第二十二話 学校際一日目
「・・・ところで、なんであの試合の事が、三島君が学校際に出れない事に関係してるの?」
「えっ?」
北舟高校の入り口には、『学校際』と大きく書かれた看板が立てられ、田村達のクラスでは、ホストクラブをイメージした作りの部屋で、男達に混ざり、赤い髪をオールバックにし黒いスーツを着こなす田村と、その横をネズミの姿をした仙田が付いて回る。
「昨日も、考えてたんだけど、三島君、クラスの中じゃ、結構慕われてるじゃない?でも、それが、なんで学際に出たら駄目なのかな〜って思って・・」
「う〜ん、まぁ・・・あの後、色々とあってね〜。事件とか、元の奴、学校に来なくなっちゃたりとか・・でも、それはまた今度ね。・・いらっしゃいませ〜、席をご案内いたします〜」
教室に入ってきた女性二人を、案内し始める田村。
そして、取り残される仙田。
「・・・こちらの中から、お好きな人をお選びください。」
客に渡された本の中には、スーツを着た男子生徒の写真が並べられ、制限時間なども書かれてあり、上の方に行けばいくほど値段も高くなっている。
ボッタクリにも程があるぞ・・なんて思いながら田村は、営業スマイルをお客さんに見せる。
「それじゃぁ、この人、お願いできますか?」
「・・あぁ、申し訳ございません。彼は現在、40分待ちになっておりまして、それまでの間、他の人もお選びできますが?」
「・・じゃぁあなたが相手して」
「へっ?」
教室の裏側では、食べ物や飲み物を作ったりして忙しく動き回る人、そして全く御呼ばれしない男子が邪魔にならないように、部屋の隅で体育座りをして落ち込んでいる人で、賑わっていた。
「・・・疲れた」
そんな事を言いながら、田村が裏側へと入ってくる。
「あっ・・・美野」
疲れ切った田村に気が付き声をかける仙田。そして、田村は声のする方を向くとネズミが、落ち込む男子生徒の横で同じく体育座りをして大人しくしていた。
「千尋・・なにやってんの?」
「えっ・・・えっと、邪魔にならないように、隅っこで大人しくしてた」
『邪魔』という言葉が胸に深く突き刺さり、さらに縮こまる体育座りの男子共。
「って言うか、私と千尋って本来は、外で客引きの役目なんだし、その仕事やりに行こっ」
そう言って、田村は看板を片手に、教室から出ようとするが、その前にクラスメイトに呼び止められる。
「美野、ごめん。指名入っちゃった・・」
「えぇ〜、またぁ?・・私、女子なんだけど・・・それに私、メニューにないじゃん」
「でも美野が、現在売上トップなの、お願い美野〜」
「でも、千尋が・・・」
戸惑う田村。
「だ、大丈夫だよ。私、一人で客引きやってみる」
「えっ、本当に大丈夫?」
「うん、頑張ってみる」
「む、無理しなくていいんだよ。やっぱり心配だし・・」
「大丈夫、この看板持って立ってればいいんでしょ?」
「でも・・・」
「頑張って、ナンバーワンホストになってね。美野」
仙田はそう言うと、自分の体の大きさとそれほど変わらない看板を持って教室から出て行った。
「・・・でも、何したらいいんだろう。」
生徒玄関が解放され、たくさんの生徒たちが行き来する中、仙田は、壁に追いやられながら、大きな看板を手に持って立っていた。
『さぁ?・・・客引きなんだし、誰かに声でもかければ?』
「無理だよ!そんなの・・・」
心の中の仙田にそう言われた途端、周りの人が恐ろしい人に見えおびえ始める仙田。
『ちょっと、だったらなんで一人で客引きやるって言ったのよ』
「だって、私のせいで美野が困ってるの見たくないもん・・・」
『だったら、一人でも大丈夫だって所を証明しなくちゃ』
「う、うん・・だよね。」
そう言って仙田は、その場で看板を高く持ち上げ、周りに見えるようにアピールをし始める。
『そうそう、いい感じ。後は声も出して、「2年C組の売店に来てください」とか言ってみたら?』
「えっ・・・そ、そんなの無理!絶対無理」
これで精一杯の仙田。そして、そんな仙田の所に私服を着た男子が数名やってくる。
「えっ?・・・なに、これどこでやってんの?」
「え・・・あの、・・えっと、三階の2年C組でやってます・・」
「みんなそんな恰好してんの?」
「い、いぇ・・これは、私だけです。・・・男の子が、ホストの姿をして接客をしてます」
後半の説明は全く聞かず、「やべーよ。この子可愛くね?」とか仲間と話し始める。
「あ・・あの・・」
「ねぇねぇ、『チュー』とか、言ってみてよ」
「え・・ちゅ、・・・チュー・・・」
恥ずかしながら仙田がそう言い、仲間同士で盛り上がりハイタッチなどをし始める。
「なぁ、そんな仕事なんて、放っておいて、俺等と学校内まわって行こうぜ」
一人の男子が、仙田の手を掴みそんな事を言い始める。
「いや、ちょっと・・私、まだ仕事が・・」
そう言って精一杯の抵抗を見せるが、華奢な体での抵抗は空しく引きずられていく仙田。
「いや、離してください。」
「いいじゃん、いいじゃん。どうせ、邪魔者だったから客引きとか外回りやらされてんだろ?だったら、ちょっと遊ぼうぜ」
乱暴に引きずられる仙田。
「いや、美野・・美野・・」
自然と言葉を発しながら、周りを見渡すが田村の姿もない。
「おぃ、何やってんだ。てめぇ等」
そんな中、彼等の前に立ちはだかる制服を着た男子。
襟には『風紀』と書かれたバッチが光り、長い髪を上でまとめ、垂れた目で彼等を睨みつける。
「うちの学校の風紀乱してんじゃねぇよ。・・その子を離せ」
「ぁあ?誰、お前」
そう言いながら、近寄ろうとする男子を仲間の一人が止めた。
「おぃ、よせ。あいつ子島だ」
「子島?・・・っ!」
その聞き覚えのある名前を思い出し、仙田を掴んでいた手を離す。
それに乗じて仙田は彼等から離れ、子島の背中の方へと回りこむ。
「あんた等、どこの高校だ?・・岬高の奴でもないみたいだな」
「待て、俺達はただ学園ライフを楽しみに来ただけだ。別にお前等の喧嘩になんか興味なんかねぇよ。じゃぁな」
そう言って立ち去ろうとする彼等。そして、問題が解決し一安心そう思ってため息をもらす仙田。
だが、そんなため息も意味もなく子島は、彼等を引きとめた。
「おぃ待てよ。学園ライフに、マルボロやセブンスターはいらねぇンじゃねぇか?」
子島の声に、立ち止り振り返る彼等。
「くせぇんだよ。この喫煙者が・・・捨てろ」
そんな彼等を見ながら子島は、鼻を掻きながらそんな事を言う。
「おぃ、子島・・・異種武道だか何だかしらねぇが、日本一なったからって、ちょっと調子に・・」
そう言いながら、子島を突き飛ばそうとした男子の手を、子島は掴み一瞬にして彼の膝を崩した。
「・・・捨てろ」
子島のにらみの利いた声、そして一瞬にしてわからせた実力差、彼等は渋々、タバコを取り出し、子島の方へ投げ渡す。
だが、子島はそれを取ろうともせず、彼等の前で地面に落ちたタバコを踏みすり潰した。
そんな子島の態度を見て、彼らがムカつかない訳もない。
だが、そんな怒りも抑えつけて、彼等は子島の前から立ち去ろうとするが、それをまたしても子島が止めようとする。
「・・腰抜けが・・」
子島が彼等に聞こえるようにそう呟き、怒りの爆発した彼等は一気に振り返るが、振り返ってみた光景は、子島がかなり恐ろしそうな大柄のおっさんにゲンコツを食らっている所だった。
「おぅ、悪いな。お前等、こいつには俺からきつく言っておく。」
「あ、あぁ・・・」
彼らが立ち去った後に、今度は三島のクラスの先生が、再び子島の頭を叩く。
「いってぇっ!」
「・・お前な、風紀のてめぇが、風紀乱してどうすんだよ」
「大丈夫っすよ、すぐに終わらせるんで!」
「まだ言うか、こいつは」
再び、頭を叩こうとする所に田村がやってくる
「お父さん、こんな所で何やってんの?」
「おぅ、美野・・・ってなんじゃその格好は!?」
大柄なおっさんの大きな重低音の声は、周りに響き渡り、周りの人が話を一時中断し、こっちを見てくる。
「ちょっと・・・お父さん、声デカイ」
「おお、悪い悪い」
「で?・・・何やってんの?」
「もちろん、娘の学校際を見に来ただけだ。・・そしたら、偶然、この馬鹿が喧嘩おっぱじめようとしてたから止めてたところだ」
「はぁ?喧嘩・・・子島、どういう事よ」
横で頭を二度叩かれ、頭をさすっている子島に問いかける。
「どうもこうもないですよ。風紀を乱している奴等に、鉄拳を食らわそうとしてただけです。」
「あんたね・・・風紀だからって何やってもいいって思ってんの?」
「学際の安全を守るためです。だから、今年から施行されたんじゃないですか・・・それに、一年の女子が危なく誘拐される所だったんですよ。・・なぁ?そうだろ」
一年、そう言いながら仙田を見てくる子島。そして、『一年』と言われて首をかしげる仙田。
その仙田の微妙な反応に同じく首をかしげる子島。
「子島・・・あんた、この子が一年生に見えるか?」
「さぁ・・でもコスプレとかしてるし、多分そうでしょ」
「千尋は、二年生です」
「えっ!・・そうなの・・だったんすか?・・・」
ため口と、敬語が入り混じりながらの子島の問いかけに仙田は、小さく頷く。
「ほらっ、わかったら、さっさとここから去れ・・」
田村は虫を払うかのように、手で払うマネをし子島はそれに従い消えていった。
「千尋〜ごめんね。大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だった〜でも、怖かったょ〜」
田村に抱きつく仙田、そして、そんな仙田を褒める田村。
「よしよし、よく頑張ったわね。偉い偉い」
「・・・ねぇ、美野・・子島君って、あの子島君?」
廊下を一人さびしく歩く子島を、見送りながら田村に問いかける
「ん?・・うん、まぁ子島って珍しい名前がそう何個もあるなんてそう思えないけどね・・・・でも、そんな事より、なんでお父さんと先生が一緒にいるのかが、私はわからないんだけど?」
二人の熱い抱擁を見て固まっている二人は、ようやく金縛りから解放され、咳払いをしてごまかした。
「うん、実はだな・・・田村、お前の親父さんには結構世話になってたんだ。」
「まったくだ。こんなクソ餓鬼、さっさと捨てちまいたいと思ってたんだが、憎い奴ほど後から、俺の所に寄ってたかってくるんだ」
「ちょっと、いくらなんでもそりゃないですよ。」
「で、自分の高校の学際に来て下さいって言ってきたのも、こいつだったりしてだな・・まぁ、娘もいる事だし、一応来てみたら・・・まったく、またクソ餓鬼が問題起こしそうになりやがって・・俺の指導方針、間違えてるのかな」
深くため息をつく親父さんの肩を叩きながら励ます先生。
そんな二人の姿を見て、仙田の好奇心がうずく
「おじさんと先生は、知り合いだったんですか?」
田村の腕から顔を出しながら、二人に聞く。
「・・ん〜、俺も少しの間、親父さんの門下生だったんだ。まぁ、高校からだったけどな」
「千尋よ。しかも、こいつが俺の門下生になった理由を聞きたいか?・・喧嘩に強くなりたいからだそうだ。」
「ちょっと、親父さん。一体いつの話してんですか」
「しかも、こいつが、岬高との伝統を作った張本人なんだよ」
「ちょ、親父さん!」
「中学の時に何人かに、いじめられてたとか知らないけどよ。だからって、岬高の奴等全員を学校際でボコるって普通やるか?」
親父さんのその軽い口を止めようと必死になる先生と、知られざる事実を知って開いた口が閉じない仙田と田村。
「うっそ、信じられない。先生が、こんなくだらない伝統作っちゃったんですか?」
「コラッ、くだらないとは、なんだ。・・・あぁじゃない、やっぱくだらない。・・・あん時は、必死だったんだよ。色々と」
「そして、その後こいつは、走り屋に転職してだな・・・」
続きを言おうとする親父さんの髭面の口を、手で押さえる先生。
「親父さん!いい加減にしてください。・・・じゃぁ、二人とも楽しい学際をしっかり楽しめよ」
そう言って、先生は親父さんを引きずりながら消えていった。
その頃、三島は自分の部屋で、猫じゃらしにすがりつく子猫と部屋で大人しくしていた。
だが、そんな三島の部屋に呼びベルが鳴り響く。
「ん?・・・誰だろう」
三島が、扉を開くとそこには知らない人が立っていた。
「すみません、今日から隣の部屋に厄介になる者ですが、その・・・学生さん?」
下げていた頭を上げ、扉の前に立つ三島を見て物珍しそうに見てくる。
「え、えぇ・・高校生ですけど、隣に越して来たんですか?」
「そうです。・・それで、今から荷を運ぶんで、少々うるさくなってしまうと思うんで、その連絡を・・」
「あぁ、そうですか」
「でも凄いですね。私が高校生の時は・・・」
と、自分の過去を語り始めるお隣さんだが、階段を重い荷物を持って上がってくる一人の作業員・・どこかで見覚えのある姿に目を凝らす三島。
「んんっ?」
「よし、あともうちょいだ。」
「はい、でも先輩、俺・・前が見えません」
タンスを二人係で運ぶ、運送業者
「大丈夫だ。・・・よし、ここで右に回るぞ」
「はい」
先輩は、右に回って部屋の中に入っていき、新入りらしき人の姿が、三島の視界に現れる。
従業員は、こちらの目線に気付き、挨拶を始める。
「すみません、ご迷惑をおかけします。こちらは、運送業社ゴリラの・・・んんっ?」
三島の姿を捕え、足が止まる従業員
その異常に気付き、重い物を持ちながら特有の声で先輩が声を出す。
「おぃ、どうした?伊吹・・・ちょ、重いんだから早く・・・」
伊吹?・・・・運送業者の制服を着て、帽子をかぶっているが、その長身は確かに伊吹そのものだった。
「「あーーーーっ!」」
二人揃って互いに指を刺し大声を上げ、突然、バランスが崩れたタンスを支えようと先輩は、大声を上げながら持ちこたえる。
「ぬおぉーーっ!・・伊吹!どうしたっ!何があった!」
「おっとぉー!すみません、先輩。・・・おぃ、この仕事が終わるまでちょっと待ってろ!」
伊吹はそう言うと、伊吹は、重いタンスを持ちながら部屋へと入って行った。
「・・・お知り合いで?」
隣の住人は、三島に聞いてくる。
「えっ・・えぇ・・」
部屋に戻った三島は、再び子猫と戯れようとするが、子猫はどうやらそんな気はなく、窓から姿を消した。
「・・なんだよ・・さっさと、俺にやる事やれって言ってんのか?」
なんでブツクサ言いながら、三島は携帯を取り出し、ある電話番号を押し始める。
そして、その番号を見て通話ボタンに進む指は、やけに遅くなる。
覚悟を決めた三島は、通話ボタンに指をやり、画面には呼び出し中の画像が表示される。
呼び出し中の画面が、通話中の画面に変わり携帯からは声が漏れてくる。
『もしもし・・・』
「もしもし、親父?」
『おぉ、なんだ。元か・・・どうした?』
「いや、これと言って用はないんだけど・・今日、俺、学校休みなんだよ。・・それで、今から行ってもいいかなって思ってさ・・」
決して三島の顔は、嬉しそうにも楽しそうにもしていなかった。
『・・・あぁ、悪いな、元。父さん、ちょっと今日は、無理そうだ・・』
「・・そ、そう。」
『あぁ、ごめんな・・』
「いや、いいって・・・こっちこそ突然、こんな事言いだしたりしてごめん」
『いやそんな事、言うな。本来ならそう言うのが、きっと普通なんだ。ただ、ちょっと今日はな・・』
「・・母さんは?・・・元気?」
『あぁ、元気だ・・・お前も、元気か?』
「うん・・まぁ、楽しくやってるよ」
『そうか・・・それじゃ、切るぞ』
「うん、わかった・・」
『じゃぁな』
「うん、じゃあ・・・」
携帯を切り、三島は解き放たれた解放感とちょっと残念な気持ちが混同しながら深く息をはいた。
「・・そりゃ、そうだよな・・」
「・・にしても、一人暮らしをしてたとはな・・。ちょっと驚きだ。バイトでもしてんのか?」
「いや、ファイトマネーがまだあるから、それを生活費にしてる」
「・・・お前、一体いくら荒稼ぎしたんだ?」
「それは、内緒」
お隣さんの引っ越しも無事に終了し、勝手に上がり込んできた伊吹と、それをなんなく受け入れる三島。
「伊吹、お前その格好の方が似合ってるって、黒いコートなんかやめてその作業着にすれば?」
「え?そ、そうか、そんなに似合ってるか?」
「うん、なんか目立たないし、背景に馴染みそうだ」
「お前は、そんなに俺に存在を消されたいらしいな・・・」
「やだな。冗談だよ」
なんて笑う三島。
俺を殺してみろ・・・若菜の言った言葉や、オーナーの過去の三島を今の三島に比べて見る伊吹。
とても、そんな事をやるようには見えない。
「・・・で、俺になんか用があったんじゃないの?」
三島の問いかけにようやく、気付く伊吹。
「そうだった!俺が一体、どれほどお前を探すのに苦労したか・・・なんで休みの二日間を使ってまでお前を探していた苦労・・お前なんか俺を探すのに、たった数キロ走っただけで見つけることが出来たのに、なんで俺は三日もかかってるんだょ・・・」
次第に声のボリュームも落ちていき、落ち込み始める伊吹。
「まぁまぁ、実力の差ってやつじゃない?」
「こういう場合は、普通慰めるだろ・・」
「無理、そう言うキャラじゃないんで」
「まぁ、いい。お前に慰めの言葉を期待した俺が馬鹿だった。・・・でだ。本題なんだが・・変電所での殺人事件については、知っているか?」
「あぁ、死体の損傷が激しくて身元の確認が調査中になってる事件だろ。知ってるさ」
「いや、実際はもう身元の確認も済んでる。・・・そして、その遺体だが、お前も知っている人だ」
「・・・・・・えっ?」
伊吹の言葉に、暑いにも関わらず三島の背中を一気に鳥肌が駆け巡る。
「・・毒島さんだ。・・俺が働いていたバーのオーナー」




