもせずに三島は、狭い路地を抜けだした。
「へっ、ざまぁみろ!」
振り向きざまに鼻で笑いながら三島がそう言うと、一度、鈴が鳴ったかと思うと白い煙の中から天狗が飛び出して来て、三島に体当たりを喰らわせた。
「のわっ!」
三島は、道路へと飛ばされ反対側のガードレールに助けられるが、左肩の関節が外れる感触が伝わってきた。
「くっそ〜案外、人間って死なないもんだな・・」
さらに追い打ちをかけようと天狗は、襲いかかってくるが、それに気づき三島も立ち上がり、ぶら下がる左手を抱え、再び逃げる。
天狗は、三島が避けた事で、ガードレールにぶつかり、ガードレールはメチャクチャになり、その衝撃で周りに止まっていた車の色とりどりの防犯ブザーが、なり始める。
三島は、逃げながら、左肩の関節を入れ顔をゆがませるが、スピードを落とすことはなかった。
『敵を倒さないと元の世界には戻れない』
「冗談じゃない。なんで、殺さなきゃいけないんだ!」
地下鉄の階段を下りながら、記憶の中の仙田と討論する。
改札口を飛び越し、なんとか、ホームに到達した。
「どこだ〜?チャンスは」
自分が座っていた椅子を見つけ出し、周りを見渡す。
椅子からはかなり離れているが、遠くになにか、細長い棒のような物が、落ちていた。
「あれか!」
天狗が来る前に急がないと・・そう思い、落ちている物に近づいた。
「おぃおぃおぃ・・・チャンスってこの事かよ」
『死にたくなければ、殺しなさい』
落ちていた物とは、彼女が使っていた日本刀だった。
刀を抜くと、刃が小刻みに振動しているのが伝わってくる。
『私の力、分けといたから』
「あいつの力・・・・」
あいつは、なにやら呪文を唱えて、消えたかと思うと気付けば刀を振り下ろした後だった。
鞘から刀を抜く所や振り下ろす所は見ていない。
「この刀、振ったらなんかあるのかな?」
なんて思って、一度軽く振ると信じられないスピードで刀は、振り下ろされた。
三島は、驚きのあまり、思わず手を離すが刀は、また遠くへと飛んで行ってしまった。
「やべっ!」
刀を拾いに行き、今度は慎重に両手で掴み振ってみるが、今度は何ともならなかった。
『言ったでしょ。一度しか使えないって・・』
「ぬおおおぉぉ!しまった!チャンスが・・・俺のチャンスが・・・ついてねぇ・・」
ここはホームの中、もぅ逃げる場所もない。
「やるしかねぇのか・・・」
三島は徐にポケットからイヤホンを取り出し、目を閉じ、耳につけ音楽を再生した。
速いテンポの音楽が、何もないこの世界にBGMを造り出す。
ホームの屋根が一部、崩れ落ちてきて、土煙りの中から天狗が鈴を鳴らしながら、出てきた。
三島は、刀を腰につけ天狗の方を向いた。
「来い!てめぇから一本取ってやる」
三島は脇を閉め、素手を前に構えた。
「そろそろ、死んだか・・」
コートの男は三島のいた店内で、持ち主不明のポテトを食いながらそんな事を呟く。
「さぁね。私の刀、置いておいたし相手に噛みつくぐらいはしてるんじゃないの?」
隣に座る仙田は、《三島》と書かれた鞄の中を物色しながらそういう。
「あのな・・・こっちの世界じゃ、あの刀は見えないんだぞ。それに、あんな意識もあるかどうかわからない状態の時に、説明したって意味ねぇじゃん」
「なに、彼の事、心配になった?」
悪戯に笑いながらそういう仙田に、男は一度声を詰まらすが、笑って誤魔化した。
「冗談。なんで、ただの人間の事を心配しなくちゃいけないんだ。」
「あっ、財布発見・・・って一文無しかぃ」
「それに、ただの人間にあの刀を渡したって、何も効力は出ないで終わりだ」
「・・・彼、ただの人間じゃないかもしれない」
「はぁっ?」
「私が見たのは、彼が鞘を使って、あの子供をはじき返すところ、それに鞘を構える所と、自分に噛みついた子供を刀を逆手に持って、そぎ落とそうとした・・・あの素早い動作。刀の事を知らなきゃ、あんな動作は出来ない」
「・・・考えすぎだろ」
「それに、彼が、親に襲われた時(私のせいだけど)死んだと思っていたのに、しばらくしたら何にもなかったかのように親の背中に乗って現れた」
「ほぉ・・確かに特別なのかもしれない」
「でしょ」
男は右手の指から炎を出し、煙草に火をつけた。
「だが、仮にそうだとしても、特別ってのは俺みたいな奴や、お前みたく人の体を乗っ取れるやつの事をいうんだよ」
「・・・・・・」
男は、仙田にタバコの煙を吹きかけるが、仙田は表情を何一つ変える事はなかった。
「あの・・・お客様」
店員が右手から出る炎をチラチラと見ながら男に話しかける。
「んあ?・・・あぁこれ?マジックだよ、マジック。凄いでしょ」
「いえ、そうじゃなくて、店内は禁煙です」
「あ・・・すみません。もぅ出ます」
誰もいない地下鉄のホームで、天狗は鏃を巧みに振り回す。
だが、三島もその攻撃を紙一重で避け、逆に天狗に拳をぶつけるほどだった。
三島の拳が天狗の顔に当たり、後ろに吹き飛んだかと思うと天狗は見事な宙返り。
「クソッなんだよ。その身のこなしは!」
瞬時に天狗が近づき、三島の足を素早く払い、仰向けに倒れた三島に鏃を突き刺そうとするが、三島も負けじと後ろに体をひねり、バク転、バク宙と天狗の攻撃を次々とかわした。
「だから言ってんだろ。なめんな!この泥酔野郎!」
段々と息が上がってくる三島に対して、まだ息どころか声すら発しない天狗。
「このポーカーフェイス野郎め・・疲れてるんだかどうだか、全然わからねぇ」
天狗と距離を取り、天狗の攻撃を待ち構えていると突然、天狗は腰につけた刀を取る仕草をしだした。
「・・・?」
首をかしげる三島に指さし、もう一度、刀を取る仕草をする。
「・・・俺に刀を抜けって言ってるのか?」
天狗は、軽く頷くと手に持っていた鏃を捨てて刀を抜いた。
「冗談じゃない!俺は抜かねえぞ」
三島は腰につけた刀を外し、横に捨てようとするが、その前に天狗が三島に切りかかってきた。
思わず刀を使って、天狗の攻撃を防ぐが、その後の蹴りに対応できず三島は天狗の蹴りで壁まで飛ばされる。
「・・くっそ、これが天狗の本気ってやつか?遂に本性見せやがって」
三島の耳からイヤホンが外れ、再び静まり返った世界が戻ってくる。
天狗は、鈴の音を響かせながら、倒れる三島の前に立ち、刀を構え三島に振り下ろすが顔の前で止めた。
三島の首筋に刀を近づけ、思わず三島も生唾を飲み込む。
「刀・・・を・・抜け」
天狗は、濁った声で三島に顔を近づけそう言ってきた。
「い・・・嫌だっ」
三島の答えを聞くと、天狗は倒れる三島の左手に刀を突き刺した。
誰もいない地下鉄のホームに、三島の叫び声が、響き渡る。
「刀を・・・抜け」
天狗は、また更に刀を深く差し込む。三島は、その痛みに堪え口を噤むが、口の隙間から呻き声が漏れる。
左手に深く突き刺さっていた刀を天狗は勢いよく抜き、再び三島が刀を取るのを待つ。
横に落ちている刀に、左手を伸ばし握ろうとするが、激痛が走りうまく掴めないが、なんとか自分の横にまで持ってくる事が出来た。
「そ・・・それでも、嫌だって言ったら・・どうする?」
三島は、苦痛に歪んだ表情から無理やり笑い、脂汗を垂らしながらそう言い、上体を持ち上げ後ろの壁に寄り掛かりながら腰をおろした。
その態度に天狗は、再び三島の首元で刀を止めた。
「これで最後だ。・・・影なる者よ」
「・・・影?」
天狗の手に力が入り、天狗の刀は三島を貫こうと動きだす。天狗の力が強すぎて壁のタイルなどが崩れだし、その場には土煙りが充満する。
土煙りの中、天狗は手応えのあった刀の先を確かめようと煙を払うが、その剣先には血は、付いているものの三島の姿は、なかった。
「・・・今回だけだからな、馬鹿野郎。だから許せよ・・・剛」
晴れ始めていた土煙りの中から天狗の横に現れた三島は、刀を構え横一線に刀を抜き、素早く刀を鞘に戻した。
天狗の腰から赤い血が吹き出し、三島の顔を赤く染める。
「・・・み・・・見事・・だ」
天狗はその場に倒れ、三島は、刀を捨て、首から垂れる血を抑えながらフラフラと出口へと歩いて行った。
「やっべ・・・今度こそ・・死んだ。」
ホームの階段の所で力無く、その場に倒れ込んだ。
今日は、最悪な一日だ。目覚ましは壊れてて、顔洗ってると熱湯が出てきて、タオルで顔を拭くと実は雑巾で、変な世界に連れてかれて、殺されかけて、今、その変な世界で、死にそうになってる。
いい事が起きた後は悪い事が待っている。
逆を言えば、悪い事が起きた後はいい事が待っている。
では、いい事が続いたら、どんな悪い事が待っているのか?
逆を言えば悪い事が続いたらその後は、どうなるのか?
答えは、悪い事が続くと・・・最悪の場合、死にます
「馬鹿野郎!避けろーー!」
体育館に尋常じゃない叫び声とその後に鈍い音が響き渡り、音源の場所に目を向けるとそこには一人が頭から血を流しながら倒れ、もぅ一人は、赤く染まった槍を捨て、倒れた奴に走り寄った。
「馬鹿野郎!てめぇ、なんで避けなかったんだ・・・・誰か!救急車!早く」
周りを見まわすと、そこには怯えた表情をする赤い髪の女性が立っていた。
「あっ、気がついた?」
重い瞼を開くと、眩しい光が差し込み、目が慣れてくるとそこは、ガラスが半壊したはずの店の中だった。
「あれ?・・・生きてる」
「うん、生きてる。凄いね、生き残ったんだ」
そして、目の前にはコーヒーをすする仙田の姿があった。
「・・・俺のポテトは?」
「ごめん、私の友達が食べちゃった。・・って言うか店員に追い出されるって・・」
寝起きはどうも苦手だ。まだ、意識がはっきりしない。
「き、聞きたい事・・・」
「ありそうね。でも、今はちょっと時間がないの、だから、また今度ね。」
「うん・・・また・・明日」
再び目を閉じ、再び目を開く頃には外は暗くなっていた。
「お客様、申し訳ありません。本日は、これで終了とさせていただきます。」
店員に起こされ、店の外に出るとムワッとくる真夏の暑さが、三島の頭をたたき起す。
首の怪我も手の甲にも刺し傷が、どこにも見当たらない。
「リアルな夢・・・なのか?」
「夢なわけねぇだろ。馬鹿」
声のする方に振り返ると、そこには町の街灯が後ろに色めき、逆光により黒い影がヌッと伸びているように見えた。
「・・・。」
「おぃおぃ、なんか言えよ」
影がどんどんと近づいてきて、徐々に黒いコートを着たあの男だと言う事に気づいた。
「・・どちら様?ですか」
「ん〜お前のポテトを食った彼女の友達?・・かな?」
「で?俺になにか?」
「まぁ、とりあえず、ここは危ないからちょっとついて来い」
男は三島の肩を掴み、店から離した。
「ちょ、ちょ、ちょっなんスか?」
訳も分からずバランスを崩しながら、男に連れてかれる中、エンジンを鳴らしながら道路を暴走する暴走族が遠くから現れて、通り過ぎ様にさっきまでいた店の窓ガラスを割って行った。
暴走族は、そのまま暴走を続け路上駐車する車や自転車を破壊し、うるさいエンジン音を響かせていた暴走族がいなくなると、防犯ブザーの音が、虚しく響き渡っていた。
「おぅおぅ、豪快にやったねぇ・・・だから、言っただろ?夢じゃねぇ」
笑いながら男はそう言う。
「あんた・・・本当に誰?」
見上げるほどの長身男を見上げる三島。
「こういう者だ。・・・じゃぁな、また会う事もあるだろう」
三島の顔の前で握りこぶしから手を開くと手のひらから炎を出し、男は去って行った。
アパートに帰ると、テレビで天狗と戦っていたあの地下鉄では、水道管破裂により天井と壁が一部、剥がれおちる事故があったと報じられ、列車横転事故の事をさらに詳しく報じていた。
夕飯を食べ終えた食器を洗い報道テレビを見ながら、今日の出来事を思い出していた。
誰もいない地下鉄のホーム、速いテンポのBGMが流れだし、天狗の攻撃を何分間も避けて、避けて、避けまくった。
まるで、音楽に合わせ踊るかのように・・そして、本物の武器で攻撃されていると言うのに、三島の口は笑っていた。
そう思うと、茶碗を洗っていたスポンジが止まり、力が入る。
目に慣れてくると、次第に手が出てくるようになり、天狗に反撃が始まった。
何度もとどめを刺すチャンスは、あった。何通りもあった。だけど、しなかった。それは、天狗が手を抜いていたからではない。
・・・・三島が、もっと遊びたかったからだ。
掴んでいた茶碗が、パキッっと音をたて割れた。茶碗を掴んでいた手からは割れたガラスで手を切り血がにじみ出てくる。
三島が手を抜いてる事に気づいた天狗は、本気を出すよう促すため、何度も刀を抜けと言ってくる。けど、それを拒み続けた。
それは、殺したくないから、・・・違う、刀を抜く。それは終演を意味するからだ。
「くそっ!!」
三島は、横にある炊飯ジャーを殴り飛ばした。中に残っていた米が部屋に飛び散る。
「ふざけやがって!よくそんなありもしない事、想像できるな!俺の野郎!!」
綺麗に整頓された食器棚を倒し、何度も踏みつける。
部屋で暴れるごとに、食器で傷ついた手から血が部屋中に飛び散る。
三島は、洗面台に向かい、剃刀を手にし、自分の左腕を何度も傷つけた。
「くそっ、くそっ、くそっ・・・」
そう呟きながら、左腕を何度も傷つけた。傷つけられた左腕は、ポツポツと赤い点がにじみ出てくる。だが、次第に腕は真っ赤に染め上がってくる。
洗面台には、血が滴り落ちる。
もう傷つける所が、無いと言うのに再び三島は右手に持った剃刀を左腕に置き、力強く引こうとするが、その右手を誰かの手が、止めた。
「やめな、元。それ以上やったら、神経を痛めるよ」
息を荒げながら、三島は自分の右腕を掴む手の先を見ると、田村がそこにはいた。
「よぅ、美野・・・久しぶりの不法侵入だな」
無理やり笑ってみせる三島に対して、全くの無表情の田村。
「そりゃ、下の階で発狂する住民が、いたらベランダから無理してでも侵入したくなるわよ、夏でよかったわね。窓が開いてなかったら叩き割ってたわよ・・・・久しぶりの発症ね。何かあったの?」
「・・・宮本武蔵の師匠と言われる奴を殺した」
「はぁ、意味わかんない。・・・とにかく、シャワーにでも入って頭を冷やせ。」
田村に言われるまま、風呂場に行き冷水で体についた血を洗い流し、排水口には、赤茶色い水が流れる。
風呂場から出てタオル一枚で部屋に戻ると、壊れた食器などで悲惨な状況になっていたはずの部屋が、綺麗に元通り・・とは、行かないが、食器棚と炊飯ジャーは大きな袋に詰め込まれ、部屋の片隅に置いてあった。
「ちょっと、レディーの前でタオル一枚で現れるな。食欲が失せる」
部屋の真ん中でカップめんをすする田村がそういう。
「うるせぇ、お前が男の部屋に勝手に上がり込んで、勝手に人の飯を食っている方が悪い」
「まぁいいわ、とにかく座って」
テーブルをバンバン叩きながら田村は言う。
「その前に服着ていいか?」
「許す!・・・うわっ、ちょっ、タオルを外すな!・・・こら!待て」
三島は服に着替えると、慣れた手つきで左腕に包帯を巻きつける。
「おぃ、終わったぞ。」
部屋の隅で体育座りで、縮こまる田村に声をかける。
「ほ、本当に?」
恐る恐る、顔だけを向け、嘘だと言う事に気づき再び縮こまる。
「冗談だ。もぅ終わった」
「・・・よし、本当みたいだな」
「お前、意外と純粋だな」
「うるさい。・・・で、何があったの?」
「・・別に、久し振りにあの夢を見ただけだよ。」
「それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
言えるわけない。そんな事言ったら本当に頭おかしくなったと思われる。
「そぅ。なら、いいわ・・・私、帰るね」
田村は、立ち上がり玄関へと向かった。
「おぃおぃ、出口そっちじゃないだろ」
「いやょ。またベランダ使えって言うの?久しぶりなんだからミスしたらどうするのよ!今回は玄関から帰ります。」
「わかった。気をつけてな〜」
「上の階に戻るだけで、何を用心すればいいのよ。」
田村が、玄関まで到達したときに突然、呼び鈴がなった。
「だれ?」
「わからない、誰もいないと思うよ」
三島は、部屋から玄関の様子を見ると田村が覗き窓から外を窺っているが、覗き窓には誰もいない。だが、覗き窓の下から突然、手がヌッと出てきた。
「キャァ!」
「キャァってお前な・・・」
また呼び鈴が鳴る。
田村はもう一度、覗き窓から外を窺うと、下には見覚えのある顔が覗き窓によって、横に引き伸ばされて映っていた。
「元・・・あんた、本当にあの子とどんな関係性があるの?」
「はぁ?だれさ?」
田村が扉を開くと、そこには怯えた仙田がいた。
一方、仙田は出てきたのが田村で驚く。
「あれ・・・あれ?・・・ここ、美野・・の部屋?」
「違う違う、この部屋の主は、元だよ」
「今度こそ逃がすかぁ!」
「ヒィッ」
三島は、とりあえず聞きたい事を聞こうと急ぎ玄関へ行くが、田村のアッパーを喰らいその場で倒れる。
「やめなさい。その考えもなしに突っ込む性格」
「・・・で、俺に何の用?」
顎を押さえながら、テンション下がり気味に仙田に問う。
仙田は、ポケットからある物を取り出し腕だけを三島に伸ばし、それ以外はなるべく遠ざかるように・・ってか、目は完全に閉じてるし!もしかして避けられてる?
「こ、これ・・・落し物」
仙田が持っていたのは三島の財布だった。
「千尋、あんた偉いねぇ。落し物届けに来たの」
田村は、仙田を引きよせ頭を撫でる。仙田は仙田でそれが、嬉しかったのか笑顔で頬を赤く染め照れている。
三島は、財布を両手で受け取り、完全に蚊帳の外。
「それじゃ、私達帰りま〜す」
田村は仙田と一緒に、両手で財布を持ったまま固まる三島の部屋から出て行った。
部屋に戻り、テーブルに財布を置き、ぼけーと呆けていると財布の札を入れる所に紙が一枚挿まれている事に気づいた。
紙を抜き取るとそこには《部屋の窓を開けて待ってて》と書かれてあった。
「はぁ?窓・・・」
カーテンも閉められていない窓の方を覗いていると、ベランダの下からフワリと仙田が現れ、手すりに見事に着地した。
ここは二階だと言うのに仙田は、何事もなかったかのように片手を上げこう言ってきた。
「こんばんわ〜」




