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第二十五話 学校際二日目

アパートにつき、自分の部屋の姿を見て三島は言葉を失った。

「元・・・あのね・・私もお父さんから連絡があって・・」

硬直したまま動けない三島に何とか説明しようと田村はするが、説明しようとする本人もうまく状況が把握できておらず、説明する事が出来ずにいた。

三島の部屋の前に立つ二人の前に扉はなく、下の手入れもされていない草むらに見るも無残な扉が、捨てられているのが見える。

そして、玄関から一望できる三島の小さなワンルームは、今まで通りのきれいな部屋とは打って変わって、壁という壁には拳でつけたような穴が開き、折りたたみ式のベットは中の綿が飛び散るほどに切り刻まれ床一面にはゴミや焼け焦げた跡が広がっていた。

「あ・・・あのね。き、君ぐらいの年代の人達がやってきて・・その・・君の部屋をこういう風に・・・していったんだよ・・ご、ごめんね。なにも抵抗することが出来なかった」

隣の部屋の人が、扉を半開きにして三島に話しかける。

「いえ・・・あなたに被害が及ばなくてよかった」

三島は、目も合わせる事もなくそう言うと部屋の中へと入って行った。


出だしは勢いよく入って行ったが、ほんの数歩歩くだけで三島は、その場に膝をついた。

「・・・どうやって知ったんだ」

「岬高の奴らだよ。こんな事やるなんて・・」

「それは、わかってる!・・・・どうやって俺の居場所を知ったのか、それを俺は知りたいんだ!」

「知らないわよ!私に怒鳴らないで・・」

「悪い・・・心配かけちまって・・」

「そうね・・・とにかく、ここで落ち込んでても仕方ないわ。片づけましょう私も手伝うから・・・」

「あぁ・・・悪いな」


散らかった生ごみや紙くずを拾い集める中、三島は台所に向かうが、そこには使い慣れた鍋や包丁は一つも残っていなかった。

「・・家から持ってきたもの・・これで全部、無くしちまったな・・」

「うん・・・それから、お父さんが部屋もこんな状態だし、泊る所ないだろうってお父さんの家に来いだってさ」

「まじか・・・じゃぁ、ちょっとお世話になるわ」

「それから、道場にも顔出せって」

「えっ・・・」







とても大きいとも立派とも言えないが、小さくてボロイかと言えばそうでもない中途半端な道場からは野太い声と子供の掛け声が聞こえてくる。

「よぉし、まずは正拳突き!・・一ッ!」

「「セイッ!」」

田村の親父さんがする事をマネして子供達も拳をつき出す。

「ウラァー、腰が上がってんぞ、腰落とせ!そのままの状態から、上段右受け、下段左払い!二、三ッ!」

「「テイッ、セイ!!」」

「うぅしっ!最後は、下段左払いからの中段、上段に側面蹴り!三、四、五!」

「「セイ、ハッ、ゼヤァー!」」

「よぉし!目の前で倒れ行く敵にはなむけの言葉ぁ!」

最後の声は野太くもなく、田村の親父さんから発せられた言葉でもないが子供達はそれに従い親指を立てて下に勢いよく落としながら

「「ざまぁみろってんだ!」」

「ちがぁーう!・・元っ、なに勝手にそんな事、させてんだ!」

親父さんからの大声を真横でモロに食らい思わず耳をふさぐ三島

「いや〜、ちょっとこの張りつめた空気を和ませようかと思いまして・・・でも、ホラっ・・子供達も俺のお誘いに乗ってくれたんでね」

言い訳をする三島だが、親父さんは子供たちに目線を向ける。

「確かにその通りだが、元の誘いに乗ったって事は、お前等は俺の指導に不満があるってことがよ〜くわかった。・・小休憩の後、みっちりしごいてやるから覚悟しとけ」

子供たちからは「えぇ〜」なんて不満の声も上がりながらもようやくの小休憩に水飲み場まで全員が駆けだす。

そして、それに混ざりながら三島も水飲み場へと歩いていく。

「いや〜、元兄げんにぃのせいだからね」

「なにぃ・・・俺のお陰で休憩を得る事が出来た事に感謝してほしいね」

「違うよ。型の練習が終わったらいつも休憩あったもん。」

「えっ、マジ・・・」

「最近来てなかったからこんな事になるんだよ」

「うわ〜ミスったな・・・まぁお前等、ちゃんと頑張れよ」

三島のその言葉に水飲み場では大ブーイングが起こる。




三島に向けて放たれた大ブーイングは道場にも届くような勢いでそんな中、道場に取り残された田村と親父さん。

「・・・まさか、こんな事で道場に顔出してくれるとは」

「まぁ、なんだかんだ言っても、元はこの道場好きだからね・・・」

「じゃぁなんだ。美野はこの道場は嫌いなのか?」

「・・・なんで、その話を持ってくるかな?・・・別に嫌いじゃないわよ」

「そうかい・・・それを聞いて安心した。」

「でも、お父さんの道場の事を家まで持っていくのは、嫌い」

「そうかい・・・」

続きを言えず口がこもる親父さん。

「・・・でも、今ならお父さんの気持ち・・・わからないでもないかな?」


そんな二人の会話が続く中、水飲み場から戻ってきた三島と子供達のじゃれ合いが繰り広げられていた。

三島の後ろに回り込んだ少年が、三島の背中にドロップキックを食らわせ「やったなこのヤロー」なんて言いながらその少年を捕まえグルグルと振り回す。

振り回される少年は「スゲー楽しぃ」なんて言うもんだから

「あっ、俺にもやって」

「俺も!」

「私もっ」

って事になり最終的に三島の体には、無数の少年、少女がくっ付き「無理!これ以上は無理!」なんて叫びながら、足元がふらつく三島。



「やっぱり道場に連れてきて正解だったな」

作戦通りなんて勝ち誇ったかのように頷いて見せる親父さん。

そんな自分の親父を見て、ため息を漏らす田村。

「・・・違うよ。元の奴、無理して元気に振舞ってるのよ・・」






大きな平屋造りの家の居間に行儀よく座って待つ田村と親父さん。

そして、台所から料理を持ってくる三島。

「ほぉ!これがお前の料理か、初めて喰うな」

「ちょっと、親父さん。まだ全部持って来てないんですから喰わないで下さいよ・・」

肉じゃがやポテトサラダをテーブルに置くと三島は再び台所へ向かい、その後を田村が追って行った。

居間でテレビをつけて呆ける親父さんの耳に台所でのやり取りの声が聞こえてくる

「元〜、何か手伝う事ある〜?」

「ん〜?・・なんだ手伝ってくれるなんて珍しいな。親父さんの前でいい所見せようってか?」

「うっさい、ボケ!」

「いてっ!・・・あっ!ザンギが一個落ちた!」

「え?うそっごめん。」

「早く拾え、3秒ルールだ、3秒ルール」

「よしわかった。・・・って、アツ!揚げたて熱っ」

「なにやってんだ。さっさと皿に・・って喰うな!何食ってんだよ」

「だって熱かったんだもん」

「口に物を詰めたまま喋るな」

「う・・・・もぅ飲み込んだから大丈夫だもん」

「まぁとりあえず、そのザンギの皿でも運んどいてくれ・・摘み食いするなよ」

「大丈夫、大丈夫」

大きな皿に山盛りにあった唐揚げは、親父さんの所に着く頃には、目に見てわかるほど減っていた事は言うまでもない。






「元、・・明日はどうするつもりだ?」

ご飯タイムも終わり、食器を片づけ終わった三島が居間に入って来た時にさっそく親父さんが話しかけてきた。

「えっ、明日・・ですか?・・・・まぁとりあえず、部屋の掃除しようと思うんで一度、向こうに戻ります。」

「だったら私も手伝おうか?」

「いやいや、お前は学際二日目があるだろ」

田村の提言を受け流し「地獄の二日目が・・」と付け足す三島

「だから行きたくないのよ・・・みんなピリピリしてるし、あの空気は何かヤダ」

口を尖らせる田村を見て、三島は笑いながら「ちゃんと仙田をエスコートしてやれよ」なんて冗談半分で言う

「親父さんは?・・・・明日も学際に行くんですか」

「ん?・・・・ん〜、そうだな・・いや、行かねーわ。高校生の問題に一般の大人が手出しする事でもないだろ」

「だってさ、美野。」

「な、なんで私に振るのよっ!」

「いや、残念そうな顔してるなって思って」

「全っ然してません!・・・私もぅお風呂入って寝るから!」

田村は勢いよく立ちあがると「お休み〜」なんて手を振る三島に「元のバ〜カ」そう言って居間から出て行った。

「・・・・でっ?親父さん、まだ仲違いは取れてないんスか」

「ん?・・・何の事だ」

「何って、この場にいれば誰でも感じますよ。親父さん、美野と一っ言も話してないじゃないですか」

親父さんは、目の前に置かれるお茶をゆっくりとすすり始める

「・・・道場では、話してたさ」

「道場とここでは、まったくの別腹です。違う環境です。違う世界ですぅっ!」

「まぁ、お前が感じてるその仲違いみたいな感じも、いつかは取れてるさ・・俺の指導方針は、自由奔放、適当人生てきとうライフだからな。・・・お茶、おかわり」

これ以上、口出しするななんて感じで湯呑を目の前に出され「了解っす」そう言って三島はお茶を再び湯呑に注いだ。







「まぁこの部屋ならそんなに埃も被ってないし大丈夫だろう」

大きな家に一人暮らしの親父さん。使われていない部屋へ案内され「じゃ、おやすみ」なんて言って親父さんは自室へと入って行った。

一人暮らしには不釣り合いなほどの家の大きさと部屋の多さに最初の頃は驚いていたが、最近ではこれが三島にとっては、当たり前になっていた。

「まぁ凄いなとは思うけどな・・・」

そんな事を呟きながら三島は、まるで使い慣れているかのように押入れから布団を取り出し就寝の準備を始める。

布団も無事に敷き終わり、大きな窓を開くと外には手入れのされた庭と松の木が月夜に照らされ何とも言えない風景を作り出していた。

「・・・何にも変わってないな」

「うん、私が出て行った頃からなにも変わってない」

独り言のつもりが返事が返ってきた事に驚き、声の主を探すと横の部屋の窓に腰掛ける田村がいた。

「うぉっ!ビックリした・・・なんだ起きてたのかよ」

「なにさ、起きてたら困るの?」

「いや、別に困らないけどさ・・・何してんの?」

「別に・・・ただ外を見てただけ」

「いいよな・・・こんな立派な庭があるなんてさ・・餓鬼の頃、池の鯉を釣って遊んでたっけか?」

「あぁ〜やってたね〜。懐かしいそれで釣った鯉をそのまま放置してたらさ」

「そうそう、カラスに持ってかれちまって親父さんにガッツリ怒られたりしてな」

「値段的に見ると私達、物凄い事しちゃってるよね・・・」

「そうだよな。金魚とかならまだしもっ!とか、親父さんキレてたもんな」

なんて会話が盛り上がる中、仙田に心配だから三島の様子を見てきてと言われ猫に扮して様子を見に来た子猫は、田村と三島の楽しそうなやり取りを見て浮かない表情をしながら闇へと消えていった。



しばらく昔話に花を咲かせる中、田村が話題を変えた。

「ねぇ・・・その、部屋が荒らされてる時に一体どこに行ってたの?気付いてなかったんでしょ」

「ん・・・えぇっと、ちょっと散歩に出かけてた」

「やることが無かったら部屋にいつも引き籠ってるあんたが?」

「ん〜まぁな。・・・たまに出かけたくなる衝動に襲われる事ってあるだろ」

「まぁあるっちゃあるけどさ・・・繁華街の方に行ってないだろうね?・・・そっちの方で暴動があったみたいだよ。さっきニュースでやってた」

「マジか・・・どんな感じだった?」

「うん・・なんかどこだっけ?・・・たしか鴻江連合の但馬組と警官とでドンパチやったって報道してたな。死人も出たみたいだよ」

田村の言葉に胸をきつく締め付けられる三島

「確か警官にも殉職者が出たとか言ってたな・・・」

「えっ・・・」

「・・・・何?」

「いや、ほら・・知ってる人かなって思って」

罪悪感に襲われながらも、三島の心の中にはあの猫背の薄気味悪く笑う刑事の顔が思い浮かぶ。

そんな事を平気で思い浮かべる自分の心に腹が立つ。

「ううん、多分知らない人・・・なんか若い人のはずだもん25歳とか言ってた。警察官になったばっかりなんじゃないかな?」

「そっか・・・」

そっけない返事をしながらも、三島の心の中にその若い警官の顔が思い浮かぶ。

若菜の横にいたあの刑事・・・

「俺もぅ寝るわ・・」

「ん、お休み」

どうかあの刑事ではありませんように・・・そう願いながら三島は布団に潜り込んだ。







「じゃ、学際行ってきます」

「おぅいってらっしゃい」

「じゃ、部屋の掃除行ってきます」

「おぅいってら」

大柄の熊に見送られながら、三島と田村は農道を歩き駅へと向かう。

駅へ向かう途中、田村はため息を数回漏らしていた。

「おぃおぃ、そんな今から落ち込んでたってしょうがないじゃん」

「それは、元が体験したことがないから言える特権なんだよ。去年も本当に大変だったんだから・・・生徒も先生もピリピリしててさ」

「まぁ・・・伝統って怖いな」

「ねぇそれより知ってた?・・・あの伝統を作った張本人・・」

続きを言おうとする田村だが、その前に駅で待っていた仙田が声を上げる。

「美野〜、三島君、おはようございます」

「おぅおはよう」

「千尋〜おはよう」

ガシっと抱き合う二人、そして蚊帳の外になる前に三島は自ら「じゃ二日目、頑張れよ」そう言ってその場を去った。




「えっ・・・あの伝統って二日目が本番なの?」

満員電車に揺られながら田村の説明に仙田は驚く。

「そりゃ、普通に考えてそうでしょ。昨日は平日よ」

電車の中で携帯を開き、日付と曜日を確認する仙田

「・・あっ本当だ」

「だから、千尋は絶対に今日は私から離れないでね」

「うん・・・・わかった」

「はぁ〜やだな〜・・・私達も今日は学校休もうか」

「駄目だよ。三島君が出たくても出れないんだから、私達が思いっきり楽しまなくちゃ」

右腕の袖をめくり白く細い腕を曲げ、小さな力瘤ちからこぶを見せながら仙田がそう言う。

そんな仙田の姿を見て、小さくため息をつく田村。

「千尋って結構、行事とか積極的に参加するよね・・・」

「そうかな・・・美野はそんなに乗り気じゃないの?」

「ん〜、どうなんだろうね・・・元がかなりこういうの乗り気だったから、逆に冷めちゃってたのかな?」


「へぇ〜・・・でも、やっぱり学校際がこんなに酷くなったのって三島君のせいなんでしょ・・・・」

「っ!・・・・なんで知ってるの?」

田村はあまりの驚きに、思わず仙田を睨みつける。

「・・・ごめん、看護師さんが話してるの聞いちゃったの・・去年の学校際で病院にかなりの学生が運ばれてきたって・・」

「・・・・あぁ・・そっか、病院送りもかなりいたんだ・・」

「私・・・三島君がわからなくなってきちゃって・・アパートもあんなヒドイ事になって・・でも、私の知ってる三島君はそんなのには全く関係ないように見えて・・」

「まぁそうだよね・・」

「ねぇ、だから去年の学校際で何があったの?・・・私、知りたい」

真剣な表情で田村の顔を見る仙田。そして、そんな仙田を見て田村は一度、深呼吸をすると「いいよ」と答えた。

「でも、学校についてからね」

「うん」

そして、二人を乗せた電車は学校へと向かい走って行く。







「・・・ここか」

「マジかよ。本当にあいつ等、こんな事やったのかよ」

「らしいな・・本人はいなかったみたいだけどな。」

三島の住むアパートの前には岬高の制服を着た生徒達が2階の扉がない部屋を見上げながら、あくどく笑って見せる。

「でもよ。・・三島がいたらどうするよ」

「カンケーねーよ。俺等で、ボコればいいだけだ」

そう言って階段を音を立てながら上がり始める彼等。

その光景を隣の部屋から覗き窓で窺う隣人


彼等は三島の部屋に入り、部屋を見渡し誰もいない事を確認する。

「・・なんでぇ、三島の奴逃げやがったな」

強張っていた表情も三島がいないことで綻び始める奴や安堵の表情でため息をつき始める奴もいた。

「ハッ、拍子抜けだぜ。」

「とにかく、俺達もさっさと部屋荒らして帰ろうぜ」

彼等は手に持った色取り取りの鈍器で壁に穴を開けようとし始める中、玄関の方からとてつもない音が鳴り響く。

玄関先で立っていたのは、握った拳を壁にぶつけ岬高の奴等を表情一つ変えず睨みつける三島がいた。

「・・・ウェルカム」

そう言って自分の部屋へと入って行く三島。そして、その後にゾロゾロと狭い部屋に毒島組の兵隊が三島について入って行った。





狭い部屋の隅へと追いやられる彼等とそんな彼等を囲むようにして立つ三島達。

あまりの圧迫感に膝が震え始める生徒も出てきた。

「三島・・・てめぇ、そこまでやるのかよ」

「最初に手を出してきたのはてめぇ等だろ。俺だってさすがに堪忍袋の緒が切れたってやつだ」

「三島ぁ」

「黙れ。単刀直入に聞く・・・俺の居場所を誰から聞いた?」

「・・言う訳・・・ねぇだろ」

「そうか・・」

彼等の返答を聞くと囲むようにして立つ彼等に目で合図を送る三島。

すると二人が動き出し、膝の震えが止まらない奴を捕まえ嫌だと泣き叫びながら抵抗する彼を集団から引き剥がし、部屋から出て行った。

部屋の外から聞こえる彼の泣き叫ぶ声も次第に遠くなり聞こえなくなった。

「もう一度だ・・・誰から聞いた」

「わ、わかった。正直に言う・・・俺達は知らないんだ」

完全にプライドを失った彼等は、怯え口を震わせながらそう言ってくるが、兵隊の一人が痺れを切らした。

「まだぁしらぁ切るってぇのか!いい度胸じゃねぇか」

「本当なんだ。俺達は何も知らない!ただ白髪交じりのじじいに三島の居場所を知りたくないか?って言われて俺達は、それに乗っただけなんだ・・・頼むよ。助けてくれ」

「・・・どうやら本当みたいだな。・・どうするよ三島」

表情を一切変えることなく三島はポケットから一枚の写真を取り出し怯える彼等に見せる。

「その爺は、こいつか?」

「・・・そうだ。間違いない、こいつだ」

写真に写る奴は、タバコを口にくわえ悪態付いた表情でニヤける若菜だった。

「くそっあの野郎・・」「まだ根に持ってやがんのか」

兵隊からはそんな声が上がり、最終的にはその怒りの矛先を怯える彼等にぶつけていた。

「その話に乗るてめぇ等もてめぇ等だ!・・・あの事件は三島が犯人じゃないってわかってんだろ!」

「そ、そんな事わかってるよ」

「わかってんならっ!・・・てめぇ等はここで一体何やらかしてんだ!これは学生がやる事じゃねぇだろ!こんなの餓鬼がすることだ!」

「そっちはどうかしらねぇけどな、こっちの高校じゃ伝統を行った奴は一時のヒーローになれるんだ。去年の事もあったし、三島とやれば、俺達は英雄なんだよ。」

岬高のそんな呆れた理由に、兵隊たちの怒りは頂点に達した。

「・・・ってめぇ等がちやほやされたいが為に、一人の人間が傷ついてんだよ。・・俺達の仲間が傷ついてんだよっ!」

「悪かったよ。・・でも俺達はまだ何もしていない!これは俺達がやったんじゃない」

「関係ねぇよ!・・・お前等が今持ってる物は、ここで一体何をしようとしてた!お前等だって同罪だ・・・三島、こいつ等は俺達が連れてく」

兵隊達は、そう言うと恐怖から解放されようともがく彼等を慣れた手つきで取り押さえると部屋から出て行こうとする。

「三島っ!・・・悪かった、許してくれ」

「助けて、三島!・・・頼むよ」

助けを請う彼等に、三島は一度も目を合わす事なく心の中で葛藤する気持ちを抑え込む。

「誰かーーっ!助け」

外に運び出された中の一人が、周りに助けを求めようと叫ぶが、その前に鳩尾みぞおちに大きな拳が入り口から出てきたのは呻き声と朝に食べたパンの残骸だけだった。

一人でも犠牲者が出れば、周りの人は生存本能を刺激され同じ事を繰り返そうとはしない。

まさにその通りだ。少しでも長く生き残れるよう、その後、彼等のとった行動は、泣きじゃくりながらアパートの前に待つ数台の車まで大人しくついていく事だった。








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