第二十一話 昔話 二
「・・・と、言うわけで、レゲェって奴を入れてみました」
音楽プレイヤーを見せながらそんな事を言ってくる三島。
「ゲッ、趣味悪」
なんて完全に引いた目で見てくる田村。
「なんでだよ。結構いい曲あるぞ、それにテンポも速いからテンションも上がる・・・ってお前に関しちゃ、昔のアニソンじゃねぇかよ一体どんな趣味だよ!」
「なんで、昔のアニメとか言っても結構励まされたり、勇気付けられる曲とかあんのよ!・・聞いてないからわかんないんじゃないの」
「それだったら、お前だってレゲェ聞いてないからそんな事言えるんだよ」
なんて言い争う二人。そしてそれを収めようとする尾形
「まぁまぁ、お二方。人の好みは人それぞれなのさ・・・」
「ちなみに剛は、どんな曲入れてんだ?」
なんて、尾形のポケットから見え隠れするプレイヤーを見ながら質問する三島
「んぁ?俺・・・俺はラップとか、洋楽とか・・英語系が多いかな?」
「うわっ、格式が高い事だ・・・さすが進学校」
「いや、俺も英語とかちょっとしかわからないから・・」
「ちょっとでも、わかってる時点で凄いっての」
そんなお気楽な会話をしているが、ここは全国の試合会場。予選当日だ。
そして、試合に出るのは三島、尾形、田村、そして県大会で先輩方は敗退した。
「・・ちなみに岬高の人って、剛以外に何人出るの?」
田村がきくと尾形は、自分を指差し
「俺だけっ!」
なんて笑いながら言ってくる。
「まぁ・・・別に地区じゃ、ちょっと有名でも全国まで来ちゃうと、何その高校?って感じだからな。お互いさまに」
「そういや、顧問の先生が言ってたけど、俺達の県で今まで全国大会で優勝した奴、いないらしいぜ」
「おぉ!なら俺達のどちらかが、初めて優勝者って訳だな」
「いや〜、歴史に名を刻むって奴ですな〜」
なんて有頂天な二人を否定する田村
「・・馬鹿じゃないの。そう言うのは、県大会でも優勝してる人が言うもんでしょ。あんたら二人、県大会の準決勝わざと負けたでしょ」
田村の指摘に二人はお互いの顔を見合わせ、苦笑いをしながらごまかした。
そんな二人を見てため息を漏らす田村。
予選も無事に終わり、安い民宿で、冷めた晩飯を食べる三人。
「・・そういや、子島が明日試合見に来るとか、言ってたな。」
なんて、口を開く尾形
「ゲッ、まじで・・・」
そしてその言葉に、明らかに嫌だと言うような感じで言葉を発する三島
「・・なによ。来ちゃいけないような事でもあんの?」
「そりゃ、あるだろ。俺達二人の試合を見たら、あいつ絶対に影響受けちゃうって・・」
「・・あぁ、たしかに」
さっさと面倒くさい試合は相手に反則を取らせて終わらせる尾形と、最後の最後まで自分が楽しむために、相手を苦しめる三島。
「あいつって、なんでもかんでも、流されるタイプだからな〜。俺が『期待の新星だ』って言った事すら鵜呑みにしちゃったからな・・」
ザンギを口に運びながらそんな事を言う三島
「じゃぁ、嘘だっていうの?それじゃ子島君が可哀想だよ」
「俺は、正直見込みないと思うぞ〜。あいつは、剣道やってたからか知らないけど、木刀に固執しすぎだ。どんなに他の武器を使うように言ってみても、頑として譲らないからな・・」
「いや、俺は別にそれはいいと思うぞ。ただ、あいつは周りの事をマネしすぎなんだよ。自分の個性を持とうとしない。」
「いや、個性って一応、あんたも子島君も、お父さんの流派使ってるはずなんですけど・・」
「だから、型にハマりすぎなんだよ。ここに来たらこう防ぐ、ここに来たらこう返す。説明書通りだ。だから、強くなれない」
「いやいや、型を破るような事をする、あんた等がおかしいんだって・・・」
「いや、違うぞ、田村。つまり、元が言いたい事は、あいつにはチャレンジ精神が無いってことだよ。『俺のハマりはこの木刀とこの流派だけだ』そうやって自分のラインを引いちゃってる事に問題があるんだ」
「その通り、俺の言いたい事を代弁してくれた!・・・とまぁ、そんな訳で御馳走さん!」
茶碗を豪快にテーブルに下ろし、手を合わせる三島。
「あっ!喰うの早っ」
「俺はさっさと俺は風呂に入りたいの・・んじゃ、お先〜。・・・おばちゃん、食器どこ持ってけばいい?」
「いいょ〜そこら辺に置いといて〜」
なんて言う、部屋の奥から聞こえるおばちゃんの声、そしてその声を聞くと食堂から姿を消した三島。
「くそっ、一番風呂取られた・・・ヤベーよ。元にゲン担ぎされちまったか?」
なんて悔しがる尾形。
「なにそれ、ダジャレ?よく言うね。オジさんっぽいよ」
「なんで、ダジャレなんて言ってんだろうな・・・口癖?」
「・・に、なっちゃってるね。可哀想に・・」
尾形の食器も空になり、その場に寝そべる
「あ〜ぁ、元がいないから言えるけど、正直緊張してきたわ〜。」
「それは、多分、元だって同じよ。いつもご飯食べるの遅いのに今日に限ってかなり早い」
「それだったら、田村。お前はいつも飯食うの早いのに今日はやけに遅いな・・」
尾形の指摘に、田村の箸がピタリと止まる。
「正解?」
なんて笑いながら言ってくる尾形。
「かもしんないね・・」
「でも、羨ましいな。そうやって緊張が体に現れるってさ」
「そうね。剛は、こんな感じで現れたりしないの?」
「現れてんのかな〜?自分じゃわかんね・・」
「私も・・・剛に言われるまでわからなかった」
「さてと、俺も風呂に入ってくるかな〜。男同士、裸の付き合いをしてくるか〜」
そういいながら、田村を一人残し、食堂から出ていく尾形。
だが、扉からひょっこり顔だけを出して「お前も来るか?」なんて言ってくる。
そんな冗談だとわかっている言葉に動揺し、飯を喉に詰まらせる田村。
「ゲホッ・・・だ、誰が、行くか!」
「ハハッ、冗談だよ。そんじゃ・・」
「・・・なんかさっきから、私の赤面トークになってないか?」
タクシーの中で昔話をする田村が、自分の話に疑問を持ち始める。
そして、その事を一切指摘してこなかった仙田は、今までその事に気づいていなかった事に驚いていた。
「まぁ・・・これが試合前日の最後の会話だったわね。・・ありきたりな会話、でも忘れちゃいけない会話。・・・ねぇ、それより私達はいつまで、タクシーに乗ってるの?」
そんな事を言いながら、外の様子を窺おうとする田村を仙田が抱きつきながら止めた。
「駄目!全部言わないと外見ちゃ駄目」
「わかった、わかったから・・本戦当日になれば、さすがに二人も会話がなかった。・・・って事はなかったわ。やけに楽しそうに会話してさ・・・ったく、集中してるこっちの身にもなれっての!」
田村の試合も終了し、ギャラリーへと向かうと三島と尾形が待っていた。
「よぉ、決勝進出おめでとう。見てたぞ〜お前も案外残酷だな・・」
トンファーを持って戦いに挑んだ田村は、対戦相手の三節根に翻弄され、相手に近づく事が出来なかった。
自分の思うような試合展開が出来なかった田村のイライラは溜まる一方。そのイライラの原因も三節根を巧みに使っているのではなく、ただ時間稼ぎをしようとむやみやたらに振り回す相手の事もあった。
それにキレた田村は、三節根を強く弾くと、一気に相手に近づき「ウラーッ!」男顔負けの大声を出しながら、相手の顔めがけてトンファーではなく拳を振り下ろした。
モロに食らった相手は、その場に崩れ落ち、救護隊によって担架で運ばれていった。
「ち、違うのよ。わざとじゃないんだから。謝りに行こうにも、もぅ救急車で運ばれてて・・とりあえず向こうの生徒の一人をとっ捕まえて、謝罪してきた所よ」
「その捕まった生徒も可哀想に、怖かったろうな〜」
「おぃおぃ、元、言いすぎだって〜」
なんて言いながらも三島も尾形も目は笑っていた。
「・・・そんなこと言うんだったら、泣くぞコノヤロー」
そう言いながらプルプルと震え始める田村。
「あぁ・・それは勘弁・・冗談だって美野、あれは事故なんだから。」
「そうそう、お前をちょっと励まそうと思って、おちょくっただけだって・・」
「それはどうも御親切にっ!」
なんて言いながら、ベロを出す田村。
「うわっ、ベロを出すなんて、美野お前は一体いつの時代の人間だ」
「やかましい!・・・お二人さんは?決勝戦進出?」
「「もちろん!」」
「それは、それは、おめでとうございます。・・きっとお父さんの鼻も高い事でしょう」
個人の決勝戦は、団体戦の決勝戦が行われた後に男子、女子の順番で行われる。
という訳で、現在は会場の外、昼食・・とは言っても胃袋が物を受け入れないので、飲み物を飲む事に・・
「あれ?結局、中学の時って、俺と元、どっちが勝ったんだっけ?」
「んあ?忘れたのかよ。延長戦2回も繰り返して、判定でお前の勝ちだよ」
「嘘だよ。覚えてるって、・・・最初は型の通りにやるんだろ?」
「もちろん、延長戦からが勝負な!」
試合の計画を立てる二人。
「いいねぇ、そうやって仲良く試合が出来るなんて・・ちょっとだけ、羨ましいかも・・」
「何を言うか、俺達はいつでも本気だぞ」
「だったら、登録してる武器の中に自分が一番使ってた武器が入ってないんだよ。明らかに手を抜いてる証拠じゃない」
「違うぞ、美野。一番よく使ってる武器が得意な武器とは限らない。一番よく使ってる武器と言うのは、一番扱いやすい武器なんだ」
「それを一般的には、一番得意な武器って言うんだよ!」
そんなテンポのいい会話も次第に長続きはしなくなる。
「さてと・・・俺はそろそろ会場に行ってますかね・・」
そう言って、飲み物を一気に飲み干し、立ち上がったのは尾形だった。
「わかった」とそう言って相槌を打つだけの三島。
少しずつ離れていく尾形、そして少し離れた所で足を止め、「元」と呼びかける
「俺、今回は本気で行くからな!」
「おぅ!俺も前回同様、本気で行かせてもらいます!」
大きく手を振りながら尾形は、建物の中へと入って行った。
「・・・まぁ、じゃぁ俺も気持ちを高ぶらせておきますか・・」
そう言いながら、三島は耳にイヤホンをつけ、深い瞑想へと入っていく。
三島の耳から漏れてくる電子音。そんな音を聞きながら、田村はテーブルに顔を突っ伏して、青い空をただ見ていた。
「ねぇ・・元」
「ん?」
「頑張ってね・・・」
「ん。・・・お前もな・・」
「・・・その後は、知っての通りよ。二人の試合が始まって、本当に最初の3分間は二人とも型通りのことをしていたわ。ただ、それは周りから見れば型をやっているようには見えないくらい迫力があって、見ているみんなの視線は、二人にくぎ付けになっていた。でも、それは彼等にとっては本当にただの遊び、ただの準備運動。本番は延長戦から、さっき見てた曲芸とは打って変わって、さっきのは一体何だったんだ?って思わせるくらいの事をやっていたわ。すべての攻撃に意味を持ち、その攻撃は一度では終わらず、次の一手につながる技ばっかり。私も、二人の本気の戦いを見ていて、一撃一撃に、鳥肌が立った。・・・そして、二回目の延長戦。あの事故は起きた。」
『馬鹿野郎っ!てめぇなんで、避けなかった!・・・・誰か、救急車!・・・おぃ、剛!しっかりしろよ!剛っーー!』
田村は、再び蘇る記憶に胸を締め付けられ、目を閉じ深く深呼吸をし、その姿を仙田は黙って見続けた。
「・・・どう?こんな感じなんですけど・・」
「いや・・・なんて言うか・・なんて言ったらいいんだろ・・わかんない。・・でも、・・な、なんかごめんね。そんな無理して言わせちゃったりして・・」
「やだ、なんで謝るのよ。いや〜そんな所が可愛いね千尋〜」
そんな事を言いながら田村は、仙田を抱き寄せ仙田の頭をなでる。
だが、そんな田村とのじゃれつきも、いつもの温かみは無く、抱き寄せる手は、少し震えているようにも感じた。
「うん・・・ごめんね」
そう言って、仙田は田村の背中へと手を伸ばし、田村にやさしく抱きつく。
「やだな〜千尋・・謝る事じゃないって・・」
そうは言いながらも、田村の鼻をすする小さな音が、学校へ着くまでの道中、タクシーの車内に鳴り響いた。
「元〜。ホットプレート持ってきた〜」
そう言いながら教室に、段ボールを持つ田村が現れた。
そんな田村の所に、駆け寄る三島。
「おぅ助かったありがとう・・よぉ、仙田。ようやく学校に来たか、学校で会うのは久しぶりだな」
田村の後ろに隠れている仙田に気付き声をかけるが、少し戸惑った表情をし、仙田は隣の教室へと逃げて行った。
その光景に戸惑う三島。
「あの馬鹿・・・」
逃げ出した仙田を見て、田村がそう呟き、三島は仙田に対して何か過ちを起こしたのか、過去の記憶を思い浮かべる。
「えっ?・・・あれ、美野。俺なんかやらかしたっけ?」
「しらないっ」
そう言って田村も、三島に乱暴に段ボールを渡すと、隣の教室へと走り去っていった。
段ボールを持ったまま動けない三島に、男子共が群がる。
「おぃ、元。これはもしかして、三角関係とかそんなんか?」
「おぃおぃ、やめてくれよ。ドロドロした昼ドラなんて生で見たくはないぞ〜」
なんて言いながら、寄ってくる男子の口調は、少々喜びの声が含まれていた。
「はいはい、そうやって人の恋路にチャチャ入れるのはどうかと思うわよ」
そんな事を言いながら、一人の女子が固まった三島から段ボールをとって去っていく。
そして、そんなクラスメイトの声も届かない三島がようやく、口をひらく。
「・・・・俺が何した?・・・・」
「お〜い、三島」
学際前日の準備も無事に終わり、帰り支度を始める三島に男子生徒が呼び止めた。
「ん〜?なんだ?」
「明日、学際だろ?」
「おぅ、頑張れよ」
「で、お前、出れないだろ?」
「ええぇ!・・うん・・そうだな。・・・まぁ仕方ないんじゃないか?」
「で!そんなお前にサプライズだ!」
「はぁ?」
周りを見渡すと、三島を見てニタついてくるクラスメイト。
「えっ・・・おぃなんだよ。・・」
「問題です!明日、俺達がやるバザーはなんでしょう」
「えぇっと・・・クレープ屋・・だから、俺のホットプレートが必要だったんだろ?」
「正解です!・・・そして正解のご褒美は、我々が作ったクレープの試食人第一号の権利です」
そう言って三島の前に出してきたのは、紙皿とその上に白い布が被せられ、白い布の下には何やら物が入っているように見える。
男子生徒が、白い布を外すと紙皿の上に乗っていたのは、とてもクレープの生地とは思えないほどの黒々としたクレープだった。
「さぁ、我々の犠牲になってくれ!」
「おぃおぃ、期待させといてこのオチかよ・・」
なんて笑いながら言う三島。
「うるさな〜、クレープとかそんな作ったりしないからね、普通」
なんて、不機嫌そうに言ってくる女子。
「生地、黒いし・・・ちゃんと油は引いたのか?お陰さまで生地がプレートにくっ付いたりして大変だったろ。そのせいで生地がボロボロだ・・・」
「いいからさっさと喰え!」
言われるがまま、三島は黒いクレープを手に取り、口に運ぶ。
噛むたんびにパリパリと音が鳴り響き、教室内は三島の感想を聞こうと静まり返る。
「うん・・・うまいよ。これで生地がしっかりできれば完璧だ」
三島からその言葉が飛び出すと同時に、教室は一気に盛り上がる。
「よおぉし!三島のサプライズ成功ーーっ!!」
「よし、全員で写真とるぞーー!おぃ、誰か、廊下で誰でもいいからカメラ係、拉致って来い!」
「元、黒板の方に来い!こっちこっち」
黒板には、白い布が被せてあり、この前までは『学際まであと3日』などと書かれてあったが、その白い布が外されると黒板に書かれてあったのは、『学際当日!!』と大きく書かれ、その周りには色とりどりな色が飾りつけられていた。
「一日早い、俺達の学際だ!」
なんて言いながら、グチャグチャに黒板の周りに群がるクラスメイト。
「それじゃ、撮りまーす。3,2,1」
フラッシュが焚かれると、それぞれが色々な事を口にし始める。
「やだ、目つぶっちゃった!ねぇもう一回!」
「あぁ〜今の顔駄目、きっと変に取れてる」
「おい、次は何のポーズでいく?オリバーポーズ?」
「うわっ、オリバーポーズってなんだっけ?オリバーーーっ!!」
「ちょ、男子うるさい」
「よぉし、男子!脱ぐぞ!全員でオリバーだ!」
なんて言うハイテンションで結局、5,6枚を取り、疲れ切った表情で教室を出ると、担任が横で待っていた。
「おぅ、どうだった。一日早い学際ってのは?」
「いや・・どぅって言われても・・結構いいもんッスね。学際って・・」
なんて照れ笑いをして見せる三島。
「そうか・・・そりゃよかったな。明日はちゃんと大人しくしてるんだぞ」
「俺がまた問題を起こすとでも?」
笑いながらそんな事を言って見せる三島を担任は笑いながら「あり得ないな」なんて言ってくる。
だが、そんな笑いもすぐにやめ、先生は真剣な表情になった。
「・・・だが、気をつけろよ。繁華街には近づくな、なにかいざこざがあったらしい。・・・それと岬高の奴等もウロウロしてるらしいからな」
「マジっすか・・」
「あぁ・・お前が問題を起こさない事は知っているが、問題に巻き込まれる事って可能性は拭い切れない。気をつけろよ」
「わかりました・・・明日は、・・久しぶりに両親に会ってみようかなって思ってるんで・・多分、大丈夫です・・」
顔には、複雑な思いが現れ、それを理解する先生。
「そうか、わかった。・・・何かあったら連絡すれ、すぐに飛んで行ってやる」
「はい・・それじゃ、明日頑張ってください」
三島がそう言うと、担任は教室に入り、三島は家へと向かって歩き出した。




